赤坂見附 長寿庵

2004年08月23日
【店舗数:171】【そば食:311】
東京都港区赤坂

めかぶそば

02: 名前:三丁目投稿日:2004/08/21(土) 18:17
地下鉄赤坂見附駅の近くに長寿庵と云う蕎麦屋があります、お仕事でお近くにいらっしゃった折りにでも立ち寄って見てください、おかでんさんの感想を聞いてみたいお店です、ちなみに小生時々昼飯食べてます

という書き込みを掲示板で発見した。「感想を聞いてみたいお店」、と書かれているからには、ネタ満載なお店なのだろうか。どきどき。「蕎麦屋なのに蕎麦がお品書きにない」とか「ご主人は金髪碧眼のアメリカン」とか、そういうお店なのかもしれない。

でも待て、店の名前が「長寿庵」だぞ。うーん、この暖簾がかかっている以上、あまりネタ的なものは期待できなさそうな気がする。では、単においしい蕎麦屋さんを紹介してもらった、という事なのだろうか。

たった一つの書き込みに対して、あれこれ妄想してしまった。時間の無駄だ、落ち着け。

しかしなあ、長寿庵、ですか。

正直、この蕎麦屋のブランドにはそそられない。あまりにビッグネーム故に、あまりにあちこちにのれん分けをしたお店が存在するために、大衆蕎麦屋としかイメージできないからだ。もちろん、茅場町長寿庵のように名店、と呼ばれるお店はいくつもあるのだろう。しかし、その他大多数の「街角にあるお蕎麦屋さん。出前もやってるよ!」という長寿庵にイメージを圧倒されてしまい、「美味い蕎麦が食える」という感じがしない。

昔住んでいた家の近くにも、長寿庵があった。結局そこではお蕎麦を一回も食べなかったなあ。鶏の唐揚げ定食とか食べていたような気がする。しかも、この唐揚げ、親子丼用に刻んだものなのか、えらく粒が小さかった。しかも、油温高すぎで衣がこげていた。まあ、そんなお店だった。

先入観は良くない、とはいえ、普通だったら「貴重なご意見ありがとうございます」でそのまま放置しちゃう書き込みだった。しかし、なぜかこのとき、心の奥でひっかかるものを感じて、webでこのお店を調べてみたら・・・情報量は僅かだったが、美味い、とコメントしているサイトを一つ発見した。おっ、美味い蕎麦屋なら、無視する筋合いはない。長寿庵、疑ってすまん。お詫びも込めて、早速仕事の合間に訪れてみることにした。

12時半過ぎ、赤坂の雑踏の中を歩く。周囲には、既に食事を済ませて、満足そうに顔をテカらせているサラリーマンやOLがぶらぶら歩いていた。つくづく、雑多な町だと思う。お店の住所は、地図をちらっと見た程度なのではっきりと覚えていない。しかし、地理感がいいおかでんなら、道に迷うことも・・・

迷った!

店が見つからない。どうやら通りを一つ間違えてしまったらしい。いやー、飲食店が軒を連ねていて、わかりにくいんですよねー、ついつい「ほぅ、こんな店もあるのか」なんてのぞき込んでいるうちに道を間違えたような・・・この通りを歩いていけば・・・

やっぱり見つからない!

えええ?そんなに難しい場所じゃなかったと思うんだけどなあ。えーと、郵便局の裏側にお店があったと思うので、ここが郵便局だろ?で、同じブロックで裏に回ると・・・

無いねえ。

しばらく、その当たりをウロウロする。「さっき見かけた、立ち食い蕎麦屋でもいいかも」という弱音がちらちら見え隠れしてきだした。「ああ、もう!」と天を仰ぎ見たそのとき、「赤坂長寿庵」の赤い看板がちらっと見えた。あっ、あんなところにあった!

そこは、それまでに2度通り過ぎた場所だった。注意深く歩いていたはずなのに、なぜ気づかなかったのだろう。それにしても、あんなところに蕎麦屋ってあったっけ・・・?クビを捻りながらも、ほっとしつつ看板に近づく。しかし、近づいていっても、相変わらず蕎麦屋を見つけられない。あの建物は・・・のれんが掛かっているけど、寿司屋だよな?入口に、「ちらし寿司」なんて書いてあるし。ええと、やっぱり蕎麦屋見つかりません。

看板の真下に来ても、まだ気づかなかった。さすがにこれには動揺した。看板は、建物と建物の境界線ギリギリに立てられていたのだが、手前の敷地内に看板の土台があるから、当然お店はこっち側にあるんだよね?・・・と、境界線に沿って目線を建物の奥に這わせていったら・・・ん?・・・あ、あれだ!

通りから10m弱、奥まったところに暖簾がかかった入口があったのだった。その入口に通じる通りは幅1.5m程度。なんだか、通用口みたいだ。わっかんねぇ。こりゃ絶対に気づかないよ。「隠れ家」を標榜しているとしか思えない作りだ。暖簾の脇で、順番待ちをしている先客がいたので気が付いたが、行列がなかったらやっぱり存在に気づかなかったかもしれない。

待ち行列は4名。もうお昼休みも終わり、という時間になってもまだ行列があるのは感心する。そんなに美味いのだろうか。楽しみになってきた。

待ち行列が解消されて、ようやく着席してその行列の理由に気が付いた。店がめっさ狭いのだ。5人がけのテーブル1つと、4人がけのテーブル二つ。以上。要するに、定員は13名なんである。小さなラーメン屋並の客席数だ。これでそこそこ美味い蕎麦を出した日にゃ、行列ができないわけがない。

