うどん食べ歩き

恐るべき讃岐うどん探訪

日 時:2001年(平成13年) 05月05日
場 所:香川県各所のうどん店
参 加:おかでん、ジーニアス、しぶちょお、ちぇるのぶ、ばばろあ、他2名途中参加(以上7名)

お遍路で涅槃の境地に到達したと思いきや、その翌日は朝からう讃岐うどんの食べ歩き企画を慣行。あまりに俗っぽいし、悟りの「さ」の字もない企画に我ながら愕然とする。

ただ、この企画に対するおかでんの思い入れは並々ならぬものがあり、「恐るべきさぬきうどん探訪ツアー U-1 CLIMAX2001 PERFECT GUIDEBOOK」なる50ページ以上にも及ぶ冊子をDTPソフトで作ったくらいだ。

その背景には、讃岐うどんブームの火付け役となった「恐るべきさぬきうどん」という著書が大いに関係している。もうこの本については語るまでもあるまい。あまりに有名だからだ。その本を読んで、文章の妙と讃岐うどんの奥深さをまざまざと知らされたおかでん、居ても立ってもいられなくなった。で、お遍路企画の「予備日」に、せっかく香川県にいるんだから讃岐うどん食べ歩きをしようじゃないか、というわけだ。

この「恐るべきさぬきうどん」という本、単なるうどん店の紹介本ではない。一見そのように見えるが、実際は「探検本」だ。讃岐地方のうどん店は「製麺所が地元の人の利便性を考えて片隅でうどん食わす」スタイルが多い。だから、住宅地の奥とか田んぼの中とか山中といった辺鄙なところにある。しかも、暖簾をぶら下げるといった最低限の商売っけすらないので、外見ではうどん店に見えない。・・・そういうお店を、四苦八苦しながら探し当てる様をつづっているのが、「恐るべきさぬきうどん」だ。店探しで文章の半分以上を占めているんじゃないかというありさまだ。まるでオリエンテーリングだ。

そのオリエンテーリング的なうどん店巡りは、まさにアワレみ隊向けであった。・・・というか、おかでんのツボにヒットした。賛同者がいなければ一人ででも敢行する覚悟だったが、お遍路企画に参加したメンバーが引き続き全員参加する運びとなった。

「PERFECT GUIDEBOOK」では、おかでんの今企画に対する決意表明からはじまって、讃岐うどんの基礎知識、注文方法の解説ページが6ページ続き、そこから各店舗の詳細な案内が掲載されている。1店舗につき3ページも割く気合いの入れようだ。

自画自賛になるが、とても良いできだと思う。一般公開したいくらいだ。しかし、掲載されている情報や写真は全てあちこちの書籍やwebサイトから拾い集めてきたもの。著作権上問題がでてくるので、掲載はやめとく。勿体ないなあ。

この書籍の中から、著作権上問題がなく、当時のおかでんの鼻息の荒さがよく伝わってくる冒頭陳述と企画概要を転載しておこう。

隊長おかでんのコメント

ディープたれ。

アワレみ隊は、常にこの心がけで活動してきた。今まではそうだったし、これからも、そうあり続けたいと思っている。ここで言う「ディープ」とは、おたくの世界みたいな閉鎖的かつ自己満足的な深みの追求ではない。普段ではあまり見ることのない世界がかいま見える場所に行き、行動し、その片鱗を疑似体験して身震いする。これこそが、われわれアワレみ隊が目指すべき境地だ。

しょせん、われわれは良くも悪くも学歴がありそこそこ社会的地位のある人間。小市民的なことしかできない立場だし、大それた事をやらかす勇気だってない。そんな閉塞空間をほんの僅かでもこじ開けてくれる企画が、今、求められているのではないだろうか。

四国八十八箇所巡りであるとか、過去3回に渡って繰り広げられた信州蕎麦喰いツアー(合計30店舗、31食完食)という企画は、相当馬鹿馬鹿しい主旨であるが、旅の終着点がはっきりとしたものだ。昔のアワレみ隊の場合、飯能河原や各地にドライブしてその旅先で野宿をするなど、企画そのものに対しての目的意識は希薄だった。それが、最近は目的がフォーカスされたものが増えているのは、決して偶然ではない。

昔は企画がフォーカスされていなかったので、当日その場の内容が勝負だった。だから、ツアーのサブタイトルに「飲んで、死ね。食べて、生きろ。」であるとか「食い地獄で三途の川を見た」と刺激的な内容を設定し、隊員達の「むちゃしてナンボ」精神の発揚に腐心していたわけだ。

だが、大半の隊員が社会人になって数年が経過しており、オッサン化現象が着実に進行中である。中には、家庭を持つ隊員までいる。このような状況で本番当日の中身を成り行き任せで期待するのは、どうしても厳しくなりつつある。こじんまりとまとまってしまいかねない。ならば、最初の段階から企画が愉快なものの方が、せっかく有給確保したり財布事情をクリアして参加してくる隊員にとって良いのではないか。そういう判断が働いているからこそ、アワレみ隊が「企画モノ」っぽくなってきているのだ。でも、それだけでは留まらない。近い将来、「自分で畑を耕そう」とか、そういう「体験する」分やに絡んだ企画がいくつか出てくるのではないか、と僕は予想している。

とまあ、大上段に振りかぶった話をしてしまったが、今回の企画は全くそう言う主旨とは関係なく勃発したものである。そもそも、おかでんの個人的な「ディープなさぬきうどん巡りをしたい!」という願望が、たまたま人数を集めた・・・殆どがアワレみ隊隊員・・・だけである。もちろん、タイムトライアル要素、大食い要素が強い今回の企画は至って今日的アワレみ隊ではある。

で、企画告知当時はアワレみ隊企画扱いではなかったのだが、結果的にアワレみ隊企画に昇格したという珍しいケースである。

皆さんはほんとうにうまいうどんをたべたこと、あるだろうか。金比羅さん詣りをしたとき、何の気なしに入った普通のうどん屋が、えらくおいしく感じられてびっくりしたことはないだろうか。でも、そのおいしいうどんでさえ、地元の人々から言わせると「まずい部類」に入ってしまうこともあるから、讃岐うどんは奥が深い。ならば、地元の人が本当においしいと絶賛するお店に行ったら、果たしてどのようなうどんが出てくるのであろうか?悶絶するほど旨いのか?それが、今回の企画の主旨である。ひたすら、うまいうどんを食べて食べて食べまくって、悶絶しまくろうというわけだ。

