世界一辛いソースかも

山陽自動車道の福山SAに立ち寄った。売られているものは場所柄広島的なものと岡山的なものが混ざっている。よく利用するSAなので、普段はお手洗いを済ませるとざっと店内を見渡し、その場を立ち去るのみだ。もみじ饅頭自動製造マシンに見入ったり、多様に売られている魚の練り物類を物色するといったことはしない。

この日も、そのつもりだった。

しかし、視線の片隅に、山積みとなった瓶があったのが気になった。決して目立つ色合い、デザインではないが、「瓶がこちらに呼びかけている」とでも形容しようか。とにかく、目に付いたのだった。

超激辛

近づいてブツを確認して驚いた。赤黒い、売り場では他の商品に埋没しそうな地味なラベルには「超激辛」と書かれてあったのだった。激辛ソースだ。

どれだけ辛いかというと、「超」であり「激」である辛さであるらしい。「超」の字がラベルの中で大きな面積を占めている。辛いモノには目がないおかでんにとっては、素晴らしい商品と言える。

人間、「辛い」と感じる感覚は千差万別だ。インド人、タイ人、朝鮮人などが辛い料理を平気で食べることができる反面、日本人は相対的に辛さに弱い。フランス人も辛さに弱いと聞く(フランス料理に辛いものはほとんど存在しない)。では辛いモノを常食している民族と日本人とでは遺伝子レベルで辛さセンサーに差があるのか、というときっとそれは違うだろう。辛いという感覚は、耐性がある。辛いものを食べ続けていると、累進的に辛いものが平気になってくる。さらに食べ続けると、辛くないと物足りなくなってくる。辛味とは酒やたばこと同類の向精神系の嗜好品だと思う。依存性は低いけど。

何が言いたいかというと、料理店のメニューに「辛口」と書かれていても、人によっては「激辛」と感じたり、「こんなので辛口を名乗るのはけしからん」と憤る場合があるということ。

おかでんは相当な辛党であり、多分「辛さ偏差値」でいったら65くらいはいってると思う。そんなおかでんにとって、メニューの「辛口」表記は話半分、もしくは話1/4程度で認識しておかないとがっかりしてしまう。そこでこのソースですよ。「激辛」という表記でもわくわくさせるが、「『超』激辛」なのだ。話半分だとしても、きっと満足させてくれるに違いない。

その証拠に、この「超激辛」ソースのラベルの絵はスネ夫みたいな顔をした人が髪を逆立て、大口をあけ、舌を突き出し「からーっ。」と叫んでいるものだった。絶叫するくらい辛いのか。すごいな。

ただ、不思議なのがそんなデンジェラスな調味料がなぜSAの店先に積まれているのかということだ。山陽自動車道沿線住民は隠れ激辛マニアなのだろうか。その点が多いにひっかかった。激辛好きの人は常に「味覚異常者」「早いうちからガンになって死ぬぞ」などと陰口・・・じゃないな、真っ正面から言われたりして、日陰者として生きていくしかない。それなのに、この商品のあっけらかんとした売られようは何。疑いのまなざしをもってしばらくは遠目で様子見を決め込んだ。「辛党ホイホイ」がしかけてあって、激辛好きの人が商品に近づいたら、上からばさぁっと網が被さってきて捕獲成功、みたいなことはないよな?

カプサイシンパワー

「からーっ。」と大絶叫している男が持っているのは「タテソース」と書かれた瓶。この「超激辛」、岡山県倉敷市玉島にある豊島屋なる調味料会社が製造しているソースのブランド名らしい。そこにご丁寧に吹き出しで「カプサイシンパワー」と書かれている。なるほど、この絶叫男の元気の源はカプサイシンにあったのか。

どうでも良いがこの絶叫男、激辛好きとみた。絵面は「うわあ、からぁぁぁぁぁい」と悲鳴を上げているのだが、タテソースの瓶だけは大事に持っているからだ。辛さにびっくりして瓶を落としたり、「ふざけんなこの激辛はしゃれにならんではないか」と取り乱していない。きっと、望んでいた辛さに出会えてうれしかったんだろう。そのうれしさを「からーっ。」という声で表現しました、というわけだな。カプサイシンパワー!

岡山弁

もうこの時点で購入決定。

値段が安い。確か、1瓶400円しなかった。お試しだと思って買えば、万が一スカを掴まされたとしても悔しくないお値段。海外、特にアメリカあたりで売られている殺人兵器並の辛さのソースは辛いなりにそれなりのお値段がする。しかし、400円弱(368円だったか?)で、国内で、こんな伏兵がいるとは。

絶叫くんの絵の右側には、「世界一辛いソースかも。」と挑発的なメッセージがあった。なんと世界一の辛さが福山SAで買えるとは。そして作っているのが倉敷だとは。全く、灯台もと暗しとはこのことだ。

ただ、語尾の「かも。」というのが若干の弱気。多分、「世界一辛い」と宣言してしまうと、それなりの根拠をそろえないと公正取引委員会から突っ込まれるのだろう。この語尾を「弱気」と捉えるのではなく、「はぐらかすための戦術」と前向きに捉えよう。

ただ、「世界一辛い」なんて挑発に乗るのは、ごく一部の激辛愛好家だけだ。日本のマーケットで圧倒的多数のシェアを持つ「普通の辛さで十分」な人にとっては、かえって購入をためらってしまう一文だ。まあ、そもそも「超激辛」というネーミング自体でご遠慮願いますな人が多いとは思うが。

