2004年12月05日
【店舗数:---】【そば食:326】
長野県上水内郡信濃町
せいろそば、そばがき
長岡で災害復旧支援をやっているしぶちょおの陣中見舞いに行ってきた。長岡までの高速道路は、段差や傾きがあちこちにあって、なかなかスリリングな道だった。短期間でここまで復旧させたのは見事としか言いようがないが、それでもまだまだ快適にアクセルを踏める状況ではない。道路のいたるところで、中国の人民解放軍かのように人海戦術で道路補修が行われていた。頑張れ、新潟。
さて、われわれは特に行く当てもなく長岡を後にしたわけだが、小千谷でへぎ蕎麦食うにも情報があるわけでもなく、結局妙高高原の燕温泉で一風呂浴びて、その後にふじおかで蕎麦を手繰ることにした。
しぶちょおが言う。「やっぱり、ふじおかには一年に一度は訪れなくてはねえ」と。
転地効果も含めて、ふじおかで蕎麦を頂くという事は非常に「蕎麦効能」がありそうな気がする。そういえば、このお店にも1年以上訪れていない。そろそろお邪魔しなくては。
昔と違って、「11時30分と13時の完全入れ替え制」ではなくなったため、訪問時間をシビアに気にする必要がなくなった。実際、今の時間は12時過ぎだが、「まあ、そろそろ早く食べ終わったお客さんが退席してるだろ」という気楽さでお店に向かった。
お店の前の空き地は、車でいっぱいだった。さすがに、この地に訪れるお客さんは全て車だ。そこそこの駐車スペースがあったとしても、すぐにいっぱいになってしまう。16席あったとして、2名1組で来訪したら駐車スペースは8台分必要だ。これは大変。
結局、われわれは車を停めようにも停められず、しばらく先に行った林道の脇に強引に駐車した。
暖簾をくぐってみると、すでに玄関先で待っているお客さんがいた。おや、意外と混んでいるなあ。既に食べ終わって退店し始めたお客さんがいるのだが、入れ替わりに席につくことはできないようだ。恐らく、接客をしている奥さんが手いっぱいのため、入れ替わり立ち替わり、という対応はできないらしい。結局、30分ほど待って、店内にいたお客さん全員が引き上げた後になって待ち客全員入店と相成った。事実上の総入れ替え制はまだ残っているらしい。
「毎回訪れるたびに値上がりしてるからな、今回も値上がりしてたらどうする?」
なんてしぶちょおがニヤニヤしながら言う。
「今年4月から消費税が総額表示になったから、見た目は値上がりしてるんじゃない?」
「あれ?以前から税込み価格だったんじゃないか?小銭をちゃらちゃらいわせてお金を支払った記憶、無いぞ?」
「どうだったっけ?覚えてないや」
なんていいながら、席に座ってメニューを見てびっくり。おい、やっぱり値上がりしとる。
「うわ、せいろそばが100円高くなった!・・・税込み価格だからか?」
確かに、お品書きの左隅には「消費税込みの値段です」という記載がある。2000円の消費税5%は100円なので、まあこれは理解できる。しかし、そばがき・・・これ、以前は700円でしたぞ。税込みにしても、735円のはずだが、800円になっとる!そばぜんざいも、800円から900円になっとる!便乗値上げか。
・・・とまあ、メニューを全部嘗めてみると、蕎麦のお代わり800円が据え置きの他は、全部値上がりになっとった。おお、前回訪問時「どこまで値上げしたらお客さんが離れるか、チキンレースやってるんじゃないか」と形容したが、まだこのチキンレースは続行中だったか。
35円とか25円とか、消費税のせいで小銭の取り扱いが増えるのは非常に煩雑であることから、恐らく100円未満を切り上げたんだと思う。小規模経営のお店故に、この辺りの簡略化はわからんでもない。しかし・・・ようやるなあ、値上げ。こうなったら感心するしかない。