僕はこの企画が決まってから、数多くの讃岐うどんに関する書籍を読みあさった。その中には、元来そば好きだっった人が、さぬきづどんに染まっていく様を描いたものもあった(さとなお著「うまひゃひゃさぬきうどん」コスモの本)。人の味覚の趣向を宗旨替えさせてしまう、そんな魅力があるというのであれば、ますます気になってしまう。僕は「蕎麦喰い人種」を名乗っていた時期があったくらい、そば好きである。ならば、さとなお氏のように開眼させて貰おうじゃないの、という覚悟である。

いずれにせよ、朝早くから昼下がりまでの間、ひたすらうどんを食べてくるまで移動して、の繰り返しとなる。このようなおかでんの我が儘企画に同行する参加者には気の毒としか言いようがないが、せめてもの償いとして、おかでんが各方面からの情報で選りすぐった絶品のうどん屋にご案内するので勘弁して貰いたい。目指すは、タイムリミット15時までに10店舗制覇!だが・・・。

長いわ、ほんまに。

良く書いたなあ。同時期、100ページを越えるお遍路のガイドブックを編纂していたので、よっぽどテンションがあがっていたんだろう。睡眠時間を削って、でも楽しいから全然平気、という感じが上記文章から伺える。

文中にもあるけど、今回はおかでん個人の発案がアワレみ隊企画に昇格したものだ。だから、おかでんが心に秘めているモチベーションと知識が、他人と比べて空転してしまう恐れがある。そうならないために、できるだけ事前におかでんと同じレベルにまで参加者の意欲を高めておこうという意図があった。成功したのかどうかはいまだ不明だが。

この「おかでんのコメント」で十分企画概要は説明できていると思うのだが、何を思ったか次のページで企画概要をご丁寧に説明しなおしている。せっかくなのでこちらも転載しておく。あー、タイピングがかったりぃ。

企画概要

讃岐うどん屋800店舗の中でも、特に絶品とされる「S級指定店」10店舗を中心に、独特の店舗形態をもつ「ディープな」お店等を訪問し、うどんを食す。

スタートは2001年05月05日午前8時40分、坂出市の「彦江製麺所」から。

おかでんが乗る飛行機(高松空港発羽田行き、16時05分発)のタイムリミットである15時までのあいだに、どれだけの店舗を訪問できるかというタイムトライアル的要素も強い。

また、今回訪問する店舗のうち、場所が分かりにくい・途中の道が猛烈に狭いといった要素をもつものがいくつかあり、高度のドライビングテクニック及び卓越したナビゲーション能力が要求される。いわば、うどんオリエンテーリングである。

前日まで、アワレみ隊は「お遍路チャレンジ2001」を敢行している。霊場巡りから一転して、うどん屋巡りという俗にまみれた世界に突入することになる。

なお、お遍路チャレンジから引き続き参加する隊員は、前日夜は塩江温泉にある「ヴィラ塩江」に滞在することとなっている。当日朝は、7時過ぎの早立ちで、一軒目の「彦江」に向かうことになるので、相当の強行軍だ。

参加する人は、「馬鹿馬鹿しい企画に耐えうる精神力」「うどんを10玉近く食べても大丈夫である強靱な胃袋」「頻繁の移動にへこたれない体力」「高度の運転技術・道案内技術」が要求されるので、それなりの覚悟はしておく必要である。

なお、本企画はアワレみ隊企画というスタンスになっているが、そもそもはおかでんの個人的食い道楽企画となっている。参加者の皆さんは、ツアー途中で挫折し、安易に行動予定変更を要求する行為は迷惑であるので、参加する以上は完遂するつもりで臨んで欲しい。

訪問を予定している店舗はいずれも、最近の讃岐うどんブームで多数のお客で溢れていると思われる。もともと製麺所付属の小さなお店であったりするので、「うどんを食べない」のに店舗内に入る、駐車場を占有するという行為は他のお客に迷惑であり慎むべきであることも留意願いたい。

讃岐地方のうどん店には特徴がある。といっても、特徴がない普通のお店が大半ではあるが。大別すると以下の3パターンに集約される。

1.一般店(ファミリーレストラン型)
2.セルフの店(ファストフード型)
3.製麺所付属

1の一般店は、ごく普通の飲食店の形態。特に解説は不要だろう。さすがにディープ讃岐といっても、このスタイルのお店が一番多い。

2のセルフは、最近増えてきたので全国的に定着しつつあるだろう。カウンターでうどんの量をおばちゃんに注げ、ビュッフェ形式で天ぷらなどのトッピングを選んでお会計後喫食する。食べ終わったら下膳口に器を返却する。

そして、3の製麺所付属、というのが「讃岐ならではの特徴」ということになる。セルフが全国区になりつつあるのに対して、この「製麺所付属」というのはいまだに他県では真似できていない。というか多分真似できない。

もともとうどんを近所の飲食店や学校給食に卸しているような製麺所が、「せっかくだから脇で食べさせて」という我が儘?な地元民のためにうどんを提供しはじめたのが始まり。だから、製麺があくまでもメインであり、うどん料理の提供は副業的位置づけになる。

そんなわけで、製麺所付属のお店の場合、お客の利便性の事を全く考えていないとんでもない場所にある。ロードサイドに大型店、なんてとんでもない。大抵、路地裏だとかさりげないところに位置している。もともと道路事情があまりよくない四国のこと、たどり着くだけでも並大抵ではない。

さらにわかりにくくしているのが、あくまでも「製麺所」という位置づけなので、「営業中」の看板であるとか暖簾がさがっていることはない。外見、たんなる物置小屋みたいなお店もある。そのほったて小屋から突き出た煙突に、白い煙が出ているところから「あっ、うどんをゆでてるな」と分かる人は相当の通だ。一見さんだとまず間違いなく発見できない。だって目印がないんだもの。

ようやくたどり着けたとしても、メニューのような気の利いたものはない。「大きいの」と一声、うどんをゆでてるおばちゃんに伝える・・・など、ハードルは高い。そして、食べる場所はテーブルがあれば良いのだが、無い・もしくは殆どない製麺所が多い。結果、店の外で立ち食いする事になる。

