4日目夕食 裏切りのイタリアン
【時 刻】 19:15
【場 所】 Bertolin’s (フォーラム・ショップス内)
【料 理】 ・モツァレラチーズと新鮮野菜のサラダ ・ポテトとチーズのピザ
この日は一日中ラスベガスを歩き回っていた。相当体を動かしたにもかかわらず空腹にならなかったため、お昼ご飯は抜き。ルクソールの魔法にやられてしまい、食欲が沸かなかったのだろうか?うむ、さすが世界八番目の不思議だ。
「油っちいベーコン食べたからだろ?あんなもん食べてりゃ、腹持ちいいに決まってら」・・・・ごもっともです。
結局、お昼はバドワイザー一本で完了。カロリー摂取しすぎたからここら辺で調整をしておかなくてはせっかくの美容と健康が、なんて打算的な事をやってるのではない。何度も言うが、本当に腹が減らなかったのだった。
とことこと昼下がりのラスベガスを歩きながら、二人で語る。
「しっかし、産まれて初めての経験だぞ。朝ご飯の腹持ちが良くて、昼飯いらないってのは」
「そりゃそうだろう、あの量と油だもんな」
「朝ご飯はしっかり食べましょうってテレビじゃよく言うけど、ホントそれを実践しました、って感じよこれは」
「でもお前のあの朝飯はちーとも健康によくないんだからな、勘違いしてはいかん」
「バフェはいかんな。ついつい釣られて朝からたくさん食べてしまうよ」
「でもよ、アメリカ人はそうやって朝飯たくさん食べて、おやつにアイスなんか食ってさ、さらに平然と昼飯でハンバーガー食ってるんだぜ。そりゃ太るよなあ。太らないわけがない」
「なんでアメリカで牛丼が『ヘルシーフード』扱いなのかわかる気がするよ。ああっ、ちゃんとした野菜が食べてぇ!」
さて、ラスベガス中を歩き回って、しかもお昼ご飯が抜きなのだから夕食はうまいものを食べたいじゃあないか。ということで、シーザース・パレス併設のフォーラム・ショップにあったオープンテラスのイタリア料理屋「Bertolin’s」で採ることにした。
いや、別にこの店が美味いという話はとくに聞いたことがないのだけど、たまたま通り過ぎた時にjジーニアスが
「ここなんか比較的感じよさそうじゃない?イタメシだったらそんなに大外れもないだろうし、ここにするかい?」
と聞いてきたので、同意したに過ぎない。確かに、イタメシで「くそまずい」というのはなさそうな気がする。外れクジを引くのはネタとして非常においしい(まずいものを食べて「おいしい」というのも不思議だが)が、そろそろ自分自身にご褒美をあげてもいいんじゃないか。そんな事で、全くもって当たり障りのなさそうなこのお店に入ることにした。
細かい話をすると、この店がセレクトされる直前まで僕は「プラネット・ハリウッド」というハリウッドスター(スタローン、シュワルツェネッガー等)が経営するレストランに行こうと強くプッシュしていたのだが、ジーニアスに
「お前もう少し冷静になれ、これ以上地雷踏んでどーすんのよ。絶対に美味くないって。ちゃんとしたもの食おうや、何で好きこのんでまずいとわかっているものを食べに行く?ハリウッドスター経営の店?もうどう考えたってダメダメじゃん」
と強硬に反対され、却下されてしまった経緯がある。食べる前からこんなボロクソな評価を下されてしまっている店というのは非常にアワレだ。だが、確かにジーニアスの言ってる事は僕も間違っているとは思わなかったので、結果的に賛同した。・・・やっぱりアワレだ。 「I’ll Be Back」とどこかで聞いたようなせりふを残し、店を後にした。
「ええーと、じゃですね、スピルバーグが作った潜水艦レストラン『ダイブ』なんて如何でしょう?」
諦めきれず、恐る恐るお伺いを立ててみる。
「ガイド見せてみ。・・・ああー、これもやめとけって。何でキミはこうも『うちはまずいです、それでもよければどうぞ』って店ばっかに吸い寄せられてくのかな」
「ううーん、味そのものはもう期待なんてしてないんだよな、実際。となると、話題性のあるところにどうしても目がいってしまう」
