会田誠展「GROUND NO PLAN」見学記

会田誠展「GROUND NO PLAN」@青山クリスタルビル。

会田誠というアーティストを知ったのは、森美術館で開催された「会田誠展:天才でごめんなさい」だった。初見だったけど、本当にこの人は「天才」だとすぐに思った。

森美術館「会田誠展」 2012.11.17(sat)-2013.3.31(sun)
森美術館の展覧会「会田誠展」の案内サイト

桂正和を彷彿とさせるような美少女の絵を描いてみたかと思えば、エロとグロとナンセンスな作品も同時に発表したりする。

「天才でごめんなさい」では、四股が切断された少女が、犬のように四つん這いになっている絵が展示され、「性的虐待だ」と国際的に議論を呼んだ。

また、その後東京都現代美術館で開催された「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」では、天井から吊り下げられた会田誠の「文部科学省に物申す」と題した檄文が東京都の忖度の結果撤去・改変という運びとなり、それがむしろ「表現の自由を美術館が守ろうとしないって何事だ」と炎上したこともある。

これだけ聞くと、単に「お騒がせ芸術家」という印象を受けるかもしれないが、実際の作品は真面目に作られたものであって、話題作りのため、とか軽薄な主義主張で作られたものではないということがよくわかる。

そんなわけで、僕は会田誠の展覧会があるならば、極力最優先して見に行こうと思っている。最も尊敬する作家だ。さすがに鹿児島で会田誠展がある、と知った時は遠すぎて断念したけど。

(ちなみに、鹿児島での会田誠展のタイトルは「会田誠展 世界遺産への道!! 会いにいけるアーティストAMK48歳」というふざけたものだった)

会田誠展の入り口

この日、別件で表参道を歩いていた僕だったが、たまたま見つけたのがこれだった。会田誠展、という黒い看板が出ている。看板自体が怪しいのに加え、その先は地下に通じる階段。ますます怪しい。そもそも、これだけ東京都内のギャラリー巡りをしている僕でさえ、この情報は知らなかったし、こんな場所にギャラリーがあるということさえ知らなかった。

嘘じゃあるまいか。

にわかには信じられなかったけど、このまま見逃すわけにはいかない。もし間違って変なオフィスに入り込んでしまったりしたら、「ああ、間違えました」とすぐに逃げよう・・・そんな脳内シミュレーションまでして、地下に潜ってみた。

すると、その地下空間は本当に会田誠展が開催されていた。マジか。しかも、2フロアも使って。なんだこの秘密のパラダイスは。

展覧会の概要を確認すると、「大林財団」による助成事業だ、ということがわかった。大林財団というと、おそらくゼネコンの「大林組」と関係があるのだろう。

2017年から、「《都市のヴィジョン-Obayashi Foundation Research Program》」というテーマで、アーティストに都市をテーマにした研究・考察を発表してもらう、というコンセプトで助成事業を始めたのだという。その第一弾が会田誠。

制作助成事業 | 公益財団法人 大林財団

「現在よりも1.5倍高い東京都庁を新たに作り、建物の上には天守閣を作る」
「霞ヶ関の上に、外国人に利便を図った特区『出島』を作る」
「新宿御苑を大改造し、ビオトープを作る」
「北海道に遷都。群馬県は巨大な湖にする」

といったアイディアが、絵やジオラマ模型、黒板、看板、果てはペーパータオルに殴り書きといった形で表現され、展示されている。

会田誠好きでなかったとしても、あらゆる形で提案されるものに圧倒され、一つ一つを楽しめるはずだ。

一見ムチャクチャなことを言っているようだけど、その提案に至った背景を事細かに書いていて、その思考がとても示唆に富んでいる。大作「新宿御苑大改造計画」は、大改造後のジオラマ模型がメインのように見えるけど、実際はその周辺の壁にある黒板がメインだ。黒板にびっしり、何故大改造なのか?ということを数字データなどを示しつつ問題提起し、どういう改造をするのか、維持運営はどうするのか、収入はどうするのかといったことまで絵入りで事細かに書いてある。

御苑を盛り土して高さを出して、その地下には何らかの政府機関と、入浴施設を作るなんて書いてある。高台にある露天風呂から、見渡す限り人工物がない新宿御苑を見下ろす、なんてアイディアは「さすが芸術家、発想がすごい」と唸らされる。

