並木藪蕎麦

2003年01月26日
【店舗数:137】【そば食:238】
東京都台東区雷門

板わさ、焼き海苔、ざる、熱燗

本当は「市場食堂」なる横浜青果市場の中にある食堂で、「ウニ丼」や「中落ち丼」を食べる予定にしていた。ウニ丼は丼いっぱいに生ウニが乗っていて(木箱いっぱい分くらいはある)1,100円。呆れるほど安い。しかもこのお店、ご飯のサイズを何通りか選ぶことができて、最高1,300gまで増やす事ができるのであった。1.3キロのご飯っていえば、CoCo壱番屋のカレーチャレンジメニューと同じだ。全部食べ切れればお代がタダ、ってヤツだ。そんな常識はずれなご飯量が可能だからって、一体誰が食べる?・・・でも、敢えてメニューに載せているその心意気や大いに良し。こういう豪快な盛りの店って、貴重だ。

・・・のつもりだったのだが、同行してくれた友人が病み上がりであり、横浜駅から徒歩20分(片道)の市場食堂に行くのはちょっと辛い、との連絡が直前になって入った。だったら、よっぽどこの日の外食企画を中止にしようかと打診したのだが、「蕎麦だったら食べられる」と言う。ということでとりあえず上野駅のジャイアントパンダ前にて集合して、そこから適当な蕎麦屋に行こうや、という話でまとまった。
なぜ上野で蕎麦屋か。

今回のテーマは、「御三家」。徳川御三家ではないが、蕎麦屋には御三家があるという。「神田」「並木」「池之端」の藪蕎麦御三家だ。かんだやぶそばを母体とする、数十にも及ぶ子供・孫にあたる店舗のうちの代表格がこの三軒だという。

徳川御三家といえば、「水戸」「尾張」「紀州」。これは、江戸の将軍家と比べて一段下がった位置づけにあったはずだ。ならば、藪蕎麦御三家に本家の「神田」が入るのはオカシいのではないか、という気がしないでもないのだが、きっと何やら奥が深いのだろう。見なかったことにしておこう。

まあ、それは兎も角、この御三家のいずれかに行こうとすると、上野あたりに集まるのがちょうど良かったというわけだ。ほかにも、上野藪や吾妻橋藪といった藪系列のお店があるし。・・・結局優柔不断で、どこに行くか決め切れていなかっただけ、というわけだが。

さて、ここからしばらくは「どのお店に行こうか」とジャイアントパンダの下であれこれ検討する話になるのだが、長くなりそうなので割愛。
一気に場所は浅草。並木藪蕎麦の前。

早いな、展開が。

いや、久々に「蕎麦喰い人種」の記事を書いているんだけど、ペース配分が難しくって。全然関係ないウニ丼の話をしたかと思ったら、徳川御三家の話になったり。もう少し話を端折らないと、本題にいつまで経っても入れない。
ということで。

うまかった。 以上。

お約束のオチを用意したわけだが、おもしろさとしてはイマイチだったかもしれない。というより、並木藪を一言で表現するならば、
辛かった。以上。

と形容するのが妥当かもしれない。

ここで辛かった、というのはもちろんつゆの事であり、別にトウガラシが麺に練り込んでありましたァ、というわけでは決してない。
おっと、話が一気に総まとめに入ろうとしているぞ。いかんいかん、時系列に沿って再度話を進めていくことにしよう。

本当は「市場食堂」なる横浜青果市場の中にある食堂で、「ウニ丼」や「中落ち丼」を食べる予定にしつこいですね、このボケは。やめます。真面目に本題に戻ります。

さて、並木藪蕎麦。場所は雷門から南に歩いて2-3分という好立地にある。ついつい、浅草に降り立つと神谷バーをのぞきつつ雷門をくぐり、仲見世通りをひやかしつつ浅草寺へ・・・というルートをたどってしまう。だから、こちら方面は案外縁がなく、せいぜい駒形どぜうでどぜう鍋を食べる程度に立ち寄る方角、といえる。

そんな、雷門方面の雑踏とはうって変わったような道路向かいの一角に、そこだけ行列ができているお店がある。これが、並木藪蕎麦だった。神田藪のように庭があるわけではないので、ラーメン屋の行列よろしく歩道上で行列を作っていた。その数、7-8名ほど。14時半という時間を考えると、結構な行列だ。

しかし、違和感が非常にある。蕎麦屋独特の和風な渋いたたずまいのお店の前に、老若男女が寒風の中待ち行列を作っている。仕事の都合でFMの公開スタジオの前を通ることが多いのだが、そこで芸能人を一目見ようと並んでいる女子高生たちと比較すると、何といぶし銀な行列なことか。

