大きなステーキ

レストランカタヤマ

友達から、

「ぱーっと盛大にステーキ食いに行こうぜ。肉だよ、肉」

と誘われた。「焼肉」のお誘いを受けるならともかく、「ステーキ食いに行こう」と言われたのはこれまで一度もない。慣れないシチュエーションに動揺した。

ステーキ、というのは微妙な食べ物だ。ファミレスで食べるならともかく、そういう料理を提供するお店ともなればそこそこ格式があるお店が多い。または、格安で肉が食べられます!という思いっきり廉価なお店か。となると、酒を飲みつつステーキ、というのはちょっと難しい。「じゃあワインでも頼むか」なんてことをやりだしたら、一体どれだけお金がかかるというのか。

かといって、デートとして利用しようにも、「がっつり肉」というのはあまり女性の興味を喚起しない。というわけで、動揺したわけだ。一体何が目当てで僕とステーキを食おうというのか。しかも場所は東向島だという。さらに駅から徒歩10分。えらく遠いなオイ。人を連れ出すにしては無謀な場所だ。

「ここは、安くて沢山食べられるんよ。しかもなかなかうまいときたもんだ」

そうなのか。試しにwebで調べて見たら、なんか怪しい肉を扱っていることがわかった。「駄敏丁(だびんちょう)」とかいうらしい。

店頭ののぼり

店頭にも、「駄敏丁ステーキ」と書かれたのぼりが立っている。これがお店の売りだ。レストランカタヤマを知らしめているのは、この特許製法「駄敏丁カット」だという。なんでも、ランイチと呼ばれる、筋だらけで使い道に乏しい安肉をうまいこと加工して、ステーキ肉に成形するという技術らしい。

ま、早い話、「成形肉」ということだ。成形肉といえば、これまで成形肉であることを隠してメニューに載せていたレストランが批判の対象になったり、食中毒を起こしたりといろいろ問題が多い肉。科学技術の進歩は、食を脅かすまでになってきている・・・とネガティブに語る際によく使われるキーワードだ。でもこのお店の場合、堂々と「駄敏丁」と名乗って宣伝している。

ステーキに適さない肉を加工しておいしいステーキ肉を作る。すばらしいことじゃないか。

いや、ごもっともです。

店舗外観

レストランカタヤマ外観。ここが「駄敏丁カット」の肉を出すお店だ。ごく普通の町の洋食屋、といった風情。しかし、安い値段でステーキが食べられる、ということでお客さんは多く、毎日繁盛しているという。夜9時で営業が終わってしまう、というのは、深夜まで営業しなくても喰っていけるだけの稼ぎがある、という証拠だろうか。

待合室がある

この日訪れたのは平日の19時半頃だったが、やはり店内は満席だった。待合室での待機を指示された。待合室?そんなものがあるのか?

それは、お店から数軒離れた場所にあった。なんと、このお店、繁盛のあまり別の場所に待合専用のスペースをこしらえていたのだった。驚いた。ここでしばらく待機。

安い安いとはいえ、そこはステーキなので

しばらく待合室で過ごしてから、店内に通された。さっそくメニューを確認する。

牡蠣との組み合わせとか、いろいろある。豚肉もあるのだが、何故か鶏肉は扱っていない。中には、「メカの盛り合わせ」という謎なメニューもあってどきっとする。よく見ると、「メカジキ」の事を略して「メカ」と呼んでいるらしい。フライとか生姜焼きがある。

さて肝心のステーキなのだが。

安い安いといっても、さすがそこはステーキ。量をそれなりに食べようと思うと、しかるべきお金はかかってしまう。金銭感覚をどのレベルにチューニングすればいいのか、とても悩ましい。

悩んでしまうのは、ステーキにいろいろ種類があるからだ。「うちに来たからには黙って駄敏丁」というものかと思っていたが、何種類も存在する。そしてそれぞれが全部値段が違う。

・特選テンダーロインステーキ
・特選サーロインステーキ
・特選ステーキ
・ウルトラマルキンステーキ
・マルキンステーキ
・グラスステーキ
・リーンステーキ
・オーガニックステーキ

