公望荘

2004年04月14日
【店舗数:162】【そば食:288】
東京都台東区上野桜木

セイロ、焼酎そば湯割

吉原からの帰り、鶯谷の駅に立ち寄った。

いいね、こういう出だし。艶があるじゃないかおかでん。いきなり吉原たぁ、お大尽様じゃあありやせんか。

・・・で、気が済んだか。

はい、気が済みました。いっぺんそんなこと書いてみたいなあ、って思っていたんで。刑事さん無理言ってすいませんでした。

何を言ってるんだか。

ええとですね、吉原帰りなのは真実なのですよ。お仕事で。まあ、仕事といってもいろいろあるわけで、まじめな実地見聞なのですよ。職場の上司に「今日、これから吉原に行って参りますので」と報告して、現地に向かった次第で。上司も心得たもんで、「楽しんでこいよ」なんて他人が聞くと誤解を与えそうな送り出し方をしてくれた。

ま、それはともかく、仕事が終わってから、先方の部長さんを交えて居酒屋でお酒を飲んだのだが、連れて行って頂いた居酒屋が「晩酌セット」なんてメニューがあって、アルコール+好きな料理二品で1,000円だった。「えらく安いけど、料理の量が少ないんだろう」と思っていたら、いざテーブルに届けられた料理はケチケチせず量がきっちりとあって呆れた。入谷近辺、物価が安いのだろうか。生ビール500円として、料理1品あたり250円×2品で1,000円。炒め物や揚げ物など、どう考えても250円で商売にならない。

部長さん、「晩酌セットにお酒を追加しても、2,000円もしないで満足できるんだよな」とのこと。お店、商売にならんぞ。店内の他のお客さんも、必然的に全員晩酌セットを注文しているし。自ら、客単価を抑制しちゃうような営業方針の居酒屋。すてきです。ぜひ頑張って欲しい。

というのは蕎麦喰いと全然関係の無い話で。

いやー、これじゃお店儲からないねえ、なんていいながら、ついつい焼酎のボトルを1本あけちゃったりなんかして、結局そこそこのお金をお店に払ったりなんかして。そう、このお店は、安く抑えようとすれば十分可能なお店なのだが、とっかかりでココロを許してしまうため、ついついあれこれ注文してしまうお店。実に知的な商売をやっているお店だった。

おかげで結構酔っぱらった。こちらは、部長さんから「おかでん君もっと飲みたまえよせっかく来たのだから」なんて言われて、断るどころかむしろヨロコンでぐいぐい杯を空けてしまった。吉原で、女に酔うのではく酒に酔う。ま、おかでんらしくていいじゃないか。

公望荘

まだ飲み足りない、というその部長さんは課長を伴って夜の街に消えていき、残った3名でJR鶯谷の駅に向かった。

タクシーがひっきりなしに道を走り抜ける。吉原にこれから向かう人、一勝負終えて戻ってくる人の欲望を載せて。

そんな、「欲望のターミナル」鶯谷の駅に到着したところで、駅前に蕎麦屋があることに気がついた。

ポジションとしては、立ち食い蕎麦でもやっていそうな、それくらい駅に隣接した蕎麦屋だ。名を、「公望荘」というらしい。何の意味があるのかわからないが、「天下御免そば」と書いてある。ばっさりと日本刀で切り捨てられそうな感じだが、大丈夫か。

同行していた方が「最後、シメで蕎麦食べていきますか」と提案した。おかでんはすでに酔っぱらっていてなすがまま状態。しかし、

「いやー、駅前の蕎麦屋でおいしいところってあり得るんですかね。恐らくイマイチだと思いますが・・・でも、シメで蕎麦ってのは大賛成です」

と、お前どうしたいんだよ、という発言をして、率先してのれんをくぐった。

公望荘店内

店内はこんな感じ。角地にある蕎麦屋なので、入り口が二カ所ある。不思議な店構えだ。

椅子同士がぴっちりと隣り合っている席のため、大人が並んで座ると肩がぶつかってしまう。背格好が小さかった一昔前だとこの配置でも良かったかも知れないが、今だとちょっと狭い。というか相当狭い。

でも、そういう「狭さ」も相まって、なにやら古風な、風情を感じさせてくれる。味があるというか。ただ、今この時間は他のお客さんがいないのでそんな呑気な事を言っていられるが、恐らくピーク時になるとこの席が全部埋まるのだろう。そうなると、狭い店内を走り回る店員さん、肩をぶつけ合いながらすする蕎麦、二カ所の入り口からひっきりなしでやってくるお客・・・と結構な修羅場になりそうな予感がする。

