そば処 わへい

2008年10月12日
【店舗数:228】【そば食:402】
群馬県吾妻郡草津町

もりそば

湯治強行軍企画「草津二十番勝負」(「へべれけ紀行」にて掲載)二日目の昼は、草津温泉街の蕎麦屋巡りをする予定にしていた。先日、久々にこのコーナーの執筆をしたら、がぜん蕎麦に対する欲求が高まってきたからだ。今年の秋はちょっとでも蕎麦を食べたい、そんな願いを胸に秘めいざ草津へ。

もともとおかでんは、「観光地に美味い物なし」と信じて疑っていない。まあ、最近は経験値を積むにつれ例外も存在する事が分かってきたので認識は改まりつつあるが、それでもハズレくじを引くことが多い。いや、もうハズレとか当たりとか考える事すらやめにしている、というのが正解。

蕎麦なんて繊細な食べ物は、観光地で美味なるものに出逢うのは相当至難の業だろう。大量の客をさばかないといけないという条件下においては、効率を優先せざるを得ないのである意味仕方がない。一部の美味い蕎麦屋が、隠遁生活でも送っているのかという山奥に店を構えるのは、「マイペースで蕎麦を打つ」事を優先させているためだ。大量集客と美味い蕎麦というのはバランスをとるのが相当に難しいのだろう。

草津温泉といえば観光地中の観光地。しかも今回は「草津二十番勝負」企画の真っ最中ということで時間の余地があまりなく、温泉街のど真ん中、西の河原通り近くの3軒のお店を対象とした。一体どんな蕎麦を食べさせてくれるのだろうか。

西の河原近くにある「そばきち」を起点として、湯畑方面に逆戻りしつつ「わへい」、そして「柏香亭(はっこうてい)」の3軒を巡る計画。店のセレクトは特に根拠はない。Yahoo!グルメだったかなんだかで調べてピックアップしたものだ。

湯畑から「そばきち」を目指して歩く。草津名物でもあり、時にはありがた迷惑でもある「温泉饅頭の無料配布」をしているお店の斜めに、なにやら人だかりができている。みると、そこが二軒目に訪問予定の「わへい」。

げえ、行列ができてるのか。時刻はまだ11時45分、開店して間もないのにもうこんな行列ができているのか。侮っていた、完全に侮っていた。

これはいかん、とそばきちを放棄してわへいの行列に加わった。今回選んだ三軒とも、ろくに口コミ情報を調べていなかった。だから、「行列ができている店=これは美味いんかもしれん」と解釈し、予定を変更した次第。

前に並んでいる見知らぬ人同士が、「ここ、こんなに行列ができていますけどおいしいんですか?」「さあ、私もよく知らないんですが、ネットで評判らしいですよ」なんて会話をしていた。そうか、ネットでも評判なのか。

ただ、ネットのグルメ口コミはあまりあてにならない。人の味覚は千差万別だし、店に期待する部分(味、接客、内装etc.)の比重が人によって全然異なる。だから口コミの★の数だけでの判断は非常に難しい。特に観光地の蕎麦店評価ともなれば、ノイズが多くてとても参考にならないとおかでんは思っている。

まず、観光地というわけで、全国各地から様々な味覚を持った人が集まるという点。それから、蕎麦という食べ物は非常に繊細であり、その繊細さを理解しているかどうかで判断が大きく異なる点。

たとえば、「つゆが辛かった」と批判的な口コミがあったとしよう。これは関西人の書き込みなのか、関東人の書き込みなのかによって意味合いが全然違う。だから、観光地の蕎麦店の判断は難しい。

さらに「繊細さを理解しているかどうか」という点についてだが、蕎麦を全部つゆにドボンと浸けて食べるような人の判断とおかでん個人の判断は全然異なる。どっちの食べ方が正しいということを言っているのではない、単に判断基準が違うということだ。

まあ、結局は「自分で食べて自分だけのランキングを作るしかない」という当たり前な結論になるわけで、今回もまさにそれを草津にて実施しようというわけだ。でも、正直行列は想定していなかった。三連休だから混むのは当然考慮すべきだったが、そもそもこの企画を立案したのが前日だったため、何も考えずに突撃してしまった。こりゃ三軒食べ歩くの、無理だわ。観光地をナメていた。

店先では、ご主人がそば打ちの実演をやっていた。

通行人へのパフォーマンス、というよりも、この待ち行列状態では「お客さんに出す蕎麦を今慌てて作ってます」的な印象を受ける。もちろん、若いご主人とはいえ常日頃観光客の波にさらされているわけで、「焦って打っている」わけではない。計算ずくでの蕎麦打ちだろう。

おかげで、入店待ちまでの間ずっとご主人のそば打ちを堪能できた。粉の状態から麺に化けるまでひととおりの行程を見ることができた。

このご主人、普通蕎麦店でよく使われる塗りのこね鉢は使っていなかった。大きなステンレスボウルだった。蕎麦打ちの場所の都合上、こね鉢を設置できなかったのかもしれない。しかし、ステンレスボウルだと、こねている間どうしても動いてしまう。そのため、片手でボウルを押さえながら、もう片手だけで水回しをしていた。器用なものだ。感心した。

蕎麦を練り上げたら、普通は三角錐型に整形して、延ばした際に丸く広がるようにする。しかしこのご主人は独特で、サイコロ型に整形していた。のばした際の角出しをしやすくするためだろうか?