とまあ、これだけの種類があるのだから、迷わない方が嘘だ。種類と、サイズ。何をどれだけ頼むか、それはその日の胃袋の状況、財布の状況とよく相談しないといけない。

ちなみに下3つはオージービーフで、上4つが和牛になる。

「廉価にステーキを腹一杯食べて欲しい」と、創業者が貧乏学生の味方みたいな美談ではなさそうだ。高いステーキはそれなりに高い。200グラム前後で、それぞれのメニューの値段を比較した場合、以下のとおりになる。

・特選テンダーロインステーキ(200g) 12,250円
・特選サーロインステーキ(200g) 11,815円
・特選ステーキ(200g) 6,490円
・ウルトラマルキンステーキ(200g) 4,310円
・マルキンステーキ(200g) 3,740円
・グラスステーキ(260g) 1,720円
・リーンステーキ(200g) 1,625円
・オーガニックステーキ(200g) 2,305円

※値段は2014年8月12日現在

ちなみにこのお店で一番高いステーキは、「特選ステーキ(1,000g)」で、なんと30,420円にもなる。「特選テンダーロインステーキ」のほうが肉の単価は高いのだが、最高350グラムまでしかメニューにないので、値段が一番高くなるということはなかった。

僕としては、今回は「肉をがっつり食べる」ことに主眼を置きたい。いい肉を、それなりの値段でそこそこの量食べる・・・というのはちょっと趣旨が違う。そこで、圧倒的に安いオージーの肉(下3種類)がおのずとターゲットとなった。

「グラス」というのは草を食べて育った牛。オージーといえばこのやり方が定番。吉野家が、BSE問題になってもかたくなにオージービーフを仕入れなかったのは、「草を食べて育った牛肉では、これまでの吉野家の味が再現できない」としたからだ。そのために会社の屋台骨がぐらつくまでになってしまったのだから、牛のえさというのは結構大事。一報、「リーン」というのは米国流に穀物で飼育された牛。オージーでも穀物育ちのものがあるのは知らなかった。

さんざん悩んだ末、僕は「グラス」の510グラムを選んだ。3,240円。折角東向島までやってきたのだから、せめて1ポンド超えの肉を食べたいじゃないか。

グラスステーキ

グラスステーキ定食510グラム、到着。テンション上がるな、このサイズにもなると。横にでろーんと広い肉だと、さほど盛り上がらない。ああそうですか感が強い。しかしこうやって「分厚い」肉を見るとどうだ、血がたぎってくる。日常生活において、3D感のある肉にはなかなかお目にかからないからだ。2D感ばっかり。せいぜい、とんかつ屋のとんかつくらいが最厚だ。

横から眺める肉

横から肉を観察する。こういう肉は、横から見るに限る。その方が、厚さを強く感じる事ができる。

肉を厚く切る事は簡単だ。でもそれをやらないのは、中まで火を通すのが大変だからだ。生焼けになって問題が起きたら、お店の死活問題だ。食べた方も死活問題だけど。その点このお店は大変にいさぎがよい。

普段こういう肉を食べ付けていないので、なんだか肉に思えない。溶岩?という印象すら、持つ。そんな小市民でさえ、ちょっと背伸びすればこれだけの肉が食べられる、ということか。

肉の断面

肉の断面。

レアだけど大丈夫なのかな、と少し心配になる。成形肉というのは、肉の芯の方までいったん空気に触れた(=雑菌に触れた)肉が混じり込んでいる。なので、しっかり中まで火を通すことが必要、ということを聞いたことがある。でもこのお肉、思いっきり赤いんですけど。ここまで大胆に赤い、ということはきっと自信があってのことだろう。心配だけど、お店を信じて食べることにする。

それにしても成形肉ってすごいものだな。もっと画一的な見た目で、噛んだらグミみたいなクチャクチャした食感なのかと思ったけど、ちゃんと肉っぽさのある食感だ。肉の線維までは破壊されていないようだ。見た目だって、普通の肉っぽい。そりゃ、あらかじめ成形肉だと聞かされていれば、この食感に覚える若干の違和感には気がつく。しかし、事前情報がなければ気がつかないレベルだ。

