そば処 上條

2009年05月23日
【店舗数:236】【そば食:418】
長野県安曇野市穂高

天恵そば

上條駐車場は車で一杯

安曇野蕎麦食べ歩きの二軒目として訪れたのは、「そば処 上條」。手元にある「信州そば」の本では、1ページぶち抜きで特集が組まれている別格扱いのお店だ。写真に写る、水蕎麦がとても興味を引く。また、蕎麦が美味そうにつやつやしながらおいでおいでをしている。はい、お招きに従います。直ちにそちらへ向かいます。

そんな紹介記事だが、肝心の文章はというと、「そばも旨いが、地酒が飲めて酒肴が・・・」という話から始まる。おい、蕎麦はそっちのけかい。そして、酒の話がずっと続いた後、最後に「一鉢、二のし、三包丁の極意で打つそばが肴の昼酒にはたまらない。」と締めくくられている。結局蕎麦は最後まで相手にされなかった。何だこの記事は。記者は昼酒が楽しめる居酒屋の記事と勘違いして執筆したんじゃあるまいな。

こういう、「本題から話が逸れた紹介記事」が掲載されるお店というのは大抵味が怪しいものだ。メイン料理を褒められないので、「雰囲気が良い」とか「立地条件が良い」などと関係のないところを褒める。このお店も、それじゃあるまいな・・・なんて言って、同行者と笑った。

しかし、蕎麦はうそをつかない。水蕎麦を出すような店で、よもや蕎麦がまずいということはあり得ないはずだ。自信を持って訪れて、間違いはあるまい。

目指すお店までやってくると、目の前にはずらりと並ぶ車の列。時刻は11時45分、相当な繁盛だ。周りは何の変哲もない田んぼや民家が広がる土地なのに、ここだけ異様。教訓。安曇野で車の群れを見たら蕎麦屋と思え。

上條看板

ここ、上條には以前一度訪問したことがある。しかし、昼下がりだったということもあり、既に閉店していて食べることは叶わなかったが。その時の記憶は、「瀟洒な洋館で、とても蕎麦屋とは思えない外観にチキンハートなわれわれはびびりまくり」に尽きる。「おい、閉店しているかどうか確認してこいよ」「俺やだよ」「本当にここがそのお店なのか?」などと車内は紛糾しまくった。そんな外観のお店。

上條は緑に覆われている

前回訪問時は冬だったので、建物がよく見えたが今回は5月。木々が芽吹き、何やら建物を覆い尽くそうとしている。真夏になると暑苦しい外観になりそうだが、大丈夫か。「注文の多い料理店」みたいに、山ねこが料理人ってことになってないだろうな。

以前訪問時は「洋館」と思ったが、良く見ると瓦屋根になっており和風の要素が入っている。大きく壁面を切り抜いた、大胆なガラス窓が洋館を想起させたのだろう。ただ、いずれにせよおおよそ蕎麦屋の風情ではない。オーベルジュといった佇まいだ。

今でこそ有名店になったから、雑誌や口コミを頼りに多くの客が押し寄せる。こんななぞめいた外観でも問題はない。人間、成功すりゃやりたいことはある程度自由がきくようになるんだな。人生、成功したいものよ。しみじみ。

上條暖簾

入口に通じる道はどこ、というくらい、アプローチも低木に覆われていた。緑をかきわけながら・・・というと大げさだが、緑の中を進むと、そこには暖簾が。おお、これでようやく蕎麦屋っぽくなった。

しかし、暖簾をくぐると、そこには引き戸ではなく、西洋風のドアが待ちかまえているのが面白いギャップだ。

上條店内1

上條店内2

中に入っても、このお店の独特な世界観は変わらない。小じゃれた喫茶店の風情の店内は、女性でも喜ぶだろう。見ると、傍らにファミレスでよく見かける「順番が来たらお声がけしますので名前書いて待っててね表」があった。昼前にして、既に待ち行列ができていたのだった。繁盛しているなあ。というか、都会の蕎麦屋じゃないのに順番待ちを店先ですることになるとは思わなかった。

名前を書いて待っている間、入口付近を見て回る。そこはギャラリーというか、ちょっとした土産物コーナーになっていて、ご主人の上條氏が撮影した安曇野?の四季の写真なんぞがたくさん飾られていた。興味がある方はぜひどうぞ。

上條客席

待つこと少々で、席に案内される。窓側の席があてがわれ、とても開放的で気持ちがよい。椅子と机のセンスにしろ、タイル張りの床にしろ、窓にしろ、どうにもこうにも蕎麦屋っぽくない。

あと、地味に蕎麦屋らしくないのが、卓上にお冷やが置かれているということ。しかも結構大ぶりのグラスだ。ぐいぐい飲め、と言わんばかりの量が入っている。

それじゃ早速、ということでぐいぐい飲んでみたが、これが相当にうまかった。さすがわさびが育つ清流の町・安曇野・・・なのだろうか。

和風ではない「メニュー」

らーめんも取り扱いあり

このお店は蕎麦店の「暗黙の了解」やらお約束なんて関係ねえぜ、と思っているらしい。お品書き、見事に左上から書き始めていた。普通、和食である蕎麦は右から左へと書き進めていくものだが。多分、ここのご主人はこれを「お品書き」とは思っておらず、「メニュー」と思っているのだろう。

蕎麦に関しては、最初にざるやもりが来るのではなく、「おしぼりそば」から始まるところが挑戦的だ。あと、読み進めていくと、温かいそばの欄に「桜南蛮」という料理名があるのも、大層挑戦的だ。鴨肉ではなく、馬肉でやるぜというのか。大層そそられるが、まあまた今度来たときにでも。

