そば処 一葉

2009年05月23日
【店舗数:235】【そば食:417】
長野県安曇野市豊科

粗挽きそば、細挽きそば

アワレみ隊OnTheBBSのオフ会で、読者の方から本を頂いた。名前はずばり、「信州そば」という。長野県の蕎麦店をひたすら紹介しているのだが、「老舗から新店まで旨い店厳選281店紹介」と銘打たれている。281店って、厳選にしちゃ優柔不断な数字だが、これでも十分「厳選」に値するのだから長野は蕎麦王国だ。「一時予選通過時点」くらいの店まで入れたら、軽く1,000店は越えるだろう。

長野県は南北に長い県ということもあり、自然豊かで文化や風土も豊かだ。海がない都道府県で、これだけネタの宝庫なところはないと思う。

そのおかげで、こんな「信州そば」なんていう専門書まであるから、蕎麦喰いとしてはありがたい。この本、「蕎麦名人に聞く、そば打ちの極意」だとか余計な特集は一切なく、ひたすらお店紹介に徹しているので使い勝手が良い。写真だけ見ていても楽しいので、ついついページをめくっているうちに「こりゃ久々に蕎麦食べ歩きをせんと。」という気持ちにさせられた。そして、あれよあれよという間に一路安曇野へ。

長野県は、この本を出版している「まちなみカントリープレス」を観光大使に任命しても良いと思う。他にも、「KURA」という信州ライフを扱ったローカル雑誌も定期的に発行しており、これまた良いできだ。東京にある出版社が作るような、ギトギト感・ドタバタ感がなくてすばらしい。少なくともおかでんはこの会社の本のせいで過去、長野県に数万円を落としている。

発起したのが土曜日夜ということもあって、決行は日曜日だけの日帰り。それで数軒の蕎麦店を回ろうというのだから、ちょっと大変だ。はるか昔は、2泊3日で十数店舗を巡る食べ歩きなんて平気でやっていたが、もう年齢が年齢だ、そんなに食べられるとも思えない。優先順位をつけてやっていかないと、大本命のお店を前に志半ばで倒れてしまう。

そんなわけで、安曇野市の蕎麦店紹介記事から、写真や記事を見てこれはよさそうだ、といういお店をとりあえず7店舗拾ってみた。当然全部いけるわけではないので、営業時間と、場所と、写真が旨そうかどうかという3要素で順番をつけた。

写真が旨そうか、というのは重要な要素だ。美味い蕎麦は写真を通じても色気を感じる事がある。うぐいす色した蕎麦が写真に納まっていれば、そのお店が最優先対象となる。うぐいす色の蕎麦は勝利への近道。ただし、撮影時にホワイトバランスがおかしくて、麺の色がおかしく写ってしまっているという可能性もあるので要注意。

蕎麦の写真は、お盆やテーブルの濃い色(茶~黒色)と、蕎麦の色(緑~白~灰色)という明るい色で構成されるため、どうしても蕎麦の方が白飛びしやすい。蕎麦の色が判別つかないときは、その周囲に写りこんでいるものと色を対比して、想像たくましくしないといけない。・・・いや、義務じゃないけど。勝手にやってなさい。

店舗数を多めにセットしたのは、絞りきれなかったということもあるが、予備を作っておかないといけないからだ。これ、蕎麦食べ歩きの際のワンポイントアドバイス。予備店舗は作っておこう、と。

蕎麦店の場合、「ご主人不在で休業」「満席で待ちそう」「売り切れじまい」「店の外観があまりにイメージと違っていたので急きょ却下」という事がある。そのための予備店だ。

一葉外観

長野自動車道豊科インターを出たところで、本日同行するアワレみ隊員しぶちょお(以降「同行者」と呼ぶ)と合流。一軒目のお店「一葉」に向かう。

「信州そば」では、「こめかみで感じる食感と風味を堪能できるそば」というキャッチコピーがつけられている。紹介文本文では「そばは野生の息吹を感じるほど香り立つ」と書かれており、何ともワイルドだ。胸毛がふぁっさーっと上着の襟からはみ出ているセクシーガイ、といったところか。そもそも、「香り立つ」って表現がスゲーよな。まるで湯気が立っているようだ。そんなに蕎麦が臭うんか。ちょっと文章作成者が気合い入れすぎて書いちゃいました感があるが、そうとわかっていてもワクワクさせられる。話半分に聞いたとして、脇毛ぼーぼー(の女性)、くらいのワイルドさはありそうだ。