そういえば、隣の人との席の感覚の狭さでいえば、「神田まつや」がキングオブキングだと思っていたのだが、今回はそれを越えたかもしれん。

天井は、よしず張りのようになっていて、清涼感がある。下はたたきだし、夏はさぞや涼しげなお店だろう。蕎麦屋は、やはり天井に味がないと、楽しめないしくつろげないと思う。・・・と、今急に持論をこしらえました。如何でしょう。

いや、如何でしょうって言われても困るんですけど。

お品書き

天下御免の手打蕎麦、と銘打たれたお品書きが出てきた。

天下御免、という言葉の意味をあらためて調べてみたところ、「世間一般に公認されていること」だそうな。ということは、この言葉を翻訳すると「公認手打蕎麦」ということか。何だか公認会計士みたいだ。

ま、深い意味は無いのだろう。そういうところからツッコミをいれだすときりがないからやめとけ。

このお品書き、まずは度肝を抜かれるのが栄えある料理一覧のトップに

「御免そば 3,300円」

と書かれていたことだ。さ、さんぜんさんびゃくえん、ですか。

一瞬、「お酒のシメで」程度の認識だったわれわれの肝を冷やした。なんだこのお店は。吉原で豪遊するような人向けの物価になってるんだろうか、なんて真剣に考えてしまった。

しかし、お品書きを読み進めていくと、ちゃんと「セイロ 750円」を発見。ああびっくりした。しっかし、蕎麦屋の代表メニューであるせいろそばがえらく後ろに書かれているんである。比例代表選挙だったら、まず当選できない順位だ。そばの部の最後から二番目に登場。しかも、最後の料理が「なべやき」。なんと、セイロはなべやきよりも一つ格が上の料理として位置づけられているらしい。

ちなみに、3,300円のそばは、「別打ち」ということで、予約が必要らしい。いいそば粉を使っているのかもしれない。

酒肴は、種類は少ないながらも一応王道なものはそろっていた。そばずしもおいてある。さすがに今回は、先ほど飲んだお酒で目の前がぐるぐる回りそうな状態なので、パス。

幌加内産のそば粉

壁にあった、そば粉の産地表示。

幌加内産のそば粉を使っているようだ。

お土産用のそば粉が、1,000円で売られている模様。

むむ。この蕎麦屋、店の位置と作りからして「とりあえず蕎麦喰いたいヤツに食わせます」程度のお店なのかと思っていたが、違う気配が漂ってきた。

さっきの3,300円の蕎麦だって、それだけのお値段でヘロヘロな蕎麦を出したら、いくら温厚な蕎麦好き諸子だって暴動を起こすだろう。

焼酎そば湯割り

っとっと、うわぁ、何ですかコレは。

「焼酎そば湯割り。おかでん君、当然飲むんだろ?」

いや、もう飲めません。勘弁してください。半分頂いたところでリタイア。

セイロ

・・・と思ったが、今この写真を見てみると、蕎麦がでてきた段階でも焼酎そば湯割り、一口たりとも量が減ってない。

結局、全然飲めなかったんですな。記憶がこのあたり曖昧。

ちょっと珍しい、四角いざるに盛られて、セイロ(750円)登場。カタカナでセイロ、という料理名はこれもちょっと珍しい。

で、お蕎麦なのだが、何やら美味そうだ。つややかに輝く蕎麦は、色気がある。でも、油断は禁物。

・・・

「あ、オイシイや」

一口食べて、思わず口走った。いけるのです。「そこそこおいしい」んではなくて、「おいしい」のです。堅めの蕎麦が、酔っぱらってふにゃふにゃしている自分自身にカツを入れてくれる。やっぱり、蕎麦はこうメリハリのついた堅さじゃなくっちゃねえ、とそばを豪快にすすり上げた。

お酒のシメとして最高だったが、これはぜひシラフのときに頂きたい蕎麦だ。もったいない。750円の蕎麦でこんな感じだとすれば、3,300円の御免そばって一体どんなヤツなのだろう。この料理、せいろ2枚が供されるようなので、1枚あたり1,650円。たった今頂戴したセイロの2倍以上のお値段。・・・果たして、美味さも2倍以上になるのかどうか。

ま、無理だと思う。値段と、美味さは比例しない。だから、このお店は750円の通常のセイロで十分なんじゃないかと思う。それだけ、満足感が高い蕎麦ってことだ。

鶯谷駅

店から出てみると、吉原への送迎のためのタクシーが、ひっきりなしに発着していた。急に俗っぽい世界に戻ってきた、という感じ。

「おい、間違えてタクシーに乗って吉原に戻るなよ。ちゃんと家に帰るんだぞ」

と言われながら、帰路についた。

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