大漁

『天丼』
(宮城県宮城郡松島町)

以前、このコーナーで「いいネタがあったらご紹介ください」と文中に告知をうったところ、親切な読者さんから何件か情報を提供して頂くことができた。ありがたい事だ。まずはこの場を借りてお礼申し上げたい。

教えて頂いたお店の多くは既に認識はしていたのだが、その中で宮城県にお住まいの方が推薦した「松島にすごい天丼がある」という情報には「おやっ」と目がとまった。そのお店の名前を「大量」・・・じゃなかった、「大漁」という。聞いたことがない。

どんなものだろう、とwebで検索かけてみて天丼の写真を発見したのだが、思わず「うわ」と声を上げてしまった。衝撃だった。でかい。いや、でかい、ではないな。ええと、あ、そうだ、「高い」。高いんである。プライスではなく、トール の方の「高さ」。実物を見てみないとわからないが、30センチは余裕でありそうだ。ひょっとしたら40センチ、あるかもしれない。中心になにやらトーテムポールのような天ぷらがそびえ立っていて、その周りをいろいろな天ぷらが取り囲んでいる情景だ。他店でも盛りの良い天丼は数多くあるが、大抵はアフロヘアみたいにバクハツしちゃった感じだ。しかし、「大漁」の天丼は、高く、スルドくとんがってそびえ立っている。摩天楼、スカイスクレーパーだ。こんな天丼、見たことがない。いや、天丼という狭いジャンルでなくても、ご飯という広範囲なジャンルで語っても、見たことがない。

しばらく、webの写真をあっけにとられて眺めていた。ありえねぇ。こんな食べ物、ありえねぇ。

しかし、私が飽きもせずに写真を眺め続けていたのは、その天丼が強烈なインパクトがあるだけでなく、あまりに美貌だったからだ、という事に気が付いた。そうだ、この盛りは過去例にないほど、美しい。

これぞ、美貌の盛りではないのか。

自分の気持ちに気づいた以上、辛抱できなくなった。松島。はっきりいって非常に遠い。こんなところまで、天丼だけを食べに行くというのは具だくさんだ。違った、愚の骨頂だ。暇が有り余っていたとしても、行くべきではない。しかし・・・。

スペシャルオリンピックスボランティアという非日常空間で10日を過ごした身としては、週末家に居るということが「停滞」に近い悔しさを感じるようになっていた。人生を無駄にしているんじゃないか、と。そんな変な強迫観念が後押しして、ええい、なるがままだと一人で宮城県入りを決定した。きっと、目指す天丼を目の前にすれば、多額の出費を強いられた事なんてすっかり忘れるに決まっている。きっとそうだ。

と、思いこむようにしつつ、楽天トラベルで仙台の宿を予約。優柔不断なおかでんは、こうやって退路を断って「絶対明日は決行するからな」という状態に追い込まないといけない。当日の気分次第で行くか行かないか決めよう、なんてやってると、必ずや企画は延期になる。

予約を入れた直後、「あーあ、やっぱり凄い散財になるなあ。いくら美貌とはいえ・・・」と愚痴をこぼしてしまった。まあ、恋いこがれた相手に結納金を払ったと思えば高くはないだろう。別に給料の3カ月分で指輪を買うわけでもないし。

当日、遠路はるばる東北自動車道でエンヤコラ、と宮城入り。カーナビに目的地をセットした際、「料金は、八千うん百円です」とアナウンスが流れたので相当腰が引けた。そして、到着予定は今から5時間後だと。うわ、現地に着くのは夕方だぞ。

んなわけで、ちょっとばかりアクセル強めに踏んでいたら、宮城県警さんから「ただいま年度末の歳末助け合いをやってまして。お金恵んでくださいお願いします」と呼び止められたので、気前よく支払いを約束。くそ、25,000円の追加出費だ。痛ぇ。

大漁外観

観光地の松島海岸から数キロ、気仙沼方面に進んだところに目指す「大漁」はあった。何の変哲もない、よく湾岸沿いの道路に見かける魚料理のお店という風情。

大きな駐車場があるわけでもなく、店構えも小さい。観光客が「おなか空いたからお昼ゴハンでも」とふらりと立ち寄る店とはちょっと違う。立地条件からも、店の規模からしてもそんな感じではない。

まさかこんなところに、あの美貌の天丼があるとは全く想像がつかない。失礼ながら、せいぜい「刺身定食1,800円」とか割高なメニューしかなくって、料理がでてくるのがやけに遅くて、味もイマイチでがっかり、なお店というムード満点だ。侮れないなあ、飲食店というのは。

がらんとした店内

さすがに16時だからだろうか、店内は客が一人も居なかった。ええと、どうしたもんかな。店員さんが出てくるのを待っていたら、厨房から不思議そうな顔をしたご主人が出てきた。

