2000年01月23日
【店舗数:015】【そば食:021】
(東京都練馬区豊玉北)

鴨焼き、もり、冷酒(日置桜)

橡外観

西武池袋線練馬駅そばに、「ニューウェーブそば屋」と言われているお店がある、という情報は以前から耳にはしていた。何だ、ニューウェーブって。そばをケチャップで炒めて「そばナポリタン」とか「人間はそばだけ食べていれば健康に生活できます」みたいな宗教がかった似非エコロか何かではなかろうか、とその名前を聞いたときは思ったものだ。幸いにして、今日は近くにある「甲子」で食事をしたばかり。ならばこの目で見極めてやろうじゃないのと突撃することにした。

「まあ、そばラーメンやらそば冷麺とか、わけがわからんものが出てきたとしても、さっき食べた甲子のそばが大満足だったし良しとしようじゃないか」と、こころは既に入店前からネガティブな方向。「怖い物見たさ」という表現がぴったりだ。

さて、練馬消防署の裏手の路地にそのそば屋は存在した。・・・と書けば非常に簡単だが、この店を発見したときはその場に立ちつくしてしまったほどの衝撃だった。「き、喫茶店・・・じゃないのか、ここ」。そば屋といえば、もう100%入り口は引き戸に決まっているのである。そうでなければ、自動ドア。しかし、このお店は木の扉で作られていたのだ。窓も、そば屋にありがちなデザインではなく、どう見ても喫茶店かペンションか、といった感じ。こ、これがにゅーうぇーぶっスか先輩!っというその佇まいにただただ圧倒されてしまった。大げさでも何でもなく、入店するまではこの店が本当にそば屋かどうか不安でしょうがなかった。

ちょっと緊張しながらのれんをくぐる・・・つもりがのれんが存在しないので、ドアを「ぎぃ」と開ける。思わずお客である立場を忘れ、「ごめんください・・・」と弱気な声を出してしまったほどだ。

内装はさらにこちらを不安にさせる作りだった。それほど広くはない店内には、店名の由来になったと思われる橡の木一枚板で作った大テーブルがでん、でんと二つ。客席はこの大テーブルを取り囲む形で座ることになる。ご丁寧に、一人用のテーブルクロスが椅子にあわせてテーブルに敷かれていた。外見は喫茶店だけど、内装はこれだとイタリア料理屋だ。唯一そば屋だとわかるのが、客席に一人いたお客さんがもりそばを「ずずずっ」と音を立ててすすっていることくらいだった。

椅子に座って、「さてメニューを・・・」とあたりを見渡したが、広い橡テーブルのどこにもメニューなどない。壁もこざっぱりとしていて、メニューの張り紙など存在しない。ひょっとしてテーブルクロスの下に紛れ込んだか、とぴろりと捲ってみたが当然そんなことがあるわけはない。さて困った困ったと途方に暮れていたら、お店の人がなにやらごつい和紙(そのサイズはA3以上の大きさ!)の束を持ってきた。どうやらこれがお品書きらしい。店内にはお品書きがこれ一つしかないらしく、使い込まれていて和紙がちょっとぼろぼろになりかっていた。なにやら古文書でも拝ましていただいているようなありがたい気分になりながら、そのごわごわした和紙をめくる。

まずお酒だ、と注文したのは鴨焼きと冷酒。日置桜という聞いたことのないお酒だった。500円也。てっきり徳利に出てくるかと思っていたのだが、小さなグラスでのショット売りだった。うむ、高い。しかし、高いだけにうまい。こちらとしては、もう少し安いお酒で気楽に飲みたいっていう気もするんだけど、まあこの外観、この内装じゃ徳利片手で安酒くいくいっていう雰囲気じゃないわなあ。「しくしく、もっと飲みたいのに」とかいいながらちびちびお酒を頂いた。

お酒のつまみとしてセレクトしたのは、鴨焼きだった。ここの鴨焼きはおいしいという話を聞いたことがあったので注文したのだが、これが大正解。鴨肉と葱が炭火であぶられている、よくあるそば屋の一品・・・しかし、このお店は鴨は塩で、葱はたれで食べる指向だった。ねぎは、普通白い部分を使うのにこのお店では青い部分のみ。これもまた珍しい。さすがニューウェーブだ。・・・とにかく、今日は目新しい事を発見したら、何でもニューウェーブのせいにしてしまおう、とこころに誓う僕であった。

おっと、外見の目新しさに気を取られていて、味の評価をすっかり忘れていた。この鴨焼き、さすがにおいしかった。非常においしかった。鴨用に塩(天然塩?)が盛られていて、お好みに併せて塩味をつけて食べるのだけど、もう鴨が十二分にうまみを出しているので塩なんて全く必要なし。それくらい深みのある味わいだった。ああ、これはお酒ではなくてビールの世界だ。「うーん、お酒飲んだ後にビール追加注文ってのは粋じゃないよなあ」なんて自分の欲望を制御するので精いっぱい。そんな味わい。

そばは、生粉打ちが売り切れになっていたので、二八そばを頂くことにした。このそば、ものすごくエッジの立ったそばで、口の中で激しく自己主張をするのが特徴。しかし、そばが短いのでつるつるつるっというのどごしはそれほど楽しめるわけではないのが残念。麺は透明感のある色合いで、純粋で強気な味わいをよく表していた。

非常に料理を楽しませてもらったのだが、なんだか肩に力が入ってしまう感じがしてしまう。少数の友達と、「ちょっとおいしいそばを食べにいこうよ」と訪れるにはいいのだけど、一人で行くにはちょっと重荷だ。くつろげないというかなんというか。抜き身の鋭さというか。

でも、こういう鋭さがあるお店になじむことができるようになるってことが、経験なんだろうな。もっともっとこれから精進して、このお店に気軽に入れるようになりたいものだと帰り際強く思うおかでんであった。

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