関西人皆殺し計画【サバイバルゲーム7】

2004年03月27日(土)

冬の間、サバイバルゲームの活動は休止状態だった。野山を走り回るにしては寒いし、草木は枯れていて身を隠す場所がないし、そもそも寒いと弾に当たると猛烈に痛い。

しかし、ようやく春の訪れを感じるようになってきた3月末、活動を再開させる事になった。今度は、いつもの富士演習場ではなく、京都に遠征だ。

京都に日本最大級のインドアバトルフィールドがあることは以前から噂として聞いていた。敷地内に乗り合いバスやパトカーが配備されていて、それらを遮蔽物として撃ち合いをするのだという。これを聞いただけで、相当ワクワクしてしまった。「西部警察」みたいに、パトカーのドアを盾がわりにして、銃を撃つ。男の憧れだな、これは。ぜひ、行かねば・・・。

しかし、「ぜひ行こう」と思っても、京都に行くとなると一人では無理だし、だいたい日帰りは難しい。費用だってかさむ。無理だろうなあ、と思っていたら、隊長、軍曹、I隊員の3名が名乗りをあげてくれ、決行と相成った。銃を撃つだけのためにわざわざ京都一泊遠征。つくづくサバゲーというのはカネと暇がないとできん趣味だと思った。・・・いや、わざわざ遠征すれば、の話だけど。

偽装された武器弾薬

早朝の新幹線で、京都に向かう。駅構内の床に並べられた、われわれの荷物一式。

「ふっ、まさかこの中に銃やら何やら、入っているとは分かるまい」
「おいおかでん君!紙袋から迷彩服丸見えじゃないか。しかも・・・その紙袋!会社のロゴが入ってる奴じゃないか!」
「あっ、しまった」

ちょうど先日、国際テロ組織アルカイダが日本も標的にしている、という報道があったばかりだった。東京駅には、たくさんのお巡りさんが「人をみたら泥棒と思え」といわんばかりの顔つきでウロウロしていた。いくら「これ、モデルガンなんですよ」と主張しても、こんな物騒なものを持ち歩いているところを目撃されたら、連行されるに決まっている。できるだけ穏便に、さりげなく警官をやり過ごさないといけないのであった。

何しろ、京都一泊のあわただしい行程での遠征だ。無罪釈放されるまで1時間かかりました、というタイムロスだけでも惜しい。絶対に捕まってなるものか。

新幹線内のT隊長とN軍曹

「新幹線っていいですよねぇ。鞄のなかに銃をしまっていれば、気づかれないですからね。持ち込み放題ですよ。これが飛行機だったら、X線検査で捕まりますよ。どんなに『これはイミテーションだ』って言い張っても、許してもらえないような気がする」
「まあ、そうだろうな」
「ということは、われわれは飛行機でないと行きづらい場所・・・北海道とか、四国とかには遠征に行けない、というわけですね?」
「おい、そんなところまで行こうとしてるのか!」

なんて会話をしながら、車内の時間を過ごしていたら・・・

「あっ、やばい、警察がこの電車に乗り込んでるぞ」

の声。見ると、確かにたった今、警官がこの車両に入ってきたところだった。

「慎重だなあ、車内もチェックするのか」
「目を合わせるな?目を合わせたら疑われるぞ」
「おいおかでん君、迷彩服わからないようにしておいた方がいいんじゃないか?」
「いや、でも今更怪しい動きをすると、ますますマズいんでここはこのまま」

なんとも胡散臭い会話を小声で交わしながら、お巡りさんが通り過ぎるのをじっと待った。

「ふー、大丈夫だったか」

しかし、その後フェイントでもう一度背後から現れ、われわれをやや焦らせた。

テクニカル(レンタカー)に武器をセット

京都駅前にあるレンタカー屋で車を借りる。今回向かう「THE ROCK」というフィールドは、京田辺市にある。公共交通機関を使って向かうには、やや無理がある場所だ。ここはおとなしく、費用がかかってもレンタカー確保。

