パートナーのいしがほしいも、焼き芋をとてもとても好む。
我が家にはシャープの「ホットクック」があるのだが、冬になると煮物や汁物が作られるよりも、もっぱらサツマイモを蒸すのに使われているくらいだ。
そんなわけで、アンコウとメヒカリを買い求めて茨城県の那珂湊を訪れた際は、必ず欲しいもを買って帰る。
那珂湊界隈は、ほしいもの産地だからだ。「産地」どころか、地元では「ほしいもの聖地」とまで自称しているくらい、ほしいもの生産量が多い。
ちなみに、那珂湊からほど近い阿字ヶ浦には「ほしいも神社」がある。これは最近になって作られたものだが、ほしいもは十分冬の観光資源になりうる。
所詮サツマイモ・・・と思ってしまうが、ほしいもというのは地味に高級品だ。果物でも柿は安くても干し柿が高級品なのと一緒で、ほしいもを作るのは大変な手間暇がかかる。なので、うっかり衝動買いするにはお値段が高い。
しかし茨城に来ると、いろいろなほしいもが売られていて、中には安いものもある。そういうのを見つけて買う、というのは楽しいレジャーだ。
那珂湊にはほしいもの直売所が一軒あって、そこには数種類のほしいもが売られているのが常だ。
この日は、
玉豊、紅はるか、いずみ、安納芋
の4種類の芋で作られたほしいもが売られていた。
また、ほしいもといえばこの形、と多くの人がイメージする「平干し」のほかに、芋を丸ごと干した「丸干し」、そして平干しを作る際に出た端切れ部分の「せっこう」が売られていた。
せっこうは形が悪くて小さい分、お値段は安い。味は全く見劣りしないということなので、こういう端切れ品を安く買えるのが直売所の魅力だ。他にも、規格外品も袋に詰めて割安に売られていて、それもまた魅力。
それにしても「玉おとめ」だの「紅はるか」だの、最近のさつまいもの品種はまるでフルーツのような名前がついている。ぱっと見た時にこれがさつまいもだとはわかりにくい。それだけ、さつまいものブランディングが変化してきたということなのだろう。
僕は「このあたりに点在している、ほしいもの直売所を巡る旅は楽しいではないか?」と以前から考えていた。お得な品が手に入るかもしれないし、試食ができるかもしれない。なによりも、小規模に作っている工場とその直売所を見つけ出すという行程が楽しそうだ。
香川県における、讃岐うどんのマニアックなお店を探し当てる感覚に近い。
今回、ものは試しでそんな直売所をいくつか巡ってみることにした。
まず訪れたのは、「ほしいも村飛田勝治農園」という場所。
なお、事前の情報収集は一切していない。Googleマップで「ほしいも」と入力して検索して見つかったお店に突撃だ。そのほうが、ワクワク感がある。
直売所、といっても駐車場さえないような、お店なのか民家なのかわからない場所だったらどうしようと思っていた。でもこのお店はちゃんと駐車場があるし、なんなら店の前に記念撮影用の顔はめパネルさえある。ここなら安心してお買い物ができそうだ。
ほしいもに使われているさつまいもの品種がズラリ。知らないものがいっぱいだ。へえ、ほしいも業界って今やこんな多品種なのか。
実際、あれこれ買って帰って食べ比べてみると、その違いは歴然で面白い。華やかに甘く、ねっとりした品種もあれば、さっくり歯で切ることができ、甘さはじんわりゆっくり、という品種もある。
甘みが少ないほしいものほうが、僕が思い浮かべるほしいもだ。でも今や多様性の時代になっているので、選りどりみどりだ。
何度か食べ比べてみたが、甘いほうが格上、というわけでもなさそうだ。甘くてねっとりのやつは、お茶請けとして1枚食べるにはいい。でも味が華やかすぎて、何枚も食べようとは思わない。一方、昔ながらの甘みが地味なやつは、暇つぶしにずっと食べていられる、そんなヤツだった。
店内には平干しのほしいもが陳列されているのだが、お店に入ってすぐのこのコーナーには丸干しが並んでいる。丸干しは製造者としても誇りがある商品だからだ。
薄くスライスした平干しは乾燥期間一週間程度なのに対し、芋そのまんまの丸干しは1ヶ月の乾燥を必要とする。手間暇が段違いで、うまく乾燥させるのは大変らしい。
丸干しが入ったカゴには、「品薄のためお一人様2点まで」と数量制限の注意書きが取り付けられていた。このお店のほしいもは天日干しで作っているそうなので、天候不順だと丸干しを作るのに支障がでるだろう。
なお、丸干しは250g700円。
平干しのほしいもが並ぶ店内。250g400円~600円。600円するのは「たまゆたか」で作ったほしいも。
また、白いかごには訳あり品が入っていた。1kg1,500円。訳ありとはいえ、激安だ。こういうのを入手してウキウキするのが、楽しい。
店員さんから、もうすぐ焼き芋が焼き上がると教えてもらう。ほしいも屋さんだけど、来客向けに焼き芋も焼いているらしい。それは楽しみだ。
しかし、時間になっても焼き芋は焼き上がらず、「今日は雨が降っていて寒いため、焼き上がるまで1時間くらい余計に時間がかかりそうだ」ということが知らされた。焼き芋も気候に左右されるのか。
そのかわり、ふかし芋が用意できたので良かったら食べていってくれ、と言われた。ほしいもに使う芋を蒸したものだという。ほしいもはサツマイモを蒸して、皮を向いて、それをスライスして(平干しの場合)、網の上に乗せて天日干しにして出来上がる。これから店内に提供されるのは、そのほしいもの製造過程のいもだという。
