甲子(04)

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2000年03月05日
【店舗数:—】【そば食:065】
東京都練馬区栄町

野菜天ぷら、卵焼き、せいろ、熱燗

4回目の訪問となる、甲子。

この店には、蕎麦を食べに来ているというよりも時間を楽しみに来ている、という感覚の方が強い。失礼ながら、蕎麦そのものは絶品!というワケではない。しかし、遠路はるばる遠征しているのは、そういう磁力をこの店が持っているからだ。

特に、何度来ても思うのが、蔵づくりの薄暗い店舗という店内の気持ちよさ。天井が高いので、薄暗くて密閉性の高い建物にもかかわらず、奇妙な開放感がある。臨席の会話も、天井に吸収されるのかそれほど気にならない。普通の店だったら、壁、床、天井と人のしゃべり声を反射しまくって、うっとおしく感じる時があるが、ここだとそういう心配はない。

それに、お酒を飲んでちょっといい気分になったときは何となくぽかーんと斜め上を見上げたくなるもんだ。絡み酒ならうつむき加減だけど、リラックスしている時はなぜか首は上を向く。そんなときに、吸い込まれるような天井の漆黒が見えると、ああなんか癒されるな、と。

こういう店だと、ビールってのはどうもなじまない。きゅっと熱燗を飲る。これに限る。「飲む」でも「呑む」でもちょっとイメージと合わない、やっぱりここは「飲る(やる)」と表現すべきだろう。熱燗のいいところは、徳利をつまんで、「あちち」とか言いながらお猪口に適量注いで、そしてちびーりちびりと頂くというプロセスがあることだ。升酒だと、いきなり飲んでしまっておもしろみがない。ビールも、瓶を徳利に見立て、グラスをお猪口に見立てれば同じ事をやるわけだが、「ぐいっ」と飲んでしまうのでやっぱり風情がない。あと、いくら開放的とはいえ、薄暗い店舗でビールってのはどうか。

・・・なーんて事を、蕎麦屋で一献やりながら考えるわけさ。この店はそういう「物思いに浸る」事を建物全体が歓迎している感じだ。だから、本なんて持っていかない。店に入ったら、店全体を見渡すことができる一番端に座って、そしてぽかーんとしながらお酒を飲む。これでいいのだ。

今日は、野菜天ぷらを頂いてみた。前々回訪問時だったか、隣の席の夫婦が「野菜天ぷらおいしいわあ、おいしいわあ」とベタ褒めしていたのが気になったからなのだが、これがよかった。瑞々しく、しかも表面はかりっと仕上がるメリハリの強さ。 紫蘇の葉一枚でも、そのおいしさが際だっていた。うむ、この店は飛竜頭もそうだったし、揚げ物は相当おいしいとみた。

こうなってくると、がぜん調子づいて居酒屋感覚で追加オーダーしたくなるものだが、この店構えが「まあがっつくな若造くんよ」とたしなめてくれた。ふんわりとおいしい卵焼きを頂いた後は、定番のせいろでびしっと締めて、店を後にした。今回はさすがに財布を忘れるという失態はしておりませんぞ。

店を出たら、目の前の通りは江古田駅前の商店街。あまりの俗っぽさに、先ほどとのギャップでくらくらときてしまう。これもまた、楽しい。さて、リラックスできたことだし、これから何をしましょうかね。

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