2023年4月から、自転車に乗る際にヘルメットを着用することが「努力義務」となった。
「努力すること」が義務になる、という、変な日本語だ。もともと日本語は責任の所在が曖昧な表現が多いが、公的機関からこのような抽象的な言葉が繰り返し出てくるということに驚く。
それはともかく、ヘルメットといえば登山でもよく使われるアイテムだ。
昔は岩山をよじ登る人だけがヘルメットを着用するというイメージだったが、ここ10年くらいで急速にヘルメット着用が一般化してきたようだ。僕はほぼ毎年上高地を訪れているが、上高地で見かける登山客の多くがヘルメットをザックにくくりつけている。穂高岳、槍ヶ岳といった山々は岩稜となるので、落石に対する配慮が必要だからだろう。
それにしてもみんな律儀にヘルメットを持参しているな、と不思議に思って調べてみたら、長野県は「ヘルメット着用奨励山域」を指定していて、上高地周辺の山々はその山域に該当しているからだった。
https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/sangaku/helmet.html
2023年の僕は毎月の登山を目標にしており、夏山シーズンになると高い山も目指す。中でも、火山噴火によって数十名の死者が出た御嶽、沢登りを伴う斜里岳といった山々が計画に含まれているので、ヘルメットは今年中に用意しておきたいアイテムだった。
もし僕がもっと若ければ、ヘルメットなんて買わないでいいや!と判断したと思う。邪魔だし、お金がかかるからだ。しかし今の僕は若くない。足腰は長年のリモートワークのせいで年相応以上に衰えた。これだと、いつ転倒するかわからない。全く自分の体に信頼が持てないので、アイテムに頼らざるをえないのが50歳目前のおかでんの現状だ。
購入したのは、「ブラックダイヤモンド」社製のヘルメット、ハーフドーム。
僕の場合、登山・キャンプ用品はモンベル製品だらけだ。
モンベルは価格が安いのに機能性が高いし、便利な立地にお店があってアウトドア関連用品が(クライミングなど特殊なものを除いて)ほぼ全て1つの店舗で揃うのがありがたい。そして何より、僕はモンベルクラブ会員になっていて、店頭価格の7%引で購入することができる。おかげで僕はモンベル製品から逃れられない状態に陥っている。
もちろんヘルメットもモンベル製品が第一候補として上がったのだが、モンベルにしてはあんまり安くないと感じたこと、そして何よりもデカく堂々とモンベルのロゴがプリントされているのが嫌だなあ、と感じたので選択しなかった。
モンベルって、どこまで自社のロゴに価値があると考えているのだろう?と僕はいつも不思議に思う。僕のようにモンベルr製品をたくさん使っている人は他にもいっぱいいる筈で、そういう愛用者こそ「モンベルのロゴがプリントされていないほうがいいのに・・・」と思っているはずだ。
昔、ユニクロが急速にビジネス規模を拡大させていた頃、「上から下までユニクロの服を着ている人はダサい」と揶揄する風潮が世の中にはあった。でも、ユニクロは服の表に自社ロゴをプリントすることを殆どしない。店舗では佐藤可士和デザインのブランドロゴデザインをさんざん見せつけているのに、服ではロゴを見せない主義だ。僕は、モンベルもそうであってほしいと願っている。モンベルを好んで買っているからこそ。
さて、「自分の体力の衰えがなかったらヘルメットなんて買いたくない」と思っていた僕が改心して買うヘルメットだ。高いものは当然買えないし、買わない。ここで高級なヘルメットを買っても、妻子が喜ぶわけではないからだ。登山趣味は家族の中で僕一人なので、この手のアイテムにお金をかけるのは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。とくに我が家は夫婦それぞれが独立採算制ではないし、お小遣い制でもない。各自が好きなものを買って良いことになっているが、共通のお財布からお金を出すので心理的抵抗感は強い。むしろお小遣い制以上に節約思考になる。
今回買ったブラックダイヤモンドのヘルメットは、モンベル製のヘルメットより安く買うことができた。僕が買ったときは税込み7,000円だった。「できるだけモンベル以外の装備品も採用したい。そのかわり値段が高くならないことが条件で」という僕の要望にちょうどよかった。
ブラックダイヤモンドというブランドは、登山をやっている人以外は馴染みがないと思う。ロッククライミング向けのアイテムを売るブランドで、その一環としてヘルメットも売っている。
「ハーフドーム」という名前は、僕が人生で初めて海外旅行をしたアメリカのヨセミテ国立公園にある巨大な岩山からきている。ロッククライミングの聖地だ。
どうやら登山用ヘルメットの世界は、値段が高くなると「衝撃吸収能力はそのままで、軽くて薄くなる」というものらしい。
