1999年06月01日(火曜日)
4日目朝食 世界8番目の不思議
【時 刻】 09:30
【場 所】 ルクソール・バフェ
【料 理】 バフェ
カジノで勝った負けたを繰り返した翌日の朝ってものは、決して清々しいものじゃない。いや、こんな気分になるのはカジノのせいじゃなくて、ラスベガスという街そのものに圧倒されているからなのかもしれない。そんな事を考えながらベッドの上でぼんやりしていたら、窓の外で「きゃーっ!」という歓声が上から下へと通り過ぎていった。おやと思ったら、今度は右から左へ。どうやら、ホテルの敷地中を走り回っているローラーコースターらしい。道理で、清々しくないわけだ。絶叫を目覚ましわりにしてちゃ、寝起きがいいわけがない。ほら、そんなことを考えているうちにまた・・・「きゃーーーーっ」
今日一日はラスベガス見学と相成った。ラスベガスはカジノの街として有名だけど、実際はたくさんのアトラクション、テーマパーク、ショウ、ゴルフ場・・・と、とにかくアミューズメントのおもちゃ箱な場所。一日二日程度の滞在ではラスベガスさんの脇を通り過ぎるに過ぎず、本気になってラスベガスさんとラブな状態になろうとすれば、最低でも三日は必要なんではなかろうか、というくらい見所は多い。
おとなしく飯を食べよう、いや、食べさせてくださいと懇願したってラスベガスさんは容赦しやしない。今日の朝ご飯がまさしくそれ。観光もかねて、ルクソールなるホテルで朝食をとることにしたのだが。
そもそもルクソールは、宿泊場所から「たった二軒お隣」だというのに、到着するのに徒歩20分。到着した時点でジーニアスは相当疲れており、すなわち機嫌がかなり悪かったのであり、もっというと「こんなところまで来て朝飯食うことはないだろう」というおかでんへの不信感でいっぱいなのであった。
しかし、中世のお城の形をしたホテル「エクスカリバー」をようやく抜けてそのルクソールを眼前にしたら、もう二人とも不機嫌も何も吹き飛ばして大笑いするしかなかった。なんじゃ、こりゃあ。目の前には、ひたすら大きなピラミッドがそびえ立っていたのである。
「でかい!間近に見ると、デカいぞこりゃあ!」
「なんちゅーバカな建物なんだ、これは。遠くから見えた時はチャチく見えたけど、近くで見ると・・・(絶句)」
「遠近感覚が狂うな、これは」
「ほんっっとアメリカ人ってバカだよな、こんなもの作って喜んでるんだから・・・」
今日もジーニアスは、アメリカ人の物量作戦的発想に毒舌を吐くが、しかしその考えにはおかでんもまったく同意するものであった。兎に角、カネとアイディアにリミッターを設けていないこの建物を見てしまうと、日本人のセコさがつくづくみじめになってくる。しかし、だからといって「アメリカ人すげぇ」とアメリカ賛歌にならないところがミソ。すごいことはすごいんだけど、いい意味でのアホな世界ですごいものだから、感嘆こそすれ「いやマネしろといわれてもちょっと次元が違いますんで、今回はご縁が無かったということで・・・」と後ずさりしてしまう、そんな感じ。
「このホテルができた時には、『世界八番目の不思議』と言われたらしいぞ」
ガイドブックによる事前学習に余念のないおかでんは、ルクソールに関してもうバカ負けして笑っちゃうような知識を仕込んでいた。
「七不思議の次はここか。そりゃ不思議だよな、なんでこんなバカなもの作っちまったのかって事で」
「夜、ピラミッドてっぺんから放射されるサーチライトの光は、16キロ上空でも新聞が読める明るさらしい」
「だからどうしたっていうんだ!明るければいいってもんでもないだろうに・・・」
「地球上でもっとも明るい人工光線、だって」
「しらんよ、そんなの。電気の無駄遣いだってば」
「世界で4番目に大きなピラミッドで、中の中空空間は世界最大の人工空間なんだって」
「デカけりゃいいってもんじゃないだろ、そこら辺アメリカ人は容赦しないよな」
「でも、ピラミッドは一人の王様だけの為のものだけど、このホテルは4473室あって、ぎゅうぎゅう詰めだ。世界で3番目にデカいホテルだぞ」
