よしのや

2009年01月16日
【店舗数:230】【そば食:407】
群馬県吾妻郡中之条町

玉の肌豆腐、昭和コロッケ、ざるそば、熱燗

狭山(きょうざん)庵

中之条滞在二日目。

今日は、「狭山(きょうざん)庵」というお店に行くことにした。限定二十食の十割蕎麦が食せる、という情報を入手していたからだ。場所は、ちょうど中之条から四万温泉と沢渡温泉/暮坂峠経由草津温泉方面の分岐のところ。そういえば、ここはよく温泉に行く際に通るが、蕎麦屋があるなあとは認識してたっけ。

チェーンを巻いた車で、山から下りてくる。最初は、チェーンを巻いていても車が横滑りするくらいの状態だったのだが、四万温泉分岐に近づくにつれ完全に路上はドライコンディションに。チェーンが摩耗してへたるのが先か、こっちが根負けするのが先かという戦いになってしまった。緊迫してるなあ、蕎麦食べにいくだけなのに。

で、到着した交差点だが、目指す蕎麦屋は存在しない。確かに前日、「この辺りだと思うのだが」というところはチェックしつつ現地を通過したのだが、その際も発見できていなかった。まさか、閉店したか?

途方に暮れつつ、今更引き返せないぞ感満点でその辺りをうろうろしたが、結局見つけられず。「多分この建物じゃないかなあ?」という怪しい建物を激写し、それをもって退散と相成った。どうしたんだろう。冬季休業中なのかもしれない。

中之条、蕎麦を売りにしていこうという主旨は多いに結構だが、まだまだ情報量が少なすぎる。まあ、それが故にwebサイトで情報提供しているおかでんの立場としては「おいしいエリア」とも言えるわけなのだが・・・。

次に向かったのは、沢渡温泉から暮坂峠方面に少し進んだところに蕎麦屋があるらしいという情報に基づいてだ。しかし、どんどん雪深くなっていき、なんだか面倒になってきた。その店が美味いのかどうかもよく調べていないし、もし見つからずにそのまま峠まで行ってしまうのは時間の無駄だ。そして、極めつけとして、こんな山奥に老人ホームを発見し、俄然やる気を失った。姥捨て山じゃん、これだと。

諦めて投宿している沢渡温泉に帰投した。

よしのや

こうも蕎麦屋2軒をあっけなく諦めたのは、沢渡温泉内に一軒、よさげな蕎麦屋が存在するからだ。

観光地に美味いものなし。ましてや、蕎麦に至ってはなおさらだ、というのが今までのおかでんの経験則。当然、温泉地の蕎麦屋などには全く期待はしていない。実際、過去に某温泉地の蕎麦屋で散々な応対をされた実績があるし。

蕎麦というのは常に自己研鑽し続け、打ち続けなければならない。そのモチベーションを維持するためには、いつも「今日はおいしかったよ」「今日のはいまいちだねえ」とずばっと言ってくれるような常連さんが必要だと思う。その点、一見さんだらけの観光地というのは、蕎麦店はとてもやりにくいと思う。客は「観光地」目当てでやってくるので、集客だけは万全。故に慢心につながる。また、土地の賃借代が高くつくので、どうしても原価を下げざるを得ない。また、大量の客をさばくためにはある程度品質を犠牲にして効率を追求せざるを得ない・・・と、素人の僕は勝手に推測しているのだが、どうか。

でも、本日のお昼ご飯を沢渡温泉内にある数少ない飲食店である「よしのや」に託したのは、口コミで「おいしい」という評判を聞いたからだ。また、これ以上チェーンをがちゃがちゃいわせながら車を運転したくねぇ、という個人的事情もあた。

いずれにせよ、ネット口コミというのは本当に恐ろしい時代になってきた。もちろん、個人の意見などバイアスがかかりすぎていて、参考にならないことが多い。しかし、そういった個の意見をたくさん集約していけば、だいたいのお店の輪郭が見えてくる。手間がかかるが、外れくじを引かない最適な手段と言える。幸い、人は「まずい店」をネットで紹介するのをためらい、逆に「美味い店に出逢った」事を自慢したがる傾向がある。情報量が多い店ほど、良い店である可能性はある。

今回の「よしのや」は情報量こそ少ないものの、外れくじの気配はなさそうだと判断した。そのため、宿の駐車場にいったん車を停め、歩いてお店まで向かった。

お店の紹介文

店頭には、お店の紹介文が掲示されてあった。

単なる選手宣誓的なモノかと思ったら、結構おもしろい内容だったわけであり、ここまで言うなら本物のお店だろうと思う反面、やばい店かもしれんと思案してしまったのも事実。

