手打ち蕎麦 彦

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2004年06月26日
【店舗数:169】【そば食:302】
神奈川県足柄下郡箱根湯元

彦スペシャル

御殿場駅前の地図

御殿場の駅前に「つるつる屋」という蕎麦屋があると聞いていた。駅前なのに、美味いという。安っぽいB級な名前なのに、美味いという。ホンマかいな。

「観光地に美味い蕎麦無し」というのはほぼ正解な格言だが、「駅前に美味い蕎麦無し」というのもあながち間違ってはいない。まあ、例外として中軽井沢の「かぎもとや」などがあるが、一般論としてはそうそうハズレではあるまい。

ということで、御殿場駅に繰り出してみた。駅前の、BE-ONEビルという商業施設に入っているというが・・・なるほど、駅前の地図を見ると、確かにまごうことなき駅前ビルじゃないか。

BE-ONEビル

あー、あのチェッカーフラッグみたいなヤツね。ああいうビル、地方の駅前に行くとよくあるような気がする。

あんなところに蕎麦屋があるのか。似つかわしくないなあ。

BE-ONEビルはしまっていた

・・・って、あれれ。鍵が閉まってるぞ。

がちゃがちゃ。

・・・開かない。建物の中には、人の気配がない。

がちゃがちゃ。

おっと危ない、セコムが設置されてるぞ。あんまり揺すっていたら、警備員に通報されてしまう。

BE-ONEビルの館内図

建物の入り口に戻り、館内案内図を見てみた。

B1 グルメ

と書かれている。

ええと・・・あれ、つるつる屋が無いぞ。

いや、違う、よーく見ると、B-1ゾーンのところにうっすらと「つるつる屋」と書かれている。どうやら、文字を消してしまったらしい。

ということは、この建物から撤退したか、廃業したかのどっちかということか。がっかり。

同じフロアに入っているお店が、「さしみ居酒屋」「パブ」「スナック」といった夜のお店ばかり。その中で美味い蕎麦屋があったということを考えれば、非常にそそられるシチュエーションだったのだが、残念。

家に帰って、webで調べてみたら2004年4月に御殿場郊外に移転、「草季庵」と号して蕎麦屋を営んでいるらしい。

やっぱり、「つるつる屋」という軽いネーミングは、駅前仕様だったということか。店名も、外見も、サイトを見るとすっかりすてきな蕎麦屋になってしまっている。今度御殿場に行く機会があったら、食べに行ってみよう。今回はこの辺で勘弁しといちゃる。(負け惜しみ)

さて、蕎麦をつるつるしそびれたおかでんは、このままおめおめと東京に帰るわけにもいかなかったので箱根湯本に転進することにした。

箱根湯本には、「箱根暁庵」という翁系の蕎麦を出す有名なお店がある。その蕎麦を堪能しよう、というわけだ。

強羅近辺の渋滞を避けるため、芦ノ湖経由でお店に向かった。道中、あちこちに蕎麦屋がある。美味いのだろうか?リサーチ不足なのでお店の情報は把握していないが、ちょっと気になった。

しかし、そんな不確定要素のところにココロ奪われ、お店に入ってしまうのも悔しい。何しろ、ご近所ではなくて、家から100km以上離れた地なのだ。あまりハズレくじは引きたくない。スルー。

狭い温泉街の道を下っていったところに、箱根暁庵はあった。しかし、駐車場はいっぱいだわ、待ち行列のお客さんが外でたむろしているわ、でとてもじゃないが店に入る気がしなかった。待ち行列のメンツを見てみると、若いカップルさんが多い。どうやら、観光ガイドにも紹介されていて、蕎麦好き以外のライト蕎麦ファンもやってくるお店らしい。あかん、これじゃ落ち着いて蕎麦が食べられない。

日曜日に訪れたのが失敗だったのかー、と思いながら、途方にくれつつ車を進める。どこかでバックしなくては。道が狭くて、車をUターンさせるのも難儀だ。

「彦」の看板

と、ちょっと暁庵から進んだ先に、「彦」という蕎麦屋を発見した。ああ、思い出した。そういえば、箱根暁庵のすぐ近くにそういうお店があるっていう情報は以前入手していたっけ。ここも結構おいしいといううわさは耳にしている。ちょうど良い、今日は彦にお世話になろう。