これら一連の複雑さとマニア度が、「讃岐のうどんはディープだ」と言われるゆえんである。もちろん、それで大しておいしくなかったらブームにはならないわけで、苦労して探し当て、おどおどしながら注文し、立ち食いしてでも食べる価値がある美味さがそこにあるから凄いんである。

出典はどこだったか忘れたが、「おいしいうどん店を発見するための格言」があったので紹介しておこう。さとなお氏の文章だったかな?(引用元を提示できず申し訳ない)

クレスタの高飛びミニカの餌食
(穴場は狭い路地の奥に畦道の果てにある、大きな車は身動きに困る)

平凡は珍名に勝る
(店の名前は名字をそのまま付けた店の方がいい)

大小は肉よりも、天ぷらはおでんより強し
(大・小のみのメニューの店が一番。またオプションでは、おでんがおいてある店より天ぷらのみおいてある店が上。)

下手な考え日曜の昼寝
(製麺所付属の店は日曜が休みのことが多い)

また、うどんは午前中に食べるのが良いとされている。なぜなら、うどんはれっきとした麺だから。普通、ゆでるのに時間がかかるうどんはゆで置きしてある。注文が入ったら、さっとお湯にくぐらせて暖めなおし、つゆをかけて提供する(かけうどんの場合)。ゆでたての麺の方がおいしいというのは常識的に分かろうというものだ。というわけで、麺がくたくたになる午後よりも、麺をゆでてまだ時間が経過していない午前中の方が良しとされる。どうしても午後になってしまう場合は、注文してからゆでるのが原則である「釜あげ」などを頼むのが良し。

さて、讃岐うどんの基礎知識はこんなところで終わりにする。聞きかじりの情報を列挙してお恥ずかしい限りだ。興味がある人は、その手の本を手にすることをお奨めしたい。

今回、われわれが臨むのはおかでんがあれこれ検討した結果選りすぐった10軒。製麺所の営業時間と、最短ルートとを考えて店選びと順番を選んだ。もちろん、その多くが「製麺所付属」のディープなお店だ。ただ、10軒全て行けるとははなから考えてはいない。讃岐うどんブームでたとえ路地裏のディープ店舗でも大行列必至、ということは想定済みである。時間の制約があろう。あと、10軒=最低10玉、のうどんを食することができるかどうかも怪しい。もし難しいようなら、優先順位をつけて「このお店はパス」など柔軟に対応していくことに決めていた。訪問時間は分刻みで想定。以下に訪問候補店舗一覧を掲載する。

  1. うどん粉のプロが保証する味 「彦江製麺所」(坂出市) 08:30
  2. 目に焼き付く感動的なロケーション 「がもううどん」(坂出市) 09:10
  3. これぞ讃岐うどん 「たむら」(綾南町) 09:40
  4. 魔法の水から輝く麺 「山越うどん店」(綾上町) 10:10
  5. 「最ディープ」村上春樹推薦 「中村うどん」(飯山町) 11:00
  6. 讃岐うどんの原点を宿す秘境 「谷川米穀店」(琴南町) 11:50
  7. 人の接近を拒むがごとく 「山内うどん店」(仲南町) 13:00
  8. 満濃うどんトライアングルの老舗 「長田うどん」(満濃町) 13:30
  9. 「あつあつ」と「ひやあつ」 「宮武うどん」(琴平町) 14:15
  10. 外観は普通の店、されど県内屈指の味 「山下」(善通寺市) 14:45

さて、何軒訪問することができるだろうか。5月5日、朝。いよいよ「うどん遍路」の始まりだ。

2001年05月05日(土)

[1軒目:彦江製麺所 坂出市横津町]

全員朝7時起きで、朝食抜きで即座にホテルをチェックアウト。向かった先は、坂出市にある彦江製麺所だ。ここを一発目に選んだ理由は、朝8時半から営業しているというスタートの早さが目にとまったからだ。うどん店巡りで数をこなしていく上では、「早い時間から営業している」事はとても重要。

彦江製麺所

彦江製麺所は、「ディープなうどん屋探しに偶然はあり得ない」ということを参加者全員に身をもって教え込む、貴重な教材と言えた。

お店発見に至るまでの苦労話、というのは「恐るべきさぬきうどん」など先達の著作物に散々書かれており、またそれが秀逸なのでこのサイトでは大幅に割愛する。

県道33号線からほど近い路地裏にあるのだが、この路地が狭い狭い。というか、軽トラくらいしか入れない道幅だ。「製麺所」とはいえ、こんなところによくもまあ作ったな、と思う。

幸い、昨今の人気をふまえて駐車場は10台分も確保されていた。田んぼの中にある広場だけど。そこから、道路幅2mくらいの狭い道路を数分かけて歩く。

われわれは「ここにうどん食わせてくれる製麺所がある」と知ってるからまだひょうひょうと歩いて目的地に向かっていられるが、このお店を発掘し世に広めた「恐るべきさぬきうどん」の麺通団は、さぞや不安だっただろうと偲ばれる。ありえん。

そうして、到着したのが写真の建物。プレハブ・・・じゃないな、ちゃんとした建物だ。一瞬簡易建築物と見まごうばかりの質素なたたずまい。というか、暖簾はおろか、「彦江製麺所」という事を知りうる手段がどこにも存在していない。うおー、なんじゃこりゃあ。せめて、窓や入り口が開いていて、中を覗くと「あっ、うどん打ってる!」って分かるなら良いのだが、窓も扉もぴったりしまっとる。製麺所であることを知る手段がないし、ましてやうどんを傍らで食わせてくれるという事を知る事は不可能だ。

さすがのわれわれもたじろいだ。本当にここなのか、と。いや、ここであるということは地図や状況から考えて間違いない。ただ、外観が予想以上に普通すぎた。しかも、営業やっとるのかさえわからん。・・・ああ、唯一商売っけがあるとすれば、入り口脇に「ペリカン便」の取扱い店であることを示す立て看板が出ていることだ。

