「収蔵品展061 なつかしき」@東京オペラシティ アートギャラリー

収蔵品展061 なつかしき

藁葺き屋根の家の写真や田園風景の絵など、近代日本人の原風景的景色の作品が中心となったコレクション展示。

僕はこういう絵や写真は民俗学的に見て面白いとは思うけど、「懐かしい」というくくりにされるのは違和感がある。というのも、僕の親世代ならば茅葺き屋根の家は「懐かしい」かもしれないけど、昭和40年代後半生まれの僕にとっては、もはや茅葺き屋根は懐古でも心のより所でもなんでもなく、「テーマパーク」的な光景だからだ。

ある一定の世代から見た価値観を、さもそれが普遍的であり日本古来からあるかのような言いっぷりで後世に同調圧力をかけるのは、よくないことだ。

いや、「この展覧会が同調圧力をかけている」と言っているわけじゃない。見たくなければ見なければよいのだから。

でも、なんとなくこういう昭和大正的な光景が、今後当分の間日本の「古き良き時代」の象徴として残存しそうな気がしてならない。 この違和感を、もっと堂々と公言して良いと思う。特に僕よりも若い世代はなおさら。

例えば「うさぎ追いしかの山」が「ふるさと」だなんて、一体いつの時代の話だ。歌唱曲としてはは大変に美しいけど、それが我々日本人のメンタリティである、などと言われては、今を生きる若者は困ってしまう。

我々は未来に向けて生きているのだから、若者が未来に希望が持てるような空気であってほしい。だから、「老害」という言葉は薄気味悪い言葉だけど、あって良い言葉だと思う。若者は懐古趣味の年寄りから権力と文化を奪っていかないといけない。そのプロセスで発露する言葉だ。むしろ、威勢があっていいじゃないか。

「年寄りは敬うべきだ」というのはその通りで、それを否定するものではない。ただ、年寄りの価値観や美意識を、そのまま次の世代が引き継ぐ必要はないし遠慮する必要もない、と僕は考える。

そんな展覧会だけど、僕がかなり興味を惹かれた作品群がある。

川瀬巴水という、明治から昭和にかけて活躍した版画家のものだ。僕はその名前を初めて知ったのだけど、すっかりファンになってしまい、名前を忘れないようにメモを取ったくらいだ。

川瀬の作品は、大正昭和期の日本各地の風景を、まるで歌川広重の「東海道五十三次」のように描いている。 新しい時代の版画だけあって、江戸時代の版画作品と比べて遙かに緻密で色鮮やかに仕上がっている。そして絵の題材は、昔ながらの風景だけでなく、近代の町並みも描かれていて、面白い。

浮世絵というのは、歴史の教科書的な要素もあって、チョンマゲを結った人が登場人だと思い込みがちだ。しかし川瀬の絵は、浮世絵的でありながらも開国して産業革命があった後の日本の営みも描かれていて、若干の見慣れなさも相まってとても引き込まれる。

元々大げさな色を使うのが浮世絵の特徴だけど、川瀬の色鮮やかな作品を見ると、むしろアニメ的にも見える。 この絵なら家に飾っても違和感がないし欲しいな、と思って帰宅後に値段を調べてみたら、案外ちまたに出回っているものだった。歴史が比較的浅いのと、版画なので数が多いからだ。でも、程度が悪いもので10万円からスタートで、高いものだと200万円程度。数十万円、というのが一般的な相場のようだ。

もちろんそんな絵を買うほどの財力はないので買わないけれど、ネットでいろいろな川瀬作品を鑑賞することができてとても満足した。

(2018.02.09)

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