ますゐ全メニュー制覇プロジェクト(その15)

先日ますゐ訪問時に発見した、「かき すき焼きにどうぞ」という張り紙。そして、「かおり麦」「まろやか芋」と書かれた焼酎の広告。
ますゐ、気が付いたら次々と新手の戦法でわれわれを魅了してやまない。ええいますゐのメニューは化け物か。
それにしても、「かき入りすき焼き」というのはちと想像がつかんのである。マツタケ入り、というのを昨秋食べたが、あれはまあ、しょうゆ味の甘辛い鍋にキノコ類が入っていると思えばそんなに難儀はしない。しかし、牡蠣っすか?
「広島人って牡蠣ばっか冬は食べてるんでしょー。ご飯のおかずには毎食出るんでしょー」
なんて、偏見に満ちた冗談を他の地方にて言われたことは、過去一度もない。それくらい、一般的に考えて牡蠣っつー食べ物は特殊であり、さてどうやって食べるかいのぅ、というものである。やっぱ、なんといっても生牡蠣最高。ただし、昨年僕が職場の新年会に生牡蠣を土産に持参したところ、9名中8名がノロウィルスに感染して業務が停止してしまったが。生牡蠣はそういうリスクがあるので、あとは焼き牡蠣、そしてカキフライだなあ。それ以外にいろいろ料理はあるけど、土手鍋にしても牡蠣飯にしても、やっぱり牡蠣の魅力はちょっと落ちる気がしてならんのですよ。あ、これ個人的見解ね。人それぞれ嗜好はあるんで。
それは兎も角、いったいかきのすき焼きって何だ。やっぱり想像できん。
お店の人に「かき入りの寿き焼きをお願いします」と注文する。「松茸の寿き焼き時と同様、肉の種類は選べるんですよね?じゃあ、特ロースの肉で・・・」と言いかけたところで、店員さんからストップがかかった。
「あ、かき入りの場合は肉は入っとりゃあせんのよね」「えっ?」「牡蠣だけよ」「ほぅ!?」
驚いた。肉+牡蠣、なのかと思った。そもそも「すき焼き」っつー食べ物は肉があってナンボの食べ物だと思っていたが、肉無しの魚介類のみでもすき焼きって成立すんのか。こりゃあ人生25年間生きてきて(無駄なサバ読み含む)、随分と勉強になった。目からウロコならぬ、目から牡蠣のカラだ。

「まあ、確かに牡蠣のあの味と牛肉じゃあ、鍋の中でケンカするよなあ。生臭さが強調されちまうかもしれん」
などと話しながら生ビールを飲んで待っていたら、やって参りました牡蠣が。
うわ、3人分頼んだんだけど、お皿いっぱいに剥き牡蠣が。一体何個入っているんだ、これ。1人前の金額を確認し忘れていたのが悔やまれるが、こりゃ結構な量ありまっせ。
「でも、肉のかわりに食らうとなると、これくらいあって丁度良いのかも」
なるほど。

で、こちらは毎度おなじみの寿き焼きのお野菜たちですな。特に珍しいものはなし。牡蠣入りだからといってよそ行きの体裁をしているわけではない。

男性店員さんが調理してくれるのを興味深く眺めていたのだが、まずは普通のすき焼き同様に牛脂で鉄板に油を塗り始めた。
「おお?牡蠣でもそうなるのか」
一同、いちいち細かいところに感心する。何しろ、見たことがない料理だ。
その後、大皿に盛ってあった剥き牡蠣をおもむろに全部鍋にどばぁ。
「ああ!?」
三人とも、思わず声を挙げてしまう。
「最初に入れちゃうんか!でも、あんまり火を通しすぎたら、牡蠣が堅く小さくなってしまうような気がするんだけど」
「これは予想外だった。でも、確かに牡蠣以外で火が通りにくい野菜類って無いからなあ・・・」

「あのすいません店員さん。牡蠣ってやっぱこういう調理法なんですか?」
思わず店員さんに聞いてみたところ、
「さあ。実は私も今日、牡蠣のすき焼きを作るのは初めてなんですよ」
という大変に正直なカミングアウトが。大変ありがとうございました。
さて、軽く牡蠣の表面がきつね色になり、火が通ってきたところで牡蠣を隅に寄せる。水分が出たせいもあり、やや小さくなっちゃったな、牡蠣。