「えっと、一人なんですけど」
「あ、今日はもう閉店なんですけど」

うは。さすがにこの時間は営業してないか。宮城県警め!足止めくらったせいで・・・。

「あれ?そうだったんですか?店先には営業中、っていう看板がまだかかってたんで」
「ん?そうでしたか?ああ、じゃあいいですよ、作りますよ。何にしますか?」

すいませんご主人!わざわざ対応して頂けるなんて。先ほど宮城県警にいじめられたばかりだったので、この人情に涙が出そうになった。

「ありがとうございます!じゃ、うわさの天丼をお願いします!いや僕、かねがねおうわさではここの天丼を聞いてまして。ぜひ食べたいと思って今日は埼玉から来たんですけどね・・・」

ご主人は、「そうですか遠路はるばる」とか愛想を言わず、天丼のオーダーを確認したらすぐに作業に取りかかった。こうやって「遠くからやって来たんだぞ僕は」という「どうだ凄いだろう」的な話を切りだして、相手から「ふーん」とスルーされると、ちょっと空回りで恥ずかしくなる。

大漁のメニューボード。

やはり全部量が多いのか?メニューボード。鯨刺身定食があったり、カキフライ定食があったりする。

これから出てくる天丼が840円だという事を考えれば、その他のメニューは一体どれくらいのボリュームなのだろう?「はぜ天ぷら定食」は1,150円なのだが、赤字で「当店サービス品」と書き加えられている。はぜって安い魚のはずで、はぜ天ぷらで1,150円というのは結構高いと思う。恐らく量が多いのだろう。それに加えて、「当店サービス品」となれば、一体どれだけ盛られているのだろう。「これでもくらえ」的な量・・・なわけはないと思うのだが。

このお店において、天丼だけが突然変異的に盛りが良いのか、それとも全体的に盛りがいいのかは不明だ。ほぼ全てのメニューが1000円以上する構成であり、天丼が840円ということは、天丼が特別サービスの目玉商品である可能性もある。

(小)と書かれた謎の天丼。大の存在は?

天丼だけは、コルクのメニューボードから外れた場所に張り出されていた。

「小」と書かれてるのが気になる。「大」はあるのだろうか。

「小」という文字を見て、何も知らない女性や子供が注文したら現物を見てひっくり返るんじゃないのか。紛らわしいだろ、この表現は。

横には、「お客様へ」という張り紙が張ってあった。

「食べ残しの持ち帰りは食中毒の原因になります。保健所より注意がありましたので御協力お願い致します」

と書いてあった。恐らく「食べ残しちゃったので、パックか何かある?持って帰りたいんだけど」という要望が相次いだのだろう。ここで「御協力お願い致します」というのは、お持ち帰りはご勘弁ください、という事なのか、それとも「頼んだ以上は残さず食べて頂かないと」という事なのか、興味深い。

天丼(小)・・・。

おかでんmeets美貌の盛り。

きたぞ、松島が誇るスカイスクレイパー。

あは、あははははは。

笑っちゃうね。もう、笑うしかない。これ、天丼に見えない。というか、食べ物にすら見えない。何だ、これ。

食べ物というのは、こんなに直立しない。できない。そういう固定観念があるので、この構図はショックとしか言いようがない。もちろん、すでにwebで写真を見ていたので、ハンマーでぶん殴られるようなショックはないものの、いざ実物を目の前にするとただただ、感心するしかない。

生け花か門松か、というとんがりっぷり。とんがった先が、おかでんの鼻先くらいまである。丼を持ってたべなくても、顔をそのまま近づければかぶりつくことができる。とはいっても、どうやって食べればいいんだ、これ。

ご主人が「つゆは上からかけてくださいね」といって、醤油指しをもってきた。なるほど、そういえば天丼なのにまったくつゆがかかっていない。現時点ではご飯の上に天ぷらが積み上げられた状態に過ぎない。恐らく、通常の天丼のように天ぷらをつゆにくぐらせたら、こんなに高く突き上げることができないからだろう。美意識最優先。いいぞ、美貌の盛り。

なんなんだ、この卒塔婆のような物体は?

斜め上からのアングルだと、丼の大きさがわかりにくいと思ったので横から。

先ほどの写真だと、丼が小さく見える。しかし、実際はこの通りだ。みそ汁椀と比べて、十分に大きな丼であることが分かる。

とはいっても、ご飯の量はそれほど多くないようだ。もっぱら、この天ぷら山を支えるための「土台」となる天ぷらが丼の上部を占めている模様。

まるで運動会の時にやった「棒上旗奪い」だ。一本の棒が倒れないように、周りを何重にも人垣で取り囲む、まさにあの光景。

・・・と思ったが、棒上旗奪いってあまりメジャーな種目ではないんだよな、とwebで競技概要を説明しているサイトを探したのだが・・・びっくり仰天。検索のほぼ全てが広島の学校 、しかも広島市近郊限定のものだった。なんと、棒上旗奪いという競技種目はメチャローカルなものだった!ウチの中学/高校だと、体育祭のメインイベントとして最も白熱する競技だったので 、全国区な競技だと思っていたのに。天丼以上に衝撃を受けております、この文章を書きながら。ついでに、棒上旗奪いについて調査中、その我が母校が全校集会開催の末棒上旗奪いを体育祭プログラムから外したというレポートを発見して、がっくり。