些細なことだったが、その「ペリカン便」の看板で勇気づけられ、われわれは扉をがらがらとあけた。営業開始時間ちょうどなので、朝一番の客となる。

彦江製麺所の中

中に入ると、おお、うどんがゆでられてる。ここで間違い無かった。良かった。単なる民家で、「ガラガラ」と引き戸を開けたら玄関があったらどうしようと思っていたんだが。

アワレみ隊として初の製麺所侵入。

なるほど、讃岐地方の製麺所とはこうなっているのかと大変参考になる造り。入ってすぐのところには大きなゆで釜があり、まさにうどんがゆでられている。その左側にはおばちゃんがいて、ゆで上がったうどんを一玉ずつ取り分けてケースに詰めている。このあと、どこかに配送するのだろう。

釜の奥ではおじちゃんが一生懸命うどん打ちをしている真っ最中。

ええと、食べるにはどうすりゃいいんだ。なんか工場見学している気分になっちまったい。

「すんません、一玉ください」

おばちゃんに声をかける。どんぶりは積み上がっているのを自分で取り、おばちゃんからうどんを入れてもらう。ちなみにお会計は130円。安ぅ。2玉で220円、3玉で300円。商売になるんか?ほんまに。ジュース買うのと同じくらいの値段だぞ。いくら製麺所が主体で食わせるのはサイドビジネス、とはいえこれはあんまりだ。なんだか悪いことをしたような気分になる。自分の物価感覚だと2倍払ってもいいや。

ちなみにメニューなんて気が利いたものは店内のどこにも無かった。事前情報によると、「かけ温」「かけ冷」「つけ温」「つけ冷」の4種類で構成されており、あとは玉数に応じて値段が変わるようだ。それとサイドメニューで天ぷら類。

われわれが訪れた時点では天ぷらは見あたらなかった。時間が早いからまだ準備ができていないのか、それともメニューから消えたのかはさっぱりわからん。

だしはセルフで

だしは自分で注ぐ。

うどん玉を入れてもらった丼を手に、コンロにかけられた鍋のところに行く。そこで、お玉でだしをすくって丼へ投入。

足下にたくさん鍋が置かれているが、恐らく今日この後の来店客数を見越してたくさん準備しておいたのだろう。ラーメン屋のような大きな寸胴ではなく、普通の鍋でだしを用意しているあたり、「店内で食べるのはあくまでもおまけ」感が漂ってワクワクさせられる。

冷たいだしを希望の場合は冷蔵庫に入っているタンクから注ぐことになる。

一同、慣れない事なので若干おどおど。

かけ温小

かけ温(小)130円の完成。

食べる場所は製麺所の脇に狭い部屋があり、そこが「飲食場所」となっていた。カウンターだけの、鰻の寝床状態のスペース。

カウンターには薬味として青ネギが用意されていたので、ありがたくかける。もちろんセルフだ。

ずるずる。

うまいなあ。130円の味とは思えないよ、ホント。うどんの味を評論できるほど知識と経験はないので、「麺のコシが・・・」だのなんだのというコメントは避けるが、とにかくうまい。滅法うまい、といっても過言ではない。

もちろん、味のスパイスとして「こんな場所にうどん食わせる場所が?」という立地条件の妙、さりげない外観、初体験の製麺所うどん、という要素はあるだろう。しかしそれを差し引いても、こりゃ純粋に美味いですぜ。おい一軒目からこんなレベルだとどうすんの。

この企画の直前に行われたお遍路の途中、都合3回うどんを食べる機会があった。そのどれもが美味いと思ったが、ちょっと次元が違う感じ。美味い、というより凄い、という表現の方があっているかな。

お代わりしたかったが、この後もうどん屋巡りは続くのでぐっと我慢。こりゃあ大食いの人でなくても、3玉4玉はするすると胃袋に収まるぞ。

[2軒目:がもううどん 坂出市加茂町]

彦江製麺所でうどんを食べたら、すぐに移動だ。なにせ飲食店の色気など皆無なお店だ、食べた後にまったりするなんてありえん雰囲気。ちゃっと注文してずるずるっとすすって、ごちそうさまさようなら、が一番似合う。まあ、それ以前にわれわれは「食べ歩き」をしているわけであり、次の店を目指して即移動だ。

がもう

2軒目のお店は、同じ坂出市にある「がもううどん」。営業開始が朝9時ということなので、今回の企画をプラニングした自分としても素晴らしいコンビネーションだと自画自賛だ。彦江で8:30に食し、移動して、9:00にがもう。店の開店と同時に次々と食べ歩きだ。

と、思ったのだが、道がよくわからん。このお店の情報を調べたら、必ず「道がわかりにくい」という表現が出てくるのだが、まさにそれだった。住所をカーナビに登録してもヒットしないし、電話番号検索でカーナビにご機嫌を伺ってもダメ。あとは、漠然とした地図を頼りに怪しい道に分け入るしかない。

多分ここらだろう、というところでおおざっぱにぐいんと入り、やっぱり道を間違え、広い通りに一旦戻って体制を整えなおし、再度違う道にて挑戦してみたら見つかった。一度正しい道を発見できれば後は楽だ、なにしろ駐車場が23台分もある。ちょっとしたドライブイン並だ。昔は地元民だけを相手にしたお店だったんだろうが、讃岐うどんブームで駐車場を確保せざるを得なかったのだろう。それにしても異様な光景だ、周りは田んぼなのに、駐車場がででーんとある。そして、そのむこうがわには「うどん」の文字が。あ、ここは看板が出ているんだな。

それにしても商売っけがあるんだかないんだかわからん世界だなー。「恐るべきさぬきうどん」の連載が「タウン情報かがわ」で開始になる「前」と「後」では、確実に香川県のうどん店を取り巻く状況って変わったと思う。過渡期だと、路駐の車で地域住民が迷惑したなんて事だってあるだろう。急なお客増に対応しきれず、過労で倒れた主人だっていたかもしれない。このお店や、先ほどの彦江製麺所を見ているとつくづくその「時代の流れ」というか「ブーム」というものについて考えさせられる。

人気のディープうどん店としては今、幸せなのだろうか?

