天久利 新橋店(02)

2000年04月12日
【店舗数:—】【そば食:085】
東京都港区新橋

天ぷらそば

銀座、夜12時。

煌々と瞬くネオンは、今まさに白昼のごとくあたりを照らす。この時間になると、終電がそろそろなくなってくる。駅へと向かう早歩きの人たちは徐々に姿を消し、逆に「もう一軒」と雑居ビルの奥に消えていく人たちの方が増えてくる。

タクシーの渦。

この時間、ここでお客を捕まえることができれば長距離稼げる可能性が高い。今日最大のかきいれ時だ、と気合いが入る。

この街は、欲望にまみれている。消費と、快楽。

おかでんは、その街の中、一人たたずみ、物思いにふける。この日本有数の不夜城を俯瞰しながら。

・・・いや、格好いい出だしのところを恐縮ですがね、旦那。

タクシーの乗車拒否にあって途方に暮れていたのをあたしゃ見ましたぜ。

げげっ、なぜそれを。

実は 新橋駅界隈って、駅前のロータリーからでないとタクシーに乗ってはいけないん だそうな。膨大な量のタクシーが銀座から新橋にかけて集結しているから、どこからでも乗ることを可能とした場合、周辺の路上は大混乱になってしまうからだろう。

でも、おかでんはその事を知らなかった。新橋駅近くの首都高速土橋ランプのところで、タクシーを捕まえようと何度も試みたが、ことごとく無視されて人間不信に陥ってしまっ ていた。 何で無視されたり、「駄目」と運転手に首を横に振られたりせにゃいかんのだろう。ひょっとしたら俺、血みどろになっているとか泥まみれになっているとか、外見が汚いんだろうか。・・・何を馬鹿な、そこまで酔ってはいないぞ、自分が「至って普通の会社員」の格好をしていることくらい、わかる。めざとい運転手は、「おっ、アイツひと味違うな」と見抜くかもしれないけど、いやそんなちょっとやめてくれよ、僕は至って普通の人間だよいやひと味違うなんて恥ずかしいじゃないかよせよサインだなんてそんなガラじゃなくてトンコツでもなくて

妄想をやめろ。

きりがないので、話を端折ると、おいしかったです。おわり。

端折りすぎた。少し巻き戻します。

銀座、夜11時。

巻き戻しすぎだ。冒頭に戻ってしまったじゃないか。しかも、書き出しの1時間も前に遡るとは何事だ。

冗談はさておき、本題に戻ると

・・・しまった、このサイト、冗談を「さておき」にしてしまうと、何も書くことが無いんだった。ということで、

アワレみ隊OnTheWeb 完

ということで、ようやくおかでんの気が済んだので本題に入ります。

ま、あれです、結局タクシーの不可解な行動に首をひねりながら、「新橋駅のタクシー乗り場に行けば乗ることができるだろう」と考え、新橋駅に向かって歩き出したのだった。

ここまできて、新橋に地理感がある人はもうわかっただろう。

新橋駅に向かっている途中、明るい看板が目に入った。「天久利」。

いや、そんなつもりじゃないんだけどね、今日はまだ週の半ばだしさっさと帰宅したいんですよ、とかいいつつ、お酒が入っていると抑制が利かなかった。気がついたらお店に入ってしまっていた。我ながら、店の存在を認識してから、店に入るまでの動作があまりにオートマティックだったので驚いた。深夜0時過ぎにもかかわらず蕎麦を食おうとしているのに、何の疑念も持っていないんだから。

この時間、同じ境遇であろうお客さんが店内にはいっぱいいた。みんな一様にお酒が入っている顔をしている。場所柄、「いやついさっきまで仕事してまして・・・最近忙しくて、ふぅ」という素面の人は見あたらないようだ。酔っぱらいを相手にしなければならないので、お店の人もさぞや気苦労があることだろう。

・・・と、酔っぱらいに心配される天久利。おまえだ、おまえ。酔っぱらってるのは。

その証拠に、よせばいいのに天ぷらそばの食券を購入していた。酔っているからさっぱりしたものを食べたいはずなのに、なぜ油っぽいものを食べようとするんだろうか。かけそばくらいがちょうどいいはずだ。

しかし、なんとなく立ち食い系の蕎麦屋っていったら、天ぷらがないと寂しい。決して美味くない天ぷらであっても、上にのってくると幸せな気分になる。これに玉子をプラスして「天玉」にしてしまうと、ちょっと他人行儀なところがでてくるが、天ぷらは立ち食い蕎麦の王道、必需品って感じさえする。

カウンタから厨房をのぞき込むと、天ぷらのストックはなさそうに見えた。「しめた、揚げたてが食べられるぞ」と思わずニヤリとしてしまった。このお店の巨大かき揚げを、揚げたてでサクサク食べるとさぞや小気味いいことだろう。今日は楽し・・・あれ?

ニヤリと笑おうとした口元が、まだ「ニヤ」程度の段階で店員がかき揚げを引っ張り出してくるのが見えた。意外とかき揚げをストックしている棚は奥行きがあるらしく、客席から見えない ところに「隠し玉」があったらしい。あらら。「ニヤ」とつり上がりかかった口元が、「ヤニ」ともとに戻る。

出てきた天ぷらそばは、ややかき揚げの油がまわっていた。 しかし、まだのんぽりと暖かく、かじると幸せ感に包まれる。かき揚げは「後のせサクサク」で食べたいところだが、このお店のヤツはぜひずぶりとつゆに浸してあげよう。つゆの表面を、さざ波とともに油がふわーっと広がる。その汁をひょいとすすると、それまでとは全然違う、こくのあるうま味に満たされる。ああ、油っておいしいよなぁ。

多分、チンパンジーとかサルを使った実験で、「天ぷらそば」と「かけそば」、どっちを好んで食べるか・・・ってやったら、確実に「天ぷらそば」に行くと思う。油が醸し出すうま味は、生き物を魅了する。

特に、油っぽいかき揚げとつゆをすすりながら、蕎麦というさっぱりした麺をすすり上げるというのが絶妙なバランスだ。そして、最後をしめくくるのが、しゃきっとした冷水。うん、酔っぱらっていても大丈夫、全然胃にもたれないや。もう一軒、蕎麦屋のハシゴをしてもいいくらいだ。

さすがにそれはやめとけ。もう深夜1時だぞ。

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