ただいま突然変異中・・・

1999年某月某日
【店舗数:---】【そば食:---】

1999年、ダイエット!?日記が敗北宣言と共に一段落した時、おかでんとしては失望感より開放感の方が上だった。

「けっ、どーせ敗北したとかいったって、昔と比べりゃ20キロ痩せてることにはかわりないんだ。これからはいろいろなものを食べて見聞を広げよう。それが、俺を敗北宣言に至らしめたにっくき脂肪細胞への報復だ

と、はればれとしたココロの中誓ったのだった。今考えてみると、報復じゃなくてごほうびに近いような気がするのだけど、まあそれはよしとしよう。

自分の食生活パターンを振り返ってみたことがあるだろうか。よっぽど意識しない限り、新しいお店を開拓するってことは頻繁にはない。気がついたら、行き慣れた近所の食堂、牛丼屋、コンビニ弁当・・・。こんな事をずっとやってて、いいのだろうかという漠然とした不安。その反面、つい自分のご近所にだって、行ったことがないお店がたくさんある。ひょっとするとそのうちのどれかが穴場的ナイスでグレイトなお店かもしれない。ついつい「どうも入りにくい雰囲気だな」なんて理由で敬遠しているだけで、見落としているなんてあまりにもったいない話だ。

そんなこともあって、同じ寮に住む友人数名と「暴飲暴食倶楽部」なる組織を発足させた。ミッションとしては、新規店舗の開拓とその評価。店で食事をした後、「味」「価格」「雰囲気」の3パラメータを5段階評価で判定し、地元の飲食店舗一番店を探す、というものだ。決してその名の通り暴飲暴食して店の備品を壊す、とかそういうアナーキーな事をする組織ではない。

・・・いつになったら「そば人種」が出てくるんだって?いや、もうちょっと待て。ここからが本題だから。せっかちはこれだからいやん。

そんな中、ある週末「今日はどんなお店を攻略しようか」とふらふらともう一人の部員とで歩いていた。中華料理屋ってのは結構頻繁に見つかるのだけど、せっかく普段こないような町にきているのだから、もっとわくわくさせるお店に行ってみたいものだ。そう思っていた矢先・・・あった。「わ、なんだこの店は!」

のむら

周囲のお店と比べて、明らかに漂う空気が違う。神社の雰囲気とでも言おうか。何かぴりっとしているのだ。それ故に、非常に怪しく見えた。最初、小料理屋だろうと思ったのだがよく見ると「手打ちそば」と書いてある。そうか、ここはそば屋だったのか。初めて納得。

今までの食人生で「そば」というのは全く選択肢として存在していなかった。広島出身ということもあってか、「うどんとそばどっち食べる?」と言われればうどんを選択してきた。また、年がまだ若いということもあり、そばのような「枯れた」食べ物はどうも好きになれなかった。おなかがいっぱいにならないというのがその最大の理由だ。ただ、自分のおやじさんがそば好きで、家族旅行に行ったときはよくお昼にそば屋に入ったものだ。子供心に「ちぇっ、そばかぁ」なんて思いながら。

そんな経緯があったこともあり、初めて「そば屋とはこういうものなのか」とこの店頭で開眼?した、というわけだ。せいぜい、今までだと出前もやってる、カツ丼600円お子さまランチもありますよ的なそば屋しか印象になかったわけだから、このカルチャーショックは結構大きい。

もちろん、この時はまだそばなど眼中にない時期だった。そのまま、お店の前は通り過ぎてしまっている。しかし、幸か不幸かしばらくお店を探しても「これだっ」というのが見あたらない。そうなってくると、さっき強烈なインパクトを残した手打ちそば屋に行くべきなのかなあ・・・なんて事になるのは必然だろう。しかし、あんな店構えだと値段が馬鹿高に違いない。そもそも、相当間口が狭い上に店内が全く伺えないようになっているのが怪しい。ぼったくられやしないかと、ちょっとだけ緊張しながらお店の前に立つと・・・あれれ、メニューが置いてありますぞ。

