天喜代 東京駅グランルーフ店

『大江戸天丼(大盛り)』
(東京都中央区八重洲)

天喜代外観

東京駅の八重洲口に、「グランルーフ」という建物がある。その中にはいくつかお店があるのだが、そこに剣山のような天丼を供するお店がある。店名を「天喜代」という。

駅ビル、しかも日本を代表するメガターミナル駅である東京駅に「美貌の盛り」があるとは、にわかには信じられない。しかし、「灯台もと暗し」というのはまさにこのことだ。美貌の天丼は、存在する。

大江戸天丼看板

天喜代の店頭には、大きく「大江戸天丼」の看板が掲げられている。裏メニューではなく、色物としてのメニューでもない、れっきとした看板商品であるということがここからわかる。

見た目のインパクトがある天丼を、結構なお値段で提供することは簡単だ。それではあまり意味がない。美貌の盛りにおいて全てに言えることだが、「見た目のインパクト」には「この値段でこの見た目なのか」という驚きがセットになっていないといけない。この大江戸天丼は、まさにそうだ。

お値段、1,800円。これで、春の大江戸天丼では

海老2本、穴子、さより、春野菜、パプリカ、桜海老かき揚げ、お椀、香の物

がついてくる。玉ねぎのかき揚げなど、「安くて量が増やせる天ぷら」に頼ることなく、しっかり海老2本が含まれているのが素晴らしい。穴子もそう。これらが丼の中で垂直に配列され、まるで鳳凰三山のオベリスクのようになっている。どうやってこのように直立できるのか、写真からでは伺いしれない。丼飯に揚げ物を突き刺しているのだろうか?墓場の卒塔婆のように。

その謎は解消するに限る。大江戸天丼はご飯大盛りが無料で可能なので、大盛りにしてみる。もし卒塔婆が倒れたら困るので、土台の墓地はしっかりと地場固めされていたほうがよかろう。

たとえが悪いな、食事前に形容する表現ではない。失礼。

大江戸天丼1

「天丼てんや」のように、ベルトコンベヤで料理を揚げるといったオートメーション化はされていない。ちゃんとフライヤーに職人が張り付いており、ひたすら天丼を揚げている。揚げ職人2名、ご飯をよそった後に揚げたタネを丼に盛りつける職人1名。

盛りつけ職人の手際は慣れたもので、難解な大江戸天丼の積み上げも僅かな時間で仕上げていた。来店客の多くがこの料理を注文するため、職人としては何ら驚きはないのだろう。このメニューは客にしてもお店にしても、全くチャレンジメニューではない。

到着した大江戸天丼は、看板写真と同じくそびえていた。ロッククライマー垂涎、と言える急な斜面。まさに鳳凰三山オベリスクの様相だ。

山の頂は穴子が司り、それを脇から海老とさよりが支えている。天ぷらでよく使う白身魚といえば鱚があるが、残念ながら身長が短い。なので、高さが求められる大江戸天丼においては、「身長が高い」という理由でさよりが選ばれているのだろう。

大江戸天丼2

このような天ぷらがまっすぐ立っているのは、ニュートンが発見した物理法則に反している。当然、支えが必要となる。

その支えは、丼を横に向けると一目瞭然であった。椀ぶたを丼のへりに立てかけて、それを拠り所として天ぷらが身を預けていた。

これを「ずるい」と感じるか、「なるほど粋な発想だな」と思うかは人それぞれだが、私は後者の考えを推したい。

店員は、「ふたは取り皿としてお使いください」と言い残して立ち去っていった。丼料理なのに、わざわざ取り皿が用意されているというのはなにやら不可思議ではあるが、それもまた一興。

大江戸天丼3

ではその「取り皿」であるふたを外してみよう。

取り皿は、量が多い食べ始めの時こそ必要となるものだ。天ぷらの型崩れを恐れて使わない、というのは本末転倒だ。

ふたを外すと、5秒くらいは穴子はそのままの姿勢を保持していた。しかし、そのままみるみるうちに奥に向けて倒れていき、まるで荒川静香のイナバウアーのようにのけぞってしまった。

写真のとおり、奥にのけぞった穴子はピンぼけ。それくらい、立体感ある天丼。

おかしくもあり、おいしくもあり、そしてどこか抜けた感じもある。大江戸天丼は美貌の盛りだと思う。

(2016.05.03)

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