生粉打ち亭

2000年04月02日
【店舗数:046】【そば食:081】
東京都豊島区東池袋

そばがき、もろきゅう、冷や奴、天もり(江戸)、田舎そば、津軽そば、ビール、冷酒

生粉打ち亭外観

池袋に「生粉打ち亭」という蕎麦屋があることは、蕎麦の食べ歩きを始めてから比較的早い段階に耳にしていた。その名前のインパクトから非常に興味をそそられたので、常に「いつか行かなければ」という気にさせられていた。

やっぱ、店名ってのはこうでなくちゃ。蕎麦屋の場合、「○○庵」であるとか、なにやら小ムツカシい名前のモノが多い。そういう名前もビシっと引き締まってて格好ヨロシイのだが、なかなか覚えられない。インパクトが弱い。

おかでんが蕎麦屋を始めるんだったら、「ラーメン亭」とか、度肝を抜く名前にするな。おい、蕎麦屋ちゃうんか、って。一発で有名になるぞ。テレビにも取り上げられるんちゃうんか。しかし、ラーメン屋と間違ってやってくる客が多くて、営業にならん可能性大だな。一昔前は、ラーメン屋といえば赤いのれんと赤いカウンターが定番だったもんだが、今じゃ蕎麦屋みたいな和風テイストなレイアウトも多いし。

そんな事はどうでもいいのであって、話を元に戻すぞ生粉打ち亭。

サンシャインシティを仰ぎ見る、東池袋にその店はある。大通りから中に入ったところにあるので、この店を発見するまでに道に迷って都電荒川線のあたりまでウロウロしてしまった。

しばらく歩いていると、目の前になにやら異様な行列が。おお、生粉打ち亭、大行列じゃないか!・・・と思ったら、大勝軒の行列だった。何だ、ラーメンか。

その行列からほど近いところに、探していた生粉打ち亭はひっそりと存在していた。

うわ、汚い。

はっきり言おう、このおかでんでさえ、入店を躊躇した。

木材を使った外装なのだが、長年の風雨の影響からか黒ずんでいる。・・・鉄道の枕木の廃材をもらってきたのか?と思ってしまう。また、店頭にはビールケースと、カラになったビール瓶や一升瓶がごちゃごちゃと並んでいる。そこに、これまた汚れた板に「営業中」の字が。すいません、準備中となっていても、全然悔しくないです、この場合は。

おかしい。人気店と聞いていたのだが、ガセネタだったか。いや、そもそも事前学習してきた蕎麦のガイドブックによると、「無農薬野菜を使っているので最近は女性を中心とした若い人たちの来店が増えている」って書いてあったぞ。

断言しよう。あり得ません。若い女性がこの外観で来るものか。どんなに美味い蕎麦だったとしても、この外観では・・・。

しかし、「営業中」の看板の横に、椅子が四脚並んでいた。ひょっとして、入店待ちのお客さんが並んで待つためのものだろうか?まじっすか。

店の前であぜんとしていたのだが、入店の決意を固めるまでの間、外観の写真をとっておく。

ひっ、ひっ、ふー。

ラマーズ法で呼吸を整え、いざ入店。今回同伴した友人も、さすがに二の足を踏んでいた。「一人だったら絶対に入らない店の部類だな」なんて言ってる。

中に入ると、外観の印象とあまりかわらない状態の店内が広がっていた。なにやら胡散臭い。雑然としている。何となく、名物親爺がいる小さな居酒屋、っていう感じがした。

とにかく、度肝を抜くのがテーブルの上に清酒の4合瓶がおいてあった事だ。一体なんだこれは。ご自由にお飲みください、という事ではあるまい。前のお客の飲みかけだろうか。

フタをあけてにおいをかいでみたら、醤油だった。冷や奴とか食べるときは、この4合瓶から注げ、という事らしい。あまりにそっけなさすぎですよご主人!せめて、キッコーマンとかの家庭にある、普通の醤油差しくらい用意しましょうよ!

そのご主人だが、こんなお店を飄々と経営しているのだからさぞかしくせ者だろうと思ったら・・・ものすごく愛想が良いんでやんの。われわれが入店するやいなや、厨房から出てきてあれこれ話しかけてくる。しかも、「さっき外で写真を撮っていたでしょう?」なんて、一体どこでそれを見ていたのデスカ貴方は、という事まで聞いてくる。

「すわ、『勝手に写真撮るんじゃねぇよ』とオコラれるのかしらん」と一瞬身構えたが、その直後にはご主人、「どうもありがとうございます、汚いお店ですけど撮っていただけるなんて」とにっこり。汚いお店というのは、謙遜でもなんでもなくその通りだと激しく同意するが、写真を撮ってお礼を言われるなんて初めての経験だ。相当の善人なのかもしれない、このご主人。

店内もあまり清潔な印象がなかったので、「アルコールで消毒しておかなくちゃ」と店に大して最大限に失礼なブラックジョークを仲間とこっそりしゃべりながら、ビールとつまみ類を注文する。友人は腹が減っているから、とかいいながら次々と注文していった。