僕が買った「ハーフドーム」は登山用ヘルメットの中でも最安値に相当するものなので、それなりに大きくて重い。でも、ヘルメットにどこまでお金を払ってよいものか、自分なりの基準が無かったので「安全基準を満たしていて、安ければそれでいい」という判断になった。
ヘルメット前面には、大きくブラックダイヤモンドのロゴがプリントされている。思わず苦笑してしまうのが、このひし形のロゴがよりによってモンベルにそっくりだ、ということだ。やっぱり僕はモンベルの呪縛から逃れられないらしい。
口コミ情報を通じて予め知ってはいたが、ヘルメットの後頭部部分にあるロゴは雑なシールだった。これだとすぐに剥がれる。むしろ、すぐに剥がすことを前提に貼っているシールなのだろうか?趣旨がよくわからない。
僕はこの商品を実際に手に取ることなく、通販で購入した。
実物が届き、実際に被ってみて、「なるほど、これは実物をお店で見て、試着してから買ったほうがいいぞ」と思った。要するに、僕が想像していたものとちょっと違っていたからだ。
ヘルメットを被った自分の姿を鏡で見てみたら、やたらと頭が長い人になっていた。ある程度は覚悟していたけれど、それでもびっくりするレベルだ。
サイクリングのヘルメットと登山のヘルメットは、頭を守るという点では一緒だけど機能がぜんぜん違う。
サイクリング用のヘルメットは転倒して側頭部を地面に打ち付けることを想定して作られている。一方で登山用ヘルメットは頭上からの落石に耐えられるように作られている。このため、登山用はサイクリング用と比べて頭頂部の強度が強く、その結果「長い頭」になってしまうのだった。
ベンチレーションと呼ばれる、側頭部などの穴の大きさや数がサイクリング用ヘルメットと登山用ヘルメットで違うのも特徴だ。運動中は頭も発熱し汗をかくので、換気は重要だ。サイクリングの場合、転倒しても整地された地面に倒れることが多いため、ヘルメットはベンチレーションを大きく確保してもあまり問題にはならない。一方で登山の場合、ゴツゴツ尖った岩に頭をぶつけることが考えられるため、あまり大きくベンチレーションを用意できないという事情がある。
とはいえ、登山用ヘルメットの高価格帯になると、ベンチレーションがとても多い、見るからに涼しげで快適そうな商品が各社から発売されている。なので、安全性の観点でベンチレーション少なめ、というよりも、安価であってもヘルメットの強度を維持するためにベンチレーションを少なくせざるをえない、という事情がメーカーにはあるのだろう。
ハーフドームより少し高い価格帯で、マムートの「スカイウォーカー3.0」という登山用ヘルメットがある。そちらのほうがベンチレーションが多くて見た目がかっこよさそうだ。
この価格帯の登山用ヘルメットは、外側にポリカーボネイトなどで作られたハードシェルがあって、内側にインモールドと呼ばれる発泡スチロール的なものがあるという二層構造になっている。
防災ヘルメットと比べてどうして登山用ヘルメットはこんなに高額なんだ?と最初僕は思ったが、防災ヘルメットの多くはハードシェルだけの構造なので、値段相応の違いがある、というわけだ。
ただ、その分、頭が長くなる。インモールドの厚さの分だけ、縦長の顔になる。
うーん、あまりかっこよくないので、もし次にヘルメットを買い替えることがあるなら、値段が高くても良いので薄型のものにしよう。
「ヘルメットなんて保険のようなものなんだから、安ければいい」と思っていた僕が考えを改めるほど、このヘルメットの頭の大きさは驚きだった。
頭が大きく見えてしまう理由の一つは、のっぺりとしたデザインだ。自転車のヘルメットみたいに、躍動感があるデザインではない。そういえば、おでこのところに「つば」がついていないんだな。
理由は明白で、登山の場合は荒天時にレインウェアを着るからだ。その際にフードを頭にかぶることになるため、ヘルメットはできるだけツルッとしたデザインのほうが望ましい。また、登山という性質上、上を見上げる機会が多い。ヘルメットにひさしがついていたら、視界が狭くなってしまう。これはもう、仕方がない。
登山用ヘルメットには、どの製品もヘッドライトを装着できるようになっている。試しにヘッドライトを装着してみたら、ちょっとかっこよくなった。デザインにメリハリができて、それで「長すぎる頭」の印象が和らいだ。
ブラックダイヤモンドのヘルメットにモンベルのヘッドライトを装着。
さて、このヘルメットが実戦投入されるのはもう少し先。今年は体力の衰えを自覚しつつ、無理のない登山を心がけていきたい。
【追記】
2023年7月1日、斜里岳登頂中のおかでん。ヘルメットは登山開始から下山までずっと装着していた。
(2023.06.10)
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