とんがらし

2005年03月25日
【店舗数:187】【そば食:342】
東京都千代田区三崎町

盛り合わせそば(茄子入り)

水道橋の南側、三崎町に「とんがらし」という立ち食い蕎麦屋があるのは前から知っていた。このお店は、「揚げたての天ぷらをどっさりと盛りつけてくれる」ということで名高い。立ち食い蕎麦屋はお客さんの回転が命、という要素が強く、天ぷらのように時間がかかるものはまず間違いなく揚げ置きだ。揚げたてを出すなんて、ありそうで滅多にお目にかからないお店だ。

その証拠に、立ち食い蕎麦屋の開店時間前後に店の前を取りすぎると、ここは揚げ物屋か、というくらい一生懸命天ぷらを揚げている。大きなお店だと、開店準備だけやるパートさんがいるかもしれないが、もしそうだったら「蕎麦屋でお仕事」というよりも「天ぷら屋、もしくはお総菜屋でお仕事」という心境なんじゃないか。

今日これからお邪魔する「とんがらし」は、オーダーが入ってから揚げ始めるのが特徴だ。客の並びを見て、多めに揚げておくといった事はしないらしい。それ故に、できあがった天ぷらはあつあつ、目の前で店員さんがその天ぷらをどんぶりの上に載せた瞬間、つゆが「じゅっ」と音を出すというから豪快だ。

ファミレスでステーキを注文したとき、店員さんが目の前で焼けた肉の上にソースをかけてくれて、その瞬間に「じゅわー」と音を立てて食欲倍増、みたいなもんだ。 なぜかこの時、店員さんは誇らしそうな顔をする。「どうだ」みたいな。

このとんがらしがそれを狙ってやっているのかどうかは不明だが、「じゅっ」と音がするほど揚げたての衣ってのはぜひ食べてみたいものだ。

数年来、行こう行こうと思っていたのだが行きそびれていた。しかしようやく重い腰をあげて、水道橋駅を降り立った。

とんがらし

駅から徒歩5分足らず、といったところの路地裏にお店があった。あまりに渋い、目立たない店の作りにちょと意表をつかされた。

普通、立ち食い蕎麦ってのは立地条件の良い目抜き通りにあるものだ。しかし、ここって何だか中小企業がいろいろ並んでいるちょっと閑静なビジネス街。昼間の周辺人口は多いかもしれないが、立ち食い蕎麦屋の立地としては奇異にうつる場所だ。

あと、何ていうのかな・・・立ち食い蕎麦屋ってこういう店構えだ、というなんとなくのイメージが自分の中であったのだが、それとこのお店は微妙に違う。何だろうな、このお店は定食屋みたいな印象を受ける。

メニュー短冊

気になったのは、入り口脇にカラフルな短冊がぺたぺたと貼り付けられていた事。当然、メニューが書かれているものなのだが、案外これも立ち食い蕎麦屋でありそうにない光景じゃないか。居酒屋とか、定食屋で見かける光景だな。

店内に貼ってあるならともかく、店外に貼ってあるのはちょっと面白い。

メニューは、「そば」「うどん」「ひもかわ」とかかれている。ひもかわとはあまり聞き慣れない麺の名前だが、要するにきしめんの事を指すらしい。

ここの名物は「もりあわせ」だと事前に聞いていた。写真だと見にくいが、一番下にある黄色い短冊にその名前を確認することができた。470円か。

何やら細かい事が書いてあるので読んでみたら、

・小エビ3ヶ、イカ天、ナス半分
・小エビ4ヶ、イカ天

と書かれていた。どちらかの組み合わせを選んでください、ということなのだろう。小エビ1個とナス半分はどうやら物の価値としてイコールと見なされている模様。

初めての店なので、よくシステムが判らないがとりあえず店内にできている行列にならぶ。行列は、店の真ん中を横切る形で料理受け取り口のカウンタから入り口まで伸びていた。食券機があるわけでもなく、どのタイミングで注文すればいいのかがわからない。とりあえず大きな声出してオーダーしちゃえ。「もりあわせそば、お願いします」

すると、カウンタの中にいたおばちゃんが「ナス入りのやつにしますか?」と聞いてきたので、「あ、ああ、それでお願いします」と返答した。そうか、「ナス入り」か「ナスが入ってない奴か」という区別のされ方なんだな。

行列といっても、自分の前には2名しかいなかったのだがこれがなかなか前に進まない。カウンタを仕切っているおばちゃんも、なにやら手持ち無沙汰だ。しかし、厨房の奥をのぞき込むと、そこにはご主人がせっせとフライヤーで揚げ物と格闘しており、あそこが「とんがらし」の名を有名にさせた正体であり、かつ今こうして行列がなかなかさばけない正体ということが伺えた。

