2016年06月05日
【店舗数:403】【そば食:665】
群馬県みどり市東町
天ぷらそば
足尾銅山を観光した帰り道、国道122号を桐生方面に向かってドライブする。閉山した足尾銅山ではあるが、今でも精錬所のあたりには集落がひっそりとある。
「この人たちは一体何で生計を立てているのだろう?日々の買い物はどうやっているのだろう?」
都会暮らししかしたことがない僕にとっては、想像ができない世界だ。
渡良瀬川に沿って国道122号をひたすら走るが、途中スーパーは見当たらない。コンビニは、わずかにヤマザキデイリーストアがあるくらいだ。田舎に行くと、デイリーストアの存在感はかなりなものだ。
そんな中、ママチャリをキコキコこいでいるおじさんの姿が目に入った。その存在に気づき、すれ違うまでわずか数秒。でも、おじさんがなにやら嬉しそうな顔をしているのがとても印象的だった。
「見たか?まんざらでもない顔をしていたぞ。この先にスーパーでもあるのかな?」
そういえば、ママチャリの前かごには何かが入っていたように見えた。
どんどん過ぎ去っていく路傍の景色にやや意識を向けたとき、ふいに簡易な建物のドライブインを発見した。あれっ、この建物、見たことがあるぞ。10年ぶりにこの道を通るのに、見覚えがあるとはどうしたことか。
とっさにハンドルを切るのは危ないのでいったん素通りしたけど、このお店のことはよく知っていた。「いきなり!黄金伝説」をはじめとしていろいろな番組で紹介されている、「昔ながらのうどん・そば自販機が設置されているお店」だからだ。
今、ちょうど「19時までに大田焼きそばの店に到着しないと閉店しちゃう」という瀬戸際で先を急いでいたところだ。しかし、このお店を見てしまったからには素通りはできなかった。しばらく行った先で折り返して急遽立ち寄った。
これだけ自動化・機械化された世の中ではあるけれど、昔あった自販機が今や「レトロの代名詞」となっているものは多い。
僕にとって特に印象深いのは、高速道路のPAなどでよく見かけた「グーテンバーガー」というハンバーガー自販機だ。子供心に、「いつの日かグーテンバーガーを腹一杯食べたい。」と思っていたものだ。しかしいざ大人になったら、そんな自販機はすっかり姿を消した。
他にも、岡山駅の新幹線ホームには味噌汁の自動販売機があったけど、これも気がついたら消滅していた。
店内に入ってみると、そこは自販機がずらっと並んでいる。というか、自販機しか置いていない。
ジュースやアイスクリームの自販機などはどうでもよい。目指す自販機はお店の中央にどかんと配置されている。
まずはトーストサンド自販機。ハムチーズとツナマヨのトーストサンドが売られている。一つ200円。アルミホイルでくるまれた食パン2枚の武骨なサンド。今時こういうのはないし、そもそも昔だってこんな自販機がどれだけあったのか不明だ。
折角だから買ってみたくなったが、この後大田焼きそばが控えている上に、その焼きそばはかなりの大盛りをガツンと胃袋に落としこむ予定。サンドなんて食べている場合じゃない。家に持ち帰ればいいじゃない?いや、それはさすがにないわー。食パンを挟んだだけだぞ?家で作ろうと思えば簡単に作れる。
トーストサンドの隣には、麺の自販機が三台並んでいる。一台置いてあるだけでもかなりレアなのに、三台もあるとは眼福だ。見ているだけでありがたい気持ちになる。しかし、この光景を独占するわけにはいかない。とにかくひっきりなしに、好事家たちが押し寄せて写真を撮ったり料理を購入しているからだ。こんなくたびれた自販機なのに大商いというのは驚きだ。
そんな「物珍しくてやってきた一見さん」の傍らで、地元と思われるばあさまがフガフガいいながらうどんを食べているのだから、幅広く愛されているということがわかる。
さて「三連星」麺自販機の1台目は、ラーメンを扱っていた。ボタンは2つあり、1つが「唐揚げラーメン」、もう一つがノーマルの「ラーメン」だった。ノーマルの方は手作りチャーシューとメンマ、そしてうずらの玉子が入っているらしい。で、たまに当たりが混じっていて、その場合はうずらの玉子ではなくニワトリの玉子なんだそうだ。