忙しくなってしんどいだけだ、でもわざわざ遠方からやってきたお客さんのためにはうちのうどんを食べてもらいたい・・・というお店だってあるだろうな。

ま、深く考えても仕方がない。企画はもう動き出しているわけだし、われわれとしては「ブーム便乗」とはいえ、おいしく各店舗でうどんを食べるだけだ。

さてこのがもううどんだが、前述のとおり看板がちゃんとでている。ほっとする反面、田んぼの中のお店で看板がでていることにものすごく違和感を覚える。不思議な世界だ。

かけにちくわ天

ほぼ予定通り9時10分には現地到着していたのだが、既に先客あり。驚きだ。ゴールデンウィークとはいえ、朝から皆様ご苦労様です。そして、朝早くから麺打ちとゆでをやっているお店の人はもっとご苦労様です。

感謝しながら、うどん小を頼む。だしは自分で注ぐ、というのは彦江と一緒。おっと、ここには天ぷらがあるな。ではちくわ天を頂戴しましょう。薬味のネギも忘れずにセルフで投下。

このお店の場合、かけ温、ぶっかけ温・冷のみのメニュー構成。これに小と大の選択肢が加わる。あと、天ぷら。

かけ温(小)で100円。彦江よりもさらに安い。ここは看板を出しているくらいだし、商売っけがあるんだと思っていたら予想を裏切られた。そしてちくわ天70円、しめて170円なり。またもやなんだか申し訳ない気持ちになりながらお会計を済ませる。

麺の太さは、夏と冬でバージョンが違うらしい。夏だと若干細め、冬だと若干太めとし、夏はさっぱりと、冬はどっしりと食べられるようにしているようだ。・・・5月5日の今日はどっちだろう?(ちなみに、彦江製麺所も夏バージョンと冬バージョンで違いがあるそうだ)

屋外で立ち食い

店内には8席の座席はあるのだが、既にこの時間にして満席。でも、それよりも素敵な特等席がある。店の前、すなわち露天で食す。

ベンチがあって、そこで座って食すもよし(写真だとばばろあが座っている)、風景を愛でるために立って食すも良しだ。

見渡すと、五色台という山があり、そのふもとはひたすら田園だ。

のどかだ。

何でこんなところで、お天道様の下で、うどん食ってるんだわしら。改めて不思議な気持ちになる。

うどんは相変わらず美味い。美味いのだが、彦江製麺所と根本的に違うのがだしの味だった。彦江はいりこだし、このがもうは昆布と鰹節を使っているそうだ。どちらが好きかは人によってまちまちだと思うが、おかでん個人は彦江の方が趣味にあった。まあ、一軒目というドキドキ感エキスがたっぷり入ったうどんだったから、過剰評価しているところもあるのだが。

それにしても、2軒ともうどんのエッジが立っていて切れ味鋭い麺だよなあ。へなへなして、麺の角が溶けたような市販のうどんがアホらしくなってくる。

200gあるといううどんだが、あっという間に胃袋に収まった。うん、満足満足。この景色にも満足だ。

[3軒目 たむら 綾歌郡綾南町]

3軒目に訪れたのは、「たむら」というお店だ。このお店は分かりやすかった、通り沿いにあるし、小さいとはいえ「手打うどん たむら」という看板が出ている。

たむら

とはいっても、単なる比較論。店舗そのものには暖簾もないし、分かりやすい表示もない。小さな看板だけで「あ、うどん屋がある。うどん食うてくか」とドライブ途中に咄嗟に思いつくのは無理。相変わらずさりげないなあ。オリエンテーリングやってるようだ。もしくは、「志村ー、後ろ!後ろ!」みたいな感じ。

ただ、大変に分かりやすいのは、お店周辺に周囲の雰囲気とは全く不釣り合いな路駐があったり、人がうろうろしていたり。遠目でも「あ、あそこがうどん屋だ」とわかる。

香川県では、行列ができるのってうどん屋とパチンコ屋の開店前じゃないか、とさえ思ってしまう。あ、冗談です、香川県人に怒られてしまう。そんなこたぁないわな。

でも、店の床面積あたりの集客力という点では、香川県ではうどん有名店が最強なのは間違いなかろう。

税務署の人、時々訪れて「今日の売上はだいたいこれくらいだな・・・所得税は・・・」なんてGメンやってるんだろうか。んで、消費税の課税対象となる「売上2,000万円」を達成したなと判断した瞬間に「税務署だ!課税する!」なんて。

次の日から、「売上増えたので、消費税を納税しなくちゃいけなくなりません。残念ですが消費税分値上げしました」って張り紙が店内に・・・。

でも、一玉100円なんぞで売っている商売だから、売上2,000万円といったら20万玉売り切らないといかん。無理だな、麺打ちをやっているご主人が倒れる。麺ゆでやってるおばちゃんが溶ける。 薄利多売でがっちりもうけているんじゃなくて、薄利多売でなんとか生計が立てられるくらいじゃなかろうか。ホントご苦労様です。

たむらのうどん

そんなお店の懐事情を気にしつつ、店内へ。

かけうどん100円。メニューはこれだけ。大にしたら200円。すごくシンプルだ。猛暑でも熱いうどん食う。ただひたすら食え。

うどんを立ち食い

席数は15あるということだったが、既に席はいっぱい。こっちも慣れたもんだ、外で食うのが良いのよ。どうせ食べ終わるまで3分もかからないんだ、立って食べても何ら問題ない。

そういえば、まだ9時半過ぎなんだよな・・・。この店、開店が9時30分ということで、開店直後に訪れたはずなんだが。先ほどのがもううどんもそうだったが、開店直後に訪問しても「もう満席、うどん玉貰い渋滞」が発生するありさま。GWということで覚悟はしていたものの、人が多いなあ。

このお店の麺は相当好きだ。しっかり、みっちりした麺という印象。ただ、だしが相当濃い。塩辛い、という印象を受けたくらいなので、好みは人それぞれだろう。

ごちそうさまでした。

なんだか息がだんだん薬味のネギ臭くなってきたような気がする。

このお店、9:30開店の13時閉店。昼過ぎに行くともう閉まっているので、まさに午前が命のお店。

[4軒目 山越うどん店 綾歌郡綾上町]

4軒目は山越うどん店。讃岐うどんの名店として特に名高く、マスコミ露出度が高い。というのも、ゆでたうどんに玉子を落とし、醤油とともにかき混ぜる「和風カルボナーラ」の「かまたま」を世に知らしめたお店だからだ。もちろん、玉子かけご飯のうどんバージョンなだけだったら底は浅い。しかし、玉子の力強さを説得し屈服させるだけの力があるうどんだという。

山越

楽しみである。

でも、その楽しみを店舗1kmほど手前で打ち砕かれた。

あれー?なんだか、路駐している車がずらーっと並んでいるんでいるんですけど。ええと、どこまで並んでいるんだ。というか、この行列は、何?