土木建築を知っている人、お財布を握っている政府や自治体の人、周辺住民の人、誰もこんなことは思いつかない。というか、そもそも実現は無理だ。でも、こういうワクワクさせられる案があるからこそ、「現実的なものを作る際」にも遊び心が残るんだと思う。最初っから、現実路線ばっかりを追求していたのでは、面白いものはできあがらない。

大林財団の取り組みは、とても面白いものだと感じた。今後もこういう取り組みを続けて欲しい。

以下、会場に展示されていた作品の一部を紹介。(写真撮影OKだった)

「東京都庁はこうだった方が良かったのでは?の図」

「東京都庁はこうだった方が良かったのでは?の図」

「発注:会田誠、受注:山口晃」と記されている。

この会田誠のデッサンを元に、山口晃が実際に詳細な絵を制作している。

「☆マーク 特にどうしたら良いかわからなく、テキトーに描いたところ。良きようにヨロシク、ということです。」
「和の建築っぽいところは僕はうまく描けないので、山口さん、お願いハート」

なんてことが書き込まれていて、緩さがむしろ愛嬌。

シン・日本橋

壁面に張ってある紙は「シン日本橋」。

あまりに巨大なアーチで、人がすべり台のように滑り落ちてしまっている。こういう冗談を思いつき、そして絵として表現できるのがこの人の才能だ。

NEO出島

霞ヶ関の頭上にできた「NEO出島」。中に立ち入るためには、「国際人であり、かつ立派な人物」という条件を満たした人でないといけない特区。「立派な人」という曖昧な表現を敢えて使っているところが面白い。

新宿御苑ジオラマ

「新宿御苑大改造計画」ジオラマ。

これは今回の新作ではなく、2001年の作品らしい。

奥に見えるのは代々木のドコモタワー。つまり、新宿三丁目方面は、とんでもない盛り土をすることになる(周囲のビルの高さと比較しても、この盛り土がとてつもないことがわかる)。

明治通り側には、「新宿御苑」と赤いネオンが輝く。

新宿御苑大改造計画1

ジオラマが展示されている周囲の壁に、びっしりと黒板が張り出され、会田誠による「新宿御苑大改造計画」の考えが書き込まれている。大量の文字、そして面白い絵がたくさん。

「私見によれば、日本の最良のパブリック・アートは上野の西郷サン。芸術性を全く感じさせない。」などと一言余計なことも描いてあってお茶目。

新宿御苑大改造計画2

「平坦な森林が国土を覆うヨーロッパにおいて、都市公園がその森を模するように、日本の都市公園も狭く険しい日本の代表的な地形を模すれば良いのです」

と提唱している。これにより、他国と比べて見劣りする公園の広さを補う、素晴らしい公園ができるという発想。

水は暗きょになっている玉川上水から汲み上げて浄水したものを利用し、急峻な谷と川を作るという。そしてその周囲には様々な木々を植え、ビオトープとし、究極の箱庭を作る。

新宿御苑大改造計画3

園内には一切植物名のプレートなどの文字表記はなしとする、というユニークな発想。大賛成だ。道に迷うのが問題ならば入り口で地図を渡せば良い、という考え。

新宿御苑大改造計画4

新宿門から見た新宿御苑。
盛り土の下に6階建ての商業施設が入り、ビックカメラやパチンコ店、風俗、クラブが入居してテナント収入を得る。「第2の不夜城と呼ばれたい!」と描いてあり、なんちゅー気楽さなんだと思う。

高名な建築事務所によるグランドデザインや、官公庁が作る案だとこういう発想はまず出てこないだろうから、とても痛快だ。柔軟な発想をあえて提示できるのは、芸術家ならではだ。

なお、御苑の中に入るには、1階からエスカレーターで5階くらいまで上がる。外に出るといきなり滝が待ち構えている、という作り。

テナントの6階には風呂があり、御苑内に向けて露天風呂がある。入浴料1,500円、レンタル浴衣500円。

千駄ヶ谷方面の地下は「何らかの政府機関」が入り、非常用物資の備蓄基地や政府機関が停止した際の機能移転先として活用。

「自然というファンタジーを死守するために、コンクリート等のマテリアルを厳禁。作業員も夜間に作業を行うなど、「自然よりも自然味」になるようにする。

新宿御苑大改造計画5

園内に設ける茶店は、「いかにも」な日本風建築は排除し、無国籍な、弥生式住居とアイヌと東南アジアの家を混ぜたような建物とする。

こういう発想も面白い。日本人って、「サムライ」だの「ナデシコ」だの、ステレオタイプな発想に案外拘泥しているものだ。せっかく長い歴史がある国なんだし、もっと広い視点で日本を再定義してみるのは僕も賛同だ。