1個150円。今日はべにはるか。
しばらくして、蒸したてふかしいもが工場から届けられた。本当に蒸したてで、湯気がもくもくと上がっている。触ると熱い。
それを店員さんはラップでくるんで、紙コップに入れてくれた。買ってみよう。
食べてみたらこれが甘いのなんの。美味いなあ、なんだこれ。焼き芋でもほしいもでもないので、ねっとりしっとりほくほくしていて、しかもかなり濃厚に甘い。こんなうまいさつまいもは、僕は初めてだった。
ちょうど蒸したてのタイミングで食べられたのも良かった。冷めていたら、ここまで感動しなかっただろう。
このお店はとても気にいったのでまた訪れたいが、その際にはふかしいもも、焼き芋も両方とも食べられるように時間調整をしたい。
この「ほしいもの旅」に同行していた友人のよこさんが、「探しているほしいもがある」と言う。
彼女は相撲ファンなのだが、茨城県にある二所ノ関部屋がお取り寄せをしている「マルデ」という農家のほしいもを探しているのだそうだ。
調べてみたが、マルデのほしいもがどこに手に入るのか、さっぱりわからない。情報が公になっていないようだ。
こういう「まだ見ぬ強豪ほしいも、知る人ぞ知るほしいも」を探し求めてあちこち旅するのは楽しい。
現地に行けば売られているかもしれない、ということでマルデがあるという鉾田市に行ってみた。鉾田市は大洗の南の海沿いの自治体だ。
Googleマップ上では、この界隈にほしいもの直売所は見つけられなかった。そのかわり、農産物直売所「サングリーン旭」があったのでそこに行ってみた。
「マルデ」について調べてみると、この「サングリーン旭」と関連性がありそうだったからだ。
ちなみに、二所ノ関部屋はここから離れた、牛久大仏の近くにある。
ずらりと並ぶほしいも。
しかし、よこさんが探し求めていた、二所ノ関部屋御用達のほしいも「マルデ」は売られていなかった。残念。
売切れたのか、それとももともと取り扱いがないのか。
こういう謎めいた要素があるのも、ほしいもの面白さだ。少規模のほしいも農家さんがたくさんあって、独自の商品を出して地元で売っている。どれが自分にとってベストなほしいもなのかは、食べ歩くしか結論が出ない。
「ほしいもの大手業者」というのがいるのかいないのか、わからないが、いろんなお店を訪れるたびに様々なブランドのほいしもが売られているので面白い。
ただ、こういうお店ではB級品が格安で売られているわけではないので、「味を試してみたい」と思っても気安くあれもこれも買うわけにはいかない。
「ほしいも探しの旅」をするなら、その場で試食ができたり、安い端切れが売られているような農家さんの直売所のほうが良さそうだ。
さすが茨城。さつまいもだけでもたくさんの種類が売られていた。こういう光景、なかなか見られるものじゃない。
「やっぱり直売所がいい!」ということで、もう一軒直売所に行ってみることにした。
直売所に行く、ということは、そのお店では自社製品しか扱っていないわけで、探している「マルデ」のほしいもは手に入らないけれど。
訪れたのは、「ほしいものいいじま」というお店。
これ以上南下すると、鹿島神宮や銚子が近くなってしまう。このあと、マルデ探しのラストチャンスとして茨城空港すぐ近くの「そ・ら・ら 農産物直売所」にも寄る予定なので、南下しすぎではある。
それでもこのお店が気になったので、行ってみた。
国道から脇道にそれ、しばらく進んだところにあるお店。
民家の前に立ちふさがるようにプレハブが建っていて、プレハブが直売所、民家がほしいも工場だった。
お店の中に入ってみると、焼き芋が入った袋がずらりとカゴの中に入って売られていた。
驚くべきはその値段で、大のサイズが500gで500円、小が350円だった。安い。
ちなみに大は紅はるか、小はシルクスイート。
冷蔵ケースには、どさっと袋詰されたほしいもがみっちりと詰まっていた。
安いものだと400グラム300円。高くても250グラム610円や450グラム800円だ。これはいい、あれこれお試ししたくなる。
実際、いしはあれもこれもとついつい手にとってしまい、そのままお会計へと向かっていた。1袋数百円、というのは気が緩みやすく、そのまま何袋も買ってしまう。
一般的なほしいもも、一袋数百円で買える。しかし、手に取ったときに「あ、軽いな」と感じる程度の重さしか入っていないものだ。なので、「この軽さで数百円もするのか。高いな」と感じる。しかしこのお店はどうだ。「ずっしり重くて数百円!安い!もっと買おう!」となる。
これが直売所の嬉しいところだ。
このお店は他にも、焼き芋が1本120円から売っていたりして芋好きにはたまらん値段設定だ。というか、120円で焼き芋を売っても商売にならないだろうに、どうなってるんだこのお店は。こんなすごいのが茨城県のほしいも事情だ。そして、ほしいもにはシーズンがあるので、こういうのを楽しめるのは秋から春にかけてとなる。
季節感がある、というのもまた楽しい。
来シーズンは、もっと本腰を入れてほしいも直売所巡りを企画したい。その際はどこかで「戦利品を実食する時間」を設け、どれが好みかみんなでわいわい話し合いたいものだ。早くも来年が楽しみだ。
【余談】
なお、このあと「そ・ら・ら 農産物直売所」を訪れたが、結局マルデは見つけられなかった。来年はマルデ探しも一つのテーマだ。
(2024.02.23)
コメント