お客は、みんな長っ尻していない。食べ終わったらさっさとお会計を済ませて、店を後にしていく。店員の客あしらいも素っ気が全くなく、非常にサバけた印象を受けた。愛想悪い、という言い方もできるが、このお店の感じだったら、愛想なんか無くても十分だ。お客さんの回転が速いので、なにやら「蕎麦ピットイン」という感じ。蕎麦に飢えた人々が赤坂長寿庵にやってきて、蕎麦を胃袋に仕込んだらすぐにレースに復帰、という風情だ。

そんな無愛想な店員さんから「何にします?」と聞かれて、相当ドギマギしてしまった。ここで、よどみなく回答できなきゃ、僕って格好わりーっ、って思った。

「何にします?」
「めかぶそば。大盛りで」
「冷たいのと温かいのがありますが」
「冷たいので」

ふぅ・・・よどみなく言えたぞ。まだちょっと心拍数上がり気味。やっぱ、粋の世界ってのはこういうところでビシっと決めないとね。(ホントかよ?)

めかぶそばを注文したのは、BBSで赤坂長寿庵を紹介してくれた方が「めかぶをお試しいただければうれしいです」と発言していたからだった。周囲を見渡すと・・・といっても、店は狭いので「見渡す」ほどではないのだが・・・ほとんどのお客が温かいそばを食べていた。鴨南蛮、鴨せいろ、カレー南蛮あたりが人気商品のようだ。ちょっと意外だ。何もこの時期に鴨を食べなくてもいいじゃん、と思うのだが(鴨は冬の食べ物)、きっと名物なのだろう。確かにちょっと美味そうだ。

で、さっきから気になっているんですけどね、このテーブル。小鉢が二つ、テーブルの真ん中に据えてあるんですよ。何ですか、これは。片方の小鉢にはうずら玉子が積み上げられていて、もう片方は梅干しが同じように盛られていた。サービス品という事なのだろうか。しかし、こんなサービス、蕎麦屋で見たことがない。

最近、居酒屋のランチメニューで「ご飯・みそ汁・海苔・玉子お代わり自由サービス」をやっているのをよく見かけるが、これはそのようなモノなのだろうか?

しばらく様子を窺っていたら、目の前のカレー南蛮を頼んだお客さんがウズラをつゆに割入れているのを目撃。あっ、やっぱりサービスなのか。

そのお客さん、ウズラを箸の先でぷにぷにつついて、「割ってかき混ぜちゃおうかな、それとも割らないで大切に保存しようかな」と悩んでいるようだった。割っちゃえ、割っちゃえというこちらの念に気づいたか気づかなかったのかは不明だが、しばらくして箸をずぶっと突き刺し、月見カレー南蛮を粉砕してしまった。ああ、カレー南蛮に玉子かぁ、うまそうだなあ。

待つことしばし、めかぶそばが到着した。おおぶりの鉢に、蕎麦とめかぶがどっさり。ぶっかけにして食べるスタイルだ。

・・・ええと、すいません、どこまでが蕎麦で、どこまでがめかぶデスカ?蕎麦は、おいしそうな緑色をしていて、めかぶと蕎麦との境界線がやや曖昧に見える。かんだやぶそばのようなわざとらしい緑色ではなく、うぐいす色だ。このお店もクロレラを投入しているのかもしれない。さっそく、蕎麦だけで頂いてみよう。

ずるずる。

ぬお。固い。これはハードだ。一瞬、めかぶを噛んでしまったのか、と思ってしまったくらい、もの凄い歯ごたえだ。生ゆでではなく、ちゃんと中まで火が通っていてこの堅さたぁ一体どういう仕組みだろう?なんだか、一口噛むたびに「ぽりぽり」とスナックを囓る際の効果音が付いてもいいんじゃないか、という勢いだ。こんな麺は初めてだ。神田まつやの麺も固く締まっているが、このお店はそれ以上じゃなかろうか。

めかぶと交互に食べてみたが、堅さは大体同じくらいだった気がする。めかぶの方が、コリコリした食感があるので違いは歴然としているのだが、どちらも固いことにはかわりがない。面白い!

つゆをたらして、もりもりと食べてみた。ううむ、普段の蕎麦と同じイメージで食べると、現実とのギャップで戸惑ってしまう。めかぶにしろ、蕎麦にしろ、細い食べ物だ。だから一気に「つつつぅ」とすすり上げ、飲み込んでしまいたい。しかし、固いために、咀嚼しないと飲み込めない。そして、「細いのに、ひと噛み程度じゃかみ切れない」わけで、食べるという行為の中で何段階か、「あれっ」という意外感がある。

途中から、うずらの玉子を落としてかき混ぜてみた。おー、これはまた全然違った感じの味だ。讃岐うどんで「釜たま」というメニューがあるが、それと似た感じ。そうかぁ、玉子って冷たい蕎麦にかけてもおいしいのだな。さっきまでの「ちゅるちゅる」効果音が、玉子が混ざったことにより「じゅるじゅる」に変化。音も楽しめる料理でござい。

これだけの食感を誇る蕎麦だから、温かいつゆにつかっていても麺のコシは死なないだろう。周囲のお客さんの多くが温かい蕎麦を注文していたのは、そういう理由があったのかもしれない、と納得。

最後、別に食べたいとは思っていなかったのだが、「これもお約束だな」とつぶやき、卓上にあった梅干しを一粒頂いた。めかぶそばのさっぱりさを、きりりと引き締める一粒だった。

それにしても、庶民的な蕎麦屋のような、隠れ家的蕎麦屋のような、非常に不思議な空間だった。いや、楽しめました。ごちそうさまでした。新蕎麦の季節になったらまた訪れてみたいものだ。でも、行列するのはちょっと勘弁願いたいが。

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