「そりゃわかるけど、趣旨を忘れちゃいかん。われわれはあくまでも『食事をする』事がメインなわけであってだな、アトラクション的要素はオマケなんだから。キミが選んでるのは全部オマケばっかではないか」
「うう。言われてみればそうかもしれん」
まあ、そんなやりとりがあって、このお店に入ったのだった。
メニューを見ると、ジャンルごとに区切られて記載されているのでこれならわかりやすい。「ぱすた」だの「前菜」だのタイトルがついているからであり、これで注文ミスなんてやらかしようが無い。大丈夫、きっと大丈夫だ。
ジーニアスは、自分の注文そっちのけでこっちを気にしてくれる。
ジーニアス「大丈夫か?英語わからんかったら素直に言えよ、後で後悔するくらいなら今恥かいとけ」
おかでん「大丈夫だってば、僕は英語はからきしダメだけど、イタリア語は堪能なんだから」
ジーニアス「うそつけ、このメニューのどこがイタリア語なのよ。全部英語じゃないか。大体店員を見ろ、モロにアングロサクソン系の顔してるじゃないの」
おかでん「はっはっは、イッツオンリージョークあるヨ」
ジーニアス「何語だ、それ」
こちらの食欲の指向性はただ一つ、「生野菜が食べたい!」だ。
ならば、わけのわからない料理なんて頼む必要は無し。「salad」と書かれたメニューを選べば良い。ただそれだけだ。
それじゃおなかがいっぱいにならないので、後は一品パスタかピザでも頼んでお酒飲んでオッケー。ほら、間違いようがない。
こんなところでジーニアスに頭を垂れて教えを乞うたところで、目移りしてしまうだけだ。ならば、自分に素直に、直情的に注文あるのみ。
ほら、メニューを見ろ!コレしかない!っていうメニューがどかーんとあるじゃない。もう、迷わないぞ。「モツァレラチーズとトマト、新鮮野菜のサラダ」。
ジーニアス「何頼んだんだ?」
おかでん「新鮮野菜のサラダ。これなら問題なかろう」
ジーニアス「ふーん・・・」
しばらくして、なにやら巨大バーベキュー串焼きみたいな奴が皿にのってやってきた。誰のだ、これ。
一瞬、ハンカチ落としの心境だったが、無上にもお皿はごとんと我が目の前に。
おかでん「こ、これは・・・」
なんじゃ、こりゃ。
言葉のあやでも何でもなく、本当にあぜんとしてしまった。しばらく皿を見て固まってしまい、その後ジーニアスと見つめ合ってしまった。
見つめ合う吐息のレーザービーム・・・ではなく、出てきた言葉は
「何だ、これ」
ジーニアス「『何だこれ』って、アンタが頼んだ品でしょうが」
おかでん「イヤだってね、僕が頼んだのはこんなアメリカンな大雑把料理じゃなくってだね、もっと青々としたサラダのつもりだったんだよ、ホントなんだってば」
ジーニアス「じゃ、こりゃ何だよ、オーダーミスか?」
おかでん「いや、えーっと、モツァレラチーズと、トマトと、新鮮野菜の、サラダ・・・あれ、確かにメニューには間違いない」
ジーニアス「だーかーらー言ったろ、メニューわからんかったら質問しろって」
おかでん「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれよ、僕ぁちゃんとメニューに書かれている英語は理解できてたんだよ。でもこんな積み木崩しみたいなブツが出てくるなんてどこにも書いてなかったんだよ!信じてくれよ刑事さん!」
ジーニアス「行間を読め、行間を!」
おかでん「むちゃ言うな。大体、僕がメインに考えていた『新鮮野菜』って何処よ?どこにもないじゃな・・・。う、ひょっとしてこのオリーブとトマトが新鮮野菜って事か?」
K「まあそういうことだろうな、メニューの記述に間違っちゃいない」
おかでん「ぐはっ」
まあ、出てきてしまったものは仕方がない。食べることにしよう。生野菜にありつけることには変わりないわけだから。
もぎゅ、もぎゅ、もぎゅ。うぐ、ワインくれぇ。もぎゅ。
お父さんお母さん、僕はこんなに喉が渇くサラダを食べたのは生まれて初めてです。ああ喉が渇くよ。もっとワインを!
