丸富

2002年02月09日
【店舗数:116】【そば食:210】
長野県駒ヶ根市赤穂

朝日屋、寄せ豆腐、キジの肝煮、昼ノ湯呑み酒

丸富

駒ヶ根に、非常に蕎麦屋の色気を発しているお店がある。その名を丸富、といい、前からすこぶる気になるお店であった。以前は飯田にお店を構えていたらしいのだが、現在は駒ヶ根の林の中に移り住んだと聞く。

木曽駒ヶ岳のロープウェー乗り場方面に向かう道から分かれ、「こんなところに蕎麦屋が?」というような田舎道を車は走る。とはいっても、ちょっと古いカーナビではこのお店の位置を正確に地図上にプロットできていなかった。まあ、隠遁生活的な蕎麦屋に行くときはえてしてこういうシチュエーションに遭遇するものだ。車に乗っている4人全員が、人間カーナビとなって周囲に目を配る。何しろ蕎麦屋というのはさりげない建物であることが多い。民家だと思って見過ごさないで、その玄関にのれんがかかっていないか、表札のかわりに「営業中」という表示になっていないか、警戒しなければいけない。

・・・迷った!結局、「このあたりだろう」と踏んでいた場所をぐるぐる、うろうろしても全然見つからなかった。手元にある資料は非常にざっくりした地図であり、全くあてにならない。ええと、ここは産業廃棄物処理場所か。違うなあ。スクラップの奥にまさか蕎麦屋があるかもしれない、なんて警戒したが、さすがにそんなことはなかった。

結局、10分以上うろちょろして、「こりゃあ手元の地図をアテにしない方がええのではないか?」という結論に達した。行動範囲をぐいっと拡大して探索を続行したら、おっと丸富発見。なんでぇ、地図駄目じゃん。

丸富は、赤い屋根のお店だった。この建物は駐車場がある広場から一段下がったところにあり、車で駐車場に乗り付けたら赤い屋根しか見えない。まるで、風をしのぐために建てられた山小屋のようだ。軒先には、薪が積み上げられていた。この時点で何だかこちらの気分はデキあがっている状態。

蕎麦屋ってそうなんだよねぇ。温泉と同じ。効能(=蕎麦の美味さ)もさることながら、転地効果ってのは大きなインパクトを与える。

丸富店内

店内はこんな感じ。がけの下にある建物なので、もっと薄暗いかと思ったら、高い屋根と開放的な窓で明るいお店だった。木造建築だからだろうか、明るいながらもしっとりとした落ち着いた空気が流れ、「こりゃあたまらんね」と思わず声を出してしまう。

前に居たお客さんのお皿を片づけている最中だったので、われわれは写真のこちら側、待合いスペースでしばし待つ。

丸富お品書き

ほどなく席に通され、お品書きを見る。

冒頭のページには「質素 モトヲ タズネル」と手書きで書かれていた。

こういう事を書くお店ってのは、ホントに凄いか、それともホントにインチキ臭いかのどっちかなのだが、ページをめくっていくにつれて「いや、こりゃ凄いわ」という気になってきた。全部のページの写真を掲載したいくらい、味があるお品書きだ。丁寧に解説文もつけられており、店主のやる気と誠実さが伝わってくる、とても良いお品書きだと思った。

珍しいよな、こうやって「お品書きを誉める」って事をするのは。この「蕎麦喰い人種」では初めてじゃないか?

野のもの料理

ここ、駒ヶ根はそばはもちろんのこといろいろな食材の宝庫です。春は山菜、秋はきのこ、地鶏、ニジマス、岩魚そして何よりもおいしい地野菜を使った、煮ものサラダお漬けものや天ぷらなどを季節に応じて毎日2,3品御用意がございます。

なーんて事が冒頭に書き記されているわけだ。手書きで。こういうのを見てしまうと、もうがぜんね、呑まずにはおれんわけですよこれが。駒ヶ根が食材の宝庫ならば、そのお宝をおかでんの胃袋という金庫に厳重にしまっておかないと。

お酒は・・・何だ?「昼ノ湯呑み酒」ってのがあるぞ。3種類ある清酒のうちもっとも安かったこともあり、訳がわからないままにこの「湯呑み酒」なるものをオーダーしてみた。熱燗の事かな?