おばちゃんは、別にご主人から「そろそろ揚がるよー」と言われるわけでもなく、何やら頃合いを見計らって麺を一玉取り出し、テボで軽く湯がいた。立ち食い蕎麦屋らしくゆで麺。天ぷらには拘っているが、この麺を生麺にしようとかいう発想には思い至っていないらしい。変な蕎麦屋だ。ま、それはともかく、丼に麺を入れ、つゆを張った時にはちょうどご主人が揚げたての天ぷらをカウンタに運んできたところだった。長年のコンビネーションというやつだろうか。毎回、この絶妙なリレーションは「偶然の一致」でなく行われていたので、職人技としかいいようがない。時々麺のスタンバイの方が早くなってしまっていたが、そのときはおばさんがフライヤーのところまで出かけていき、手にしたバットに「戦利品」となる天ぷらを自らすくいあげ、カウンタに戻ってきていた。

さて、たった二人の行列だったが、三人目のおかでんのところにそばが到着したのは行列を開始してから約5分後くらいだった。何とも面白い蕎麦屋だ。気が付いたら、背後に6名くらいの行列ができあがっていた。

目の前でトッピングが行われる。「じゃああ」という油がはぜる音がすることを期待したが、一度バットの上に乗せられて油を切ってあったため、「じぅ」程度の音だった。ちょっとがっかりだが、でもよく考えるとこれでいい。派手な音がするって事は、油がまだしたたっている状態であることを意味していて、そんなのを食べたら体に悪い。

もりあわせそば

できあがり。もりあわせそば(なす入り)、470円。

なかなかの見栄えだ。そこらへんの立ち食い蕎麦屋で天ぷら蕎麦を食べたら、400円前後することを考えればこの盛りは豪快だ。巨盛り、というわけでもなく、普通の人でも食べられるボリューム感。しかし、ここまで盛りつけられている天ぷらそばはありそうで、なかなか無い。

中身は、なぜか小エビが4匹入っていて、イカ天、そしてナスを縦に切ったものが3本。

早速、天ぷらにかぶりついてみる。

熱い!

揚げたてのナスは凶器だ。その瑞々しさが熱湯となり、湯気となり、口腔内を一気に緊迫させる。蕎麦屋で天ぷらを食べたり、天ぷら屋でも天ぷらを食べることがあるが、ここまで揚げたて直球勝負な奴は久々だ。油断していた。

やっぱ天ぷらは揚げたてに限るよなあ、スーパーのお総菜コーナーの天ぷらってありゃ一体何だい、なんて火傷したとばっちりを全然系統が違うお総菜に向け、天ぷらを恐る恐るかじる。あちちち。でも、衣がさっくり、中がほっくりしておいしい。

おいしいんだが。

つゆにつけると、せっかくの揚げたてが台無しになる気がしたので、ほとんどつゆにつけないまま天ぷらを食べた。すると、これが全く塩けのない、味気ない天ぷらになってしまうわけで・・・。最初は「揚げたて♪揚げたて♪」とうれしくなってたのだが、だんだん「味気ない」ことが気になってきた。結局、最後まで「からりと揚がった衣をとるか、それともつゆにどぶんとつけて塩気ととるか」と悩んだが、前者を採用しつづけ、おかでんの頭の中では「とんがらしの天ぷら=味があまりしなかった」という何だか意味の無いプロファイルができあがってしまった。やせ我慢しなければよかったのに。

さて、蕎麦とつゆだが。

蕎麦。ほう、蕎麦か。いやー、おいしくない蕎麦屋の訪問記の場合、味には全く触れないということで暗にまずかったことを表現しているわけだが、このお店の場合はっきり書くわ。おいしくないねえ、蕎麦。いや、改善しろとかそういう気はないです。多分このお店はずっとこのままだろうし、むしろこのままでいいんじゃないか。で、この蕎麦、相当イマイチな味なわけで、あまりにイマイチなために逆に清々しい。中途半端さが無くて良い。「もう少し蕎麦がうまければ・・・」なんて、全然思わないな。このお店は天ぷらがすてきです。以上。それでいいじゃないかって気持ちになる。

つゆは甘ったるくて、みりんファンクラブにはたまらないお味。天ぷらという油っちいものが乗っかるのだから、もう少しきりっとした辛目に味を引き締めた方がいいと思った。しかし、後半になって七味をビシビシつぎ込んでみたら、味にメリハリがでて結構いい感じになった。そっか、そうだよな、立ち食い蕎麦屋のつゆって、七味を入れてナンボみたいなところってあるもんな。

結局、このお店の場合見どころというのは「揚げたて天ぷらとそのボリュームとお値段、そしてお店の心意気」っていうことになるんだろう。コアな部分であるうどん・そばに関しては特に見どころなし。そういう変なバランスが妙に愛おしい。何だか、お店から「愛されるオーラ」が出まくっている感じがする。

蕎麦屋としてはイマイチでも、「とんがらしというお店」としては最高だと思った。これからも頑張って欲しい。またちょくちょく、食べに行きます。ただし次はひもかわで。