炒飯大盛りを恐縮しながら食べる

光栄軒外観

東京都の荒川区役所の近くに、「光栄軒」という中華料理店がある。写真の通り、何の変哲も無い町によくある中華料理店だ。メニューだって至って普通で、ラーメン炒飯餃子唐揚げ、といった感じで、珍しいものはない。

しかし、このお店の知名度が非常に高いのは、「こんな普通の外観のお店なのに、出てくる量がすごく多い」ということだ。特に炒飯が有名で、ノーマルでもかなり量が多いのに大盛りを頼むととんでもない、という話題が尽きない。

確か並でご飯2.5合、大盛りで4合と聞いた記憶があるが、定かではない。でも、そんなボリュームらしい。

僕は、ご飯ものである炒飯の大盛りにはあまり興味はないのだけど、やはり一度はそのお姿を拝まないといけない、とずーっと思っていた。しかしこれまで行けなかったのは、ひとえに場所が微妙だからだ。

最寄り駅は都電荒川線の「荒川区役所前」。ただし、東京23区の中ではもっともマニアックな町をひたすら経由する路線である都電荒川線なんて、普段使う機会が全くない。このため、「気にはなるけど、行く機会がない」場所としてずっと鎮座し続けていた。

しかし今回、偶然このお店を訪れることがあった。単に別件で全然別の場所に行くつもりだったのが、途中で根気が尽きてしまいこの界隈でリタイアしたからだ。もう引き上げよう、と思った際に思い出したのがこのお店だった。

炒飯大盛り

14時近くの入店にもかかわらず、お店は満席でびびる。

ちらっと先客が食べている料理を確認するが、多くの人が炒飯を食べているようにみえる。炒飯プラス唐揚げ、とか。

ここで心が揺らぐ。炒飯の量が多い!って今更、大盛り業界ではド定番のことを再確認してもしょうがない。なので、炒飯を食べるにしても、並で良いのではないか?と。そのかわり、ラーメンでも野菜炒めでも、別のものと組み合わせた方が楽しいんじゃないか?と。

でも、初めての店なのでこっちがテンパっちゃって考えがまとまらず、結局安直に「炒飯大盛りで」と頼んじゃった。

店員さんに「量が多いですけど、大丈夫ですか?」なんてたしなめられるかと思ったけど、一切無し。淡々とオーダーが通った。このお店は、食べ残した場合はお持ち帰りが可能だからかもしれない。それとも、「こいつデブだから当然大盛りくらい食うだろう、豚みたいによ」と思われたか。ちくしょー、ブヒー!

で、しばらくして到着したのがこれ。炒飯大盛り。ノーマルと比べて+200円。

炒飯大盛りアップ

ご主人の調理方法を見ていると、あまり鍋を振らないようだ。ぱっと見たら、それなりのお歳。

このような方が、日々噂を聞きつけたデブ・・・じゃなかった、大盛り好きのために炒飯を作り続けるのは足腰を痛めるだろうに、と思ったが、その点は気をつけているようだ。

そのため、パラパラな米粒、という仕上がりではない。かといってしっとり、というわけでもなく、ご家庭の味とも違ういい塩梅の仕上がり。

油の使用量は意図的に控えているようで、全くベトベトしない。だから、これだけの量なのに最後までウンザリしないで食べることができた。時々アクセントとして、チャーシューがゴロゴロ入っているので、それを掘り当てて食べるのが楽しい。

ただ、やはり「ご飯と、玉子と、チャーシュー」で作られた大量の食べ物なので、もうちょっと別のものが食べたくなる。なので、お店を出た後半日は「おなかいっぱいなんだけど、何か物足りない。カツとか食べたいなあ」というアンビバレンツな心境で悶々とさせられた。

炒飯の米粒

料理をあらかた食べ終わって、そういえば今後のために卓上のメニュー表の写真を撮っておこう・・・としたとき、店の常連と思われるお客さんと店主が話を始めた。

「最近雑誌で取り上げられたでしょ」
「ああ、日経トレンディね」
「読みましたよ、お客さん増えました?」
「いやー、みんな炒飯ばっかり頼んじゃって」

あ、つい最近雑誌に掲載されたのか。それは知らなかった。知らなかったけど、端から見ると僕はまるで「日経トレンディを読んで、物珍しさでウハウハ言いながらやってきたヤツ」みたいに見えるんだろうな。

あまのじゃくな性格である僕は、こういう話を聞くとすごく悔しくなる。

「いい宣伝になるじゃないですか」
「最近、なんか写真を撮っていく人が多くてね。店の外で写真だけ撮って帰って行くとか」
「店の外だけ?」
「そう、朝の店、昼の店、夜の店なんて時間差で載っけてたりするの」

なんかこういう話を聞いていると、だんだん僕が恥ずかしくなってきた。ちょうど今、メニューの写真を撮ろうとしていたんだけど、そっと手にしていたカメラを懐にしまった。

炒飯を残さなかっただけ、まだ良かった。これで残していたら、無様な一見さんを露呈するところだった。米粒一粒たりとも残すものか、と最後にわずかに残った米粒を拾い上げて食べ、さも「何度もこのお店には来てるんですけどね」という風を装いつつお会計を済ませ、お店を後にした。

(2018.03.09)

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