せいろ600円。おや、思ったより高くない。そうか、手打ちそばってこんな値段なのかと安心。この当時はそば物価ってのを全く知らなかったので、いらざる心配をしてしまっていたのだ。安心すると同時に、メニューの端にいろいろお酒のつまみになるような一品料理がしたためられているのを発見。そば屋でお酒かぁ。それもいいかもしれないと逆にわくわくする始末。

結局、このお店でそばがきと板わさを頂きながらお酒を飲んだ。最後にせいろ大盛りを食べてフィニッシュ。そばがきは生まれて初めて実物を見て食べたのだが、その初体験な風貌と食感に感激。お酒がついつい進んでしまった。

お昼からそば屋でお酒。「昼からお酒だなんて!」という背徳感以上に、「ああなんて心地よい時間なんだろう」と悦楽の海におぼれるような感覚だった。また、ほろ酔い気分でそば屋から自宅まで歩く時の気持ちよさといったら!夜、居酒屋でお酒を飲んで、暗闇の中家に帰るのとは大違いだ。周りが明るいものだから、いろいろな風景を酔った頭で愛でながら歩く。気が向けば今晩の食材を探しにスーパーを冷やかしにいったり。「幸せ」って言葉を安易に使いたくはないのだが、「そば」「お酒」「ほろ酔いで帰る」の組み合わせは幸せ以外の何物でもなかった。

そんなこんなで1999年冬。たまたま立ち寄った本屋で、ソバ屋で憩う―悦楽の名店ガイド101 (新潮文庫)を紹介している新潮文庫のポスターを発見。まあ、暇つぶしにでも読んでみるかと買ったのが「そば食い人種」突然変異のきっかけとなった。

この本、単なるそば屋紹介ではなかった。そば屋で酒を飲むのをこよなく愛す人々が、「うまいそばとうまい酒で、そば・リラクゼーションできるお店」を紹介している本だったのだ。正直、驚いた。「昼下がりのそば屋でお酒を飲んで、最後にせいろでびしっとしめて帰る」という自分がやってきたスタンスを、彼らは実践していたからだ。

この文章を読んで、「自分が自然にやってきた事が、そば屋においては鼻つまみな行為じゃなかったんだ」という安ど感とともに、「自分のやっている事って結構粋な世界なんじゃなかろうか」という自信が出てきたのだった。「よーし、それだったらもっともっと深堀してやろうじゃないの」という気になったとしても、誰がとがめられよう。

せっかくやる気になったのだから、中途半端じゃダメだと自分自身に言い聞かせた。数をたくさんこなして、舌と頭を肥えさせないと空虚だ。だったらノルマを決めて・・・とまあ、トントン拍子にやる気をかき立てていき、年末には「2000年の目標はそば屋50店舗開拓、そば100食!」という方向性をうち立てるに至ったのであった。

2000年の幕開けは、そばから始まる。うん、おもしれぇ。やってやろうじゃないの。

・・・とまあ、そんなこんなで始まった企画でやんす、このコーナー。そば屋行脚した時のエピソードをつづっていきます。特にガイドブック的にはしようと思っていないので、営業時間や住所などの記載はあえてやめています。また、初期の頃はそばに対する知識など皆無に等しいため、間違った記述が多数あるかと思います。でも、あえて後から訂正することはしません。そこらへんの知識習得過程を見るというのも、このコーナーの趣旨の一つですから。

おかでんを開眼させてくれた手打ちそば屋の名前は、「のむら」。東京都板橋区大原町、中山道沿い。12人座ればいっぱいになる狭い店内だったけど、落ち着いて非常においしいそばを食べさせてくれる隠れ家的なお店だった。しかし、2000年1月には閉店してしまったらしい。

この事実を聞いて、おかでんは相当ショックを受けてしまった。前から、お客さんの数が少ないなあ、こんなにおいしいそばが食べられるのになあ、なんてのんきにお酒飲んでそばを食べていたのだけど、まさかこういう結果になるとは。お客の数が少なくて廃業なのかどうかは定かではないが、もしそうだとするともっと頻繁に通ってあげればよかった、といまだに後悔している。

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