茅場町 長寿庵

2006年02月10日
【店舗数:205】【そば食:371】
東京都中央区日本橋茅場町

せいろ

2006年1月、「絶望的」とまで言われていたし、自分でも無理だと思っていた「蕎麦喰い人種行動観察」記事の待ち行列無し、全訪問記録執筆が完了した。

非常に大きな充実感を得た。

それと同時に、「もう蕎麦屋はいいや」という気になった。

蕎麦は好きだ。これからもどんどん食べていきたい。でも、食べに行ったら、その分訪問記を記載しなくちゃいけない。旅先で一日に数件、蕎麦屋を食べ歩いたりなんかしたら、あっというまに更新待ちがどっさりできてしまう。それはいやだ。もう、更新待ちに追いつめられるのはこりごりだ。

というわけで、ずいぶんと蕎麦屋に対しては後ろ向きな今日このごろの生活を送っている。まだこのコーナーの記事を絶賛執筆途中だった昨年秋頃からその傾向は顕著で、訪問店舗を見ると「酔っぱらった勢いで立ち寄った立ち食い蕎麦屋」みたいなところばっかりだ。いかに、蕎麦屋の暖簾を潜りたくなかったかがよく分かる。

でもまあ、うまい蕎麦はやっぱり食べ続けたいものだ。これからは、更新待ちなんかを気にしないで、ふらりと蕎麦屋を訪問しようと思っている。あまり細かくお店のレポートを書くんじゃなくて、「今日はこんなお店に行きました。以上」くらいの気楽さでいきたい。そうすれば、蕎麦屋に行くプレッシャーが少しでも和らぐだろう。

かやば町長寿庵

というわけで、今日はかやば町長寿庵を訪問しましたー。以上。

おお、有言実行だな、早速実践しておるではないか。

いや、でもこれはあんまりだ。もう少し何か書け。

えーと、長寿庵と名前が付く蕎麦屋は全国に数百とあって、いろいろ系列があるらしい。興味がある方は別のサイトを調べてみるべし。僕自身は興味がないので、ばっさりとその手の解説は割愛。

さてこのかやば町長寿庵、蕎麦喰い人種の連載を開始した2000年当時から訪問してみたいお店の一つだった。土日祝日には営業をしていないお店なので、平日に訪問することが必須条件となる。しかし夜は結構混んでいるということだったので、さてどうやって訪れれば良いのやら、と攻めあぐねていたのが今までの流れ。

しかしこの日、ちょうどお昼時に茅場町で仕事を終え、身柄が解放されたので「んー、じゃあ念願のかやば町長寿庵で蕎麦でも手繰るか」ということになった。正直申し上げて、「さくら水産茅場町店」で500円の定食を食べるのと、長寿庵で蕎麦を手繰るのを天秤にかけて、悩んで、悩んで、頭の毛が数本抜けたくらいのところでようやく決断した結果だった。

話はそれるが、「さくら水産」は素晴らしい。激安居酒屋チェーンなのだが、ランチタイムは500円で日替わりランチを2種類(魚と、フライもの)を提供している。何が素晴らしいって、この日替わりランチ、ご飯・味噌汁・柴漬け・海苔・玉子・ふりかけがおかわり自由ということ。しかも、店員さんにお願いしておかわりするんじゃなくて、セルフサービスでご飯を盛るスタイル。これだと、遠慮なく、しこたまご飯を盛り上げる事ができる。空腹時、がっつり食べたい時には最適だ。最初のどんぶり飯いっぱいはおかずで。二杯目に玉子かけご飯。三杯目に海苔、ふりかけを使い分けて・・・なんていう食べ方ができる。

そんな「安かろう」なお店と、名門「かやば町長寿庵」が天秤にかけられる時点で何か間違っているような気がするが、すまん、人のココロって案外そんなもんだよ。

さてこのかやば町長寿庵だが、証券会社が立ち並ぶ茅場町の交差点そのものずばり、に位置している。創業明治40年、と相当な老舗なのだが、現在はビルの地下一階に入居している。平成に入るまでは立派な木造建築だったと聞いている。

地下にある店舗ということもあり、店の構えは非常にさりげない。意識しないと、素通りしてしまうようなさりげなさだ。一応、「おそば 長寿庵」と書かれた電飾看板は用意してあるのだが、字がお上品な細字であるため、あまり目立たない。「一日一食そば」とか「手打ちそば」といったのぼりを立ててPRすると安っぽいので、お蕎麦屋さんの上品さを出すにはこのようなつつましいアピールで良いと思う。

お品書き

お品書きは「寒」「土用」「丼」「特製品」「甘味」「季節品」と分類されて記載されていた。「冷たいお蕎麦」と書かずに、「寒」と一言ビシッと特徴を伝えるところが、男らしい。冷温両用のジュース自販機に書かれている「つめたーい」という文字は、これを見習わないといかん。なんなんだ、「たーい」というやる気のない言葉は。

「寒」は、せいろ650円などがあった。このお店は、ごまを練り込んだ「胡麻切せいろ」850円が名物らしいのだが、とりあえず今回はパス。蕎麦の味がわからなくなる。

面白いのは、「のりかけ 150円」となっていることだ。すなわち、「せいろ」と「ざる」がメニューとして別になっているのではなく、お好みで海苔をトッピングしてください、という考えになっているのだった。ラーメン二郎なんぞを愛好してやまないおかでんとしては、「・・・ということは、のりかけダブル、とかトリプルっていうトッピングも可能なのだな」というよからぬ発想をしてしまうのだが、さすがに蕎麦屋でそれはやめとけ。

