上野 藪そば(01)

2009年04月06日
【店舗数:233】【そば食:413】
東京都台東区上野

そばがき、せいろう、菊正みぞれ酒

上野藪看板

「麦酒飲み人種行動観察会」を、上野の飲食店で実施した。各自、最低でも麦酒を2リットル以上は飲んでいたはずなので、なかなかなものだ。店内が混雑してきたので、2時間きっちりで店員さんに退店を促され、店を後にした。とはいえ、もともと短期決戦は承諾の上の入店だったので、2時間とはいえ飲み足りない、ということはなかった。逆に、短時間でどばどば飲んだので酔いが早く回ったくらいだ。

そんな状態の参加者だったが、内一名がこの「蕎麦喰い人種行動観察」コーナーが好きであると激白し、さらに「そばがきを一度食べてみたい」と言い出した。酔っぱらいの戯れ言、と本来は話がスルーされるところではあったが、幸か不幸かわれわれが飲食しまくったお店のすぐ斜め前が「上野藪そば」。酔っぱらいホイホイよろしく待ちかまえていたのだった。

上野藪そばといえば、神田藪の系統をひくお店だ。「藪御三家」と言われるお店の一角は担っていないものの、名店の誉れ高い。看板を見ると、「創業明治25年」と記されている。相当な老舗だ。

その老舗蕎麦店だが、お隣が立ち飲み屋であったり、今まさに酔っぱらいと化した「麦酒飲み人種」オフのメンバーにロックオンされたり、なんとも雑多な場所に位置している。酔客が「小腹が空いたので締めのいっぱいで蕎麦を」なんて暖簾をくぐることが頻繁にありそうだが、店の雰囲気は大丈夫だろうか。

上野藪店頭

「いやー、そばがきってどのお店でも扱っているわけじゃないですよ、このお店だって無いかもしれないですし」

と、既に及び腰モードになっていたおかでんだったが、企画立案者のアクティブさたるや、それを凌駕していた。「お店で聞いてくる」と言って、すたすたと中に入っていってしまったのだった。そこまでやるか。

この時点で逃亡しようかと真剣に考えたのだが、さすがにそれは非道だと思い踏みとどまった。結構酔っ払った状態でこのような蕎麦店に入るのはお店に失礼、と思ったからだ。

「取り扱ってないってー」「あはは、しょうがないねー、じゃあ帰りましょう」

という展開を期待したのだが、戻ってきたその方は満面の笑みを浮かべて「そばがき、あるって」だ、そうで。そのまま腕を捕まれて、店内に連行されてしまった。その際、他のオフ会参加者はお見送りの立場。おかでん一人が生け贄だった。なんてこったい。誰かついてこいよ。

今まで、同行者が「蕎麦店はちょっと・・・」言っている中、「行くぞ」と暖簾をくぐることはあったが、腕を捕まれてそのまま強引に蕎麦店に押し込まれた経験はない。蕎麦喰い人種始まって以来の珍事だ。しかも、女性に引きずり込まれるとは。

ここでおかでんが抵抗しているのは、その女性の事がいやだからというわけではない。彼女の名誉の為に言っておく。酔っ払った状態で蕎麦店に入るのが憚られたのもあるし、おかでんは一次会完全燃焼型であるため、既にやる気がうせている状態だったということもある。

おかでんを二次会に連行しようとすると、どこかで行方をくらます事が多い。捜索したら吉野家で牛丼食ってやがった、というパターン多し。また、無事連行完了しても、二次会の間ほとんど無言ということもある。お酒が回ると、黙ってしまう性分なのだった。

春のおすすめ

がちゃがちゃした状態で店内に入ったが、さすがは老舗蕎麦店。凜とした雰囲気が漂っていた。もっとも、お昼時は大混雑するらしいので時間帯によって雰囲気は変わるのだろうが。

お品書きを開くと、店員さんから「ラストオーダーになります」と言われた。おっと、そうなのか。時計を見ると、20時25分。どうやら20時半で終了となるらしい。

それにしても、老舗蕎麦店だけど「ラストオーダー」なんだな。日本語でこの言葉は存在しないのだろうか。・・・ぱっと思いつく言葉はないな。ラストオーダーという概念は比較的新しいものだと思われる。昔は、「閉店時間=注文終了時間」だったのだろう。もしくは、暖簾を下げちゃって新規のお客を入店させないようにするか。

まあ、ラストオーダー間際でちょうど良かった。ここであれこれ酒肴を並べてしまうと、きりがない。ちゃっと蕎麦を手繰って帰るのがちょうど良かろう。同伴の方は相当ハイテンションになっており、おかでんが「もう少しトーンを落として。蕎麦店ですから」となだめるのに必死だったし。

お品書きを眺める。「春のおすすめ」なんていう季節料理があって楽しい。その中に、「初きの子そば」というのがあっておお?と思った。きのこ=秋、と思いこんでいたので、春のメニューとして出てくると相当な意外感がある。見ると、椎茸、シメジ、エノキの三種を鴨肉と共に炒めたものが載っているそうだ。でも、この全てが栽培ものであり、スーパーでは四季を問わず置いてあるものだ。あんまりワクワクしないのはいかんともしがたいところ。

酒肴が手堅く充実しているところはさすが江戸前の老舗蕎麦店。焼き海苔なんて、炭で海苔を保温できる木箱に入って出てくるタイプだ。これ、ぱりっとした海苔が楽しめていいんだよなあ。