しかし、サバゲーするだけのためにえらく大がかりな事になってしまったなあ・・・。

餃子の王将

一路京都から車で南下する。

そろそろお昼時だ。どこかで昼食をとらなければならない。京都出身のI隊員に、

「何か京都だったらこれ食っとけ!というお勧めとか、せっかく俺京都に戻って来たんだから、アレ食いたいんやけど、みたいなものってあります?」

と聞いてみた。

しばらく考え込んだI隊員、

「やっぱ『餃子の王将』かなぁ」

と回答。東京でも見かける餃子の王将になぜ今、というツッコミが入ったが、「いや、でも東京の方って案外食べられんで?ありそうで無い店やからな」と大まじめ。確かに、関東界隈では、「ありそうで、案外無い」お店の一つだ。

I隊員の希望どおり、お昼ゴハンは餃子の王将。みんなで餃子を食べて和む。

巨大なフィールド出現

京都駅から車で約1時間。道はどんどんと田舎道になっていった。周りは畑や田んぼだらけだ。カーナビが着いている車だから不安は無かったが、地図だけを頼りに目的地を目指していたら、きっと不安になっていた事だろう。

「今回は、ずばり関西人皆殺しです」

ハンドルをさばきながら、おかでんはみんなに宣告する。

「同じフィールドに居る人間は、全滅です。富士吉田の野外演習場で鍛えてきた実力を発揮する場です」

初めてのアウェー戦、しかも対外試合ということで気合い入りまくりだ。金銭出費だって結構してるわけだし、「撃たれて京都から逃げ帰りました」じゃ家族友人に合わせる顔がない。悪いな関西人ども。今日はお前らの命日だ。

と、仲間がいる車の中だけで熱く語った。単なる内弁慶じゃん。

さて、THE ROCKに到着だ。端から見ると、だだっ広い鉄工所のような印象を受ける。しかし、ここが日本最大級のバトルフィールドとは、誰も気づくまい。

・・・看板出てるけど。

周囲は田園

周囲はこんな感じ。京都までやってきて、一体僕ら何しにこんなところまで来たの?っていう感じだ。

がらーん。

そういえば、駐車場にも人が居ない。まさか、休業日か?と焦ったが、決してそうではなさそうだ。

このTHE ROCK、営業時間は平日17時~25時、土曜日12時~25時、祝日10時~22時となっている。非常に夜型な運営が行われているようだ。だから、われわれが到着した13時過ぎというのはまだ客がほとんど居ないらしい。

このあたりの文化も、われわれにとって新鮮だった。野外戦を主としているわれわれにとっては、「朝10時くらいに集まって、16時ころには解散」というスタイルをとっているからだ。深夜までパンパン撃ち合いをやっているというのは、想像したこともなかった。

でも、これだったら平日でも仕事帰りにちょっと立ち寄る、とかできていいなあと思う。もっとも、仕事鞄に銃を忍ばせておくなんていうのは非常に怪しいシチュエーションだが。なんかの拍子で、取引先のお客さんの前でごとり、とハンドガンを落としてしまったら、一体なんと言い訳すればいいのやら。

フィールドの中を柵越しに観察

あまりに人が居なくて、店内に入っていいものかどうかちょっと躊躇するわれわれ。

とりあえず、駐車場から見える屋外バトルフィールド「龍神」を外から覗き込んでみる。小学校の運動場くらいの広さ・・・はないが、そこそこの広さを持つフィールドで、なかには塹壕やトーチカが仕込んである。ヌゥ、楽しみだ。

このTHE ROCKは、インドアフィールドが2面と、アウトドアフィールド1面の合計3面を持つ施設となっている。龍神一つとっても結構な凝りようだ。これは期待せずにはいられない。

ザ・ロックゲート

店の入り口。

「ザ・ロックゲート」

と書かれている。では、店に入ってみよう。

長いす

店内入ったところに、長机と長いすが配備されたスペースが用意されていた。準備や待機はここで行うことになるらしい。けっこうな広さで、みんな整列して座れば100人近くは座れそうだった。さすがは巨大施設だ。