話がそれた。元に戻す。真ん中にそびえ立つものは何だろう、と以前から気になっていたのだが、正体はさつまいもだった。スライス、といっても縦にばっさりとやっている。こんな切られ方しているさつまいも、初めて見た。しかも、それだけでは長さに満足しなかったようで、通常 にスライスされたさつまいもを連結して、より一層長さに拍車をかけているありさま。そこまでやるか。まさに重力の限界に挑戦、という感じだ。

そしてもうひとつ目を惹くのが、輪っかになっているかぼちゃだ。これも、わざわざ輪になるように衣で連結されている。土星かよ。ここのご主人に「衣の魔術師」という称号を進呈しよう。なんだか「劇的ビフォーアフター」に出てくる建築士さんみたいだけど。

匠はかぼちゃを揚げながら、何やら作業をしています。一体何をしようというのでしょうか?・・・できあがったものは、なんという事でしょう、まるで投げ輪のように円を描く形に仕上がりました。これぞ衣の魔術師の本領発揮。今まで遊び場が無かった子供達も、これで楽しく過ごせるようになることでしょう・・・。

・・・マネするほどあの番組、じっくり見ているわけではないのでここまで。でも、あの独特のわざとらしい言い回しは非常にネタ向けなので、いつかあのナレーターのパロディで文章を書いてみたいものだ。

絶妙に具同士が寄り添い合っていることがわかる

横からみたらこんな感じ。

他の「大漁」を紹介するサイトでは正面からの写真しか見あたらなかった。たまにはこういうアングルがあっても面白いだろう。

芋がこんな感じになってます、というのがよく分かる。なるほど、ゴハンに突き刺しているわけではなく、立てかけているわけですな。まるで卒塔婆だ。

どんな天ぷらが入っているかというと、さつまいも、かぼちゃ、なす、えびx2、玉ねぎ、穴子といったところ。えびが2匹も入っているのがオドロキだ。これで840円は安い。

「さつまいもとかぼちゃだったら値段も安いしな、そりゃ天丼だって安くできるわ」と思っていたがとんでもない。えびも、穴子もきっちり入っていてこのボリューム、このお値段なのだから素晴らしい。

丼が湯飲み茶碗に見える

高さはこんな感じ。メジャーを持ってくるのを忘れたので、箸立てとポットを比較対象として。相変わらずサイズ感は伝わりにくいけど。

なんだか、「黄金筋肉」のMONSTER BOXを思い出した。跳び箱23段を紹介するのに、跳び箱の横に乗り合いバスを並べて大きさをPRする、みたいな。

かぶりつけ!

かぶりつく。

なんだ、この写真は。まるで、口から炎を出している怪獣だ。かき氷ならともかく、天丼でこんな光景ありえねぇー。

つゆを随時かけるのだが、少々かけたくらいでは全然味がつかない。ボリューム、ありすぎ。天ぷら、多すぎ。

最初、食べ方に戸惑ったが、この天丼は「まず最初にさつまいもを攻略」「その後、かぼちゃを食べる」「後はご自由にどうぞ。ご飯が食べられるのはようやくこの段階になってから」という順番が存在することに気がついた。それ以外の順番は、構造上あり得ない。

いきなりさつまいも→かぼちゃ、とデンプンたっぷりな天ぷらを食べてしまうと、もうこの段階で小食の人はギブしてしまうかもしれない。肝心のご飯に到達できないぴんち。そう、ご飯。ご飯がなかなかありつけないのですよ。ご飯食べたい。

ラーメン二郎において、ヤサイの盛りが豪快な故になかなか麺まで到達しないという事はよくある。しかし、そうはいっても、ヤサイをおしのければなんとか最初からでも麺を食べることは可能だ。しかし、この天丼の場合はそうはいかない。きっちりと段階を踏まないと。別にラスボスと戦うためにはザコキャラを倒していって ください、ていうゲームじゃないんだけどなあ。だいたい、ご飯がラスボスとして最後に君臨してるってどういうことよ。

天ぷらは揚げたてということでおいしかったのだが、何しろ見栄え重視でゲームバランスは非常に悪い。あ、ゲームじゃなかったか。まあ、バランスが悪すぎる。ご飯になかなかありつけないし、最初に芋とカボチャを飽きるまで立て続けに食べさせられるのは結構苦痛だ。美味さ重視というよりは、ホント見た目勝負だ。

でも、その結果あの素晴らしい美貌の盛りが成立した。丼物、特に盛りが良い丼というのは大抵美しくない訳だが、ここの天丼はひたすら美しかった。しかも、芋やカボチャを連結するという一手間で、より美しく仕上がった。和風庭園というよりは、きれいに刈り込まれた洋風庭園の美しさ、といえる。

文句なしに美貌の盛りだ。私が思い描いていた理想とイコールだ。こういう盛りを実現したお店には拍手を送りたい。

・・・ただ、一度食べればもう満足満腹。今度来る機会があったら、別の定食を頼みます。

(2005.03.19)




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