手打そば処 小羽根山

2004年06月26日
【店舗数:167】【そば食:300】
静岡県御殿場市柴怒田

せいろそば

仕事の関係で、御殿場に1泊2日で外出の予定が入った。仕事といっても、スーツを着込んでガチガチな事をやらなくちゃいけないわけじゃない。午後、のんびりと御殿場に向かった。

・・・つもりだったのだが、土曜日「のんびりと」外出をしようとすると、東京近郊いずれも大渋滞。違った意味でのんびりとしてしまった。極上のストレス、ごちそうさまでした。

せっかく富士方面に向かうからには、その地の名物を食べておきたいところだ。ふっと思いつくのは、富士吉田のうどん。一度食べてみたいものだ。讃岐うどんとは違う、独特のうどん文化がどのように花開いたのか、見てみたい、味わってみたい。そして、富士宮における焼きそば文化も興味深いところだ。たかが焼きそばだけど、「名物」として成立しているのだから、きっと独特の何か工夫がされているのだろう。これも食べてみたいところだ。

そういう思いをふくらませていたのだが、最終的に「でも、御殿場界隈で蕎麦を食べるってのもいいんじゃないの」という、いつも通りの蕎麦喰い人種に立ち返ってしまった。何の努力も智恵もなく、頭悪い判断ではある。それは認めよう。しかし、最近「ぐらの」に骨抜きにされてしまい、毎週のように通い詰めているこの現状をどうにかしたい、もっと幅広いお店の経験値を積まなければ、という気になっていたのだった。ぐらの偏重に対する、罪悪感。そんなわけで、御殿場に行くということは、新しいお店開拓の格好の機会と位置づけられたわけだった。

さて、そんなわけで、「御殿場の蕎麦屋」をwebで調べてみたところ、小羽根山というお店を発見したのだった。たまたま、宿泊場所とも非常に近い。これは、行けと言っているようなものだ。よし、今日はここに決めた。

店は、「隠れそば処」と自称しているらしい。御殿場界隈で、「隠れそば処」たぁあいい根性している。自称するってことは、神秘性を高めて集客効果を高めようとするマーケティング的策略なのか、それとも単に「ウチは田舎ですから」と遠慮しているだけなのか、わからない。いずれにせよ、カーナビの地図で場所を確認してみたところ、「おい、こんなところに蕎麦屋作ってどーすんのよ」という場所にお店があるのは事実。これは楽しみだ。

黒姫の「ふじおか」に代表されるように、へんぴなところにある蕎麦屋は滅法美味いことがままある。街道筋や町中の蕎麦屋が、大量のお客をさばこうとするマスマーケティング的な発想なのに対して、逆を行っているからだ。しかし、単に田舎にあれば蕎麦がうまいか、といえばそうでもないのがこの業界の難しいところだ。

そんなことを考えながら、車を御殿場方面に進めた。

御殿場市街の渋滞に苛立ちつつ、カーナビの指示に従った。ナビが曲がれ、と指示する路地があったが、どう見ても普通の集落の枝道に過ぎない。「いやいくらなんでもこれは」と思ってスルーしようとしたら、その交差点の隅っこに木の看板で「小羽根山」と小さくかかれたものを発見した。あっ、やっぱりここだったのか。

驚き、焦りつつ交差点をぐいんと曲がる。思わず通り過ぎようとしていた交差点を強引に曲がったため、民家のコンクリート壁にぶつかりそうになりながら通過。カーナビが表示するお店の場所を、全く信用していなかったという証拠だ。

小羽根山

その路地を進んでいくと、田んぼの中に先ほどの「小羽根山」の木の看板が立っていた。まさか田んぼのあぜ道の先に蕎麦屋が!と一瞬動揺したが、道路を挟んで田んぼの反対側にある民家の門にも、「小羽根山」の木の看板を発見した。どうやらこの民家らしい。

いや、しかし、だ。どう見ても普通の民家だ。看板が出ているからそれと分かるが、ここで本当にあっとるんか?大体、駐車場はどこよ。

視覚中枢に届けられる情報から、各種想定される事象を分析している間に車はそのまま「民家」を通過してしまった。あらー。

しばらく先に進んでも、当然のごとく小羽根山の駐車場なんて出てくるわけもなく、Uターンできる場所もなく、けっこう先まで行ってから今通った道を折り返しした。ちょっと不安になりながら、小羽根山と看板が出ている民家に車を突っ込んでみた。すると・・・ああ、庭に車が何台か停まっている。どうやら、この庭を駐車場代わりに使えという事なのだろう。

