北前そば 高田屋 新川崎店

2000年03月21日
【店舗数:043】【そば食:076】
神奈川県川崎市幸区

大もり

仕事の打ち合わせで新川崎に行った。「新」が付く地名というのは、ご多分に漏れず「ええっ?何でここが『新』なの?」と叫んでしまう場所にあるものだが、この新川崎もそうだった。

どこが新なのだろう、と首を捻ることしばし。周りを見渡すと、貨物列車の操車場がだだっ広く存在していて、どうひいき目にみても「新しさ」は感じられない。駅名をつけた人は、「この地が、次世代の川崎の中心地となりますように」と願いを込めてつけた・・・わけないよなあ、そんな気配、みじんもないもんなここは。恐らく、「ええい、面倒だから『新』をつけて『新川崎』にしちゃおう」っていう程度の由来なのかもしれない。

そんなことを考えつつ、ひょいと駅から外をみると・・・おお、何となく「新しい」っぽい建物があるぞ。地上31階建てのツインタワーがにょきにょきと。新川崎三井ビルだ。 これだけ大きいビルなのだから、さぞや飲食店街が立派なのだろうと思い、彷徨ってみた。

・・・店、ほとんどないんですけど。シンプルにオフィスタワーだった。

もっと奥深く探りを入れれば、入居している企業の社員食堂があるのかもしれない。しかし、恐らくICカードで入退室管理されているに決まっているわけであり、無理してちん入して「お前誰だ」と胡散臭い目にさらされつつ、慣れない食堂のローカルルールにオドオドしながら右往左往するのはイヤだ。

ということで、高田屋に入った。

すまぬ、高田屋。消去法的な書き方をしてしまった。でも、そんな認識だったんよ。

高田屋外観

北前そば高田屋。入店した時はよく知らなかったのだが、あとで調べてみたらフランチャイズ展開しているチェーン店らしい。そういえば、後日気を付けて街を見渡すと、オフィス街にちらちらこの「高田屋」って見かけるんだよな。

さらに調べてみると・・・ああ、なるほど。ベンチャーリンクがフランチャイズのサポートをやっていたのか。ベンチャーリンクといえば、「牛角」の急成長で一躍有名になったFC支援の企業だ。FC本部(高田屋の場合、タスコシステム社)の委託を受けて、ベンチャーリンクがフランチャイジーを探し、技術指導をはじめとするFC業務全般を行うという仕組みだ。FC本部は、店舗展開をベンチャーリンクにお任せできるので煩雑な業務から開放される、というわけだ。どうりで最近急速に高田屋を街でみかけるようになったわけだ、1企業が単独で店舗を広げていったのでは、こんなに一気に店舗が増えるわけがない。

このお店の特徴は、以前訪問した「そじ坊」と同様、昼間は蕎麦屋・夜は居酒屋という二毛作営業をやっているということだろう。蕎麦屋という存在自体がそもそも居酒屋機能を持っているのだが、ここはさらにそれを押し進め、「板わさ」や「玉子焼き」にとどまらず、はっきりと居酒屋としてのメニューを打ち出しているようだ。(伝聞調ですまぬ、実際夜に訪れたことはない)

ベンチャーリンク社のサイトを探ってみると、面白いページに出会った。これから「高田屋」の加盟店になろうとしている人向けのQ&Aだ。それによると、平均客単価は昼間で800円、夜間で3300円となり売上比率は昼:夜間=3:7となるようだ。やはり、蕎麦屋だけではやっていけないということか。

それにしても、これだけ「居酒屋モード」での売上が高いということは、「蕎麦屋」の看板をおろして「そばも食べられる居酒屋」と名乗った方がいいんじゃネーノという気がする。そのほうが実体に即している。ただ、それだと「白木屋」をはじめとする既存居酒屋チェーン店と同列の存在になってしまい、立場的に苦しい。だからこそ、「夜は居酒屋にもなる蕎麦屋」という「ニッチ」なディティールで一般消費者に訴求しているのかもしれない。

どっかと席に腰を下ろし、メニューを眺めてみた。おや、これは?

メニューには、もちろんもりそばやかけそばがあるのだけど、それよりも目を引い たのが「北前天丼とそばのセット」「カレー丼とそばのセット」といった、御飯物とそばのセット商品だった。周囲を見渡すと、確かに大半のお客さんがこのセットを食べている。これには少々驚いた。まるで、おかでんの地元・広島の蕎麦屋を見ているかのようだ。

蕎麦だけではおなかがいっぱいにならないので・・・ということで、御飯物とのセットが主力メニューとなっている世界。東京都下では見かけない光景だとばかり思っていたのだが、実際はそうではなかったということだ。

ということは、関東人は「そばだけで満足。御飯なんていらないよ」という人種なのではなく、他の蕎麦文化がそれほど華やかではない地区同様「御飯とセットだったらやっぱりうれしいよな、おなかいっぱいになるもんな」という人種だったということなのか?単にそういうお店が無かったから、そばだけ手繰って帰るという人が多かった、という事なのか?

では、郷に入りては郷に従え、ということでカツ丼セットでも頼んでみるかァ!とココロが動いたのだが、何となく恥ずかしく、悔しくて、意地を張って蕎麦だけを頼むことにした。男らしく、力強く「大もりください」と一言。

・・・今だから明かしますけど、ギリギリまでカツ丼セットを頼みかかってました。いやあ、魅力的ですよ、御飯も蕎麦も食べられるんですから。

でも、抵抗があるわけだな、蕎麦屋で「カツ丼セット」を食べる自分自身の姿に。食べたいものを食べればいいんだけど、「蕎麦屋でセットメニュー?お子さまだな」っていう偏見が強くて、頼めなかった。いつの間にか、このおかでんにも「蕎麦屋とはかくあるべし」という意固地な価値観ができあがりつつあるというわけだ。一般人が、「そばを通ぶる人は鼻もちならなくって、イヤだ」という、あの領域に一歩足を踏み込みつつあるということか。いかんいかん。

大もり

頼みたかったものを頼まなかった自分の判断と、その背景にある自分自身の思いこみに深く 反省しつつ、そばが出てくるのを待った。

「大もり」は、せいろ3枚重ねのそばだった。せいろ自体はそれほど大きくないのだが、1枚にそこそこ気持ちの良い盛られ方をしているので、3枚も食べればそこそこ満腹感がやってくる。

ここのそばで感心したのは、ちゃんと徳利にそばつゆが入って出てきたということだ。大抵、こういうざっくばらんな蕎麦屋というのは、猪口につゆが既にビルトイン状態になっていて、そば湯を頂くときに濃度調整をするのは職人芸を要する。時には、湯飲み茶碗につゆを移し替え、湯飲みでそば湯を頂くことがあったりするくらいだ。

で、この高田屋はちゃんと徳利がついてきて、いくらでも濃度調整してください!というわけだ。

カーン。

そば湯飲みまくるぞゴングの音が聞こえた気がした。

・・・そば湯、飲み過ぎました。大しておいしいもんじゃなかったけど、ついつい。

後日談。ベンチャーリンクの高田屋Q&Aページを読み進めていくと、こんな記述に出会った。

例えば「せいろ」(単価450円)の原価は60円。原価率にして13%となっています。

フランチャイズチェーンの強み。ほかの蕎麦屋主人が見たら、羨ましくて地団駄踏むくらい低い原価率なのだった。普通、飲食業界というのは食材の原価を3倍にした金額が提供価格となる。高田屋の場合、原価の7倍以上で売っているのだから。

遠い将来、全国の蕎麦屋が牛丼みたいに少数企業の寡占状態になってしまわないことを切に願う。