店内の掲示板

店内の掲示板。

「鬼の風紀委員長厳告」と書かれた紙が貼ってある。曰く、

法令及び条例等で、使用や所持が禁じられているものにつきましては、ザ・ロック内での使用はもちろん、お持ち込みも禁止となっています。違反された場合、ご退場いただくだけでなく、没収させていただくこともございますので、持込まれないよう十分ご注意・ご配慮ください

だ、そうな。使用や所持が禁じられている・・・それって、実銃とか、刃渡りが長いナイフとか、そういうものの事だろうか。おい、それって退場・没収以前の問題として警察に通報沙汰だぞ。

ひょっとして、関西人って血の気が多くて、毎回ここでバトルやって勝てない奴が「チクショウ、次こそは絶対に勝ってやる!アイツをぶちのめしてやる!」なんて絶叫して実銃を持ち込んだりするんだろうか。こんな警告を出さないと歯止めが利かないほど、関西人は熱血ソルジャーなのだろうか。

うわ、関西人皆殺しを高らかに宣言していたけど、もうこの時点でビビってきた。

THE ROCKの会員証

このバトルフィールドは、会員制をとっている。個人情報を押さえておかないと、警察沙汰になったときに面倒だからだろうか・・・というのは考え過ぎか。

今まででインドアの経験は「IBF八王子」がある。ここの場合、フィールドをグループで貸し切りにする形態をとっているので、トラブルは発生しにくい。もし揉め事がおきても、仲間内で解決すればいい。しかし、このザ・ロックの場合、フィールドをいろいろな人で共有することになるため、見知らぬ人とコンビを組んだり敵対する戦い方になる。もめ事もどうしても発生しやすいだろう。

だからか、あちこちにルールやレギュレーションが書かれた張り紙が掲示してあった。1.0J以下のエアガン、ハンドガンもしくは0.8J以下の電動ガンのみの使用が認められ、弾は0.2g以下のBB弾のみ利用可。リボルバーランチャー不可。フルフェイスゴーグルのみ可。

ちっ、勝ち逃げしようと思ったが、住所氏名年齢を控えられてしまったんじゃ、勝ち逃げできないな。後で復讐されるかもしれないから、ここは偽名とニセ住所で・・・えっ、免許証見せてくれって?あ、やっぱり本人確認するんスか。そうですか。

自動販売機も充実

さすがに巨大施設だけあって、自動販売機も充実だ。ジュース、タバコ、加ト吉のホットスナック、と並んでいる。

近場にコンビニなどがないため、こういう設備があるのは非常にありがたい。

HEAT入り口

休憩場所の真向かいに、大きな扉があった。外への出口かと思ったが、この壁の向こう側がインドアフィールド「HEAT」だという。あまりに規模がでかいので、困惑する。

HEAT入り口の前に、受付卓が用意されていた。ここでスタッフがゲームの進行をコントロールするらしい。

CHASE入り口

こちらは、HEATから90度となりところにある「CHASE」。何やら足場が組まれていて、ネットが張り巡らされている。流れ弾が休憩スペースに紛れ込まないようにするためだろう。一体中はどうなっているのだろう。

HEAT内見学

全員の装備が完了したところで、スタッフに導かれて場内視察が行われた。われわれが初めての来訪と知った上での対応だが、ちゃんとこういう事をやってくれる というのはオドロキだ。

「場所を提供するから、好きにやってくれ」というスタンスではなく、ちゃんとビジネスとして、アミューズメント施設としての対応が好感だ。

まずは、HEATの中を見学させてもらう。真ん中に乗り合いバスが据え付けてあるのが真っ先に目に付く。よくもまあ、こんなものを譲り受けてきたもんだ。ほかにも、フォークリフトが置いてあったり、遮蔽物としてベニア板やドラム缶などがあちこちに置いてあった。また、一部はお立ち台のような中二階構造になっていて、高いところから相手を狙撃する事ができるようだ。・・・いや、逆に、低いところから狙い撃ちされるのがオチか。