「まさか山越じゃないだろうな」
「まさかいくらなんでも」

既に3軒のうどん店を訪問し、時間の経過と共に混雑が酷くなってきているのは分かっていた。とはいっても、いくらなんでもこれは常軌を逸している。何か工事か事故で渋滞しているのではないか?と不安になったが、その気配はない。というより、みんな車を乗り捨てている。

えー、うそだろー。ひたすら延々と車が並んでいるじゃないか。これが、うどん路駐?ありえん。

山越の行列

もう「山越路駐」だと確定しつつも、いまだ信じられず、われわれも車を路駐させて山越に向かってみた。

あー。

何じゃこりゃあ。

何もない普通の民家に向かって、行列が延々のびとる。何人いるんだ?十人のレベルじゃない。百人のレベルで並んでいるぞ。

うそだろ、おい。

いくら名店といっても、まだ10時だぞ?ゴールデンウィークだからといっても、うどんだぞ?それで、この行列。何で?何でなん?

いや、その行列に荷担しようとしているのもわれわれなんですけど。ええと、5名行列に追加、いいっすか。

ばばろあから

「やめとこうや。こりゃ相当待つで。きりないわ」

という提案がなされた。名店の山越で名物のかまたま、ぜひ食べてみたい。うどんすするだけだから、そんなに時間はかからないはず。行列がはけるのも早かろう・・・いや、だとしてもこの行列は酷すぎる。アイドルの握手&サイン会じゃないんだぞ、単なるいっぱいのうどんだぞ、並んでるお前ら我に返れ。

・・・といっても、並ぼうとしている自分たちも同類だけど。

「んー」

しばらく、行列の数を数えて試算してみたが、どう考えてもこの行列は酷すぎる。待ち時間が30分じゃきかないだろう。

「んー?」

結局、諦めた。ばばろあが激しく厭戦気分だったことが最大の要因だが、今まだ「うどん遍路」前半戦の段階で時間をかけるわけにはいかなかったからだ。この後控えている最大の難所が「谷川製麺所」なのだが、このお店は山奥にあるという立地条件に加え、営業時間がなんと「11:00~13:00」と2時間しかない。この絶妙なタイミングで、巡礼できないといけないことを考えると、現在10時時点で行列に加わるのはちょっと不安だった。

「やむない!次回持ち越し!」

次回がいつになるかは分からないが、今回は名誉の撤退とすることにした。

[5軒目 中村うどん 綾歌郡飯山町]

村上春樹がその著書の中で「ディープ中最ディープのうどん屋である」と語ったという、中村うどん。讃岐うどんを語る上で、外せないお店の最有力候補と言えよう。

中村の行列

あまりに有名な逸話は、うどんを注文したお客が「ネギないで」とおばちゃんに言うたら、おばちゃんが「ネギは裏の畑にあるから自分で取ってこい」と言い返されたというものがある。客なのに、ネギを客が収穫して、まな板の上で刻んで、自分でうどんの上にかける。究極のセルフだ。収穫から始まるセルフ。これが、「讃岐うどんはディープだ」という印象を決定づけたといって過言ではない。

ただ、さすがにディープと言われるだけあって行くまでがしんどい。「だいたいこの辺」ということはカーナビ上でも手元の地図上でも分かっているのだが、そこに行き着くまでの道、道そのものがわからん。「まさかこの道じゃないよなあ」「いや、でもここしかありえんで」「ん?ホントにこの道いくの?」もの凄く不安だ。

何しろ、車のすれ違いすら難しい狭い道だ。でも、一方通行にはしないところが四国クオリティ。四国の人は車幅感覚が鋭敏なのか。

どうやらこの道だな、というのが分かったのは良いが、さあそこからが問題だ。「外観は単なる納屋で、うどん屋とはわからない外観」「目印は、道路脇にあるドラム缶だけ」という噂を聞いていたので、もうこっちはヒヤヒヤもんですよ。素通りしたら、困る。Uターンするだけでもしんどい道だ。というより、「素通りした」ことすらわからんのは困る。「道が違ったんかなあ」と思って、別の道を選びそうだ。そうすると、どんどんドツボにはまって、道に迷う。

慎重には慎重を重ねて、車中一同「ドラム缶を見逃すな」という言葉を合い言葉に前進する。

・・・までもなかった。前方、車混んでるんですが。

ありえん。なんでこんな田舎道で混んでるんですか。というか、誘導員がいるんですが。巨大ショッピングモールですかここは。

こちら側から向かう車と、むこうがわからくる車が、ある地点でお見合いしてる。で、そこで誘導員さんが「こっちこっち」と指示してる。渋滞のメッカだから、警察に代わって誘導してくれているのか・・・な、わけ、ない。全部の車が、脇道に吸い込まれとる。

香川県においては、「行列をみたらディープうどん屋と思え」という格言が合う。行列ができてたらディープじゃないじゃないと思うが、いやいや、立地条件がディープすぎるんで、少々の行列くらいだと帳消しにはならん。

・・・とはいってもなあ、誘導員が道路で待機している「ディープ中のディープ」なお店って何だ。

疑問に感じながら、誘導に従いながらぐいんと車を舗装されていない脇道に入れる。・・・ああ、ドラム缶あるなあ。一昔前、まださぬきうどんブームが来る前の時代は緊張しながらドラム缶を探していたんだろうが、今や誘導されるありさま。時代は流れる。

で、車を停めたところの脇には、ネギ畑が。「おー、これが噂のネギ畑かぁ」、と感慨深い。ひょっとしてネギが足りなくなったら、今でもネギ狩りに出動させられるのだろうか。どのネギが生育がよろしいか、思わず物色してしまう。

しかし、気になる事はネギよりも行列だ。先ほどの山越ほどではないにしても、ここも結構な行列ができていた。異様だ、何の変哲もない物置小屋みたいなところに向かって、ネギ畑の間に人々が並ぶ。何をやっておるんだ、オレら。いや、うどん食うんですけどね。

唯一の救いというか、「自分が並んでいる理由」を発見できるのは、物置小屋(と思わせておいてうどん屋)から丼と箸を持った人がうれしそうに出てくることだ。それで、行列しても大丈夫だ、と安心させてくれる。

