4時間の神秘、気鍋鶏とふたたび出会う

はるか昔、かれこれ9年ほど前、末広町にある「過橋米線」というお店で珍しい雲南料理を食べたことがある。あまりに独特な鍋なので、ずいぶん前のことなのに、いまだに強く記憶に残っている。

それは「気鍋鶏」と呼ばれるもので、しゃぶしゃぶ鍋のような形状の土鍋に鶏スープが入っているものだ。具は至ってシンプルだけど、そのスープの元となる水分は、「鍋を下から蒸して、上から垂れてきた水滴を集めたもの」というのが独特だ。つまり、水をいったん水蒸気にして、それを冷やしてまた水に戻す、という気が遠くなるような手間をかけていることになる。

そんな手間をかけたから極上の味が約束される、なんてことはない。とはいえ、無駄とも言えるおそるべき手間に敬意を表したい。

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この「過橋米線」というお店は、もう一店舗が日暮里にある。ここでも気鍋鶏を食べることはできるらしい。ただし、末広町のお店同様、「1日限定8食」ということだし、まあ食べる機会はないだろう、とほとんど考慮に入れていなかった。そのかわり、ランチでは何度か日暮里のお店を利用したことがある。

ここのランチは、安くて量がとても多い。750円で、土鍋いっぱいの煮込み料理などと、大盛りのご飯と付け合わせがつく。この近所に職場がなくて良かった、とつくづく思う。頻繁に通って、デブまっしぐらだ。

とはいえ、周囲のお客さんを見渡すと、さほどデブだらけでもないので、そんなに太らないのかもしれない。ちなみに客層は中国人がとても多い。

この日、西日暮里のお店で友人と食事をするつもりだったけど、狙っていたお店が閉まっていた。

こういう時、お互いが酒飲みならば「まあいいよ、適当に飲めるところに入ろうや」という話になる。でも、お互いが酒を飲まない(または積極的には飲まない)人だと、さあどうしよう、となる。折角会って食事でも、ということなのだから、それなりの「口実」というか、もっともらしいお店ともっともらしい料理が欲しい。

そこで入ったのが、過橋米線だった。「珍しい中国雲南料理のお店ですよ」と相手に伝えると、「へえ、それは面白そうですね」という展開になったからだ。これは便利だ。「抑えのお店」として、使えるぜ。

で、雲南料理を食べていたんだけど、まさか気鍋鶏があるとは思っていなかった。限定8食だし、もう時間は21時を回っていたし。

まあ売り切れだろうな、と思ってダメ元で店員さんに聞いてみたら、「いくつにしますか?」という返事。1個どころか、複数まだ在庫があるらしい。

ありがたく頼むことにした。もちろん1つで。一人1鍋はいらん。

待つことしばし、やってきたのがこれ。

4時間かけて、水蒸気を循環させてスープにしたという黄金色の液体。骨付きの鶏肉と、漢方とが入っていて、栄養分がしっかりと抽出されているという。

鶏肉はダシをとるためのようなものなので、メインはスープだ。スープをアテに酒を飲む、というのには向かないけど、滋味深い味わいにうっとりする。

これができるまで何時間もかかるんだよ、というストーリーがおいしさをかさ上げしている。面白い料理だよな、と仲間と語らいながら、楽しい時間を過ごした。

(2019.02.25)

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