物価高をかき氷で実感する

東京の台東区・谷中に「ひみつ堂」というかき氷専門店がある。

独身時代から時々通っているかき氷の名店だ。夏になると、涼を求めて客が何時間も待つ、そんなお店だ。僕は混雑している時期や時間帯には絶対に行きたくないので、あえて冬にこのお店を訪れたり、朝早くや閉店間際の夕方を狙って訪問している。

果物やかぼちゃ、栗といった食材を贅沢につかった蜜を天然氷にかけるのがこのお店のスタイル。そのため、値段はどうしても高い。1,000円を下回るメニューは、一つも存在しない。これは最近の傾向ではなく、昔っからそうだ。

これまでも、1,000円台半ばのかき氷を頼んで、「高いなあ、かき氷にこんなお金を払っちゃって罪悪感を感じるなあ」と心が傷んだものだ。このお店は、僕の財力にとっては「満足感と、罪悪感とが拮抗するお店」だ。満足感のほうがやや勝っているので時折このお店を訪れているが、それでも毎回「うーん」と思っている。

かき氷のメニューは果物の旬や仕入れ状況によって頻繁に変わる。メニューは色紙が使われ、そこに手書きで小さな字で書き込まれている。メニュー数が多いのと、まっすぐに字が書かれていないので、ぱっと見て理解できない作りになっているのが常だ。どれが定番で、どれが季節限定なのか、どのメニューが元となるかき氷の派生系なのか、わかりにくい。そのため、いつもものすごく目移りするし、これだ!と決めるのが難しい。

特に値段が高いので、「おっ、これはいい」というメニューを見つけても、即座に「じゃ、これにしよう」と決めきれない。高いから、もう少し手頃な値段で、自分が納得いくメニューを探そう、と他のメニューも探すので、いっつも「どうしようどうしよう」と思う。で、最後はオーダーを取りに来た店員さんの眼の前で、エイヤッと思いつきで注文を決める。

ナガノパープルヨーグルト、2,100円。

ちょっと前まで、ひみつ堂で2,000円を超えるかき氷というのはレアケースだったはずだ。しかし2023年秋、もはや2,000円を超えているメニューはザラ、という状況になってきている。

お店がぼったくってる、とは思わない。もともと高品質高価格の商品を提供してきたお店なので、その延長で今の値段があるのだろう。つまり、食材の仕入れ原価も、人件費も、それなりに上がってきたよ、ということなんだろう。季節ごとにメニューがころころ変わるお店だし、独創的なメニューが登場するお店なので、価格設定の柔軟性は定番料理ばかりのお店よりはるかにある。

この1年で物価高を感じることはすごく多いが、一番それを実感したのがこのひみつ堂でのかき氷だった。今後、こういう価格帯が当たり前になっていくのだろう。

翻って、我が家の世帯年収は大して増えていない。なので、夫婦揃って「どうやって収入を増やせばよいか」という話を時々するようになった。副業を始めようという意味ではなく、今やってる仕事をどう高単価なものにしていくのか、という話だ。

政治が悪い、社会が悪い、高い値段をつけているお店が悪いと他責にしても何も解決しないので、自分でなんとかしなければ。そう思わせる、決して甘くないかき氷体験だった。

(20232.09.22)

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