あと、「おかわり小せいろ 350円」というメニューも面白い。これ、「天丼食べたんだけど、やっぱ蕎麦もちょっと食べたいなあ」といった人向けのミニせいろ。とてもユーザーフレンドリーな発想だ。素敵。

目を移すと、「土用」という分類が目に入る。暖かい蕎麦メニュー群を「土用」と形容しているようだが、「土用」といえばウナギしかイメージがなかったのでちょっと意外だった。

じゃ、そもそも「土用」って何だ?と思って調べみた。

土用(どよう)とは、五行思想に基づく季節の分類の一つで、各季節の終りの約18日間のことである。

うーん、やっぱりよくわからない。それがなぜ暖かい蕎麦を指している言葉になったんだろう。調べを進めてみると、岡山県吉備郡真備町に、「土用の入りの日に練り蕎麦を食べると腹痛を起こさないという『土用蕎麦』という文化がある」という事が分かったが、このお店との関係は不明。ただ、蕎麦屋用語としては一般的に「土用」という表現は使っているようだ。最近の蕎麦屋では見かけない表現なので、昔ならではの表現なのだろう。

そんな歴史を感じさせるお品書きの中で、「コロッケそば」なんぞがあったら最高に驚きなのだが、さすがにそのようなサプライズはなし。

地下へと続く階段

さあ、お店に入ろう。

ちょっと一見さんには入りにくい気配を感じる。地下へと螺旋状に階段がつけられ、見下ろすとお店の暖簾が見えた。

かやば町長寿庵店頭

店舗外観。

ここまでくると、あっ、お蕎麦屋さんだ、というのがはっきりとして、一見さんでもちょっと落ち着きを取り戻すことができる。

店内にいる店員さんは、お客さんが階段を下りてくる時点で何名の来店なのかを素早く察知し、どこの席に座らせるのが一番良いのかを決めていた。素早い対応だ。

店内は、窓が無い地下店舗ということもあり、やや薄暗い照明と相まって「隠れ家」的ほっこり、しっとり感がある。一人で夜訪れて、文庫本片手に熱燗を飲る、なんていうには非常に向いているお店ではないだろうか。ただし、このお店は半個室があったり、コース料理が用意されているので宴席に使われる事も多いだろう。静かな一時を過ごしたいなら、お昼下がりの訪問が向いていると思われる。・・・と思ったら、このお店は中休みがあるんだっけ。昼の部は15時までなので、まあ、14時くらいに訪問して、小一時間まったりと過ごす、なんてのは素敵だろう。

ただ、平日昼間っから、茅場町のど真ん中でお酒飲んでアンタ何やってるの、という感じではあるが。

せいろ

せいろ1枚注文。これでは小腹が空くではないか、と思うが、こういう注文をするあたり「隙あらば、この後さくら水産でランチ食べちゃおうか」なんて不穏な事を考えている証拠。エンゲル係数と摂取カロリーを無駄に跳ね上げる行為だ、やめとけ。

できあがりを待っている間、次々と厨房から料理が運ばれてたが、結構鍋焼きうどんが人気のようだ。土鍋の蓋から海老のしっぽが無念そうにコンニチハしている。そうかぁ、鍋焼きうどんも旨そうだなあ。さすがに、鍋焼き蕎麦っていうわけにはいかないからなあ。ちなみに鍋焼きうどん、1,600円。海老が入っているせいもあって、なかなかなお値段。

隣の席では、来店した老人紳士が着席と同時に「いつもの。」と注文していた。店員さんも慣れたもので。「ええ、いつものですね」と応対していた。老舗っぽくていいねぇ。じゃ、僕も店員さんに「いつもの。」と言ってみようか。

・・・初回訪問で「いつもの。」って言われてもお店も困るわな。やめておこう。

隣の紳士のところに、「いつもの。」というスペシャルメニューが出てくるんじゃないか、とチラ見で監視しつつ、自分のところにやってきたせいろを眺める。丸いざるに盛られているぞ。

麺アップ

麺は明るい発色で、写真におさめてから見るとまるで中華麺のようだ。しかし、近くでズームにして見てみると、確かに蕎麦だ。

手繰ってみた。

エッジの立っている蕎麦で、コシがあって気持ち良い食感。こういう麺、好きだなあ。暖かい蕎麦にしてもおいしいことだろう。しかし、鼻に抜ける香りが・・・香りが・・・何となく、水道水っぽいんだな。蕎麦の香りは特にせず、代わりに塩素と思われる薬品系のにおいがする。んんー、これはちょっと惜しい。東京という地で蕎麦屋を営む以上、仕方がない事なのかも知れない。

ちょっと驚きつつ、つゆをすすってみた。どうせこれも塩素・・・いや、待て。こりゃいいや、すごくおいしいではないか。はっとする美味さ。香り高く、どこまでもまろやか。ちろちろ舐めているだけで満足感を覚えてしまう味わいだ。辛すぎず、香りが立ちすぎず、形で比喩するなら「丸い」味。おー、これだったら、蕎麦をじゃぶじゃぶ浸けて食べてもいいや、って思ってしまった。さすがにそこまではしなかったが、心持ちいつもよりも深めに蕎麦をざぶんとつゆにつけ、ずずずっと手繰った。

おっと気を付けないと、いつもより多めに浸されたつゆが飛び散って、服を汚す。

食後、そば湯と共につゆを再度いただく。これがまたたまらない美味さだ。いやあ、長寿庵のつゆは美味い。お土産としてペットボトルでお持ち帰りしたい、と思ったくらいだ。

蕎麦そのものはちょっと口に合わなかったが、つゆは大満足。次回また訪れたいか・・・と言われると微妙だが、とても良い食事となった。ごちそうさまでした。

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