イサム・ノグチ 発見の道@東京都美術館

新型コロナウイルスの関係で、美術館・博物館は開館していたり臨時閉館していたり、ややこしい。臨時閉館に伴って当初予定より会期延長、というトリッキーな展開もある。事前に入念に公式webサイトを確認し、今どこで何の展示をやっていて、それが何時から何時までなのか、を周到に調べ上げていないといけなくなった。

展覧会情報を二次情報としてまとめているサイトをこれまでは活用してきたが、今や公式webサイトしか信用ができない。いや、まとめサイトは大変にありがたく感謝の気持ちでいっぱいなのだけど、こうも状況がコロコロ変わっていると情報の鮮度と正確性で不安になる。

僕のように、一日でいくつもの美術館・博物館を一筆書きでハシゴするのが趣味という人にとっては受難の時期だ。というか、そういう美術館ハシゴ趣味は当分諦めた。

小さなギャラリーならともかく、美術館などは事前予約が求められるようになったからだ。事前予約?面倒くせぇぇぇぇ!

いくら僕が美術をよく鑑賞していたからといって、「どうしても見たい、これは必見!」というほど強いモチベーションがあるわけではない。東京暮らしの生活の彩りとして、美術が傍らにあるという位置づけだと思っている。なので、美術に触れるために面倒なプロセスがあると、すっかり疎遠になってしまうのだった。

つくづく思う。美術、というのはいかに人々の身近なところに存在できるかが大事だ、と。

そうでなければ、アカデミックの世界の中に閉じこもるか、行政からの補助金頼みで成り立つ業界になってしまうか。やれNFTで美術の価値爆増や!なんて景気のいい話を言ってたって、飽きられたら終わりだ。

そう思っている中で鑑賞したのが、東京都美術館で開催中のイサム・ノグチ展だった。

「美術館に予約?思い立ったときに行けないなら面倒だからいいや。事前に用意周到に計画を立てる気にはならないな」
「どうせ都内の大型美術館は週末、どこも混むでしょ?予約が取れたって、人が多いのはイヤだ」

と思っていてまったく眼中になかったのだけど、ふと我にかえってみると「あれ?僕って、平日に美術館に行けるぞ?」ということに気がついた。いろいろあって、現在は朝7時には仕事を始めているからだ。テレワークということもあって、めちゃくちゃ早い。

で、仕事が終わるのも、残業がなければめちゃくちゃ早い。となると、平日夕方に美術館って実は余裕だったりする。なんだ、行けるじゃん、と。

この日はいしと生後4か月のガクとの3名で訪れた。ガクは人生初の美術鑑賞だ。

美術館で情操教育、だなんてこれっぽっちも考えてはいない。ゼロ歳児なんて、アンパンマンを理解するのが限界レベルだ。若いウチから美術を浴びせるように見せておけばなにかいいことあるかも?なんてことは考えていない。グルメならともかく、民芸品ならともかく、こういう美術館に飾られている癖の強い美術品を幼少期からたくさん見ても、上から目線の批評しかできない頭でっかちになりそうだ。

でも、父親として、「我が子を美術館に連れて行った」という喜びはひしひしと感じた。

きわめて現代的かつ文化的な行い、というのを子供にしてやれたという自己満足だ。「子供に、カラカラと音がなるオモチャを買ってあげた」という、子供の快楽原則におもねった対応をしたというのとはちがうぞ、という気持ち。極めて自己中心的だとは思うけれど、まあいいや。

子供のガクは、ただただ抱っこ紐に包み込まれて、「?」という顔でぼんやりしていた。たぶん、こういう薄暗い空間だと、イサム・ノグチの彫刻などは殆ど目に入らなかっただろう。今彼が認識できるのは、極めてコントラストが強い色彩だけだ。むしろ、絵のほうが少しは興味を持ったかもしれない。

まだ物心がついていないし、寝返りもできない子供だから美術館につれていける。あと1年もすれば、それもできなくなって、当分の間は親子美術鑑賞とはいかなくなりそうだ。

さて、僕はこのコーナーをたたむつもりでいた。これ以上美術館に行きました記録を残しても、なんの意味も感じられくなってきたからだ。コーナー開始当初は、「何も美術について知らない僕が見たものを、知識がないまま感想として述べる」という趣旨だった。しかし、ここまでやってきていつまでもそのスタンスはキツい。単なるバカみたいだ。だからもう潮時だと思った。

でも、子供という新しい存在が現れたことで、今後このコーナーは存続させようと思った。それは、主役の座を「僕」ではなく「子」に譲る、ということで成り立つ。もちろん文章を書くのは僕だけど、子供が作品を見てどう振る舞ったか、のたまったのか、というのを観察する場にしていくつもりだ。

「全然つまらなそうにしていた」「妙なところに反応して大興奮」といった気づきがあれば面白いな、と思う。そして、子供という目から見えた美術がどういうものなのか、僕自身興味がある。

(2021.07.01)

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