湯呑み酒

やや、ややややや。

「昼ノ湯呑み酒」が出てきた瞬間、一同「ややっ」という声を上げてしまった。そして1秒後には「ほぅー、そういう事だったのか!」と驚きの声。

湯呑み、っていったら湯呑み茶碗の事だったのですね。おやおや、番茶でも入っていそうな湯呑みに、たっぷりなみなみと清酒が入っているではないか。ちなみにお酒はお燗されていない。

「いやぁ、これを呑んでしまうと相当にいい気分になっちゃいそうだな」

わくわくしてしまう。それにしてもいいネーミングだ、一歩間違えると、家で一人晩酌をしようとしたけど適当なぐい飲みが無いので湯呑みで飲む、なんていうビンボ臭いシチュエーションなわけだが、これは立派なプレゼンテーションとして成立している。全然大したことないのに、わくわくしちゃってる自分がいる。

お酒の突き出しとして、ニジマスの玉子(だったかな?何かの魚卵)が添えられてきた。こういうのも、ちょっと風変わりでわくわくする。

ちなみに写真左の小鉢は、キジの肝煮。ちょっと見慣れないメニューだけど、こういう「地の物を使ってます感」がビシビシ伝わってくる料理を食べることができると、それだけで幸せになれる。 ちなみに日替わりのメニューに入っていた品の一つだ。

このほか、日替わりメニュー・・・いや、この表現はちょっと粋じゃないな、「本日の野のもの料理」とお店では形容している・・・は、蜂の子塩炒り、お漬けもの、にしん棒、にしんそばがあった。にしんは「野のもの」ではなく「海のもの」だけど、ひょっとしたら駒ヶ根あたりでは地面から生えてくるのかもしれない。

寄せ豆腐

寄せ豆腐400円。

なんででしょうね、美味そうな豆腐をみかけるとついつい注文してしまう。それだけ、日頃スーパーで買い求めている豆腐に不満を感じているのだろうか?最近、居酒屋でもこの手の豆腐料理はスマッシュヒットとなっているわけだが、みんな美味い豆腐に飢えているのかもしれない。

堅めの豆腐で、ぎゅっとうまみが詰まっていて良し。

朝日屋

「朝日屋」到着。

このお店では「白檜曽乃蕎麦切り」というのと、「朝日屋」という名前の二種類のもりそばが用意されている。

えーと、「しらびそ」の方は「貴重な上村下栗産の玄そば 生粉打ち、量は少な目 実は手刈り、天日乾燥にて完熟 だそうで。転じて朝日屋は「駒ヶ根産玄そばを中心に各地のブレンド 粗く挽いた粉を二八で力強い味わいに コンバインに送風乾燥(一部天日乾燥)なんだと。石臼挽き自家製粉が蕎麦屋のトレンドなわけだが、この店はさらに先を行ってる。天日乾燥?手刈り??そこまでやりますか。

天日乾燥、っていうのはまあ、魚の干物なんかでもそういうのが良いっつーのは聞いたことがある。蕎麦もきっとそうなんだろう。しかし驚いたね、手刈りという価値観があったとは。コンバイン収穫だと一体何が劣化を招くのだろうか?気になる。

このほか、2日以上前の予約で5枚以上という条件で、手挽き田舎蕎麦「雫」なるものを食することができるらしい。

ちなみにこの蕎麦は「朝日屋」。しらびそは既に品切れになっていた。早い時間にお邪魔しないと無理らしい。

よーし、ではコンバイン収穫の、科学技術の粋を集めた蕎麦を食べるぞぅ。

ずずずい。

うーん、うまい。

ご主人すまん、この蕎麦でも十分に美味いんですけど。

胡桃かいもち

甘党のメンバーが食後に注文した、「胡桃かいもち」。そばがきの上にくるみソースをかけたもの。いろいろ考えるなあ。

このお店、一度は訪問する価値ありです。車じゃないと来られない場所というのが残念だけど、誰かお酒を飲まない友を連れ立って、ここでじっくりと杯を傾けるというのをやるとたまらんと思う。

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