「危ない、もうこれ以上値上がりすると、わしチキンレースから脱落するわ」
「あ、僕もそうだ。もうそろそろやばい領域に達しつつあるな、この値段」
ひそひそ会話をする。
「やっぱり子供さんが大きくなってきたから・・・?」
「待て、それが事実だとしたら、これから先中学、高校、大学と進学していくに従って値段がどんどん高くなるという事になるぞ」
「蕎麦注文したら3000円とか?」
「3000円で大学、大丈夫かな?4000円くらいにしとくか?」
「せめて国公立の学校じゃないとな」
人んちの家計について、余計なお節介話をする。お店のご家族に対して非常に失礼な話だ。ごめんなさい。
「ご注文は」と聞きに来た奥さんに対して、
「ええと、蕎麦2枚と、お代わり2枚。そばがきは・・・一つでいいや。あと、お酒を・・・」
「待て、お前今日は運転してるだろ。お酒はダメだ」
「あっ、そうだったか」
今更のようにびっくりする。ふじおかに来て、初めてお酒抜きの食事となった。 そういえば、自分の車でこの地を訪れたのは初めてだな。いつもは誰かの車に乗せて貰って来ている。
「いやでもよ、僕どうやってお蕎麦が出てくるまでの時間を過ごせばいいの?」
「大人しく座って待ってろればいいじゃん」
「いや、そう言われても。なんか落ち着かないなあ。ビールもダメ?」
「ダメ。お酒禁止。飲んでもいいけど、家には帰れなくなるぞ」
「妙高高原の地で立ち往生、となるとちょっと憂鬱だなあ。もう既に今日は日曜日の午後だし。うっかりしたら月曜日になっちゃう。ちっ、お酒我慢か」
「当たり前だ」
せっかくふじおかまで来て置いて、お酒抜きは残酷だが仕方がない。ぐっと堪えながら待つことしばし、季節の野菜盛り合わせがやってきた。
二人で分け合いながら食べる。
「うーん」
しぶちょおが唸る。
「味、落ちた?」
首をひねる。
「蕎麦雑炊が今まで非常に美味かったんだけど、今回はちょっとなあ?」
確かに、今回食べた蕎麦雑炊は、感動が薄かった。言われてみれば、粟だろうか、雑穀の存在が気になる。
値段が上がった、という事実に対してちょっとネガティブな印象を持っているため、細かいところが気になっているだけなのかもしれない。まあ、ブレの範疇か。
・・・いや、ブレないのがこの店の凄いところなんだけどなあ。
そばがきが出てきた。相変わらず、非常にぷるんぷるんした可愛いヤツだ。そば湯に行水して土左衛門状態に水ぶくれしているタイプよりも、こういう餅状態のそばがきの方が好きだ。
箸でつついて、その弾力を愛でるも良し。ただただ、眺めてその表面のてかりを楽しむも良し。もちろん、風情も何もすっとばして、がばっと食らいつくも良し。
二人とも、両端からちょっとずつ食べる。うん、相変わらずオイシイや。幸せだのぅ。
「でもよ、奥さん、今までは必ず入店順に料理を出していたよな。今回、結構バラバラだぞ。俺らより後からやってきたお客さんに料理を真っ先に出しているからな」
しぶちょおが鋭い指摘。なるほど、言われてみればそうだ。こういうのは枝葉末節と言える事柄だが、やはり値上がりした以上はそれなりの厳しい視線に店がさらされるということは覚悟しなくちゃいけないだろう。値段が上がって、クオリティ維持もしくは向上するなら問題はない。ただ、値段と全然関係ないところとはいえ、サービスレベルが下がるとそこにどうしても目がいってしまう。厳しいね、お客の目ってのは。
まあ、入店順に料理を出すかどうか、というのはせいぜい1分2分の配膳時間の差に過ぎず、気にしない人は全然気にしないと思う。おかでんとしては、言われるまで全然気づかなかったレベルであることを申し添えておく。