そんないぶし銀の光景に自らを投じ、待つことしばし。なあに、蕎麦屋の行列は回転が早いので、ちょっと待てばすぐに入ることができる。・・・ほーら、15分もしないうちに入店できた。

店の中は、お座敷席とテーブル席に分かれていて、全部で30席から40席程度。その中をお客さんと店員が行ったり来たりしていた。ちょっとした雑然さは、神田まつやを思い出させる。お品書きは・・・ああ、壁に貼りだしてある。

当然清酒は頂くとして、お酒のつまみは・・・と見渡すと、「板わさ」「焼き海苔」「わさび芋」の3品しかなかった。少数精鋭で勝負、という事だろう。神田まつやの「肴の総合デパート」状態とは180度違う。でも、蕎麦屋なんだからこの程度の品数で良いのだろう。ぜいたくを言ってはいかん。

とはいっても、渋すぎますぜこのつまみは。一人でまったりと午後の一時を過ごすwith熱燗、という状態ならば十分すぎる一品なんだけど、二人で訪れて分け合いつつ、酒を酌み交わしつつ頂くにしてはちょっと侘び寂びの境地ですわ。あっ、わさび芋だから「侘びの境地」ってか。
今、ここで「わさび」と「侘び」が似た言葉であることを発見して、受けねらいに使ってみたが、いざ文章にしてみると全然面白く無いなあ。反省。

さすがに、わさび芋をずるずるっとすすり上げて、隣の友人に「はいこれ、残り君のね」って渡すというのはあんまり愉快な光景ではないので敬遠。必然的に、板わさと焼き海苔を頼むことになった。ちなみに、ここのつまみは全部650円。お酒も650円。おや、蕎麦も650円だ。なぜかこのお店は650という数字が好きらしい。中途半端な数字だと思うのだが・・・。

まずやってきたのは、板わさ。かまぼこが4きれ、お皿に載ってやって参りました。

うーむ。少ない。二人で頂くとなると、一人あたり2切れということになる。これはきっと、良い素材を使った高級かまぼこに違いない。「かまぼこ」とか「カマボコ」と記述するのではなく、びしっと漢字で「蒲鉾」と記載されるような、そんなヤツだろう。では、謹んで頂戴しようではないか。

・・・あまりに勿体なくて、ハムスターがヒマワリの種をかじるように端をカリカリと囓って食べてしまった。味?いや、ぱくっと食べられなかったので、いまいち普通の「カマボコ」との違いは分からなかった。何しろ、どんなにお上品に食事をする人だって、カマボコ一切れだったら二口で食べきってしまうだろう。にもかかわらず、よりによってこのおかでんが、だ、そのカマボコを四口、五口で食べているんだから。

でも、そうやってじっくりと食べつつ、菊正宗の樽酒を頂くのは非常に結構な時間だった。ぱくぱく食べながらお酒、というよりもしっくりくる。ああ、酔いが早くきそうだなこれだと。

しかし、ココロの中では、「4切れで650円ってぇことは、一切れいくらだ?」という現金な事を考え、考える度に「いや、そんなくだらない計算をするのはゲスだ、やめとけ」と慌てて思考をうち切るという葛藤を繰り返していたのは事実。

おかでん自身は、「まあこういう形で酒を頂くのも面白い」とこの状況を楽しめるのだが、連れてきた友人が「何、この値段は。高すぎるんじゃないの?」なんて身も蓋もない事を言ってしまって、なおかつ機嫌を損ねてしまうのが一番怖かった。恐る恐る相手の様子をうかがってみるが、特に不機嫌になっている様子はなし。店の雰囲気と、蕎麦屋で酒肴を愉しむというシチュエーションが興味深いらしい。面白がってくれているのでとりあえず一安心だ。

という安心もつかの間、次の地雷原・焼き海苔がやってきた。これまた、 650円の品なのだが量が少ない。全部で5-6枚程度と記憶しているが、そうなると薄い海苔がお札のように貴重なものに見えてくる。今度はおカイコさんになった気分で、端からカリカリと海苔を囓った。