面白みのある文章ではないが、せっかくなので全文掲載しておく。

当店は、音楽とスポーツが好きな私、富士夫と、一浴玉の肌の湯につかり育った。沢渡美人?の恵子と二人で切り盛りしている、そば屋です。
店内にある石臼で挽いたそば粉を、私の心と力を込めて打ち、奇麗な沢渡の水でゆでる挽きたて・打ち立て・ゆでたての三拍子そろったおいしい蕎麦を食べていきませんか。
旅の思い出に「あの蕎麦は旨かったね」と記していただければ、そば屋の冥利です。
沢渡温泉よしのや 富士夫・恵子

何だねこれは。その心意気や大いに良しだが、蕎麦ラブなんだか、恵子ラブなんだかどっちなんだこの夫婦は、という印象。学生運動時代にアメリカから輸入されたヒッピー文化を若干踏襲しているようなしていないような。

そして、その脇には「手作りケーキ」の看板が立っているのが、なんともシュールだ。温泉街にある僅かな飲食店なので、蕎麦限定というわけにはいかんのは当然だが、なんともちぐはぐな光景で面白い。あ、いや、批判する気は全くないです。単に、みうらじゅん氏的にこういうシチュエーション、好きなだけです。

手作り玉の肌豆腐

入口のところに、「手作り玉の肌豆腐」という張り紙がしてあった。

沢渡温泉は、「一浴玉の肌」という言葉をキャッチコピーにしており、その名前にあやかって「玉の肌豆腐」というものを作ったらしい。ちょっと惹かれる。

店内の様子

店内の様子。小あがりの席と、土間の席両方がある。

地元密着型店舗、という感じで、蕎麦屋独特のぴりっと引き締まった雰囲気はない。雑然とした感じ。でも、そんな引き締まった空気、場所柄全く必要はない。逆にこのような温泉地で、「いかにも蕎麦一筋でござい」といった風体のお店の方が、怪しく感じる。このお店のように、雑多に雑誌や本が並んでいたり、そば殻の枕が売られていたりする方が暖かみがあっていいや。

お品書き

お品書き。写真入りで視認性に優れた手作り感満点の一枚。

表面が「冷たい蕎麦の部」で、裏面が「暖かい蕎麦の部」とわかれている。

立地条件的に、書面左上が「この店一押し」のメニューとなるわけだが、冷たい蕎麦だと「よしのやそば/うどん」が「当店おすすめ」らしい。要は天ざるの事だが、ごまとくるみを混ぜたつゆが特徴のようだ。900円。くるみだれは長野県上田市界隈の特徴だと思っていたが、この地にもあったのはちょっと意外。

裏面の「暖かい蕎麦」における大御所は、どうやら「親子あんかけそば」のようだ。冬は極寒の地なので(この日はマイナス9度まで下がった)、あんかけが好まれるのだろう。

同じページに、その他ご飯もののメニューも記載されていた。さすがに小さな温泉地の飲食店だけあって、蕎麦オンリーでは商売にならない。近くにある老人ホームや温泉病院の従業員もターゲットにしたいところなので、ご飯ものは充実させる必要がある。親子丼、天丼、カツ丼、カレーライス・・・あれ?牛丼は?牛丼はないのか。「よしのや」というお店の名前からして、牛丼があるとちょっと面白かったのだが、さすがにそれはお店も気付いたのか、取り扱っていない様子。

小さな字でざるそば500円

いろいろお品書きと写真が掲載されているのだが、肝心のもりそばが見あたらない。まさか取り扱っていないのではあるまいか。そんな馬鹿な。いくらなんでも、そんな蕎麦屋は見たことも聞いたこともない。

おかしい、と思って目をこらしてみたら、小さく、目立たないサイズで「ざるそば¥500」という記載を発見。当然写真はなしだ。じ、地味すぎる・・・。

お店としては、「敢えて写真を掲載しなくても、どんな料理だか想像つくでしょ?」という事なんだろうが、まるでざるそばを売りたくないかのような印象すら与えてしまう。これは面白い表記方法だ。

玉の肌豆腐

店に入る前から気になっていた、「玉の肌豆腐」を注文してみる。200円という廉価な設定なので、気兼ねなく注文できるところがうれしい。

しばらくして出てきた器をみてびっくり。なるほど、これは玉の肌だ。というか、なんだこれは。温泉玉子みたいなのが出てきたぞ。

思わず、女将さん(本当に沢渡美人だった)に「これは何ですか?」と聞いてしまった。普通、自分一人で食べて、散々悩んで妄想を膨らませる過程を嗜好してやまない性分なのだが、ついつい疑問が口をついてしまった形。

女将さん曰く、「これは胡麻豆腐なんですよ。それを私風にアレンジしてみました」とのこと。えっ、これが胡麻豆腐なのか。胡麻豆腐、といえば風呂場の軽石みたいな冴えない色をしているものだと思っていたのだが、どうしてこうも白くできるのだろう。しかも、お肌ぷるっぷるやで。フカヒレ食べた翌日のお肌みたいだ(注:蛋白質であるコラーゲンを経口摂取しても、体内でいったんアミノ酸に分解されてから吸収されるので、あんまり意味ないです。コラーゲン料理がお肌に良い、というのは科学的に立証されていません)。