300円だから安い。言っちゃ悪いが、この自販機から絶品のラーメンが出てくるとは到底思えないが、この値段なら「とりあえず試してみよう」という気になる。
三連星、残りの二つの自販機は「うどん・そば」の自販機だった。ラーメン自販機と形は一緒なので、ラーメンでもうどんでも蕎麦でも製法は一緒らしい。
うどん・そばの自販機が二つも置いてあるが、そのうち片方が「激辛青とうがらし」が入っているうどんそばを売っていて(写真上段)、もう一つが青とうがらし抜きのノーマルそばうどんを売っているからだ(写真下段)。
ラーメンに「ニワトリ玉子の当たり」があるように、そば・うどんにも当たりの設定があった。それは、海老天が入っているということだ。この自販機で売っているのは「天ぷらそば」と「天ぷらうどん」なのだが、かき揚げだけでなくおまけが入っている場合がある。ちなみに値段はそばでもうどんでも250円。これまた安い。
おっと、「中当たり」というのもあるのか。その場合、たらの芽などが入った「山菜天ぷら」が追加トッピングされる模様。
自販機に入っている商品は、この近所にあるお店で作っているものだ。個人経営の店がハンドメイドで作っているので、工業製品にはない柔軟さがある。
ここで食べる時間の余裕なんてなかったし、唐突に現れたお店だったので全く心の準備ができていなかった。しかし、次またここを訪れる機会というのはほぼないので、えーい一期一会だ。悩むだけ無駄なので、一気に財布に手を伸ばし、小銭をむしりとって自販機に投入。そして「天ぷらそば」のボタンをポチー。
それにしてもこのボタンのフォント、昭和風だよな。今こんなの、全然みないぞ。
ボタンの上には「調理中」のランプが灯り、残り時間のカウントダウンが始まった。たしか30秒だったと思う。その間に、自販機の中ではいったん「麺をほぐすための湯」が注がれ、丼が高速回転して湯切りをして、そのあとあらためて正式版のつゆとお湯が注がれて完成、というプロセスを経る。
で、出てきた天ぷらそば250円。
「へへへっ」
思わず笑ってしまう、そんな見た目。いやあ、久しぶりだな、こんな蕎麦と対面するなんて。自販機から出てくる、という付加価値がほぼ全てっていう感じであり、それがなければ250円といえどもあまり魅力を感じない。こう言うとこの料理を腐しているように聞こえるが、いやいや、「自販機で蕎麦を売る」というこのテクノロジーは凄いことだ。もう、出オチでもなんでもいい、まずくたっていいからこの蕎麦に全力でスタンディングオベーションだ。
かき揚げに海老がくっついているように見える。これは大当たりか!?と身構えたが、後で確認したら本当の当たりの海老天はもっと大きいらしい。こんな小さい海老で興奮してはいかん。
つゆを一口飲んでみたら、かなり薄くて「あれ・・・?」となった。味付けはイマイチだったか、と思ってかき混ぜたら、味が濃くなった。つゆはちゃんとかき混ぜないと、たれとお湯が分離しているらしい。
具は、かき揚げとわかめ、そして青とうがらし。青とうがらしはそんなに辛そうに見えなかったので、「なんだこれくらい」と丸かじりにしたら思いっきり悲鳴を上げてしまった。本当に辛かった。何をするこの野郎。
いや、自販機には「激辛青とん御注意」という張り紙が貼ってあったんだけどね。つい油断した。
自販機から出てくる蕎麦、という点では拍手喝采が鳴り止まない状態なのだが、味はそれなりだ。駅の立ち食い蕎麦などと比較するのはかわいそうだが、立ち食いの方が遙かに・・・と思える内容。しかし、こういう山中の国道で暖かい蕎麦が手軽に食べられるんだ、ありがたい話じゃあないか。
実際、ここの蕎麦やうどんを毎日のように食べている地元の方もいらっしゃると聞く。駅蕎麦も郊外外食店もないこの地において、貴重な「ファーストフード」店だ。
食後、丼と残った汁はどうすればいいんだ?と立ち尽くしたら、お店の傍らにちゃんとごみ捨て場が用意されていた。汁はバケツに、丼はかごに。
トーストも気になるんだよなぁ・・・と思いつつ、あわてて車に戻った。さて、あと小一時間で大田市に着いて、焼きそばを食べなくては。
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