トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう@21_21 DESIGN SIGHT

トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう

情報学研究者のドミニク・チェン氏がキュレーションする、展覧会。

会場入口で、ドミニク・チェン自らが映像作品として登場している。喋っている言葉は、ドミニク・チェンらしく多言語だ。しかし、それが文節単位で言語が切り替わるのではなく、単語単位で切り替わる。日本語を喋ったかとおもったらフランス語になり、しばらくするとおもむろに英語になったりする(喋っている言葉は字幕表示が出るので、余計その複雑な語りが際立つ)。

なるほど、トランスレーション(翻訳)をテーマにするのか、と今ごろになって気がつく。

なにしろ、ちょっと読みにくいポスターの文字だったために、ついさっきまで「トランスポーテーション(輸送)」の展覧会だと思っていたからだ。

だとしても、「翻訳」を「展示する」ってなんだ?

トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう

入ってすぐのところに、「翻訳」と聞いて真っ先に思い浮かべる、多言語の翻訳を扱ったインスタレーションがあった。

言語というのは全世界にたくさん存在するけれど、「自分の意思や事実を伝えるために用いるもの」であるというのは共通のことだ。当たり前だけど。なので、どんなに関連性が薄いであろう言語同士であっても、機械学習を使うことで翻訳が可能だろう、という取り組みを映像で可視化したものが作品になっていた。

トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう

翻訳、というのは、「日本語と、英語」みたいに一対一の関連性によって成り立つものだと思っていたが、今やAIによる機械学習の時代。

日本語と複数言語の翻訳を並べてみて、ははぁ、たぶん言葉の相関関係からこういう意味なんだな、と全く別の言語の翻訳を自動生成してしまう。

写真の映像は、それを可視化したもの。画面1つで1言語。

真ん中のマイクで、来場者が喋った言葉が10以上の国と地域の言葉に翻訳されていく。その翻訳課程で、言葉が分解され、単語だけでなく助詞や助動詞を解析し、それぞれの言葉で持っている辞書データと照らし合わせ、関連性の高さから重み付けを行っていき、翻訳していく様が描かれている。

これはすごい。ちょっとビジュアライズするのにケレン味が入っている気はするけれど、こういうのこそが「AI」だと思った。最近、名前ばっかりで、実際は人工知能でもなんでもない「ニセAI」が多い印象だけど、これはガチなもんを見せてもらった、と感じて楽しかった。

こういう機械学習がはかどるなら、外国語辞書というのはどんどんアップデートできそうだ。今現在使われているスラングも、すぐに調べられる。「やばみ」とか「ぴえん」とか。

この作品はわかりやすく「言語の翻訳」ということをテーマにしていたけど、今回の展覧会の真骨頂はこのあとだ。「翻訳」といっても色々あるよね、ということで、「視覚障害者に野球の面白さを体験してもらう」といった翻訳や、「今と昔をつなぐ、歴史の翻訳」とか、「聴覚と視覚の翻訳」とか。

展示の仕方次第では、「障碍者向けコンテンツのご紹介」という福祉イベントっぽくなってしまうけど、そうはならないように注意を払っているのがよくわかった。まさにこの展覧会のサブタイトル「『わかりあえなさ』をわかりあおう」というコンセプトが伝わってくる内容だった。

(2021.02.13)

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