食べてみると、確かに胡麻豆腐だ。意外や意外。これは名物料理と名乗ってもおかしくない逸品だと思う。

しかも、サイズがでかいわりに200円という価格設定も良し。

熱燗

せっかくなので熱燗を頼んでみた。

蕎麦店でお酒を頼むのは凄く久しぶり。最近は自分が車を運転してお店を訪れる事が増えたため、めっきりお酒を飲まなくなった。あと、昼間っから清酒を飲むと、てきめんに体が疲れるようになったので、避けているというのもある。老いたな、俺。

まあ今回は徒歩での訪問だし、外は寒いし、熱燗なんぞいっちゃっても良かろう。

そんなわけでお燗してもらったのだが、一緒に出てきた突き出しが白菜の浅漬け。これでもか、という量だった。素朴な蕎麦屋クオリティで大変によろしい。でも、これだけ量が多いと他のつまみ類は頼まなくても良かったかも。蕎麦店でお酒を頼む場合、突き出しで何がどれくらいの量出てくるかを見極めてから、酒肴を頼んだ方が良さそうだ。

昭和コロッケ

昭和コロッケ断面
店内に「昭和コロッケ」という張り紙がしてあった。とても気になる。何がどう「昭和」なのだろう。大正コロッケ、だとか明治クロケット、なんていったら文明開化的何か、という感じだが、昭和というのはどうも中途半端感漂う。気になる。お値段100円とお安かったので、これも注文してみた。
出てきたのは、普通のコロッケ。外観からは「昭和」たる所以がわからない。早速、ソースをかけてかぶりついてみた。あつつ。揚げたてのコロッケは、旨いねえ。この熱さだけでも、100円の価値ありだ。

かじっていて、ある事に気がついた。食感が物足りないのだ。さくっと、すかっとかみ切れてしまう。これは何か。コロッケの断面をしげしげと眺めてみて、ようやく「昭和」の正体に気がついた。これ、中身はジャガイモオンリーですぜ。挽き肉とか玉ねぎといった混ぜものは一切なし。ただひたすら、ジャガイモ。それに塩胡椒で味付けしたものに衣をつけて揚げました、というものだった。なるほど、小学生が学校帰りに肉屋でおやつ代わりに買い食いしていた、そういうコロッケをイメージしたのだな。納得。

ざるそば

ざるそばアップ
雑然とした風体のお店だが、唯一特殊なのは店内に電動石臼が設置してあったことだ。外観は普通の蕎麦店だが、しっかり手間暇かかる自家製粉をしている。ちょっと気になる蕎麦のでき映え。
せっかくなので当店おすすめの「よしのやそば」に手を染めようかとも思ったが、やめた。天ぷらは宿の食事で出るだろうし、天ぷらが出てきたらついでにお銚子もう一本、となるからだ。これ以上呑むのはやめよう。シンプルにざるそばを注文。

出てきたざるそばは、おや、と思うくらい灰色をしたものだった。挽きぐるみの蕎麦なわけだが、それにしても灰色が強いので、殻の成分が多そうだ。

早速食べてみる。麺は短く、箸で手繰るとちょっと物足りない。十割蕎麦だから、といえるが、もう少し長く麺がつながっていればもっとおいしくなると思う。

ただ、そんな麺の短さを補って余りある美味さだった。これ、旨いぞ。もっと、蕎麦独特の雑味というか、土臭さというか、そういうのが前面に出ているかと思ったのだが、味は見た名以上に洗練されている。蕎麦が持つ甘みが強く出ており、旨みが強い。当然、そば殻が多く含まれているので蕎麦の香りも強い。いや、お見事でございまする。

つゆも、変な癖がなく無難においしい。願わくは、長い麺をちょいとつゆに浸けて、ずるずるッと手繰りたかったところだが、麺が短いのでそれは叶わず。

蕎麦湯

蕎麦湯は濃厚なものだった。

わざわざ蕎麦湯用に作っているのかもしれない。これでそばつゆを頂くのは大変に結構でございました。ただし、蕎麦徳利から都度猪口につゆを注ぐスタイルではなく、最初から蕎麦猪口につゆがなみなみと注がれているスタイルだったので、濃度調整がきかないのが残念ではあった。まあ、そこまで期待するのは高望みか。

相田みつをの書

大満足でお店を後にした。洗練された都会の蕎麦店とは方向性が違うが、十分においしい蕎麦を愉しませて貰えたので満足度が高かった。

と、蕎麦屋でコロッケ食べるのもいいもんだよな、とも思った。「蕎麦屋たるもの、○○であるべし」なんて堅苦しく考える必要って、ないよな。

最後、お店を出る前にお手洗いに。

お手洗いの壁に日めくりカレンダーがあって、相田みつをの書が掲げてあった。
「できない約束はしないことだな」
だそうで。恐れ入りました。別に「できない約束」は今現在していないが、何となく「ごもっともです」と恐縮してしまった。