ぐいーっ。
ジーニアス「おい、何をワインで流し込んでるんだ、まずいのか?」
おかでん「まずいもなにも、モツァレラチーズってこんな豆腐みたいな固まりで食う物なのか?喉が渇いてしょうがない」
ジーニアス「まあ、それ以前にこのサラダ、一人で食うモンじゃ絶対ないよなあ」
おかでん「だったら食ってくれ、全部食ったら体悪くしそうだ」
ジーニアス「いや、僕はいいわ、ちゃんと自分の料理があるから」
おかでん「鬼!」
何て言うかなあ、思い描いていたサラダっていうのは、新鮮な青菜がトマトと一緒にお皿いっぱいに盛られていてドレッシングがかかっていて、その上にぱらぱらと小さくちぎったモツァレラチーズが乗っていて、フォークでしゃくしゃくと食べる。もうそういう気で満々だったんよ。
でもだ、出てきたのは「メイン」であるはずの青菜は飾り程度・・・いや、完全な飾りであった。この事実を知ったときの衝撃、失望。髪が一瞬にして真っ白になった感じ。その代わりに、脇役であるはずのモツァレラチーズが自信満々にこっちを見つめている。おい、何様だお前。僕にどうしろ、っていうのだ。
おかでん「ひょっとして3人前だったのか?チーズ3つあるし。そうメニューに書いてあったとしたら、完全に僕の見落としなので諦めつくけど・・・・・・うーん、書いて、無いなあ」
ジーニアス「よく見ろ。チーズは3切れだけど、トマトだけ4切れあるぞ。3人分ってワケじゃなさそうだぜ」
おかでん「ということは、これがデフォルトで一人前・・・?」
ジーニアス「だろう。他の料理も、全部一人前っぽいぜ?」
何ともはや、ビッグサイズなんである。つーか、もう少し遠慮しろよ。
モツァレラチーズとトマトを一緒に頂こうと思っても、とてもじゃないけど口には入らないサイズ。結局、チーズ、チーズ、チーズ、トマト、トマト、トマトと単品料理をひたすら交互に食べている感じ。
もう、勘弁してください。
頼みの綱のメインディッシュは「ポテトのピザ」。
これはこれで武骨なんだよなあ。またもや喉が渇く!
もったりぱさぱさした生地に、ぱさぱさしたポテト。今度はチーズがあまり乗っていないため、もうもそもそ、もごもごの大御所って感じの料理。先ほどのサラダで不本意ながらもがもがやったばかりなので、この食感は深く、静かにダメージ増加。
しかも、最初にジーニアスと示し合わせて、料理はお互いシェアする事にしておけばよかったのに「それぞれ独自に注文」スタイルで行ったために、このピザも1枚丸ごとアンタのもんだヤッター食いまくるぜっ!ってな事態に。
おかでん「もういやですぅー。まずくはないんだけど、地獄ですぅ」
ジーニアス「アメリカを舐めちゃいかん。いかに表面はイタリアでもチャイニーズでも、アメリカに居る限りはアメリカンの呪縛からは逃げられないのだよ、よくわかっただろう」
なんかこの日ばかりは、ジーニアスの忠言が身にしみた。ええ、仰る通りですとも。
ちなみに料金はチップ込みで一人50ドル払いました。人生の勝ち負けでいったら、今日この料理だけで大幅に負け越しになってしまったって感じがする。
(つづく)
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