とにかく広い。奥行きは50m以上ある。

パトカーも配置

おっと。忘れちゃいけない、パトカーも置いてあったぞ。パトカーに乗り込んで銃撃戦をやるというのもオツなもんだが、恐らく身動きつかなくなってしまい集中砲火を浴びるに決まっている。飾りとして、有り難く遠目から眺めておくのが正解っぽい。間違ってもゲーム中に運転席に座っちゃ、ダメだ。

迷路構造になっているCHASE

引き続いて、CHASEの内覧に移る。こちらは、先ほどのHEATとはうってかわって、非常に人工的な迷路構造になっていた。パイプが縦横無尽に張り巡らされていて、そこにベニア板が張り付けてある。その気になればいつでもレイアウト変更ができる仕組みになっているので、恐らく時々迷路の構造を変えているのだろう。

かちっかちっと精緻に形作られた迷路になっていれば、相手を狙撃するのは出会い頭しかないわけだが、この迷路の場合微妙に「ゆるい」作りになっている。だから、けっこう遠距離からでも敵を狙える場所があるし、ベニア板同士の隙間から安全に敵を狙えるポイントもあった。高度なスキルが要求されるフィールドだ。

シューティングレンジ

CHASEの外には、シューティングレンジが用意されていた。ここで、銃の調子をチェックし、ホップアップ(弾に回転を加えて、飛距離を伸ばす方法)の調整を行う事ができる。

何から何まで、至れり尽くせりだ。

バーカウンターみたいになっているので、椅子に座って肘をついた状態で銃を試射できる。

シューティングレンジの先にある標的

シューティングレンジの先にある標的。

ここにも車が置いてあった。

あと、アメリカの警察モノの映画なんかでよく見かける、人の形をした標的も置いてあった。

店内の掲示板

ひととおりの場内視察が終わったところで、受付カウンターに戻りゲームの説明を受けた。ゲーム進行もけっこうシステマチックだ。

まず、受付でゲームエントリーをする。そこで、赤もしくは青のたすきを貸してくれるので、装着する。1ゲームで参加できる人数の上限は決まっているので、あふれた人は次のゲームに参加することになる。この際、見知らぬ人と混合軍になることもある。

ゲーム進行は全てアナウンスがあるので、それに従う事になる。ゲーム開始2分前からフィールドに入り、カウントダウンがはじまってゲームスタート。撃たれて引き上げてくるか、タイムリミットでゲーム終了になった時点で、受付にたすきを返却。引き続いてゲームをしたいときは再エントリーとなる。

たすきという制度は、敵味方判別に非常にわかりやすくて良い。あと、ゲーム進行を完全にお店のスタッフがコントロールしているというのも、良い。大規模なお店でないとできない運営方針だ。

ホップアップの調整中

銃の調整を念入りに行う人たち。

狭いフィールド内なので、あまり調整しても意味はない。少々変な方向に飛ぼうが、敵までの距離は短いので、当たる時は当たる。当たらないときは当たらない。

しかし、やっぱり気になりだすときりがないので、とりあえずは試合前に入念なチェックを。

隊長と軍曹

今回、左側のT隊長はえらくシンプルな格好をしていた。なにやら私服のフリースジャケットみたいなものを着ている。自らを「コスプレイヤー」と公言してはばからない隊長にしては、珍しく気合いの入っていない服装だ。

「あの、隊長。今日はえらくシンプルなんですけどコレは一体?荷物がかさばるから、装備は持参しなかったんですか?」
「ああ、これ?いや、これはね」

えっと、ここでいろいろ説明を受けたのだが、忘れてしまった。確か、パキスタンだかアフガニスタンに展開しているNAVY SEALsの格好だと言っていたような。首に巻き付けてあるタオルみたいな奴がポイントなんだと。

「おそれいりました!まさかその格好にも意味があったなんて」
「俺ね、今日はもうこの格好しただけで結構満足よ」

結局、どこへいってもこの人は変わらない。

隣のN軍曹は、さすがに今回は水筒をぶら下げたりサスペンダーだらけの格好をしていなかった。機動力が要求されるインドアでゴテゴテと装備をつけていたら邪魔なだけだし、大体京都までその物資を輸送するだけでも大変だ。

試合開始直前になると、アナウンスでカウントダウンがはじまる。いやがおうにも心拍数が上がってくる。そしてスタート。ゲーム中は、戦争映画に使われるような音楽が、大音量で流されている。ますます緊迫する。まるで映画のワンシーンみたいだ。

敵は、試合開始と同時に銃を乱射してきた。わ、おいおいおい、いきなりかよ。目の前の適当な遮蔽物に身を潜め、敵の出方を伺ってみたら・・・あっけなく、狙撃された。ゲーム開始からヤラレるまでの時間、正味30秒。うわ、情けない。て、敵は強いぞぉ!?