とまあ、このように値上がりチキンレースのギリギリの状態に達しているわれわれにとって、些細な負の要素でも気になってしまう状態であったが、蕎麦がうまけりゃ無問題だ。われわれは美味い蕎麦を食いにきてるのだから。
ただ、なんだかあまり期待していなかったというのも事実だ。まあ、お手並み拝見、という雰囲気が二人の間を漂っていた。
で、出てきたお蕎麦。相変わらずいい色してやがる。薄緑の麺は、見た目だけで美味さを保証している色だ。でも、この辺りはふじおかにおいては「当たり前」のレベルだ。この程度では、まだシッポを振るわけにはいかん。
おかでんが蕎麦の写真を撮っている間に、さっそくしぶちょおが蕎麦を手繰り寄せた。その瞬間、彼は「はぁ」と溜息をついて、箸と蕎麦猪口を机に置いた。そして、ぽつりと一言。
「やっぱりふじおかはふじおかだなぁ」
どういう意味で言ったのかよく理解できなかったので、その真意を探るべく自分も蕎麦を手繰ってみた。
うはぁ、何だこれは。口の中に広がる、強烈な香り。味わい。これ、何?蕎麦の味?あまりに瑞々しく、青々とした香りなので、一瞬蕎麦かどうかも疑わしくなってしまった。それくらい、強烈。それくらい、未体験の味。
「これは何だ?信じられない・・・」
思わず、絶句。今まで4回、ここで蕎麦を食べてきたが、そのいずれもを凌駕する、そして全ての蕎麦屋をも凌駕する味だった。
もう、あっけにとられるしかない。値段が高くても、それに見合っただけの・・・いや、それ以上の衝撃を与える蕎麦がここにあった。「うまい」なんてもんじゃない。いきなり交通事故に遭ってしまい、何が何だかわからないような状態だ。これは、美味いのか?
おかわりの蕎麦が提供されても、最後までその「すごさ」は埋没することなく、ずっと口の中を圧倒した。いや、口の中だけではない。鼻腔を鎮圧し、そして、脳までシビレさせてしまった。頭の中では、「美味い!」という気持ちと「困惑」の気持ちでいっぱいだった。どうも、通常の蕎麦の範疇で語れる美味さではなかったからだ。
蕎麦の後に出てきた漬け物盛り合わせをぽりぽり頂きながら、ずーーっと物思いにふけった。この蕎麦をどう、頭の中で整理すればいいのかと。
結局、おかでん的にはこういう結論になった。
「しぶちょおよ、このお店は・・・確かにおいしかったんだけど、『美味かった蕎麦屋ランク』からは選外だな」
「ほぅ、それはなぜだ」
「何かね、もうこれって蕎麦の範疇を越えちゃってるんだよ。別の食べ物だよ、これは。蕎麦を原材料にした、別の食べ物。だって、こんなに強烈に味と香りがすると、違う食べ物としか思えない。今まで美味い蕎麦屋ランキングで1位の座だったふじおかだったけど、謹んでランク外だな。でも、名誉1位、というか永世1位くらいにしてもいいんじゃないかと思った」
「そこまで言うか」
「でも、逆に蕎麦が食べたくなって、このお店に行こうという気にはあまりならないかもしれない。だって、蕎麦って印象じゃない食べ物だもんな」
はぁー。今日、何度目かの嘆息。ここに初めて訪れたのが4年前、そのときも相当な衝撃を受けて食後は車中で嘆息しまくったが、それに匹敵するショックを今回、受けた。新蕎麦の季節だったということも奏功したのだろうが、それにしても参った。
「もう、僕このお店に来なくていいかもしれない。これで終わり、でもいいや。行き着くところまで行き着いたって感じだし」
「まあ待て、子供の成長をもう少し見極めようや」
「また子供の話か!」
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