だからこそ、つくづく「なぜ福山SAに山積みに?」となるわけで。

ソースについての解説がラベルには記載されていた。以下転記。

「タテソースお好みドライ」をベースに、唐辛子エキス・ブラックペッパーをたっぷり配合し、信じられない辛さの濃厚ソースです。お好み焼き・焼きそば・カレーライス・フライもの等各種料理に少量のご使用で激辛メニューができ上がります。なぜかクセになる味をお楽しみください。

「信じられない辛さ」だそうです。そりゃそうだ、「世界一」だもの。世界を舞台に戦うにしては、自宅の食卓では狭すぎるか?それにしても強気だな。商品名、絵、キャッチコピー、解説。まあ、唯一キャッチコピーだけは弱含みな表現ではあるけど、それ以外は強面だ。

ただ、世界規模の話が渦巻くラベルの片隅に、やけにローカル色がある部分があった。

<岡山弁>
こりゃー ぼっけぇ かれーけど うめーのー クセになってしもーて おえりゃーせんがー
(これは とても 辛いけど おいしいですねー クセになってしまって いけませんねー)

なぜここで岡山弁講座を。戦う相手は世界だ、「世界一辛い」なら世界中に数百万人はいるであろう激辛ファンがこぞって買いたがるはずだ。ここは一発英語での解説文くらいつけても良いと思うんだが。岡山弁出した瞬間に世界へと飛翔する姿を夢想することができなくなった。急に「かも。」という語尾が気になりだしたぞ、大丈夫かホント。

超激辛ソースの色つや

1本だけ購入。「世界一」がたとえ誇張表現だとしても、「日本一」くらいは辛いかもしれない。だったら数本購入しても悪くはない。でも、1本。

なぜなら、ただいま実家帰省中につき。

東京への戻りは飛行機なので、こんな液体を機内に持ち込もうとすると手荷物検査場で確実にひっかかる。だから、実家において両親が消費してもらえる量でないといけなかった。そもそも1本買うのでさえ、「家で使ってもらえる?」と母親の許可を取ったくらいだ。「激辛?いらない。家にあっても使わない」と言われたら、勿体ない。

幸い、理解のある母親だったので購入OKだった。

で、早速翌朝の食卓にて使ってみることにした。開栓して小皿に垂らしてみる。外見、色、粘り気共にお好みソース。特に赤いとかなにやらスパイシーそうな粒が浮いているといったことはない。これなら罰ゲームに最適。よくTV番組である「この中の一つだけ、わさびがたくさん入っているにぎり寿司があります」みたいに使える。あれはネタとシャリの間にわさびが挟まっていて見えないわけだが、このソースならば「どうぞ十分ご覧ください」状態に晒しておいても、ばれないだろう。幹事さん、イベントの企画でお困りの際にはぜひこの「超激辛」ソースをどうぞ。仕込みに苦労しません。(もっとも、加熱したらソースから発散される熱気に辛味成分が含まれ、目が痛くなるなどの症状がでるかもしれない。そうなるとバレバレな企画になってしまうので事前リハーサルはお忘れ無く)

ちくわで試す

なにしろ朝食だ。お好みソースもしくはとんかつソースにあうような料理が食卓に並んでいる事は無かった。さてどうしたものか。

とりあえずちくわならなんとか合いそうなので、おもむろにちくわを箸でつかみ、ソースに浸す。そして、食す。

・・・

ああ、なるほど。辛いね。

ん?

ここでラベルの人みたいに「からーっ。」と絶叫すれば一番良いのだろうけど、そこまで辛くないですよ。

いや、タテソースの名誉のために言っておくと、辛いのは事実。この手のソースとしては他に類をみない辛さだろう。でも、辛いと同時に甘い、甘さも強いんである。ベースとなっているのはお好みソースなので、野菜や果物の甘みが尾を引く。だから、辛さと甘さが両立しているソースに仕上がっている。恐らく、もっと辛くすることは製法上可能だったはずだが、消費者ニーズを勘案してこの甘辛さのバランスで絶妙にブレンドしたものと思われる。

これなら、「辛いのはからきしダメ」という人でなければ、ある程度使いこなせるだろう。現に、おかでんの母親も僕に倣って超激辛を試して見たが、最初の一言目は「思ったより甘い」だった。

ちょっと待て。「世界一辛い」はどこへ行った。辛さ耐性:普通、の人である母親にすんなりと受け止められてしまっては「世界水準」がぐらつくぞ。やっぱあれかー、「かも。」の語尾がポイントだったかー。

この辛さだったら日本一の座もあげられぬ。中国地方一くらいで良いのではないか。

おっとソースの批判はそこまでだ。「世界一」を仮定形とはいえ標榜したのは井の中の蛙だったが、このソースの魅力自体が色褪せたわけではない。これ、けっこういけますぜ。真っ先に思いついたのが、「ああ、このソースをイカフライの上にかけて、わしわし食べながら冷えたビール飲みてぇ!」という事だった。絶対に美味い。ビールがいくらあっても足りなくなりそうだ。いや、足りなくなる前に酔っ払って寝てしまうと思うけど。

お好み焼き・焼きそば・カレーライス・フライもの等各種料理に少量のご使用で激辛メニューができ上がります。

とのことだったが、そのいずれの料理においても良くあうと思う。普通のソースで仕上げた料理の上に唐辛子を振りかけるのより、はるかに「味」と「辛さ」に親和性のある料理が仕上がるだろう。

ビール好き、辛いモノ好きならお試しあれ。

ここで「→購入するならここをクリック」なんて文末に書かれていて、クリックすると通販サイトにつながるというアフィリエイトだったら「なーんだ単なる宣伝じゃねーか」になる。安心してください、そんな事は考えておりませんので。でも、通販で売っているサイトもあるので、興味がある方は検索してみるとよろし。

(2008.09.12)