刀屋 そば店(01)

2001年02月10日
【店舗数:085】【そば食:164】
長野県上田市中央

もりそば大、かも煮、お酒

上田蕎麦屋巡りのラストを飾るのは・・・って、「飾る」という表現を使っていいのかどうかわからんが・・・刀屋というお店だ。本日のメインイベント、と言って間違いない。というのも、このお店は、池波正太郎が愛した店として有名だからだ。

ごめん、うそをついた。いくら池波正太郎が偉大な食通だったとはいえ、昔の人が美味いといった蕎麦屋に畏敬の念を持つ気はない。今現在、このおかでんが美味いと思えばそれでいい。

池波正太郎うんぬんでこのお店に惹かれたのではない。ここの蕎麦の盛りは強烈だ、といううわさを聞いていたからだ。

・・・なんだ、結局ボリュームかい。貧乏大学生みたいな事を相も変わらず・・・

ばかもん。何をぶつぶつ言っておるか。いやね、単に盛りが豪快、っていうのを求めるんだったら、せいろを2枚でも3枚でも積み上げてお代わりすりゃいいだけの話だ。カネはかかるけど。

このお店の蕎麦は、「小」「中」「並」「大」の4種類の量が選べるようになっているらしいのだが、「並」で俗に言う大盛りに相当するボリュームがあるという。その上になる「大」になると、一部の人の間では「チョモランマ」とまで言われるくらい、豪快な盛りになるらしい。上田の蕎麦は量が多い、という話は以前から耳にしていたし、実際食べてみて確かにそうだと思った。その締めくくりとして、「並でも大盛りクラス」の盛りを平然と出すお店に行ってみる、というのは非常に食べ歩きツアーとしては塩梅がヨロシイ。本日四軒目のお蕎麦やさん、というのが引っかかるが、まあなんとかなるでしょう。いざ、刀屋へ。

とはいっても、さすがにインターバルをあけないと、参加者各位の体がもたなかった。三軒目の「佐助」を終えた時点で、一度時間をあけることにした。とりあえず、真田城に向かう。

・・・しかし、真田城跡は雪に完全に埋もれてしまっていた。膝上までめり込む雪をかき分けながら突撃してみたが、あえなくリタイア。しゃーないので、そこらじゅうの新雪に「大の字になっている人型」をつけまくり、アワレみ隊参上のマーキングをした上で退却。

ふぅ、これだけ運動すれば、少しは小腹が・・・

いや、状況に変化なし。蕎麦は、一枚程度つるつるッと手繰った程度では「腹にたまらない」料理だ。だから、ご飯モノとセットで売っている蕎麦屋も多い。しかし、二枚、三枚と食べ進んでくると、これが結構胃を占拠する。占拠するだけでなく、結構長い間、その存在感を胃の中で感じることができる。繊維質が多い食べ物なので、消化があまり良くないのだろうか。

そんなわけで、刀屋に到着した16時過ぎには、大食らいのおかでんを含めてやや食傷気味になりつつあった。しかし、ここで刀屋をスルーするわけにはいかない。刀屋抜きだと、クリープを入れないコーヒー・・・じゃなくて、コーヒーなくてクリープだけ飲んでいるようなものだ。それくらいわれわれが注目していたお店だ、なんとしても食べないと。うっぷ。

刀屋外観

上田の中心地に、刀屋はあった。カーナビがあるのですいすいと見つけることができたが、その渋い造りは見落としやすい。老舗のお店だと聞いていたので、もっとデデーンとした古風な作りなのかと思ったが、なんとなく「民家を改造しましたー。脱サラで蕎麦屋始めましたー」っていう印象を受ける。

確か、「刀屋」という店名の由来は、昔はこのお店、刀鍛冶をやっていたからだと聞いた記憶がある。職場ではなく、自宅を改造して蕎麦屋にしたのかな?という外観だ。

店にはいると、昔ながらの、という感じの蕎麦屋だった。たたきがあって、お座敷があって。全ての席をあわせると30人程度の客席だろうか。手元にお品書きはなく、どうやら壁に掲示されているお品書きを見て注文するらしい。

おお。うわさ通り、もりそばが大、普、中、小と用意されているぞ。「普通」より「中」が下な位置づけというのは、日本広しとはいえこのお店くらいなものだろう。このお店のいう「普通」とは一体どんなレベルだというのか。

「おかでんはやっぱりチョモランマに登らないといかんだろう」

と、周りから背中を押される。もちろん、こちらもそのつもりだ。しかし、このお店の場合、大盛りを注文すると店員さんから「量が多いですけど大丈夫ですか?」と聞かれるらしい。ここで、少しでもうろたえたりどもったりしてはイケナイ。よし、腹筋に力を入れてオーダーするぞ。

「もりそば、大でお願いします」

さあ、どうだ。店員さん?

