美郷

2001年03月03日
【店舗数:092】【そば食:171】
長野県北安曇郡美麻村

ざる

美郷外観

白馬八方でスキーを楽しんだあと、蕎麦を手繰っていくことにした。聞くところによると、美麻村は蕎麦の産地だという。その現地産の蕎麦にこだわり、蕎麦屋を営むお店があると聞きお邪魔することにした。そのお店の名前を美郷という。なんでも、自分のお店から半径15km以内の蕎麦粉しか使わないというのだから、気合いが違う。

・・・もし不作の年があったら、どうするんだろう?・・・

蕎麦粉の配合を少なくするか、営業をやめてしまうか、それともポリシーを曲げて別の産地のものを使うのか。いずれにせよ、厳しい選択肢を強いられることになる。今思えば(今=2005年秋)、2004年の蕎麦大不作の時はどう対処したのか、すごく気になる。

美麻村は、白馬から信濃大町に抜ける国道148号線から少し長野よりの山間部に位置する。スキーシーズンにおける国道148号線渋滞の迂回路としても、美麻村を通る大町街道は使われている。そんな街道の傍らに、「美郷」はあった。

周りは畑なので、お店の存在自体は目立つ。そして、そのお店が蕎麦屋であるということもよく分かる。しかし、なんとも地味で、農村の風景に溶け込んでおり、とてもじゃないが「美味い蕎麦を食べさせてくれる」とは思えない外観だ。目立つけど、穴場な蕎麦屋とでも形容しようか。

正直、訪問した僕自身半信半疑だった。何しろ、店と同じ建物によろず屋があって、その軒先には薪の束が積み上がっているような外観だ。本や雑誌でこのお店が紹介されている、という実績がないと、足を踏み入れることは無かったと思う。こういうところが、まだまだ己の修行が足りない証拠だ。店の外観に騙されてはいかん。

お品書き

店の中も、さりげなさ炸裂。・・・いや、さりげないなら、「炸裂」はしないか。表現訂正。「さりげなさがじっとりと体にまとわりついてきた」とでも言おうか。

メニューのトップには、「ざる」「大ざる」と書いてある。うん、蕎麦屋の面目躍如だ。蕎麦屋の中には、いきなりご飯モノの部から紹介を始めるお品書きがあるが、ここはそうではない。

しかし、ずーっと読んでいくと「カレーライス」という文字が唐突に出てくる。

おい、大丈夫か。

「そばがき」や「そばうすやき」といった興味深いメニューが列挙されていて、やや安心感を抱いた直後に食らう、オチみたいなメニュー。カレー・・・っすか。

そば湯ようかん

しかし、「カレーは余興」とでもいいたいかのように、運ばれてきたお皿は興味深かった。野沢菜が盛られているのは珍しくないのだが、その横に消しゴムのような白い塊がある。これは何ぞ、と店員さんに聞いてみたら、そば湯を固めたそば湯ようかんだと言う。へぇー、面白いものを作るもんだなあ。

味はまあ、そば湯ということもあって、なんだか寸止め一本な感じではあったけど。でも、とてもうれしい一品だ。結構、こういうの「一工夫のサービス品」に感動してしまう。

ざるそば

ざるそばが出てきた。

皿盛りだ。お皿にすのこを敷いた上に、蕎麦が載っている。このすのこを取り除いたら、カレー皿としても使うっぽいな。皿をはじくとカンカンと軽い音がする。プラスチック皿だ。風情を追求した気配は皆無。でも、こういう開き直りってかえって気持ちがいい。へたに、金かけないで「それっぽく」しようとすると、がぜん胡散臭くなる。

感心したことに、単なるざるそばを注文したにもかかわらず、天ぷらが一品付属してきた。しかも、人それぞれ天ぷらの種類が違う。恐らく、地物の山菜なのだろう。揚げたてでぱりぱりの揚げ物に、一同歓声をあげてかぶりつく。これで700円なら、安い。

蕎麦は、頼りない色でやや不そろいの太さだったのでちょっと心配だったが、どうしてどうして、これがかなりおいしい。のどごし、麺の堅さが絶妙。そして、味、香りともに良し。この美味さを隠蔽するために、そっけないお皿や店構えをあえて選んだんじゃないのか?というくらいの美味さだ。洗練された美味さ、というよりも「うぉりゃー、蕎麦食うぜぃ」という感じのパワーがあるが、こういうキックバック感のある蕎麦もいいですな。

そば薄焼き

「サービスです」

と、感心することしきりのわれわれの前に店員さんはなにやら運んできた。

寿司1人前を盛りつけるような下駄の部分・・・つけ台、じゃなくて何て言うんだっけ・・・?の上に、作りかけの餃子みたいな物体が。

「そば薄焼きです」
「えっ、それって売り物なんじゃないですか?」

このお店は商売をする気があるのだろうか。700円で売られているメニューを、量は減らしているのであろうがサービスで提供しとる。これを食べて、まだ物足りなかったら追加で注文してね、ということか。そば羊羹、山菜天ぷら、そしてこのそば薄焼き。これだけざるそばにアドオンされていて、お値段たったの700円とは格安としか言いようがない。素晴らしい。

そば薄焼きの上には、甘い味噌がちょこんと載せられていた。これを端からちびちび食べるべきか、それともがぶっと一気にいくかちょっと悩む。結局、がぶっと一口。ああ、至福の時。

いや、驚きました。侮りがたし、美麻村。今度は新そばの季節に訪れてみたいものだ。

ps.
このお店、濃厚なそば湯が絶品だという。僕自身は全く記憶に残っていないので記述していないが、もし機会があったらぜひいただいてみたいものだ。

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