「あいやき」という一品があるあたり、いかにも藪そばだ。要するに「合鴨ロースを焼いたもの」だ。

他にもいろいろ気になるが、挙げ出すときりがないのでやめておく。ただ一つ、炙りめんたいこというのは異色で大層気になった。

肝心の「そばがき」は、「温かいおそば」の欄にあった。1,950円で少々びびる。概して、そばがきというのは高い食べ物だが、ここまで高いのは初めてだ。布恒更科のそばがきが結構お高かったと記憶しているが、2,000円はしなかったと思う。まあ、今回は一人訪問じゃないのでOKだ。一人でこれはちょっと躊躇する。値段が高いだけに、量だって相当あるはずだし。

なお、「おつまみ」の欄には「鴨鍋そばがき」2,000円があるので注意。多分こちらは、鴨鍋にそばがきがすいとん風に入っているのだろう。ちょっと「そばがきが食べたい」という趣旨から外れる。

あと、おそばはもちろん「せいろう」750円を選択。「せいろ」だとか「もり」ではない、「せいろう」と呼称するあたりも藪そばならでは。

後になって気がついたが、「冷たいおそば」のお品書き一覧の中に「カレーせいろう」があった。当時は見過ごしていたが、よく考えるとありそうで無い料理だ。温かいカレー南蛮とは違うのだな。つゆがカレー汁ということか。つゆは・・・さすがに冷たい訳はないよな。ほとんど固まってしまうだろうから。

シャーベット状の菊正宗

同伴者、というかこの企画の首謀者が「お酒を頼もう!」と言い出した。ええ、まだ飲むんスかと思ったが、そばがきをもくもくと食べてせいろうを手繰るというのはちょっと冴えない。まあ、一合くらいは頂いても良いと思い直した。

飲み物の欄を見てみると、清酒は潔く菊正宗だけ。そういえば菊正宗と対峙するのは随分と久しぶりだ。東京の蕎麦店からいかに足が遠のいていたかが分かる。

しかしその菊正宗だが、「菊正宗(一合) 650円」と「菊正みぞれ酒(一合) 650円」の二つがあった。この違いはなんだろう。店員さんに聞いてみたところ、みぞれ酒の方は樽酒であり、なおかつシャーベット状になっているという。それは大層良さそうだ。最近樽酒を飲んでいなかったので、ぜひともそちらをいただくことにした。

しばらくして届けられたのは、ボウル状の陶器に入った、シャーベットのお酒だった。おお、これがみぞれ酒か。めいめい、塗りの枡に注いでいただく。きりっと冷たく引き締まっているのが、とても心地よい。これは飲み心地が良いので、ついつい多飲してしまいそうだ。飲み過ぎ注意。樽酒ならではの木の香は、シャーベットになっても存分に発揮されていて、大満足。

酒のアテは、塩と蕎麦味噌。蕎麦味噌は辛すぎず、おかでんの口に良くあった。お店によっては相当塩辛い奴があるからなあ。一口でお酒ぐいぐい飲めてしまう、まさに酒肴なのだがあまり好きではない。

玉手箱風

そばがき
その後、待望のそばがきがやってきた。
黒光りするお重のような容器に入っての登場。どうしてそばがきって、こうも仰々しい外見で出てくるんだろう。もっとあっさりとしていても良いと思うんだが。

フタをあけると、中から木の葉型にかたどられた5つのそばがきが登場。

そばがきアップ

この企画の首謀者は、初めてのそばがきを前に驚いたり喜んだり。おいしいおいしいと食べていた。味自体は蕎麦であり、特にスペシャルなものではない。しかし、そばがきという形になると、噛むことによって蕎麦の味が引き出されるので、つるつるッと麺を食べるのとは全く違ったおいしさがある。それが珍しかったのだと思う。

首謀者曰く、「蕎麦湯に浸かっていないタイプのそばがきが食べたかった」とのことだったが、まあまずは蕎麦湯バージョンを食べてみて、次回別のお店で「蕎麦湯無しバージョン」を食べると良いでしょう。彼女によると、「ぐらののそばがきが食べたい」んだそうで。このコーナー、良く読んでいるなあ。
せいろう
このお店のそばがきは「温かいそば」の範疇であり、それを食べる事イコールお食事完了だ。しかしわれわれは、その後にせいろうが待っている。やはり最後はビシイッとせいろうで締めくくりたい。
せいろうアップ
やってきたせいろうは、神田藪のようなクロレラ緑色ではない、至ってノーマルな蕎麦。細めで、均一に切られており機械打ちかと思わせるが、手打ちだそうだ。これは気持ちよく手繰れそうだ。

量は、藪と言われているお店の中では多いほうではないかと思う。少なくとも、「あれっ?」と思ってしまった並木藪よりははるかに多い。立地条件を考えると、大変頑張った量と価格設定だと思う。

既にお酒が結構入っているので、味のコメントはあまりするつもりはないが、まさにこれぞ「蕎麦を手繰る!」という感じでおいしゅうございました。つゆが大変気に入った。辛口のつゆではあるが、とてもおいしい。鰹の香りが蕎麦を殺さない程度に品良く鼻に抜け、「おおぅ」と思わず口にしてしまうくらいだった。辛汁がよく冷やされていたが、これも正解。細めの麺と良くあい、つるッと手繰るにはとても良かった。

・・・ただし、酒飲んだ後の意見なので、しらふの時に食すとまた違った見解になるかもしれないが。もともとおかでんは冷たいつゆ、麺はあまり好きではない。

蕎麦猪口に入っている辛汁は量が少ない。蕎麦をざぶんとつゆに浸けるのが好きな人からすると物足りないだろうが、これはこれで良いと思う。

蕎麦湯は、閉店間際ということもあってか結構濃厚な奴が出てきた。これもまたおいし。

失礼ながら、場所柄そんなに美味い蕎麦は食べさせてくれないものだと先入観があったのだが、そうではないという事を知った。侮れないな。

・・・ただし、アルコールで頭が麻痺している中での食事、という前提がつくけど。