「大は相当量が多いですよ。食べたこと、ありますか?」

おお?食べたことありますか?という問いかけがきたぞ。いや、この店初めてなんで、食べたことはないんですけど。

「あ、大丈夫です。もうね、今朝から何も食べて無くて、おなか空いて空いてしょうがないんですよ」

我ながらすごい理由を述べて、店員さんを納得させてしまった。店員さんが引き下がったところで、同行の二人から思いっきり突っ込まれる。

「お前、いくらなんでもそのうそはひどいぞ。大違いじゃないか」
「いやだって、ああでも言わないといかんかなと思って。食べたことありますか、って聞かれたらありません、って答えるしかないじゃないか」
「食べたことあります、って言っときゃいいんだよ」
「ヤだよ、俺そんなうそつくの」
「おなかが空いてしょうがない、っていうのもうそじゃねーか」

刀屋の蕎麦

かも煮をつまみながら、お酒を頂く。そういえば、本日は4軒中3軒の蕎麦屋でお酒を飲んでいるなあ。酒びたしの一日だ。

「しかしだ、4軒目に入っても相変わらず飲み続けるこのおかでんのファイティングスピリット。賞賛に値すると思わんか?」
「いや、全然?」
「そうか」

しょーもない会話をする。

そうこうしているうちに、おそばがゆで上がったようだ。「お待たせしましたー」という店員さんの声とともに、ごとり、器がテーブルに置かれた。

振り向いちゃダメだ、目の前に自分の「大盛り」が置かれるまで、振り向いちゃ、ダメだ。

そう自分に念じつつ、すぐ自分の背後に待望の「大盛り」が控えていることにドキドキ。「ええと、大盛りのお客様?」と店員さんが問いかけ、おかでんが「はい、僕です」と答えたところで・・・来た!もりそば大盛り、通称名チョモランマの登場だ。

この料理を食べた人は、「食べようとしたら、おでこに蕎麦の頂上が当たった」とコメントしている。ほかには、「なだれとの格闘。盛りは豪快、食べ方は繊細でなければならない」というコメントもあった。なるほど、過去の先達が感嘆とともに語る、その蕎麦の正体がまさにこれだ。看板に偽りなし。素晴らしい盛りだ。

同行した二人が注文したのが、確か「中」だったはずだ(記憶曖昧。ひょっとしたら「小」かもしれない)。それと、大盛りでは全く次元が違う事が写真からも分かるだろう。

蕎麦がのたうちまくってる。普通だったら、ざるの上でタテ及びヨコという二次元で長い麺が展開される。しかし、この大盛りに限ると、タテヨコ高さ、という三次元で麺が走り回っている。現に、この写真を見ろ!山頂当たりに端を発した麺が、麓までするすると落ちて、器からはみ出している。野蛮ったらありゃしない。

「おい、おかでん・・・これ、今から食べるんだよな」

仲間が、今更当たり前の事を聞いてくる。

「当たり前だ。すべてきれいさっぱり食べるぞ。なんだったらお代わりするぞ」
「いや、お代わりは勘弁してくれ。それはどう考えても無理」
「まあ、たしかにそうだが・・・」

麺の色がのっぺり、しかもこれだけの激しい盛りだ。大して美味そうに見えないのはしょうがない。「うずたかく積まれた蕎麦を平らげる自分」そのものに楽しみを見いだし、食べてみることにした。味には期待していない。

ずるずる。おおおっと、崩れる、蕎麦が崩れるぞ。麺は思ったより太めで、積み上げられた山から引きずり出そうとすると摩擦抵抗が大きい。強引に食べるのは無理そうだ。大人しく、「軽く引っ張って抜ける麺だけを食べる」という行為に没頭。

麺は、太さが不均衡だった。やけに太いところもあるし、細いところもある。雑だなあ、蕎麦打ったった人は下手なんちゃうんか、という気もしたが、これだけのボリュームがある料理なので、太さがまちまちの方が「メリハリ」がついて良い事に気がついた。食べ応えにムラがあるので、飽きが来ない。もしかして、計算尽くで麺の太さが決められているのだろうか・・・?

蕎麦の風味は、そのワイルドさの割には特に感じられなかった。確かに美味いんだけど、もしゃもしゃとボリュームを食らう、という事で終わりっていう感じ。

「蕎麦食ったぁ、って感じだったな」

店を後にしたとき、思わずつぶやいてしまった。

「なんかね、東信地方の気合いを感じたね。米がとれずに雑穀中心で生活してきた地域の、これでおなかいっぱいになるぞ!っていう覚悟ってやつかな?どうだ!これでおなかいっぱいだろう!?というお店からの挑戦状みたいな印象を受けた」
「おかでん大丈夫なん?あんな大盛り食って・・・」
「いや、大丈夫かどうかと言われれば、大丈夫なんだけど・・・うーん」

食べ終わった時間は17時近く。このあと、別所温泉の宿に向かった。当然、宿では夕食が18時から提供されたわけだが、一日4軒もの蕎麦屋行脚をした後だ。ましてや、直前に刀屋で笑っちゃうような盛りのそばを食べたばかり。とてもじゃないけど、宿の料理を食べられる状況ではなかった。

「うう、もうこれ以上食べられないぞ・・・」

夕食後半で、ぴたりと箸が止まってしまったおかでん。向かいの席に座っているばばろあも、「もうワシもダメ」とげっそり。

上田のお蕎麦は恐るべし。

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