2000年03月29日
【店舗数:044】【そば食:078】
東京都港区虎ノ門
趣味のとろそば
「砂場」と呼ばれる蕎麦屋の屋号がある。砂場と聞くと、どうしても公園にあるあの場所を思い出してしまう。しかも、犬か猫がフンをしているという光景を思い出してしまうので、あんまり食べ物屋のネーミングとしては魅力を感じない。
・・・こんな発想に至ってしまうのは、僕の育ちが悪かったからでしょうか、全国の砂場ファンの皆様。
「砂場」の名前の由来とか歴史を語り出すと、豊臣秀吉の頃にまでさかのぼってしまうらしい。ここでひと蘊蓄を披露してもいいが、「どーせさっきwebで検索した知識だろ」というスルドすぎる指摘を受けるのは目に見えているので、やめる。
砂場の由来までは知らないが、ここには「趣味のとろそば」なる謎のメニューが存在することだけは知っていた。要するに「とろろそば」の事らしいのだが、「趣味の」というコトバを敢えて配備しているのが激しく怪しい。ここのご主人は、趣味で山芋掘りをやっているのだろうか?いや、しかし、「趣味」の「とろそば」と言っているわけだから、あくまでも趣味なのはとろそばなのだろう。山芋掘りが趣味だったら、「趣味の山芋で作ったとろそば」にならなくてはならない。
この結論は結局、今に至るまで出ずじまいなのだが、「趣のある味」である「とろそば」と言いたいのではないか、という仮説を挙げておきたい。何となくそれだと、つじつまがあうような気がする。
さて、前置きはともかく。
愛宕山トンネルの近くに、巴町砂場はある。周囲は360度全方向ビジネス街であり、こんなところに蕎麦屋の名店があるのか、とちょっとにわかには信じられない。しかし、蕎麦屋は案外遠くからでも分かるものだ。ほら、遠くに和風な植木が見えるぞ。きっとあそこに違いない・・・ほーら。「砂場」の看板発見。
わ。わわわっ。看板にも「趣味のとろそば」って書いてある・・・達筆なので、「とらそば」と読み違えてしまいそうだ・・・。よっぽど、店自信もプッシュしたい自信作なのだろう。こうなったら、その趣味とやらを楽しませて貰わないと。
しかし、店内に入ってメニューを見て困惑してしまった。趣味のとろそば、1400円なり。うわぁ、ちょっとお昼御飯としては高いなあ。しかし、ここで食べないわけにはいくまい。趣味につきあうのはカネがかかるなあ、と嘆きつつ、とろそばを注文。
落ち着いて店内の様子をうかがってみると、外のビジネス街の風景はいずこ、という感じでしっとりと落ち着いた空間になっている。蕎麦屋独特のぴりりと引き締まった感じが気持ちよい。このギャップが、蕎麦屋の楽しみでもあるんだよなあ。
さて、お待たせしました、「趣味のとろそば」到着。
まず、思ったのは「量が少ないなあ」という事。味わう前に量についてあーだこーだ言うのは、貧乏人臭くてイヤだが正直にそう思った。この時書いたメモにも、冒頭にこんな記述が残されている。
なにをもって趣味なのかわからないが、不思議だ。1400円という高値、その割には量が少ないっていうのが趣味だろうか。
ひでぇ言われようだが、勘弁してください。
ま、それは兎も角。本日の主役である、とろろに箸を伸ばしてみる。そばつゆで伸ばしたものらしい。そのまますすってみても、非常においしい。あくまでもなめらかで、フガフガするほど粘らず、かといって物足りない粘りの無さでもない。絶妙なんである。調子にのって箸を突っ込んでぐりぐりしてみたら、とろろの中に生玉子が隠されている事を発見した。何か凄く得した気分になる。うれしくなってとろろとざっくりと混ぜ合わせ、味のコントラストを楽しむ。うーむ、美味い。
おっと、肝心の蕎麦はどこへ行った。
ああ、蕎麦か。えっとね、またもやメモを引用するとですね、
そばは、病弱な感じ。おいしいのだけど、インパクトが弱い。ちぎった海苔がたくさんかかっているので、そばの味がよくわからない。これだったら、そばじゃなくてご飯で頂きたいなあ。
このお店は更科系の蕎麦を出すお店なので、インパクトが弱いのは当然といえば当然。それを補うべくとろろとの組み合わせで食べるというのは非常に理にかなっている気はする。
しかし、美味いとろろと出会ってしまうと、蕎麦で食べるよりもご飯で頂きたくなるのはある意味仕方がない事だと思う。日本人、最終的に行き着くのは銀しゃりですってば。かといって、このお店で「すいません、ご飯頂けますか」なんて言ったらイヤな顔されそうだな、ウチは蕎麦屋なんだから蕎麦食べて欲しいんですけど、って。美味いカツサンドを出すお店のご主人に、「おたくのカツは非常に美味いので、僕はカツ丼が食べたくなった。ご飯持ってきて頂けます?」ってお願いするようなもんだ。
そんなおいしいとろろなのだが、蕎麦の量が少ないために相当余らせてしまった。仕方がない、そば湯とともに頂くことにしようか。・・・と思ったが、これ、どうやってそば湯を頂こうかしらん。蕎麦猪口があって、随時つゆを継ぎ足していくような仕組みにはなっていないので、「最初は濃いめ→じょじょにそば湯を継ぎ足していって、薄めていく」という頂きかたをしないと。
ということで、そば湯を頂いていたところ、お店の人に湯桶を持っていかれてしまった。な、何をするんだ!まだいっぱいしか頂いていないのに!まだ若干粘りけがあるとろろのそば湯割りをずるずるとすすりながら、あっけにとられて様子を見ていたら、その湯桶はいったん厨房に下げられそば湯を補充して、別のお客さんのところに運ばれていった。・・・湯桶の数が足りないのか、このお店は?
このお店、店内の雰囲気は良くてお酒を飲む分にはくつろぐ空間だろう。しかし、量と価格を天秤にかけたら、どうもグラグラして仕方がない気がする。そばだけを食べるつもりだと、ちょっと財布の具合が気になる、そんなお店だと思った。
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