今回の敵は、われわれのI隊員のお友達の仲間たち、という事だった。聞いてみると、ほぼ毎週このザ・ロックに通い詰めているという。道理で強いわけだ。圧倒されてしまった。

しかも彼らは、ゲーム終了して「いやー、参っちゃいましたねえ」なんて談笑しているそばから、「じゃ、次やりますか」と次ゲームのエントリーを始めた。アウトドアフィールドを主戦場とするわれわれは、ゲーム終了後10分とか20分とか談笑して、そのあと「よし、じゃあそろそろ次やるか」という段取りが一般的だ。しかし、この連中、ゲームが終わるとすぐに次のゲームを始めようとする。なるほど、ということは一日に10ゲーム、20ゲームもやっているということになる。しかも、それをほぼ毎週。強くなるわな、当然。

何でも、サバゲーをはじめてからまだ半年、だという。半年だというのにわれわれを1分足らずで全滅させるとは・・・恐るべし。やっぱり、やりこんでいる密度が違う。

彼らは、全員SWATの格好をしていた。黒づくめの装備で、銃はドットサイトを取り付けている。しかも、全員無線機を所持していて、適時連絡を取り合いながら戦いをすすめているときたもんだ。文化が全く違う。うわ、関西人皆殺し計画、なんて言ってたけど、全くその逆だ!関西人に皆殺しされちゃう計画、ではないかこれでは!

迷路状のCHASE

あまりの圧倒的パワーに、何が起きたかわからない状態で負け続けた。なにしろ、何度やっても試合が2分も続かない。反省と改善を検討させるだけの材料すら提供してくれないのだ。それくらい、あっけなくやられてしまう。

あぜんとしながら、もう一つのフィールド「CHASE」に向かった。写真は、CHASEを上から眺めた状態。このような迷路の中で戦う事になる。この手のバトルは、IBF八王子でもやったことがあるのでまだ対等に戦えるはず。

・・・うわぁ!ゲーム開始30秒後には、自分の前を歩いていたI隊員が狙撃されて悲鳴を上げた。敵はもう目前に迫っているというのか?あわてて身構えたところで、いきなり背後から銃を背中につきつけられた。「えっ?」と振り向くと、敵のメンバーの一人がいた。味方ではなかった。スタート地点から歩くことわずか10m足らず、時間にして40秒程度。

屈辱にもほどがある。背後を取られても全然気づかなかったわけだし、しかも自陣のすぐそば。いや、もうこうなると屈辱、ではなく訳が分からない。屈辱と感じるには、そのレベルの差であるとか扱いの格差に本人が気づいていないといけないが、状況が理解できないのである。なんかスゲエ事になってる、という事はわかっても、「なぜこうなっているのか」がわからない。

その後何度か戦ってみて、チーム替えで敵メンバーと一緒のチームにもなり、ようやく状況が把握できるようになった。彼らは、ゲーム開始と猛烈にダッシュするのである。相手の裏をかくべく、全力で走る。そして、敵を発見しても、動きは止まらない。一カ所に止まると撃たれる、とばかりに常に動き回る。すなわち、ゲーム開始と同時にノンストップになるわけだ。これは、われわれからするとカルチャーショックだった。

われわれの動きを振り返ってみると、その違いは歴然だ。われわれは、ヨーイドンでだだだっと適当なポジションまでダッシュし、そこで動きを止める。相手がやってくるのを様子伺いするようになる。以降、自分が最初にとどまったポジションからはあまり動くことはない。