ええと、この場合海苔1枚でおいくら・・・って、こら!余計な事を考えてはいかん。

きっと、海苔はいいものを使っているのだろう。でも、その味の良さを理解できないということは、味付け海苔に毒されたB級グルメな日常を送っているからだろうか。
つまみと酒を切り上げ、ざるを注文した。
先ほど出てきた「辛かった」というのは、このざるそばのつゆのことを指す。もともと、江戸の蕎麦つゆは辛くて、そばをどっぷりとつけて食べなくて済むようになっている。麺の1/3程度をつゆに浸けて食べるのが通だ、なんて言う人もいる。しかし、そんな中で、この店は特に辛いらしい。

と、頭の中は辛いつゆのことでいっぱいだったのだが、出てきたざるを見て少々びっくり。

通常、ざるというのはU字形に上を向いているもんだ。で、そのくぼみに蕎麦を盛る。しかし、このお店の場合、その肝心のざるがひっくり返っていたのだった。要するに、お山の形に盛り上がっているざるに、そばを載せているわけだ。危ない!溶岩流みたいになって蕎麦が雪崩を起こす!と見た瞬間ひやりとしたが、蕎麦自身の粘力でざるに張り付き、事なきを得ていた。

というよりも、量が少ないのだな。崩落するほどの盛りではないということだ。おかげで水切れは非常に良く蕎麦が水っぽいことはないのだが、ちょっと寂しい盛りっぷりではある。調子に乗れば、三口で一枚平らげてしまいそうだ。

ここは、先ほどまでの練習の成果の見せ所。ふぐ刺しを大皿からすくうがごとく、慎重にそばをつまみあげる。この際、量が多すぎても少なすぎてもいけない。少なすぎると、蕎麦の味そのものがわからなくなるからだ。

細心の注意を払いつつ、そばをすすり上げる。まずは、つゆには浸さない。うむ、悪くない。そばがくっきり、はっきりと自己主張していてすすっていて気持ちよい。次に、つゆだけを試してみる。ごくり。・・・ごほごほごほっ。辛い、本当に辛い。うかつに一口飲むと、咳き込んでしまうので要注意だ。でも、辛いといっても醤油そのまんまやんけ、という辛さではなく、ちゃんと風味がきりりと引き締まっていておいしい辛さだ。これは蕎麦と合いそうだ。では、そばmeetsつゆということで。

ずずずっ。

ああ、良いですな。

ずずずっ。

うむ、やっぱり蕎麦はつゆにちょこっとだけ浸けるのがいいです。最初に蕎麦の香り、その後に鰹と醤油の風味が追っかけてくるこのタイムギャップ。

ずずずっ。

・・・しまったァ、全部食べてしまったではないか。油断していた。
悔しい気分に浸りながら、そば湯を頂く。そばつゆが非常に辛いので、バランスを考えながらつゆとそば湯を混合させなければならない。あーあ、隣の友人は、猪口になみなみとつゆを入れていたので、そば湯が激辛になってしまっているぞ。途方に暮れた友人は、空になったお酒の猪口に多すぎるつゆを移していた。
最初はそば湯を多めに入れ、その後つゆを数滴たらしつつ味を調整していく。なにしろ、一滴で味が変わってしまうので慎重にならなくてはいかん。なんだか、河原を掘ったら温泉が出る、っていうのを思い出してしまった。熱いので川の水で薄めて、今度はぬるくなってしまったので川の水が入ってこないようにしたらアチチチ、の繰り返し。それと一緒。

ようやく絶妙な塩梅にそば湯がまとまったので、ごくりと一口。ああ、くつろぐ。
お会計をしようとオバチャンのところに行くと、伝票などは存在せず自己申告制になっていた。

「ええと、もり2枚と、板わさと」
「でしたら1950円ね」
「ああいや、まだありまして、焼き海苔と」
「2600円」
「それからお酒を」
「じゃ、3250円」

こちらの申告に対し、話に割り込むかのごとく即座に値段を返してくるオバチャン。まるで電卓のようだ。まあ、多くの品が650円なので、650の倍数を覚えておけばほとんど用は足りる。だから、高度に情報処理能力が高まっているのかもしれない。

このお店、雰囲気は好きだし蕎麦も割と好き何だけど、ボリューム感という点で物足りなさが残る。大食いの僕ならともかく、今回同席した友人(女性)が「物足りない!もういっぱい食べようかしらん」と言い出すくらいなのだから。

「蕎麦なんてものは、軽く手繰るものだからその程度の量でいいの」と言われそうだが、まだまだおかでん、その境地にまでは達しておりませぬ。ましてや、蕎麦初心者の人にはなかなか理解してもらえないボリューム(と値段とのバランス)だろう。今度このお店に来るときは一人で、読みかけの本でも持参することにしたい。誰か知り合いを連れていくには、敷居が高い店だと思う。

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