日本橋べったら市が今年は開催される、という話を聞いて、数年ぶりに訪れた。
宝田恵比寿神社界隈の路上に屋台がひしめくお祭り。えっ、ここって普通のオフィス街じゃないか、というところに屋台がびっしり並んで人もびっしりなので相当驚く。

屋台の数が多い、というのは面白さが詰まっている。
オーソドックスなベビーカステラや焼きそば屋台があるいっぽうで、時代の流れに即したニューフェイスなお店も交じるからだ。これがこじんまりした神社の縁日だったらオーソドックス屋台だけになってしまうこともある。
ただ、こういう大規模なお祭りの屋台巡りは疲れる。仮にじゃがバターを食べようと思ったとして、じゃあどこのじゃがバター屋台にするかと探していると何店舗も見つかってきりがないからだ。あっちは100円安かったけどサイズが小さかったような気がする、とかこっちはキムチや明太子が盛り放題だ、とか些細なことが気になって決めかねて、ウロウロしてしまう。
べったら市はとにかく来場客が多い。道を歩くのも難儀、店に並んで注文をするのも難儀。あんまり悩まないでサッと買うのが正解なんだろう。

もちろん、屋台目当てでここに来ているわけではない。
人混みは基本的に嫌いなので、こういうお祭りにはあまり行きたくないのだけど、それでも「行かざるをえない」と思うのは、ここで「べったら」が売られているからだ。だって「べったら市」だもの。
べったらは、麹で漬けた大根の漬物だ。たくあんの白いバージョン、というと雑すぎる喩えだけど、まあそんなものだ。麹で漬けているので、甘い。
普段お漬物を買うことはしない僕らだけど、この市が立つときだけはべったらを買おうと思う。というのも、各屋台で食べ比べができるからだ。お店ごとにべったらの味は違う。食感も違う。大根がサクッとしているところもあれば、ねっとりとしているところもあるし、甘ったるいところもあればさっぱりしているところもある。そういうのをお店ごとで試食させてもらい、夫婦で「うーん、どれがいいだろう」と悩む。
しかも、このべったら市では「皮付き」の大根を漬けたべったらも売られている。お店の人は「皮なしのほうが美味しいですよ」というのだけど、皮付きのべったらは希少性があって嬉しいのと、ザクザクした食感が楽しいので選びたくなる。
べったらは「えっ、そんなにするの?」というくらいお高い。重さで値段が決まるので、目の前の大根1本がいくらになるのかは計量してみないとわからないが、だいたい大根1本で2,000円近くする。大きなやつを選べば、それ以上の値段だ。
こうなると、選ぶ方も相当気合いが入る。下手なものは選べない。そして、べったらを買ったら、しばらくはそれを食べ続けることになる。大家族ならともかく、僕ら夫婦だけが食べるとして、そんなに大量のべったらは消費できない。
だからこそ、二人でスゲー悩んで、議論して、「すいません、さっき食べさせてもらったんですけどもう一回いいですか?」とお店にもう一度行って、ようやく「今年の1本」を決める。このプロセスが楽しい。
今年も納得のいくべったら、買えました。しばらくは食卓に上げるおかずの量を減らさないとな。
(2022.10.19)
コメント