渋い木製一枚板の看板だが、お品書きの写真をぶら下げていたり、看板をたてかけてみたりと妙にポップにしてしまっている。これでいいのだろうか。何か、せっかくの看板のイメージを壊しているような気がする。

・・・観光地だから、これくらい宣伝しなくちゃダメなのかねえ。

「彦」の外観

店の外観。喫茶店にしか見えない。非常に野心的なデザインだ。ニューウェーブ系の蕎麦を目指しているのかもしれない。これは確信犯だ。

しかし、その割には先ほどの看板が古風なものだったし、一体ご主人はどうしたいんだろう。なにか途方もないことを考えているのではないか。地球征服とか。よくわからない。

面白いのは、このお店はオープンテラスが用意されている事だった。店内は完全に開け放たれ、テラスにはテーブルが用意されている。今日はちょっと天気がぐずついているので、解放はしていないようだった。

旅人のみなさま

店の看板の横にあった、よくあるキーコーヒーの看板。これは、コーヒーメーカーが無料で提供する販促ツールなわけだが、メーカーの思惑を完全に無視して、肝心の「キーコーヒー」のところに注意書きをべったりと貼り付けてしまっていた。オコラれやしませんか、これ?

旅人のみなさま
営業時間外は警報装置が作動してしまいます。無断立ち入り厳禁

と書かれている。やはり、地球征服とまではいかないまでも、何か秘密基地っぽいことにはなっていそうだ。蕎麦屋でこんな警告、初めて見た。箱根という土地柄だし、秘密結社ネルフとかそういう地下施設くらいはありそうだ。

ごあいさつ

さて、店内に入ろうとしたら、入り口にこんなごあいさつが書いてあった。

当店では、「1卓に1組のお客を、ご相席なし」が基本です

等々。

「5卓だけの小さな店」ということなので、同時に5グループしか入店できないと言うことになる。僕みたいな一人訪問客は、何だか申し訳ない気にさせられる。

店内

その店内はこんな感じ。テーブル席3席、お座敷席2席。

窓側の4人がけ席を恐縮しながら独り占めさせてもらった。

銘酒の瓶がずらり

壁側には、利き酒セットのご案内とともに、銘酒の瓶がずらり。ううむ、お試ししたい、されたいのだが車で来ている以上どう逆立ちしても無理だ。公共交通機関で訪れた観光客さんとよろしくやってくれい。僕ぁ蕎麦だけで我慢する。

蕎麦茶はフレンチプレスで提供

ごとり、と持ってこられた蕎麦茶。

・・・?

お代わり自由でポット付き、というのが面白い。しかもこのポット、紅茶を煎れるときによく使うヤツですな。

蕎麦屋に似つかわしくない、西洋風デザイン。鈍く、卓上で輝く。

「うーん、慣れの問題なのかな、ものすごく違和感を感じる。でも、いくらでもお代わりできるのは正直ありがたい」

一人でぶつぶつと言いながら、目の前の現状の理解につとめた。

目の前の現状理解、といえば、卓上には灰皿が用意されていた。タバコOKのお店らしい。こういう新しめのお店って、禁煙が当然だと思っていたので相当意外だった。ひょっとしたら、「相席無しの1組1卓」というのは、こういうタバコOKの意向を踏まえての対応という側面もあるのかもしれない。

でもなあ、やっぱり蕎麦屋でタバコってどうかと思うけどな。煙は隣の席でも漂ってくるわけだし。

そこで、入店前にあった注意書きの文章を思い出した。

「喫煙のお客様は、お申し出いただければ空気清浄機をご用意いたします」。

そういう問題なのかい!と思わずツッコミを煎れてしまった。何かこのお店、微妙にストライクゾーンをずらしてくる。このズレ加減がマニアックかつ通っぽくて好きな人にはたまらん、と思う。

彦スペシャル

注文していたのは、「彦スペシャル」という料理。「彦」という田舎そばと、「せいろ」に加えて、とろろ、辛味大根がついて2,000円。蕎麦は単品だと900円なので、あらお得、というワケだ。