包丁で生地を刻んでいくところが、見物客の最大の見どころらしい。トントントン・・・と小気味良く切り刻んでいく様に、行列している人たちは「早いわねえ」「凄い」と一様に感嘆の声を漏らしていた。

興味深かったのが、ご主人が蕎麦を切る際は一段段差を上がったことだった。足下に踏み台があるらしい。恐らく、蕎麦を切るベストポジションを模索した結果行き着いたテクなんだろう。蕎麦職人さんで腰を痛める人は多いと聞くので、こういうところへの配慮は重要なのだろう。

行列に並んでいる段階で注文を聞かれる。空席ができ次第次の客に入ってもらい、あまり待たせずに料理を届けるという客回転の向上を狙ったものだろう。

お品書きはこんなかんじ。

もりそば800円、ざるそば850円、舞茸天ざるそば1,260円、天ざるそば1,580円
かけそば800円、月見そば850円、舞茸そば900円、舞天そば1,050円、天ぷらそば1,470円

やはり群馬県といえば舞茸の天ぷらは定番だ。水沢でうどんを食べたとき、店内のほとんどの客が舞茸天ぷらうどんを食べていたのには感心したが、このお店も多くのお客さんが舞茸天ぷらが付いた料理を食していた。

おかでんはもりそばを注文。「もりそばだけでよろしいですか?天ぷらなどは?」と聞かれたので、普通の人は天ぷらを付けちゃうものなのだろう。

注文する際、店員のお姉さんが「ただいま打ち立てのお蕎麦を出しておりますので、冷たい方が風味が感じられますよ」とどのお客さんに対してもお奨めしていた。自信作、というわけだな。それは楽しみだ。

わへいのそば

行列を作ってから1時間で蕎麦とご対面。どうぞよろしくお願いします。

ざるは、中心が盛り上がった形のもの。並木藪でもこの型を見かけたな。何でも、蕎麦の水きれが良いらしい。確かに、お椀型のざるだとどうしても底の方に水が流れていくので、底の蕎麦は湿りやすい。食べていて気になったことはないけど、理論的には山型の方が水切れは良さそうだ。

ただ、後日ネット口コミを見ていたら、「このざるはやめたほうが良い」という主旨の書き込みをみかけた。どうやら、底上げして量を増やしてみせているように判断されたのだろう。まあ、確かにそう取られかねない形状をしているわな。

でもこのお店の名誉のために言っておくと、特にこの形状だからといって盛りを少なくしているということはない。観光地(しかも超一等地)で、この量と質で800円なら全く問題ないと思う。

さて肝心のお蕎麦。

地元産の粉を使用している、と謳っていたが、さてこの「地元」の範囲がよくわからん。草津町なのか、吾妻郡なのか、群馬県なのか、関東地方なのか。まあ、おいしければ別に外国産でも構わないです。

新蕎麦とは謳われていなかったので、まだ昨年収穫されたそば粉を使っていると思われるが、どうだろうか。蕎麦の香り、味ともにそこそこあるのだが、力強さはない。

コシがしっかりしているのが手繰っていて楽しい。固い、のではなく、冷水で強引に締めました、という類でもない。ちょうど食べていて心地よいコシの具合だった。

惜しいのは、蕎麦の切り方が甘いこと。太さにばらつきがあるのはまだ良いとして、切れ目だけ入って実際は切れていない麺が散見された。それが重箱の隅をつつくレベルではない、けっこうな量なので、若干食感を損なった。ただ、これを「手打ちならではの風情」と喜ぶ観光客もいるわけだから、それはそれで良いのかもしれない。

つゆは、おかでんにとってはあまり口にあわなかった。一言で言うと、「辛くて、甘い」。甘さと辛さが対立していて、何となくまとまっていない感じ。熟成が足りないのだろうか?蕎麦を食べている最中は平凡な味のつゆでも、蕎麦湯割りにしたらがぜんおいしくなる事があるが、今回は特にそういうこともなかった・・・いや、違う、最後になって急速に良くなった!惜しいな、最後かよ。このお店のスタイルとしては、徳利から辛汁を猪口に移すのではなく、最初から猪口に辛汁が入っている。だから、蕎麦湯を頂く際に好みの濃度にできないのが残念。

週末昼時であれば1時間待ちにもなるお店。1時間待つ甲斐があるか?という問いへの回答はとても難しい。草津に観光に訪れたからには他にもいろいろ予定があるでしょ、ということだ。その予定とこの蕎麦を天秤にかけて、さあどうしますかというのは各自が判断するべきことだ。

退店したあと、西の河原通り近辺をざっと見てみると案外手打ち蕎麦の店があるものだ。そのいずれもが繁盛していて、待ち行列ができていた。行列ができる蕎麦店はこの「わへい」に限った話ではなかった、ということだ。休日における草津中心地の蕎麦店の需要と供給がアンバランスになっているのだろう。とはいっても、いかにもでき合いの蕎麦を出します、的な店にはほとんど客がおらず、単に飲食店難民が蕎麦店に行列をなしているのではなく、観光客は観光客でちゃんと店を選別していることが伺える。

草津で温泉に浸かり、舞茸天蕎麦を食べて週末を満喫・・・とても良いプランだと思う。ただし、草津温泉街で蕎麦にありつくためには、早い時間に行き、なおかつ行列を覚悟しなくちゃイカンということは認識しておく必要があるだろう。基本、どのお店も売り切れご免のようなので、昼下がりに行くとアウトな可能性があるので注意。

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