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甲子(02)

2000年01月22日
【店舗数:—】【そば食:018】
東京都練馬区栄町

そばみそ、飛龍頭、もり、熱燗

どうもこの日は家を出るときから調子が悪かった。自転車用のグローブ、家の鍵、いつも持ち歩いている東京地図。玄関先で持ち忘れにあっと気づいて、部屋に戻っての繰り返し。ぼけが回ったかなあははは、なんて苦笑いしながら、ちょっと遠くの甲子に遠征そば食としゃれこんだ。移動してる間にも、「あっ、デジカメ忘れてる・・・」。いくら自分が粗忽者であっても、ここまでぼんやりしているのは珍しい。非常にいやな予感がする。

さすがに二回目ということで、入り口で一呼吸置いて景色を愛でるとか、がらっとお店に入るときの間合いってのがつかめてきた。いや、当たり前すぎる事なんだけど、このお店に馴染んでいけるようになってきた自分、ってのがちょっとうれしい。そんな魅力を持っているのが、この「甲子」だ。店に入っても、前回のように「お店の人が席に誘導してくれるのかな、それとも自分で勝手に席に座るのかな」なんておどおどすることなく、すっと自分の居心地のよい席に座る。

もちろん、注文も前回から目を付けていたメニューを選択。ここまでは順調だった。・・・が。お酒が出てくるまでの間、落雁とお茶を頂いていたら自分が財布を忘れてきていた事に気づいた。これにはさすがに顔が一気に青ざめてしまった。いつもズボンの尻ポケットという定位置に鎮座しているはずの財布がないとは、全くの予想外。あるわけないのに、何度もポケットをひっくり返し、なで回す。さっきまでの大人の余裕は一瞬にしてけしとんでしまった。

我ながらか細いな、と思う声でお店のおばちゃんを捕まえて、「すいません・・・財布忘れてきてしまったみたいなんですけど」と自白。「今から40分くらいかかるんですが、財布を取りに帰ってもいいですか?」。しかし、おばちゃんは一瞬のためらいもなく「また今度でいいですよぉ、次にいらっしゃったときにお支払い頂ければ」とにっこり笑ってくれた。ああ、なんていいお店なんだろう。感動すると共に、激しく恐縮してしまった。思わず、そのおばちゃんがマリア様に見えた。

しかし、こうなると恐縮してしまってなかなかくつろぐことができない。なんか罰ゲームを受けている感じになってしまう。料理が出てきてもお情けをかけてもらっているようで、平身低頭な状態。うぐぅ、これだったら無理してでも財布を取りに戻ればよかった。

この日、初めて「飛龍頭」なるものを目の当たりにし、食べる事ができた。そば関係の本で目にすることはあったのだが、それが一体どういう食べ物なのか全然知らなかったので、店のおばちゃんがオーダーミスで全く別のものを持ってきたとしても気がつかなかっただろう。そんな料理だ。

で、飛龍頭(ひりょうず、と読む)は一体何だったのか。わ、がんもどきの親分さんではないですか。硬球くらいのがんもどきが油でかりっと揚げられていて、だし汁に浸されていた。こ、これが飛ぶ龍の頭っすか、と首をひねりたくなる形をしているんだけど、まあ龍なんて見た人は世の中にはいないわけで、よしとしよう。この料理が絶品で、表面のかりかり感と中のふんわり感、そしてちょっと油がかっただし汁がこれまたたまらんものがある。ああ、至福。

お酒を飲みながら飛龍頭、そばみそを頂いていたらだんだん緊張がほぐれてきた。アルコールのせいもあるんだろうが、店を包み込むふんわりとした居心地の良さ、おいしいおつまみっていうのが大きい。幸せだなあ、と徐々にリラックスしてきた。

しかし、まだ完全にリラックスできない案件が一つ残されていた。肝心のおそばをまだ注文していなかったのだ。財布忘れに気づいたのは、お酒とおつまみの注文をした後だからまあこれら料理を頂くのは許される話だろう。しかし、財布が無い事に気づいた後になって追加注文ってのはどうだろう。すっごく厚顔無恥なんじゃなかろうか、と一人悶絶。かといって、お酒とおつまみだけで帰るってのはまるで居酒屋。そば屋さんに対して失礼なことだろう。おそるおそる、「すいません、もりそば注文してよろしいでしょうか?」。お客であるにもかかわらず、もの凄く下手なんである。

もちろん快く注文に応じてもらえて、そばを頂くことができた。ここでそばを食べるのは二回目だけど、やっぱりおいしい。ついついにこにこしてしまうおいしさだ。そば湯も絶品で、大きめの湯桶に入っているそば湯を全部飲み干してしまった。この頃には激しくリラックスして、いつもと同じ調子に戻ることができた。

隣の席では、中年夫婦が天ぷら盛り合わせを仲むつまじくつつきながら、「えびがおいしいねえ」と店のおばちゃんに誉め言葉を贈っていた。微笑ましい光景で、ついついこちらもにこにこしてしまった。そんな、「にこにこ」がキーワードになるようなお店がここ「甲子」だ。今回は財布忘れでとんだ迷惑をかけてしまったが、逆に言えばこれでまた明日このお店に行く用事ができたということで、そばを楽しめそうだ。

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