わかりにくい店の入り口

店は一体どこだ、と思ったら、民家のすみっこに暖簾がひらめいているのが見えた。あ、なるほど、あそこから入るのか。建物はあくまでも普通の住居なのだが、住まいの一部を改築して蕎麦屋にしました、ということなのだろう。

中に入ってると、さすが改築バージョン。家の片隅を解放しました、と言う感じがありありと漂う。座席は、テーブルが4つあって、22名が座ればもういっぱいという状況。テーブルのうち一つは、暖簾をくぐってすぐの所にある土間に設置されている。客数増加のため、増設したのかもしれない。

メニュー

メニューをぱらぱらとめくってみる。今日はこの後特に何もイベントが無いので、お酒飲んじゃってもいいかなあ、と思っていた。ま、宿泊場所は近いので、とりあえず自転車で現地に向かって、後で車回収しにきてもいいわけだし。しかし、何かあまりにアットホームな雰囲気だったため、お酒を頼む気になれず、せいろのみを注文するに留まった。酒肴は、板わさ、そばがきなど基本的なものは提供しているようだ。お酒は、若水、砂走りなど。

アットホームな感じなのは、建物の作りもあるが、すぐ隣のテーブルで、子供連れの数家族の団体さんが和んでいたからかもしれない。小さいガキんちょが大活躍で、「コーヒーもらってもいいですかぁ」とか「お水くらはい」と、給仕しまくっていた。可愛らしくていいねぇ。

せいろそば

せいろそば。740円。いかにも、「総額表示になってから、700円だったものを税込みにしました。でも、実際は735円なんだけど、ええいせっかくだから740円に切り上げちゃえ」と判断された感じがして、微笑ましい。小降りながらも、わさびが1本まるごとついてきて、自分ですり下ろして頂くスタイルを取っているのはすてきだ。あと、薬味は葱と大根おろし(辛味大根ではない)だった。

早速、つゆにつけずに蕎麦だけすすってみる。ずずずっ。

あっ、これは美味いぞ。

「あっ」と思わず驚きの声を発してしまうくらい、これは美味かった。口に含んだ瞬間に立ち上がる蕎麦の香り、そしてひと噛みしたときの蕎麦の味。ヨロコビよりも先に、「しまった大盛りにしておけば良かった」という後悔の念を感じてしまうありさまだった。いや、「隠れそば処」の名にふさわしいぞ、これは。つゆも、変な癖が無く、まろやかで美味い。するすると食べきってしまった。

やはり辺鄙なところにある蕎麦屋はいいねえ、なんて思いながらそば湯を頂く。でも、決して辺鄙な蕎麦屋が美味いというわけではないのだろう。辺鄙なところにお店があるにもかかわらず、おかでんの耳にまでその店名が聞こえてくる、という事はそれまでに「おいしい」と評価した人がいたからだ。決して、行き当たりばったりで辺鄙な蕎麦屋を訪問しても、美味い蕎麦に出会えるというわけではないだろう。

辺鄙な場所にある蕎麦屋であればあるほど、蕎麦がおいしかったら「これは凄い店を発見した!」とお客に喜ばれ、口コミでは実際の美味さの1.5倍から2倍くらいに誇張されて伝達されている可能性はある。でも、実際にこの小羽根山はおいしかったんだから、ありがたいことです。

しかし・・・

その割には、そば湯を頂いていて、イマイチ満足感が低いのはなぜだろう。蕎麦は、拍手を送って良いおいしさだった。しかし、この空虚さは何?そば湯がさらさらしていて、まったりと食後のひとときを楽しめる味わいではなかった、というのもあるだろう。しかし、最大の要因はお店がアットホームすぎちゃったところなのかもしれない。こればっかりは個人の趣味になるが、やはり蕎麦屋はある程度きりりと空気が引き締まっていて欲しい。そんな空気の中で、ほうっと一息つく、それがおかでんにとっては心地よい。その点、このお店はちょっとほがらか過ぎたのかもしれない。ま、これは店が悪いとかそういうレベルの話じゃないので、どうでもいいことなのだが。

店を後にするとき、入口に臨時休業のお知らせが貼ってあることに気が付いた。いわく、来週の日曜日は地区美化作業のため休業、再来週の日曜日は結婚式参列のため休業なのだそうな。地域に密着した蕎麦屋。庶民的な蕎麦屋。うまい蕎麦を食べさせてくれる、普段着のお店。これぞ、隠れそば処の真の姿なのかもしれない。立地条件だけが、「隠れ」ているのではないということだ。

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