『ケバブサンド』
(東京都港区六本木)

六本木といえば夜の街のイメージが強い。東京以外の人からすると、外国人がたむろしていて、なんだか怖い街という印象もあるかもしれない。しかし実際は、国立新美術館、サントリー美術館、森美術館、森アーツセンターギャラリーといった大きい美術館が密集しており、物静かな美術愛好家であっても楽しめる街になっている。
しかし、食事場所という点では少々難しい。おしゃれなお店、高級なお店はたくさんあるのだが、手頃に、ラフに食べたい向きにはあまり適したお店がない。そんなとき、ぜひおすすめしたいのが今回紹介する「ケバブバー」だ。
場所は麻布警察署のすぐ横にある。六本木ヒルズと六本木交差点の間にあり、まさに六本木のど真ん中だ。しかも、大通りである「六本木通り」に面している。

店頭にケバブ屋台でおなじみの、「肉が串刺しになって回転しながらあぶられている」光景を見ることができる。うっかり見落とすことは、ない。しかしこのお店は屋台ではなく、れっきとした店舗だ。注文は建物の中に入って行う。

お店、といってもカウンター4席のみだ。
背後はこの建物のエレベーターホールに通じる通路になっており、人がばんばん通過する。
テイクアウトも可能なので、お店で落ち着いて食べるのが難しいと感じた場合、家やお気に入りの場所に持って行くということもありだろう。

ケバブサンドは500円。
注文したら、ものの1分ほどで作ってくれる。普通のケバブサンドは、注文が入れば回転中の肉塊を薄くそぎ落とし、ピタパンに挟むという作業を伴う。しかしこのお店は、既にそぎ落とした肉(鶏肉)がご飯を入れる保温ジャーの中にストックされており、あっという間だ。
500円という低価格を実現させるための、必要なオペレーションだと思う。いちいち注文の都度、肉をさばいていたのでは客数が稼げない。
私はこのお店を初めて訪れた際、単にケバブが食べたいという気持ちだけしか持ち合わせていなかった。それが500円でも700円でも別にかまわなかった。500円?案外安いな、という印象を持った程度だ。しかし、実物ができあがって手渡されたとき、そんなぼんやりした気持ちは驚愕へと変わった。
でかい。いや、でかい、というよりも、重たい。なんだこれは。
外見は普通のケバブサンドだ。ピタパンに、鶏肉のケバブと、キャベツ、そして大ぶりに縦に切られたピクルスが入っている。しかし、その量が尋常じゃなかった。とにかく、手にした瞬間に脳が「あっ、これはやばいやつや」と気がつく重たさなのだった。
世の中一般のケバブの相場を踏まえると、500円というのは安い部類に入る。たとえ量が少なくても、なんら不満はない。しかしそれがどうだ、この量。しかも、場所が場所だ、六本木の一等地。
店員さんが外国人、ということもあって、このお店は日本の物価とか為替レートとか勘違いしているのではないか、と心配になってしまう。周囲に競合となるB級グルメの店は少ないのに、なぜここまで頑張ってしまうのか。

そのスケール感を表現しようとするのだが、何度挑戦しても無理だった。ケバブサンドは紙でラッピングされているのだが、そこから本体を取り出すことがどうしてもできなかったからだ。そんな罰当たりなことをやった瞬間、中に入っている具がいっぺんに地に還ることになるだろう。
私の笑顔など見ても読者の方々はまったく食欲などわかないだろうが、せめてものスケール感をこの写真から感じ取って欲しい。

何度も私の顔が映り込んで申し訳ないのだが、こうでもしないとスケール感が全く伝わらないと判断した。いや、スケール感以前に、この肉とキャベツの塊を写真に撮っても、誰も「ケバブサンドだ」とは気がつかない。
見てのとおり、肉とキャベツの千切りがみっしり詰まっていることがわかる。ピタパンの中に収めよう、という気は店員にははなから無かったようだ。最終的に紙包みの中に収まってれば良いのだろう?という解釈が透けて見える。

写真を撮るのが難儀なだけではない。実際に食する時でさえ、私を常に悩ませる。「将棋くずし」をやるのと心構えでは一緒だ。どこからかぶりつけば、崩壊しなくて済むのか。360度、くまなく観察しなければならない。
しかし、結論としては「かぶりつくと、こぼす。」ということに落ち着く。初回訪問時、無謀にもかぶりついたら、ボトボト具が床に落ち、服を汚し、困り果てたことがある。そうならないためにも、スプーンである程度具を食べてからピタパンをかじる、というのが良いという考えに至った。
このお店はケバブカレーも扱っているので、スプーンが用意されている。それを流用することになる。それでもやはり不安定なケバブだ、こぼれやすいので細心の注意を要する。

スプーンを駆使し、ようやくピタパンにたどり着いたところ。
ここまでくると、あとはもうピタパンをメインに食べるといった感じだろうか。ソフトクリームで、最後にコーンの部分をパリパリと食べる感覚。

・・・とはいかない。まだこの段階でも中身がぎっしり。
なんなら、この段階の量で500円として売っていても何らおかしくはない。一体なぜこのようにものすごい量のケバブを、500円で、しかも六本木で出すのだろう。
これだけのお店なら、さぞや繁盛していそうなのだが、混んでいるのを見たことがない。穴場なのかもしれない。味は悪くないどころか良い方だと思うし、今後六本木を訪れる都度利用したいお店だ。
(2014.05.17)
コメント
コメント一覧 (2件)
いつも素晴らしい記事で楽しく読ませていただいてます。
初めて六本木に行きたくなりました。
ありがとうございます。
機会があれば、ぜひ六本木へどうぞ。
僕は来週あたり六本木の美術館巡りをする予定ですが、ケバブをお土産で家に持ち帰ろうかどうしようか思案中ですよ。500円なので、本当に気軽に買えます。