ちくわ女

神奈川の川崎と千葉の木更津を結ぶ、「東京湾アクアライン」。そのトンネル部分の排気口として存在する「風の塔」がいまいちイケてないので、もっといいものに作り替えるとすればどういうデザインが向いているか?という検討。

その結果、相原コージの「コージ苑」に登場した「ちくわ女」が最も適しているのではないか、という結論になったという。

電車グミ

満員電車グミ。

東京みやげのアイディア。

電車型の容器に人型のグミが一杯入っていて、扉を開けると中からワラワラとグミが出てくる、というもの。キモい。是非欲しい。実際に作って売ってくれないだろうか?

立て看板

大学のキャンパスに置いてある、アジテーション看板のような作品。

「やっぱり北海道遷都」は、「頭寒足熱 ニポンの頭を冷やそう」なんて描いてある。

「亜熱帯・東京を脱出して真の先進国へ!西南中心の日本史を今こそリセット!」と描いてあって、その適当っぷりが面白い。高田純次ばりのいい加減さだ。

2つ隣には、「○×半島無人化計画 」という看板。「日本狼復活!」だって!

群馬県を巨大湖にします

これは完全に言いっぱなし。

「公約、群馬県を巨大湖にします。」

群馬県を、榛名山と赤城山以外水没させ、掘った土を群馬県南部に盛り上げる。

上州無宿のからっ風野郎な悪名を返上、今こそ群馬県に潤いあるイメージを。
滋賀県と姉妹県になります。
水力発電とかそういうセコいことは考えてません。

なんて言ってる。ひでぇ。

しかも、「群馬県知事候補 あいだまこと」というたすきをかけた会田誠がこの発言をしている。絶対選挙に受からないわ、これだと。

でも、凡人だとこういう冗談すら思いつかない。一体どこからこんな発想が出てくるんだ。

発展途上国から始めよう

会場の一面を埋め尽くす巨大な絵。「発展途上国から始めよう」。

廃墟の中にたたずむ少年少女は、全部エヴァンゲリオンの登場キャラクターだ。

権利関係はどうなってるんだ、と心配になるくらい、よく出来た絵。こういうのをしれっと描けてしまうのが会田誠の才能の一つだ。

セカンド・フロアリズム宣言

「セカンド・フロアリズムとは何か?」と題した作品。

キッチンペーパーや、その他雑多な紙に書き殴った文字だけのもの。

会田誠は日本語を駆使する芸術家だ。それは先ほどの「新宿御苑大改造計画」もしかり。

インフラさえ整ってたらスラムだって・・・いや、スラムこそ良くない?

と問題提起をしている。しかしその根拠は、「スラムが好きだから」という会田誠の個人的趣味の世界で、その馬鹿馬鹿しさも相まってとても面白い思考実験になっている。

「スラム建築キット」を用意して、上下水道や電気といったインフラは自由に引けます、耐震耐火性能は確保してあります、という状態であとは各自にお任せというスタイルとなる。

クオリティとしてスラムに戻るのではない。
規模としてスラムに戻るだけだ。

という言葉がやけにカッコいい。

家は四角がやっぱり基本

家は四角がやっぱり基本。
ロマンないけどそれが現実

と、急に現実に引き戻す話が出てくるのもお茶目だ。あんまり、「ドーム型の建物!」とか空想小説的な作りに妄想を拡大していかないところが、現実と仮想の狭間を浮遊している感じで、とても心地よい。今回の作品は全てそうだ。見ている側が、「なるほど、それは面白い」と感じ、その後「自分だったらどうするかな?」と仲間と酒でも飲みながら議論が出来る余地がある。この味付けが絶妙だ。

2018年5月頃に、大林財団のwebサイトにてこの展覧会の公式レポートが掲載されるようだ。財団の助成事業なので、「開催しておしまい」ではなくちゃんと記録として残すのだろう。改めてそちらのレポートを読んでみたい。とてもよい展覧会だった。やっぱり会田誠は天才だ。

(2018.02.25)