アワレみ隊のメンバー一同、この行列を見てちょっとたじろいだが、あまりにディープな外観に圧倒されたのと、「さっき山越でスルーしちゃったから、ここは一丁我慢して並ぶか」という覚悟ができていた。誰も文句言わず、行列に参加。

店の外観は何度見ても、うどん屋の「う」の字もない。ドラム缶しか判断手段がないのは間違いない。ああ、でも物置小屋(と思わせておいてうどん屋)には煙突が突き出ていて、それがちょっとだけ異様。でも、そんな違いなんて気付くもんかー。

まあ、ひたすら待たせてもらいますわ、もうこうなったら。

正面に讃岐富士が見える。「いい形してるねえ」と愛でつつ、行列がゆっくりと進むのに従う。

中村店内

待つこと15分だったか20分だったか、行列の割には意外と待って店内へ。「うどんなんてするするっとすすればすぐじゃん」と思っていたが、それは食う側の立場の考え。うどんを提供する側は、あの太い麺をゆでないといけない。そう手際よく客をさばけるわけではない。

まず、釜の脇で一生懸命うどんをゆでているおばちゃんに玉数を伝えるところからスタート。小で100円、大で200円。行列を作って待った、ということと、立地条件のディープさが最高の空腹感を築き上げ、おかでんはついつい「大」をオーダー。これまでうどん食べてきたのに。これからもうどん食べるのに。

「おばちゃん、うどん大ちょうだい」

と注文すると、釜で今まさにゆでているうどんを釜からそのまま丼に取り分けてくれた。ゆでたてほやほやだ。というか、ほやほやは表現が甘いな、熱々だ。

その後はセルフ。長机にはバットが並び、天ぷら類が盛られているので、それを自由に選び、丼に盛る。肝心のネギは・・・ああ、昔の余韻が残ってる!ネギコーナーにはまな板と包丁と、ネギが一束。自分で刻んで丼に盛るのだった。ネギが足りなくなったらどうするの?と思ったが、長机の下にストックの束がたくさん用意されていた。さすがに「ネギ摘んでこい」というのは今このブームの中、無いんだな。まあ、そういうことか。

しょうゆ(大)+キス天ぷら+卵

おかでんのトッピング。「しょうゆ(大)+キス天ぷら+卵」で合計350円。釜ゆでしているおばちゃんに自己申告で、伝えて精算する。おばちゃん大忙しだ。というか、インチキし放題なルールだけど、それを許している緩さが心地よい。

350円のお支払い。外食の一食と考えるともの凄く安いわけだが、今までが安すぎたので「もの凄く高ぇ」という印象を受ける。でもこれは勘違いです、誤解のなきよう。

店内は狭くて人で溢れているので、外に出て行列を眺めつつ食らう。「すする」とか「食べる」というのは似合わない。「食らう。」という表現が一番だ。特に、先ほど山越で食べられなかった「かまたま」だ。卵のつるっとした感じ、讃岐うどん独特ののどごしの良さで、ずぞぞぞぞっと食べちゃう。というか、飲んじゃう。うどんは飲み物だな、まったく。噛んでも美味いが、飲んでも美味い。

卵の黄身ってこんなにくどい相手だったのか、と感心する。うどんにまとわりついて離れやしねぇ。嫉妬深い女性、とでも言おうか。ストーカーだぜ。でもそのストーキングっぷりが美味いんだわ。だしを入れていないので、味は単に醤油と卵。でもそれが最高だわさ。いらんのよね、うどんが美味いから他の味は。

「やっぱ違うねえ」

中村うどんに限った話ではないが、讃岐のおいしいうどん店というのはうどんのレベルが違う。麺だけで美味い。「加ト吉の冷凍さぬきうどんは美味い。」というのは事実だが、その認識がまだまだ甘いということを思い知らされた。東京など、美味い讃岐うどんを食べられない地域では加ト吉を重宝するが、それは便宜上の話だな。本当にうまいうどん店は、加ト吉と次元が違う。

2玉分だったけど、あっという間に食べちゃった。人によっては、「こんなにぱっと食べられる/安いうどんごときに行列を作るのは馬鹿馬鹿しい」と思うだろう。でも、値段の上下を問わずに、並ぶ価値があるものはあるんだなーと感心しっぱなしだ。

[6軒目 谷川米穀店 仲多度郡琴南町]

今までのうどん店は讃岐平野にあったが、6軒目の「谷川米穀店」は山に分け入っていく。このお店は、国道438号線にほど近い場所にあるということで、「山間の集落」ということを除けば比較的立地条件が良い。

ただ、「知る人ぞ知る」だとか「道に迷う」とさんざん言われているお店である。そもそも「うどん店」と名乗らず「米穀店」を名乗っている時点で分かりにくい。まさか米屋でうどん食わせるとは誰も思うまい。・・・讃岐人を除けば。

先ほど訪れた「たむら」も、もともとは精米と製粉を行うお店だったという。なるほど、うどん→小麦粉→製粉→精米→米→米穀店、という繋がりかぁ。これは大変に分かりにくいが、なるほど理に適っている。

そうと分かれば店探しは簡単、「うどん店」を探すんじゃなくて、「米穀店」を探せば良いんでしょ?・・・え?「※」の看板ただ一つしか出ていない?川東集落の中にあってわかりにくい?うーん。

まあ、探しにくいのはこのお店に限った話ではない。これまでも、中村やがもうのようにわかりにくいお店は体験済みだ。ディープなうどん店探しのコツはただ一つ。「行列を見つけろ」。なんじゃそりゃー。

でも、讃岐うどんブームである以上、「行列」こそが店発見の最短ルートだ。店に一番乗りするならともかく、営業時間内に訪問できれば良いやくらいの認識で、行列に並ぶ覚悟があるなら「行列を目指せ」。

そんなわけで、国道438号線を走っていたら・・・おーっと、橋の上に路駐車がいっぱいあるぞ。橋の下に渓谷があって、そこで水遊びしているわけではない。これは明らかにうどん路駐だ。でも、橋の上に路駐って何だ。まさか橋の上にお店があるわけではあるまい。