なぜ、この違いがおきるのか。

われわれはいつも富士山麓の野外フィールドで戦っている。ここで、野戦ならではの癖がついてしまっているというのが、T隊長以下と話し合った結論だった。野外戦の場合、地面に枯れ枝が落ちているため、歩くと「ぱき、ぱき」と音が出てしまう。このため、試合開始直後はダッシュするものの、敵と遭遇しそうなゾーンに到達したら、身を潜めるのが一般的である。後は我慢比べで、じれて前進する奴がいたら、その存在がバレて狙撃されてしまう。前に行きたい気持ちをぐっとこらえ、草木と一体になって身を潜めていられるのが結果的に良いソルジャーという事になる。

何しろ、富士吉田のフィールドは身を完全に遮蔽できる大木が少ない。完璧に隠れる事は無理であることから、「いかに相手に気づかれないでいられるか」が最大の技術ということになる。正面の敵からは身を隠せていたとしても、側面からは遮蔽物がら空き、という事が当たり前だ。だから、音を立てたら、負け。こういうフィールド特性で培った癖が、ここ、ザ・ロックにおいても動きの鈍さに繋がってしまったらしい。

しかし、ザ・ロックを主戦場にしている関西人軍団は、そんなことはお構いなしだ。まず、コンクリートの床なので、音もなく移動することができる。そして、CHASEのような迷路だと、壁があちこちにあって完全に身を隠すことが可能なので、存在がバレても構わない。バレても、即座に移動すれば安全、くらいの認識なのだろう。バレたらおしまい、の野外戦と発想が全然違う。

「では、われわれも速く動いてはどうか」ということで、次のゲームからは猛ダッシュしてみた。しかし、深く前進しすぎて、あっけなく撃たれてしまった。単に速く動けばいいというものではないようだ。

彼らの特徴は、HEATではゲーム開始とともに大量の弾幕を張り、われわれが遮蔽物に身を隠したところで一気に前進してくる。そして、CHASEではゲーム開始とともに無酸素運動状態で一気に突っ走り、走りながら敵を撃つ。いずれにせよ、結構な運動量だ。凄い。

また、状況判断のスピードが段違いに速かった。目の前に敵がひょっこり現れた場合の、銃を身構えるまでの動きが速い速い。野外戦のように、枯れ枝がパキパキ音がするのを遠くから聞きながら、射程範囲に入るまでじっと身構えているような世界とは違う。

一度、敵の関西チームの人とコンビを組んだとき、彼がゲーム開始と同時に猛ダッシュするのに後ろから同行することになった。いわゆるツーマンセルだ。しかし、彼が敵陣深くに突っ込みすぎてあっけなく撃たれてしまったときに、後ろの僕は慌てて近くの遮蔽物に身を隠してしまった。結局その後数秒後には飛び出してきた敵に撃たれてしまった。このゲーム後、猛ダッシュした彼には休憩場所でこんこんと説教を受けた。

「俺、今のは無駄死にじゃないですか。俺が撃たれたって事は前に敵がいるわけですから、そこで必ずしとめないと。二人同じ敵に撃たれたんじゃ、何のために二人で行動しているかわからないでしょ?」

いや、仰るとおりです。われわれの部隊は、「いやー、撃たれちゃったねえアハハ」で終わってしまうくらいのやる気なのだが、関西チームの人たちはものすごくモチベーションが高く、敵にやられたらどうやったら撃たれずに済んだのか、という分析をしている。次元が違いすぎだ。

龍神

しばらくHEATとCHASEを行ったり来たりしていたが、こちらの希望でアウトドアフィールドの龍神にも行ってみることにした。関西チームの人たちは、あまりこちらのフィールドはお好みではないらしい。しかし、野外戦がメインの関東チームからしてみれば、こっちの方が性に合っている。インドアの借りを少しでも返さなくては、と気合いを入れ直す。

龍神は、塹壕が張り巡らされていたり、丘状の盛り土があったりトーチカが用意されているフィールドだ。いくら野外戦がメインのわれわれとはいえ、このようなフィールドは戦った事がない。