それはそれで結構なのだが、「スペシャル」という英語の名称を蕎麦屋で見かけるとは、これまた通好みだ。

なんだか、トンデモ本をなま暖かい目で読むのと同じような心境になってきた。次はどんな予想外な事をやってくるのかな、と。

さて、まずはせいろそば登場。小じゃれたお店だったので、ボリューム感の無い蕎麦がでてくるかと思っていたのだが、とんでもない、ちゃんと立派な盛りでした。すてき。これを2杯食べられるなんて。・・・まあ、2,000円払ってるからな。

すする。おお、いいぞ、これは。上品な蕎麦の香りが口の中に広がり、そして噛むと甘みがある。噛むと、甘みが、ある、の、だが・・・

コシがないねえ、この蕎麦。水多めで打ったのかな?一瞬、ゆですぎ?と思ったくらい、やわらかい。ただ、箸でつまんでプチプチと切れるわけではないので、ゆですぎではないようだ。もともとこういう麺なのだろう。

好き嫌いあるとは思うが・・・ほら、真向かいの席で、もそもそ食べているお爺ちゃんとかだったらこれくらいの堅さが丁度いいんだろうけど・・・おかでんからすると、なんともココロもとない、勢いに欠けた蕎麦っていう印象だった。

彦

せいろを食べ終わった頃合いを見計らって、彦、がやってきた。店の名前を冠した田舎蕎麦なので、よっぽどの自信作なのだろう。

麺の表面に黒っぽいぶつぶつが伺える。挽きぐるみの蕎麦を、堪能させてもらいましょうかね。

ずるずる。

はぁ、おいしいですね。やっぱり、つるつるっと食べるのもいいけど、田舎蕎麦の野趣あふれる味わいと食感を・・・

食感を・・・

ええと、食感。うーん、食感ね。田舎蕎麦って、もっとごつごつした感じでもいいんではないかと思った。食べやすく細かく挽くのはいいのだが、食感がせいろに似てきてしまう。田舎とせいろは「士官学校出で頭はキレる小隊長殿」と「歴戦のたたき上げの軍曹殿」くらいの違いであって欲しい。同じ一つのミッションをこなすにしても、アプローチが違う、そんな感じで。何かね、この「彦」って、軍曹殿がインテリぶっちゃったって感じなのだな。

たとえば、裾野の「蕎仙坊」の田舎蕎麦なんて、アンタやりすぎだよってくらい太くてワイルドだ。そこまでやれ、とは言わないまでも、ある程度癖の強い仕上げにしちゃってもいいんじゃないかと、思うわけです。

そうしないと、食べ比べする楽しみが少なくなってしまう。せっかく、「彦スペシャル」という食べ比べメニューなんだから。

・・・と、自分の舌が靴べら程度の役割しか果たしていない味音痴っぷりを、「もっと差別化しなくちゃダメ」と店の責任に転嫁してみる。ダメダメだな、俺。

それはともかく、蕎麦と一緒についてきた「とろろ」と「辛味大根」。結局持て余してしまった。辛味大根をせいろに浸して・・・あ、逆だ、せいろを辛味大根 に浸して食べてみたが、優しい食感のせいろが大根の辛さにがぶり寄られてしまった。とろろは、粘りが強くて、蕎麦に絡めて食べるのがやや難しく、結局面倒になって単独ですすり上げてしまった。

蕎麦を純粋に楽しみたいだけだったら、「辛味大根ととろろがついてお得!」な彦スペシャルではなく、単品で蕎麦2品を注文した方がお得だ。

ただいま満席中

食後、早々に引き上げさせてもらう。昼時、相席無しの状態で1卓を占拠するのは精神衛生上よろしくない。

お会計を済ませてのれんをくぐったら、そこには入店時とは違う告示が出ていた。

・・・これまた、微妙にフレンドリーな文章。最初から最後まで、微妙な空気に包まれた、違った意味での通好みのお店だと思った。

帰り、もう一度箱根暁庵をのぞいてみた。相変わらずの混雑で、にっちもさっちも行かなかったので断念。

彦、仕事は丁寧だし、店内清潔なのでお勧めのお蕎麦やさんだと思う。ただし、微妙な脱力感を伴うのが、いい点でもあり悪い点でもあるような。

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