谷川米穀店

あー。

橋を通過時、川を挟んで対岸になにやら怪しい行列を発見。あそこだ、あれだ。

あまりに分かりやすい「異様な光景」だったので、難易度が高いはずのお店だけど一発で判明。

試しに川東集落に車を突っ込んでみたが、集落内は道幅があまり広くなく、車を駐車できるような余裕は殆どない。あったとしても既に先客が駐車していらっしゃる。しばらく周囲を睨み付け探索した結果、何とか駐車する場所を得た。

いざ行列に迫ってみると、何とも不思議な光景だ。滑稽な光景、と言っても良い。先ほど「名誉の撤退」をした山越とほぼ同じ人の数なのだが、何でこんな山あいに忽然と行列ができとるん。しかも、行列の先が普通の民家に見える。「※」の看板が出ているという話だったが、店の入り口は行列側に向いていないので、それすら確認できん。一体何の行列だか、いざ並んでいる自分たちですら理解不能。もし、全然うどんと関係ない行列だったらどうしよう。

・・・と思ったら、なにやらあちこちで「恐るべきさぬきうどん」の文庫本を手にしている人が。「ここがディープなんだよね」なんて、連れに語ってきかせている。うわ、なんだか恥ずかしくなってきた。ブームに安易に便乗してるっぽくて、いやだ。

店の営業時間は11時から13時、とたったの2時間。このうどんにありつくのは相当にハードルが高い。地元民でも、食べたくても食べられない人は結構いるのではないか。

しばらく行列を眺めていたばばろあが、なんだかいたたまれなくなっちゃって戦線離脱を宣言した。

「やめとこうや、なんだか悪いで。こんな店、地元のおっちゃんおばちゃんらがふらりと食べに来る店じゃろ。わしらが興味本位で並んだら食えんようなるじゃん。それに、うどん100円のためにここまで並ぶのはちょっと気が引けるわ」

ただ企画立案者おかでんとしては、どうしてもこのお店を外したくなかった。今回を逃すと食べる機会が二度と無いのではないか、という気がしたからだ。それに、「恐るべきさぬきうどん」などの事前情報で既に「食べたいエナジー」がぱんぱんにふくれあがっていた。ばばろあの言う事に一理あるが、ここは断固として拒否。

結局、ばばろあとしぶちょおは次の店である山内うどんに先行して向かうこととなり、残ったおかでん、ジーニアス、ちぇるのぶの3名だけで谷川米穀店を満喫することになった。というか、行列に延々と付き合うことになった。行列、長ぇ。うどんが伸びるんじゃなくて、行列ばっかり伸びていく。

谷川米穀店は店内も行列

待つこと数十分。ようやく店内に入ることができた。

あっ、「※」の看板を確認するの、忘れた。

店内に入ると、「米穀店」の気配は全くなし。長いカウンターがあって、その内側では注文を受けうどんをゆでお客対応をしている。米俵はどこだ。精米器はどこだ。

店内見渡すと、みんなうどん食ってる。食らいついてる。ご飯食ってる人は当然いない。

お品書きが柱からぶら下がっているけど、至ってシンプル。

小 100円
大 200円
たまご 30円

以上おしまい。壁にキリンラガービールのポスターが貼ってあるが、そんなのは有っても意味がない。ビール?売ってません。以上おしまい。

店内も行列はカウンター沿いに伸びているので、しばらくは前の人がさばけるまで待つ。おばちゃん、もうひたすらうどんゆでまくり。

谷川米穀店のうどん

つい先ほどの中村うどんが「大」を注文しちゃったので、最初は「小」を注文。ネギはセルフで。あと、醤油も。ダシなんて気の利いたモノはない、醤油だ、醤油。

狭い店内、ぎゅうぎゅう詰めになりながらずるずるとうどんをすする。

う、うまい。

これは美味い。今まで食べてきたうどんと質が違う美味さだ。麺のコシ、のどごしが良いのは今までと一緒なのだが、このお店のうどんが根本的に違うのは、粉そのものだった。いや、粉は他店と一緒なのかもしれないが、うどんのこね方が違うのかどうなのか、全く別物。うどんが、香る。小麦粉が、華やかに香るのだった。小麦粉って無味無臭の粉だと思っていたが、こんなに香ばしいとは思わなかった。驚愕だ。「えええっ!?」という声を出してしまったくらいだ。

薬味にはネギがあるが、それ以外に酢、唐辛子が用意されている。しかし、そんなものはいらん。何もない方が良い。醤油すらいらないかもしれん。

うまい。

もう一杯おかわり。すいません、大ください。・・・いっぱい目よりボリューム増やすんかい。

このお店の面白いところは、お代わりは行列に割り込みが許されている事だった。行列の最後尾に並ぶ必要はない。すんません、すぐちゃちゃっと食って店を去りますから、もういっぱいだけ食べさせて。

いやぁ、二杯目もうまいんだなあ、これが。小を食べたあとに大を食べても、全く衰えない深い感動と美味さ。これは行列して正解だった。こんな美味いうどんが一日2時間だけの営業、というのはあまりに惜しい。いや、違うか。2時間営業だからこそ、この美味さが出せるのか。

こんなうどんが冷凍うどんで実現したら、加ト吉は倒産するぞ。まあ、大量生産できっこないから大丈夫だけど。

恐るべきだなあ、讃岐うどん。蕎麦も、「外観が派手な店は大して美味くない」という法則があるが、うどんはそれ以上だな。「外見がうどん店とわからないお店が美味い」。

食べ物で感動する、ということは人生の内ほんの時々あることだ。「ああ、美味いなあ」としみじみ感じることは多々あっても、「うわぁ!」という感動は少ない。その一つが、ここだった。「うわあ!」「すげぇ!」と、思いつく限りの賛辞を惜しまないね、オラァ。人生最高のうどんに出逢った、と言ってもいいや。

ただそれは、一期一会にも通じる。東京に住んでいる自分が、またこのお店まで遠征し、2時間の営業時間内に、行列を作って、そして食べるってことは多分今後まず無いだろう。その切なさがまた、美味さをひきたてているんだなぁ。恐らく、「また今度食べることができる」立場の人とは感じ方が違うと思う。

ただ、それほど大食漢ではないジーニアスでさえ、おかわりをしていた。この後もうどんを食べ歩くことを理解した上で、だ。それだけ美味かったということだろう。