「おかげでこっちは、隣のホテルに歩いて行くだけで10分以上かかる羽目になってるんだから。しょうがねぇなあ、まったく!」
朝食は、バフェにすることにした。ラスベガスという街は、観光客からカジノでカネをまきあげれば万事オッケーという考えをしているので、宿泊料金をはじめとし食事代などとても安い。ラスベガスのあちこちにバフェレストランがあるが、安いところだと$2.99なんてところがあったりする。採算、とれているんだろうか。他人事ながら心配してしまうが、もし採算がとれているんだとすれば残飯みたいなすごい料理を出している可能性はあり得る。
さてわれわれが訪れたルクソールのバフェだが、ピラミッドのど真ん中から地下に降りる階段があり、そこを下ったところに存在した。ピラミッドのど真ん中ということは、すなわちカジノのど真ん中でもあるわけで、目的の階段に辿り着くまでのあいだ、狭くてわざと蛇行させている道をくねくねと歩く羽目になった。
ここらへんはさすがラスベガス、しっかりしている。目的地にはそう簡単には着かせない。さりげなく、しかしわざとらしくスロットマシンやブラックジャック台のそばをすり抜けるように道を作り、訪れたお客をムラムラさせるようにしているのだ。しかし、子供に悪影響を与えちゃイカンということで、通路のカーペットはそこだけ色が違っていて、お子様はこの色を越えてカジノスペースに足を踏み入れてはいけない事になっている。そんなことに気を使うんだったら、最初からカジノの中にアトラクションやレストランを作るな、と言いたくもなるが、それはいいっこ無しだ。なぜなら、ここはラスベガスだから。
さすがにここのバフェはデカかった。入口には鉄道駅の有人改札風ゲートがあり、そこでお金を支払って中に入る。すると、ウェイトレスがこちらの人数を確認の上、空いた席に案内してくれる算段だった。
「おい、あのウェイトレスは何の意味があるんだ?勝手に座らせてくれればいいのに」
「座った時に飲み物どうするか、ってオーダー聞いてきたでしょ、あれだけのために居るんじゃないのか?」
「なんで飲み物だけセルフサービスじゃないんだ?ガブ飲みされては困るんだろうか」
「案外この店で一番原価が高いのかもしれんぞ、飲み物が」
「おいおい。このバフェ、ガイドブックだと$4.99だったのに実際は$7.98も取られてるんだぞ、そんなすごい料理しか無いんだったら俺は暴れるぞ」
「暴れてみろよ、すぐに屈強なガードマンにつまみ出されるから」
さて、ざっと料理を見て回ったところ、案外食べるものがない。いや、種類は豊富で、朝食バイキングとは思えない品そろえではある。しかし、おおざっぱに料理をジャンル分けすると、「イモ」「玉子」「肉」「果物」以上、ちーん。ひたすらこの原材料を元にしたバリエーション料理を食べる事になる。
「果物はいいぞぉ、果物は」
「あっ、ジーニアス、既にデザートみたいなものを食べているではないか、この軟弱者!」
「馬鹿言っちゃいかん、こんなところでコテコテのアメリカ料理食べてみろ、体がいくらあっても保たないから。いやあ、君は本当にチャレンジャーだよ、感心するよボクは」
「とりあえず、本場の味ってヤツをだな、体感しないことには」
「まだ懲りていなかったのか。しょうがないヤツだな。じゃあ、このカリカリになったベーコンとか見て、うひょー、アメリカだぜぇなんて思ってるのか」
「いや、感動したよ、本当にカリカリだもんな。これでもか、これでもかってくらいカリカリだよ」
「なんか干からびた木の皮みたいだぞ、うまいか?そんなの」
「いやね、うまいかまずいかでいうとそりゃあまずいさ。食べるというより食いちぎるって感じだもんな。大体、ベーコンが直立不動になるまで炒めて何の意味があるんだか。でもこれぞアメリカ」
生野菜サラダを食べたかったのだが、あれだけの品数を誇るバフェであっても存在しなかった。生野菜を食べるという習慣があちらにはないのであろうか?
「ああ、生野菜食べてぇ!」
このお店の味。いやー、とりあえずユルめに評価して4点進呈。
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