積み団子という概念を初めて知った

親族の不幸があったため、一族がドタバタしている。

そのドタバタは結婚式の決め事に似ているな、と傍からみていて思った。あっちに声をかけたらこっちにも声をかけないと、とか、誰から声をかけるのがスジだろうか、とか人間のしがらみが凝縮していたからだ。

あと、遺族がもっとも頭を悩ませていたのが「遺影をどれにするか」だった。葬儀社の方が提示した葬式のプランをどうするか、というのはさほど悩むことなく決まったものの、遺影決めのために直系遺族全員があーでもないこーでもないと話し合っていた。

それを見て、「ああ、僕はいつ死んでも大丈夫なように、毎年頭に『今年僕が死んだ時はこの写真を遺影にしてね』というのを選抜しておいて家族に伝えておくのがいいな、と思った。

人間って残酷なもので、当然のことながら死期が近づくにつれて写っている写真の顔に精気が失われていく。そして老いてきて、見栄えが良いとは言い難いものになっていく。これは遺影として使いづらいよね、ということでもっとニコヤカかつはつらつとした写真を探すと、「えー、これはいくらなんでも若すぎるでしょう・・・」という一昔前の写真が候補に上がってくる。マッチングサイトでこんな写真を使ったら、詐欺で訴えられるレベル。

遺影、といっても火葬する前の死者の顔を写すわけじゃない。なので、いつ・どのような写真を遺影として選択するのかというのは遺族の恣意的な判断によって決まる。そして、後世に故人を語り継ぐ時、その遺影をもとに「あの人はこんな人だった」とキャラが固定されていく。

もういっそのこと、おめめパッチリに加工したり頬が赤らんでいたりうさぎみたいなヒゲが生えている加工を施した写真を遺影にしていいんじゃないか、と思う。どうせ遺影ってリアルなものじゃないんだから、究極的にはVTuberみたいにバーチャルな顔でもいいと思う。

遺族たちが葬式の段取りで忙しい中、僕はそのフォローということでお買い物にでかけた。葬儀社の方から、仏壇の両側に三段の供物台を設置し、そこにお供物を載せるのだと言われたので、その買い出しだ。

で、渡された供物台のイラストで「ん?」となった。下から順に果物、甘いもの、そして最上段に積み団子と書いてある。積み団子?なんだそれ。

たぶん僕の実家ではこの文化はない。三段の供物台を使うことはあったし、高坏(たかつき)で果物をお供えしたことはある。でも、僕の記憶の範囲内では、この絵のように団子をピラミッド状に積み上げたのは見たことがない。これが宗派の違いなのか。

調べてみると、地域や宗派によってこの団子の数や積み方は違うようだ。たぶんおかでん家は丸餅を載せていると思うんだが、よくわからない。お盆のときに白玉団子をお供えしているのは見たことがあるが・・・。

困惑した。葬儀社の人は、「餓鬼に食べさせるため、毎日1個ずつ数を増やすのだ」などと言う。一体いくつ団子がいるんだ?

白玉粉か上新粉を買ってきて団子を捏ねるのがよいのだろうが、ドタバタしている家で「さあ団子を作るよー」というのはちょっと気が引けた。こういうときは、和菓子屋さんに行って相談したほうが早そうだ。

というわけで和菓子屋さんを探して自転車をキコキコこいで遠路お出かけ。今更知ったのだが、街中に和菓子屋さんってありそうで無いものなんだな。デパ地下や駅の土産物コーナーに和菓子は売られているけれど、街の中にはあんまりない。お陰で都会にもかかわらず数キロ先まで自転車を漕ぐことになった。

で、ようやくたどり着いたら、「本日予約のみの販売となっております」だって。えー。

途方に暮れながら、近くのスーパーに入る。

スーパーって、大抵レジの近くにみたらし団子とかよもぎ餅を売っているよな。そういうところに積み団子用の小さな団子が売られていないだろうか・・・と思ったからだ。それでダメなら、もう諦めて粉から団子を作るしかない。

すると、そんな僕に救いの神が。あ、違う、仏教のお葬式だから仏様か。

そのものずばり、「つみだんご」が山積みになっていたのだった。マジか。こんなの、僕は見たことがない。この界隈では当たり前の光景なのか?それともたまたまなのか?

笑っちゃうことに、「超特価品」としてセールされてる。セールの対象になるような品なのか、お供物なのに。

渡りに船なんだが、それにしても不思議だ。これ、団子か?団子にしてはやけに無造作に積んである。

触ってみると、団子とは思えない軽さだ。裏の成分表を見ると、それもそのはず、これは砂糖で作られたものだった。えっ、砂糖で作った「つみだんご」。なんなのそれ。そんなのありなのか。

さあ、この状況をどう理解すればよいのだろうか。目の前にあるものは、僕が探し求めているものではない説と、「団子ではないけれど、砂糖で作った団子を模したものなのでこれで問題ない」説と。

しかも、すべての団子が白い「白」と、てっぺんの団子だけが赤い「赤」の2種類が売られている。どっちを買うのが正解なんだ?やっぱりお葬式なんだから、オール白を買っておくのが正解っぽいのでそっちにしておこう。「赤」だと、紅白でなんだかおめでたい感じになるし。いや待てよ、御仏前の供物なんだから、おめでたいシチュエーションなんてそもそもないだろ?じゃあなんで「赤」が存在するんだ?

こういうのは、地域外の人(=僕)が買い出しをするもんじゃないな。土地の文化を知らなさすぎる。

このつみだんごを結局買ったけど、正解かどうか不安だった。なので、念のために大福餅も買った。餅として売られているものが他になかったからだ。消費期限が近くて3割引のシールが貼ってあったけど。

御仏前に戻ってみたら、この砂糖で作られたつみだんごで正解だったらしい。へえ、そうなのか。なまものである団子だと腐りやすいので、砂糖で作られた模擬品で代替するんだな。

で、念のために買っておいた大福餅だけど、「ちょうど供物台の二番目に置くのにいいじゃない」ということになって、そのまま二段目に置かれることになった。故人の方、すまない。割引シールが貼ってあるやつをお供えすることになっちゃった。まあ、遺族がそう決めたので問題ないのだけれど。

(2022.10.23)

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