肉は、当然のごとく筋がなくて食べやすい。かといって、肉の旨さの要因である「噛みしめ甲斐」までもが奪われていることはなく、それなりの歯ごたえも残している。このバランスはさすがだと思う。「安く提供しているんだから文句を言うな貧乏人」というわけではない、ということだ。まあ実際、貧乏人がほいほい頼める値段ではないのだから、それなりに美味しくないと納得してもらえないわけだが。

駄敏丁カット

ちょっと対比としてはうまくない構図だけど、奥がリーンステーキ300グラム。手前が僕が頼んだグラスステーキ510グラム。一応、かっこわるいけどタバコの箱も置いてみた。

やっぱり頼むなら、1ポンド以上で正解だった。300グラムだと、日常の延長線上という感じがするけど、510グラムともなると非日常だ。世界が違う。ただし、味に関して言うと、リーンステーキの方が遙かに美味しいというのが二人ともの意見だった。グラス肉とリーン肉の食べ比べなんて過去に経験がないけど、食べ比べてみると明らかに違うことがわかる。リーンの方が、味が深みがあり、しっかりしていた。一方のグラスの方は、あっさりしている。がっつり肉を指向するなら、グラスよりもリーンの方が美味しいと思った。

ずっしりとした肉片

肉一切れをフォークに刺して持ち上げると、手にずっしりと重みがきた。思わずドヤ顔になってしまうのも仕方がないことだ。

510グラムともなれば結構な量だが、案外簡単に食べきることができた。ステーキと言えば、ナイフとフォークを使って、切れそうで切れない筋をギコギコ切断したり力仕事を伴うことがある。でも、このお店の場合はそれがない。するっと食べられた、というのは楽しい体験だった。

店頭の1kg見本

お店を後にする際、「次は1キログラムにしよう」と友達と盛り上がった。さすがに一人で1キロというのは難しいけど、二人で500グラムずつ食べると思えば、全然余裕な話だ。で、その次は仲間を増やして、次は2キロとか狙ってみるか、という話も出た。「成形肉なんだし、事前にお店にお願いしておけば理論上はデカい肉が作れるんじゃないか?」というのがその理由。もしダメだとしても、1キロの肉を2枚積み重ねたら、とんでもない見栄えになりそう。そういうことを考えると、ワクワクしてくる。

(2014.02.25)

コメント

コメント一覧 (6件)

  • こんばんわ。
    塊肉いいですね。
    いきなりステーキはもういかれましたか?
    ここのところ銀座界隈の出張がつづき短期間に4回もいってしまいました。
    未訪でしたら是非どうぞ。

  • 「いきなりステーキ」は、急速にお店を拡大していてびっくりですよモウ。
    大人気のお店だけど、これだけお店が増えているなら、案外楽に入店できるかもしれない。

    僕にとっては銀座か、神田のお店が行きやすいので、今度行ってみますよ。やっぱり300グラムくらいの肉は食べてみたいですね。

  • こんにちは。
    カタヤマのだびんちょは何度となくいただきました。
    脂をきれいにカットして、筋づたいに切り出した結果棒状になった肉を、横に並べて、ステーキとして焼けるように横から圧をかけて塊チックにする、という工法らしいので、「早い話、成形肉」だなんて言わないでー。とお願いしたいくらいファンです。
    リーンのでかいやつ、おいしいなぁ。

  • Gonzalezさん、だびんちょってそういう作り方なんですね。ミンチ状態にまでしてから、のりでくっつけているというわけではないんですね。だびんちょってあのお店以外でも食べることができるんですか?
    おすすめの肉と種類があったら、是非教えてください。

  • 特許とってるんですって。独占ですね。
    //dabintyo.jp/secret/

  • 特許料を取って他社展開ってのもあるかなーと思ってたんですが、どうかな?

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