もろきゅうをかじりつつ、やけくそになってなんだか夜に飲むかのようなペースでお酒をあおり、ご主人といろいろ話をし(内容は忘れた)、結構酔っぱらってしまった。飲んだ量自体はそれほど多くはないと思うのだが、なんだか雰囲気に酔っぱらってしまったのかもしれない。

江戸、天ぷら

よっぱらってせいもあるのだろう、おとなしく江戸そば(通常のお店でいうもりそばに相当)を食べてシメれば良かったのに、天もりを注文してしまった。友人の旺盛な食欲に引きずられたせいだろう。

しばらくして、出てきた料理を見て、顔色が変わらない程度に動揺してしまった。「お待たせしましたー」と目の前に配膳されたとき、普通だったら「やぁ、おいしそうだな」とか何か合いの手をうつものだが、今回に関しては言葉が詰まった。なんて表現していいのやら、困ってしまったのだ。

蕎麦は別にいい。普通だ。しかし、その横に添えられた天ぷら。いやぁ、もってりとしてますなぁ。フリッターでしょうか。海老と、キスと、野菜のかき揚げなのだが、どれも「衣の花が咲いている」レベルとはほど遠く、なにやら別の料理になっている。

ええい、とかぶりついてみる。うまけりゃいいのよ、うまけりゃ。

コメント、よろしいでしょうか。

やっぱり人間20数年生きてきますとですね、外観からくるインプレッションというのは経験にある程度裏打ちされているわけでして、それほどズレってのはなくなってくるわけですね。すなわち、見た目でイマイチと思ったモノは実際もそう、というわけで。

かき揚げは、当時のメモに「なんか、くず野菜いれてるんじゃないのか」と酷評されてしまうできだった。要するに、何か生臭い。ひょっとすると有機野菜の青臭さ、即ち野菜が本来持っていた味わいを勘違いしたのかもしれない。ただ、どうしても店のこの雰囲気だと、「あれっ?」と思ったサムシングがあれば、それはほぼすべてネガティブなイメージと結びついてしまう。つくづく損な店だ。まあ、その損な役回りを自ら演じてしまっているわけなので自業自得だが。

蕎麦は、非常に細く、通常の蕎麦のイメージとちょっと違う。10秒程度でゆで上げる、という事だったがなるほどこれだけ細いと火の通りが早いだろう。細くても、エッジはしっかりとしているので、食感は細さの割にしっかりと主張し、食べがいがある。しかし、細いために蕎麦が持つ野生味が失われてしまっているような・・・いや、こういう表現すると通ぶってるみたいなので、もう少しはっきり言うと、あまり蕎麦の味覚としては個性が無かった、ってこと。せっかくの十割の割には蕎麦が前面に出てきていない。

注意書き

壁に貼ってある蕎麦の解説には、こう書かれていた。

当店のそばは全て細切りです。田舎そばは大・細あります。

<江戸そば>
できる限り国内産玄そばの細挽きと粗挽きを石臼で挽いたそば。(水のみで製造)

<田舎そば>
長野県内産の石臼挽きの挽きぐるみ(黒っぽい)のそば。(水のみで製造)

<津軽そば>
当社で製法特許取得の大豆とそば粉で作るそば。種物にも合います。製法は最低2日掛かります。

津軽そばは、ここでしか食べられないご主人の自信作らしい。数に限りがあるけど、今日はまだありますよ!という事だったので、津軽、田舎をそれぞれ追加注文してみる。さすがに二枚食べる胃袋キャパは無かったので、友人と半分こだ。

しかし・・・どんなに製法や原材料がスバラシいか知らないけど、その蕎麦を店の入り口すぐ脇の冷蔵庫にしまっておくのはやめた方が。厨房に場所が無いのはわかるんだけど、あの「肉まん」をコンビニで暖めているような、四方が透明の冷蔵庫だもんなあ。それはそれでいいんだけど、一人前ずつスーパーのお総菜を入れるパックに蕎麦を詰めて、輪ゴムで閉じているんだもんなあ。風情とかそういうのを100萬年昔に置き忘れてしまった、という感じ。

こんな様を見てしまうと、味そのものなんてもう、どうでも良くなってくる。ナチュラルすぎるぜ、ご主人!

おかでんは、こういうB級な感じのお店は結構好きなのだが、さすがにこのお店にはまいった。結局、酔っぱらっていたせいもあって、肝心の津軽そばの味はいまいちわからんまま、ただただ雰囲気に圧倒されっぱなしでお店を後にした。

帰り道、友人と「いやぁ・・・すごい店だったなあ」「ディープだったねぇ」と語り合う。

ちょっと今回はお酒が回ってしまい、蕎麦そのものの味がぼんやりとかすんでしまったので、また今度、冷静さを取り戻した暁には再度訪問し、もう一度蕎麦を食べてみたい。しばらく間をあけないと駄目っぽいが。

PS
とかいっているうちに、この地域は再開発の憂き目にあってしまい、生粉打ち亭は消滅してしまった。現在、お弟子さんが江戸川橋にて、同名のお店をやっている。もう一度津軽そばにチャレンジするなら、こちらに行かなくちゃ。

PS2(ゲーム機の名前みたいだな)
特許庁のDBで、津軽、そば、蕎麦、大豆、豆乳などのキーワードで検索をかけてみたが、それらしき特許は存在しなかった。どうしたんだろう?

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