那須、といっても福島県との県境に近い場所に「那須まちづくり広場」がある。車なら那須高原SAのスマートIC、新幹線なら新白河が近い。
廃校となった建物を利活用していて、そのリノベっぷりにはびっくりさせられる。地域の人のコミュニティ&カルチャースペースにしました、とか道の駅風なテナントを入れました、というスタイルではなく、結構あれこれ考えられている。
教室の一部は企業のオフィスとして使われていたり、簡易ながらホテルになっている。もちろん、売店やレストラン、会議室もある。
そして校庭だった場所には新設された2階建ての住居が並ぶ。訪問介護・看護にも対応する、主に高齢者向けの居住スペースになっている。新設されたものもあるし、東日本大震災の際に用いられた仮設住宅を移築したものもある。
「みとりえ」という名前の施設もあり、そこは人生最期を過ごすことを前提とした看護師常駐のグループホームになっている。
他にも、障害者雇用の会社があったり、全体的に福祉施設の様相が強い場所だ。廃校の再利用なので、さすがに観光客向けの商業施設というわけではない。
しかし、周辺住民+移住組のコンパクトシティがここでは実現しており、静かながらも賑わいがある、という大変おもしろい空間になっている。
この「那須まちづくり広場」には「コミュニティカフェ CoCo」というレストランがある。
主にこの施設に居住する人の食事の場として機能しているようだが、僕のような外部の人が利用することはもちろん可能だ。
このお店の料理が、しれっと小洒落た見栄えで、なおかつ美味しいのでびっくりする。
びっくりする、というと失礼だが、もっとご高齢者に向けた、居酒屋のランチ定食メニューみたいなものが出てくるイメージだったからだ。
この日は、「広場プレート」として「ゴロッと豚肉とトマトのカレー ヨーグルトゼリーつき」がサンプルとして展示されていた。お値段、1,000円。
案外高いな、と思うかもしれないが、そもそも那須は物価が高い。そしてこの色とりどりの食材が盛られているカレーを見れば、1,000円でも全く問題ないレベルであることがわかる。
使っているお皿ひとつとっても、「地元のおばちゃんが、地元のおじいちゃんおばあちゃんに向けて営業してます」というタイプのレストランではないことがわかる。
ワーケーションだとかで地方に滞在しながら仕事をする、というのがもし可能ならば、こういうメシが食べられる場所に滞在したい。地方の不便さも楽しいが、仕事をする場ならば、食事について不自由しない環境になっているのがいい。
この施設は建物を今風に増築・新設したり、都会からの移住を受け入れたりと運営が積極的だ。いずれはこのレストランを軸に据えて、もっと企業誘致だとかワーケーション用の施設(コワーキングスペース、宿泊施設等)の充実が図られていくのかもしれない。
今回この地を訪れたのは、昨年僕一人でここにやってきた際に食べたケーキが衝撃的だったからだ。そのケーキに再会したくて、またやってきた。
初めて食べたときはまったく油断していたのだが、びっくりする美味しさで、慌てて家に持ち帰るために追加で購入したくらいだ。
那須でケーキを買って東京に持って帰る、しかも常温で、というのは随分無理があることだが、少々ケーキが崩れても、傷んでもこれは家で待つ妻に食べさせたい!と強く思った。
そうやって持ち帰ったケーキはいしも大絶賛で、「これはまた食べたい」と言わしめた。僕も、単にケーキを食べるだけでなく、このケーキが売られている「那須まちづくり広場」という空間そのものをいしと共有したかったので、今回の訪問となった。
ケーキは、CoCoのある校舎の向かいにある建物で、「菓子工房くるみの森」というお店が作っている。職人さんお一人で作っていらっしゃる個人商店だ。くるみの森そのものはお店ではなく、この工房で作られたケーキ類はCoCoとその他わずかなお店に卸される。
土曜日の11時前に訪れたときは、「ゴルゴンゾーラのチーズケーキ」「チョコレートケーキ」「魔法のたまご」が置いてあった。おそらく前日の残りで、今日製造したものはまだ店頭に並んでいない様子。前日の残りがあってよかった。
「ゴルゴンゾーラのチーズケーキ」「チョコレートケーキ」をいただく。480円。
「わざわざここまでやってきてケーキを食べる」というシチュエーションによるゲタは多分にあると自己認識している。でも、それを差し置いても、それを込みでも、どっちにせよすげー美味い。ふんわり感がすばらしく、口当たりが素晴らしいので、優しい味わいが口の中に満たされる。
今日のケーキ入荷はまだかな、と工房の方を見てみると、電気が点いているのが見える。くるみの森さんは作業中だ。さあ、出来上がってこちらに搬入されるのを待つか、それとも工房に押しかけるか。
いやいや、すでに二人でケーキ2個を食べているのだから、これ以上食べるのはおかしい。食べ過ぎだ。「結局入荷がなかったので、今日は2個のケーキを食べて引き上げました」ということにしておくのが常識というものだ。
・・・と思ったら、入荷きたー。
くるみの森さんがCoCoにケーキを運び込んで、商品の引き渡しをしている。おそらく何をどれだけ販売委託します、という話をしているのだろう。その会話が終わったところで、くるみの森さんに夫婦でご挨拶に行った。
くるみの森さんとは、昨年秋にちょっとお話をする機会があって少し面識がある。「昨年家に持って帰って、妻もとても美味しいと言ってくれたので、今回は家族で食べにきたんです」と伝えると、とても喜んでくださった。
近況をお伺いすると、今年の夏は猛暑だったので大変だった、とのこと。
どうやら、暑いと人という生き物はケーキを食べる意欲が減るらしい。ケーキよりもアイスクリームが食べたくなるのかもしれない。その発想はなかった。僕ら消費者は、その時の気分であれを食べようこれを食べよう、と無節操に判断する。たとえば夏におでんを食べないように。でも、専業で特定の食べ物を扱っているお店からすると、気候変動というのは死活問題になるのだな。
あと、今年は暑すぎて、生クリームの泡立ちが悪くなったという話をニュースで見かけた。生クリームをホイップするためにはよく冷やさないといけないのだけど、室温が高くてすぐにダレる。また、牛が夏バテしてしまって、牛乳の生産量と乳脂肪分に影響が出たそうだ。ケーキを食べるためにもSDGsという観点は必要な時代。
くるみの森さんと別れたあと、「せっかくなので」といしが言う。つまり、追加でケーキを食べよう、という意味だ。
結局この日、二人は立て続けに4個のケーキを食べた。でも、それくらい美味しいし、そう簡単に訪れることができる場所ではないためについ追加注文をしてしまった。
ちなみに翌日17時ころ、東京に戻る際にわざわざまたこの地に立ち寄った。あわよくば今年の夏最後のくるみの森ケーキを、と狙ったのだが、この時間ともなればCoCoは営業を終了していたし、菓子工房も作業を終え誰もいなかった。
そんなにしてまで食べたい、ケーキ。
今後、不定期ではあるものの、この地を訪れてケーキを食べたい。今後の僕の考えとしては、「そろそろアレを食べたくなったね、最近行っていないから行こう」と家族がウキウキで行ける場所を全国各地に何か所も作っていく。
その一例が、千葉県の魚料理の店「ばんや」だし、上高地の「カフェ・ド・コイショ」だし、那珂湊であんこうやメヒカリを買い出しに行く、といったものがある。1年のルーティンとして、那須も組み入れたいね、と東京への帰り道、夫婦で話をした。
(2023.08.26)
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