塹壕

塹壕、といっても身を隠せるほどの深さがある場所はほんの一部で、あとのほとんどは「排水溝」程度の深さしか無かった。あまり役に立たない。

しかも、以前降った雨がまだ塹壕に残っていて、べちゃべちゃするので中に入る気がしない場所も多数。

木が生えていない、禿山なので身を隠せるのは丘とごくわずかな塹壕だけだ。非常に難しいフィールドだ。

N軍曹

今回一緒に戦わせてもらった関西チーム以外にも、午後遅くなるにつれて来客が増えてきた。そのほとんどがSWATの格好をしていたのは、フィールドの特性からくるものなのだろう。逆に、われわれのような迷彩服を着る奴は、その日の休憩室を見る限りほとんど居なかった。

ま、早い話浮いていたわれわれだったが、このフィールドだとようやく「それらしく」なる。N軍曹の砂漠迷彩がようやくその真価を発揮だ。

しかし、今回の戦いは「身を潜める」必然性が全く無いわけであり、迷彩でなくても全然構わないわけだが。

龍神のSWAT

SWATの格好をした関西チームがフィールドに散らばる。この写真の一番奥にあるビニールハウスみたいなところが、一方の陣地となる。

ビニールハウス側から眺める

ビニールハウス側から、もう一方の陣地を眺めたところ。丘の向こう側に陣地があるので、ヨーイドンと同時に遠距離狙撃でアウト、という事態は避けられる。

しかし、見てのとおり、遮蔽物が極端に少ないフィールドであるため身動きがつきにくい。塹壕を走り回ることになるが、走っているうちに段々浅くなってくるし、動きが制約されるために敵に発見されると一発でアウトだ。

関西チームの人に聞いたら、昼間だとご覧の通りバレバレの状態だけど、夜になると結構スリリングなフィールドになるらしい。

見ていて感心したのは、先ほどおかでんを説教した関西チームの人が、戦闘中にマガジン1個使い切って次のマガジンに切り替えていたことだ。一試合で200発以上撃っている事になる。弾の使い方が尋常じゃない。そういえば、他の関西チームの人たちも、マガジンを2連結にしていたりと工夫をしていた。弾は相手を撃つためのものでもあるけど、相手の動きを抑制するものでもある、という認識なのだろう。この辺りも、「敵に見つかったら撃たれる」というかくれんぼ文化をもつわれわれからするとオドロキだ。

呉越同舟で記念撮影

結局、「関西人皆殺し」のはずが、ぐぅの音も出ないくらいやられてしまった京都遠征。「くそぅ、富士吉田のフィールドだったら負ける気がしない!戦場の違いが生んだ戦い方の違い、だけだ!」と強がってみたが、関西チームの人が「じゃ、今度そっちに遠征に行きますから」と言ってきたので動揺。

富士吉田に彼らがやってきても、やっぱりコテンコテンにやられてしまいそうな気がする。いや、気がする、じゃなくて確実に負ける。

今回、初めてチーム外の人と戦ったわけだけど、非常に刺激的だったし、参考になった。仲間内だけだと、こういうカルチャーショックは無かったので、いい経験だった。わざわざ京都までやってきた甲斐があったというもんだ。

関西チームの皆様、圧倒的に弱いわれわれにお付き合い頂きましてありがとうございました。完敗です。皆殺しにされました。

新福菜館でラーメンとビール

(おまけ)

今回は「京都軍事演習」とともに「京都復興支援」というテーマがあった。ちょうど時節柄、イラクで自衛隊が復興支援をやっているのがニュースになっていたので、「じゃあわれわれも京都を復興しなければ。カネを落として、京都の景気を良くしてやろうじゃないか」と。

・・・で、結局新福菜館でラーメン。うわ、復興支援の規模、小せぇ!

さっき居酒屋で飲み食いした後だというのに、N軍曹とビールで乾杯しつつ、ずるずるとすすった。うん、おいしい。この美味さで、京都で受けた精神的ダメージはやや回復。

翌日、てきめんに顔がむくんだ。そりゃそうだ、寝る前にラーメン食べてりゃ、ねえ。

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