で、あとは野菜類を鍋いっぱいにどっさりと載せ、火が通れば完成なのであった。
「なるほど!牡蠣のすき焼き、と思うから違和感があるんだ。牡蠣の土手鍋のしょうゆ味と思えばそれでいいんだ」
「あ、それだ!」
ちょっと具なんぞは土手鍋とは違うが、既に認知されている「土手鍋」という料理の亜流であると理解すれば、この料理もすんなりと納得ができるのであった。
さて、葱にまで火が通ったところで早速頂く。
うは、牡蠣がプリプリしているぜ。こりゃあ官能的。火が通りすぎてシャクシャクした食感になってしまっているのでは、と危惧していたのだが、とんでもない。丁度良い火加減で、いい湯加減なのでありました。で、この牡蠣から大変結構な出汁が出ておるわけで、それが豆腐、玉ねぎ、白滝、葱、まあ要するに牡蠣以外の具全部にイイカンジで染み渡ってですね、こりゃもう素晴らしいと言わざるを得ないわけです。
グレイト、という点においては、松茸入りやらノーマルの特上な肉を使ったすき焼きの方がグレイトかもしれない。しかし、冬季限定で、冬の味覚を満喫するというこのシチュエーション、そして実際のこの旨み、特に滋味という表現がぴったりな味わいは他に代え難いものがある。
三人とも、思わず「素晴らしい」と拍手をしつつ、おいしく、残さず食べ尽くしたのであった。あっという間だったなあ。

サイドメニューとして頼んだもの。
「たまには、『ちょっと一品』のほうから頼んでみよう」
ということで、注文したのは鳥肉天ぷら。なぜ大分名物がここであるのか謎。850円ということでこのお店にしてはなかなかなお値段と言えるが、ボリュームは満点だ。間違って一人で食べようとすると、これだけで満腹になってしまう。これがまた旨い。塩味でどうぞ。
鳥肉天ぷらがあるのに、広島人が愛して止まない砂ずり(鳥肉の砂肝のこと)がメニューに無いのはちょっと不思議。

せっかくだからますゐソースがかかっている一品を頼もう、ということで注文したのが豚ヒレトンカツ。
「そういえば、大抵トンカツ類を頼むときは、一番安いサービストンカツか、ライスがつかない上トンカツ、もしくは一番高い特上トンカツを頼んでるよな。なぜか、ヒレトンカツだけはすっぽり抜け落ちている気がする」
というおかでんの発言から、注文した次第。
これ、旨いですぜ、ホント。あらためて発見した美味さってヤツだ。次からは、上トンカツ頼むくらいだったらこっち頼むことにする。
芋焼酎「まろやか芋」も飲み始めたため絶好調の3名。まろやか芋は、その名の通りまろやかな芋焼酎だった。キリンが販売しているお酒なのだが、万人ウケを狙ったらしく、まろやかすぎて正直面白くないお酒に仕上がっていた。芋焼酎でこれは物足りないぞ!ともの申したくなる味ではあったよ。ただし、芋は臭くてちょっとね、という芋焼酎初心者の女性なんぞには喜ばれる味なんかもしれん。
一昔前だったら、キリンの部長さんと私的なパイプがあったのでいろいろ言い合える関係にあったのだが、今は縁が切れてしまったので残念。誰か酒造メーカーの方で僕とお近づきになりませんか。
何を言ってるんだ、どさくさに紛れて。
それは兎も角、口の滑りもまろやかになったところで、ダメもとで「今日って、牛肉さしみってあります?」と聞いてみたところ、おばちゃんがうれしそうに「今日はあるんよ!」と答えてくれた。素晴らしい。早速取り寄せてもらう。

お久しぶりです、牛肉さしみちゃん。
まあ、前回食べた時は「最後の最後に食べた一品」ってことで、相当バイアスがかかった味覚状況だったわけだけど、今回は冷静に食べることができた。冷静になって食べてみたら、案外まずい料理だったりして。
・・・うまい。ああ、やっぱりこりゃ旨いぞ。もし、お店に取り扱いがあるならば、ぜひ頼むべき料理といえる。いやホント。肉の旨み、甘み、そして歯ごたえが口の中に広がるんですよ。それが、何だか忘れられていた野生というか、サバンナへの憧憬というかですね、
すいません、しょうもない喩えを延々と繰り広げそうなのでやめます。

3人、しかも大食らいの人間が僕以外いない状態での会だったので料理の皿数を並べることは特にせず、これにて打ち止め。
最後は、牡蠣寿き焼きの残り汁を使ったうどんでフィニッシュ。ああ、これもまた旨いよ。

最後、残った芋焼酎をボトルキープにしてもらい、お店を後にした。
その後、なぜかよくわからんが、ワタクシが最近愛してやまない「老四川」という、あまり日本人の味覚に媚びを売っていない、しかしそのかわりに客足があまり伸びず経営がヤバいんじゃないか、という痛し痒しなお店にハシゴし、辛い料理を食べたのでありました。旨かった・・・。
実はこの「老四川」、メニュー数が相当な数あるし、辛いヤツは本格的に辛い。鳥肉と花椒と唐辛子を炒めたヤツなんて、もう最高。というわけで、今後は老四川全メニュー制覇を個人的に敢行しようと、本気になって考えている次第であります。
・・・ただ、ますゐほど「味がある、庶民に愛されて50年、広島の味」というようなお店ではないので、大々的には募集かけないつもりだけど。単に辛いものをしこたま食べたい、それだけの欲求があるから。辛いものの為ならお尻がピリピリしても構わないぜ!という強者がいたら、今度ぜひご一緒しましょう。
(この項おわり)
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