店が国道147号線沿いのロードサイド店なのが若干気になるが(幹線道沿いのそば店に美味い店は少ない、というこれまでの経験則による)、キャッチコピーに惹かれた。ぜひ本日の一軒目としてたぐり寄せたい。

一葉店内

一葉の店内。

内装や調度品を見ると、ごく普通の、地方にある和食店という風情。ワイルドな奴が潜んでいるようにはとても見えない。どこからワイルドが顔を出すのか。足元か、それとも天井からか。

嗅覚を研ぎ澄ますが、この時点ではまだ「野生の息吹」が香り立っては来なかった。さすがに気が早すぎた。

お品書き

お品書きを見て面白かったのが、「ざるそば」と「もりそば」が同じ値段の840円、ということだった。

「おい、ということは海苔の代金は無料、ということか」
「ひょっとしたらもりそばだけ麺の量が少ないかもしれん」

などとひそひそ話をする。ただ、よくわからないのが、「大ざる」と「大もり」は100円差ということだ。海苔代サービス、とはいかんくらい、100円差をつけるくらい、メチャ海苔を盛るぜという犯行予告なのかもしれん。
そばは2種類から選べる。「殻付きの玄そばを何度も手挽きし粘りと甘みを追求した荒い粉」の粗挽きそば、「そばの芯の御前粉と一番粉のみ」の細挽きそば。

どちらも美味そうなので、両方頼む。

「粗挽きそば、『そば粉の割合は95%以上』って書いてあるけど・・・残りに何を入れたんだろう」
「あと5%か。なんだか惜しいな」
「残り5%は化学調味料だったりしたらびっくりだな」(注:そんなことはありえません)

頭文字Dが並ぶ本棚

蕎麦を待つ間、ふと席の傍らを見ると漫画の単行本が並んでいた。町中の中華料理屋ではよく見かけるが、蕎麦店で漫画というのは初めて見た。まあ、蕎麦だとかなんとか、堅苦しくならんでよろしかろう、というお店からのメッセージか。

とはいえ、置いてある本が「頭文字D」というのはちょっと強烈だな。ひょっとしたら、「中房温泉まで蕎麦の出前を毎日運ぶうちに、ドラテクが凄いことになってそりゃあもう大変なことに」というストーリーに書き換えられているかもしれん。「蕎麦がのびないうちに配達しようと無意識のうちに山道を突っ走るクセがついた、一葉店主の息子。その息子の前に立ちふさがる、『霧ヶ峰レッドサンズ』や『野麦峠ナイトキッズ』」だとか。

蕎麦の薄焼き

そんなしょーもないことを考えていると、「サービスです」といってお店の人がお皿を一つ出してくれた。蕎麦の薄焼きだ。おおう、これ食べるの、随分久しぶりだなあ。買ってまで食べようとはあまり思わないが、あると凄くうれしい小吃だ。

塗ってある味噌の味も相まって、大変においしい。蕎麦を待つ間のとても良い前座を果たしてくれた。ありがとう。
粗挽き
細挽き
お待たせしました、蕎麦が到着でございまするよ。

写真上が粗挽き、下が細挽き。なるほど、挽きぐるみの粗挽きは黒っぽい色をしているのに対し、更科蕎麦に近い細挽きは白っぽい色をしている。どちらもおいしそうだ。

双方手繰ってみる。ううむ、うまいな。一軒目でいきなりこのレベルの美味さを出しちゃって、この後のお店は大丈夫か?と心配になってしまうくらい、うまい。ほらよくあるじゃないですか、カジノで、散々お客を勝たせていい気にさせた後、豹変して身ぐるみ引っぺがすまで絞り上げるディーラー。あれを想起してしまったッス。

さすがに季節柄、「香り立つ」ほどまでワイルドではなかったものの、こりゃ新蕎麦の時に来たらどうなるの、という味わいであった。ひょっとしたら本当に香り立つかもしれん。

粗挽きは細挽きとくらべてやや幅広に打たれている。また、麺が短い。粉の性質上、細く長く麺を仕上げるのは難しいのだろう。風味はこっちの方が上だが、麺が短い分豪快に手繰りにくい。その点、細挽きは麺が長めなので、気持ちよく手繰れる。両方の粉の特性を良く味わえる対比だった。二人以上でこのお店を訪れる場合は、ぜひ食べ比べをしてもらいたい。いや、しなくてもいいですけど。