ただ、上條のとっつあんはそんな「蕎麦」という範疇だけでは納まらないスケールのデカい御仁だった。「そば」メニューをぺろりとひっくり返すと、裏側には「らーめん」のメニューが。おい、このお店ラーメンもやるのかよ。

蕎麦は手打ちですが、ラーメンは製麺所から仕入れていますということはあるまい。わざわざラーメンを提供するくらいだから、相当な拘りをもってやっているに違いなく、恐らく自家製麺、もしくは製麺所に委託したとしても結構あれこれ注文をつけていると思われる。

こうなると、蕎麦よりもラーメンの方に興味が引かれるのだが、頼むからそれだけはやめとけ。蕎麦は食べ歩きができる食べ物だが、ラーメンは食べ歩きに向かない。いっぱい食べると結構おなかがふくれるし、カロリーが高い。ここは大人しく蕎麦くっとけ。

へーい。

あと、面白かったのが一品料理に「桜カツ 1,680円」があったこと。安曇野界隈って、桜肉を食べる文化があったのだろうか。よくは分からないが、おいしそうだ。しかし、あくまでも扱いは「一品料理」。このカツで白米食べてぇ、と思ってもそんな物は存在しないのだった。主食になりうる物がラーメンか蕎麦しかないので、そのどっちかを頼んで、追加で桜カツを頼んでこれはみんなでシェア、という食べ方になるのだろう。桜カツ定食を許してしまうと、もうこのお店、何屋だかわからなくなってしまう。町の食堂になってしまうので、それはやめたということか。

とはいえ、メニューを混沌とさせているものがもう一つ。このお店、自家製アップルパイも売っているのだった。ご主人多才だな。後で知ったのだが、もともとは洋食をホームグラウンドにしていた方だそうで、その余韻がアップルパイやカツといった形で現れている様子。

それにしても、「まるごとアップルパイ 1,360円」ってすごいな。これとは別に1/4単位でも切り売りされている(360円)ので、要するに4人前がドカンと来ますよ、ということだ。もう完全に、午後の優雅なティータイム状態。周囲で蕎麦をずぞぞぞっ、と手繰っているのとは完全に場違いな雰囲気になりそうだ。

ご主人は一体このお店を「何屋」だと定義しているのだろう?面白い人だ。

ファミレス的でもある卓上

机の脇を見る。普通の光景だ。・・・いや待て、これを「普通」だと見逃してしまうようでは、感性が相当に鈍っている。よく考えろ、ここは「蕎麦屋」だぞと。ただしこの際、「中華」か「日本」か、どっちの蕎麦屋かはよくわからんが。

まず箸。この置き方、モロにファミレス風ではないか。普通、ちょいと気合い入った店は、オリジナルの箸袋なんぞに箸を入れて、来客の都度机に配膳されるってぇもんだ。しかしここでは、「必要に応じてお取りください。これなら、箸を万が一下に落としてもわざわざ客を呼ばなくて大丈夫だね」となっている。いやまあ、そうスけど、面白いなあ。

誤解のないように言っておきたいが、これを「無粋である」だとか言う気はない。逆に、カジュアルで面白い、いいぞもっとやれと思っているくらいだ。下手に気取られてもこまるが、ざっくばらんな方向に従来の蕎麦スタイルの破壊があってもいいと思う。

で、目線をずらすと、金色の缶。八幡屋磯五郎の七味・・・。やっぱり長野ですからね、この七味は定番でしょう。

金色の缶の後ろには銀の缶。・・・GABAN。なるほどね。

いやいやいや。そこで納得してはいかん。GABAN?ラーメン屋ではよく見かけるが、蕎麦屋で見るのは生まれて初めてだ。あ、そうか、ここはラーメン屋でもあるんだっけ。なるほど、ああ。

驚愕と納得を僅か1秒程度で完結。

念のため、白胡椒か黒胡椒かを確認したところ、白胡椒でござんしたよ。ラーメンを食べた際には、せっかくなのでぜひどうぞ。

20090524-024

同行者が頼んだ、もり840円。小じゃれた雰囲気の店だから、蕎麦はちんまりとした盛りだと思っていたのだが結構量がある。そうか、これが長野クオリティ。思い出せば、さっきのお店(一葉)も量があったぞ。上田界隈のびっくりするような量ではないにしろ、気がついたら満腹にさせられる、みっちりと密度のある盛りだ。

水そばがついてくる

もりそばには水そばが付いてきていた。

お店の人に、「水そばともりとは蕎麦が違うんですか?」ときいてみたところ、「同じ物です」という回答があった。

「何だ、だったら水だけ入った器を用意して、辛汁につけるか、水につけるかの二者択一にさせてもいいのに」

と思ったが、最初から水の中を蕎麦が泳いでいることに意味があるのだろう、きっと。ピュアな蕎麦を楽しんで貰いたいから水そば、という発想より、むしろ水を楽しんで貰いたいという気持ちが強くあるように感じる。これ、よっぽど水と蕎麦両方に自信がないとできないことだ。東京都内じゃとてもじゃないが無理だ。「ブリタで浄水した水を使って水そばを作りました」って言われても、何もうれしくないもんな。この際、実際に旨いかどうかだけではなく、その美味さを語れるバックヤードがなくちゃいかん。

天恵そば

こちら、おかでんが頼んだ「天恵そば1,260円」。要するに具だくさんのぶっかけ蕎麦だ。こちらにも水そばがついているのがうれしい。ぶっかけ蕎麦は、つゆが既にかかっているが故に蕎麦単体の味が分かりにくくなる。それが理由で、初訪問のそば店ではもりそばばっかりを頼んでいるのが現状だ。しかし、こうやって水そばが添付されると、蕎麦単体の味が分かるので大変にありがたい。

もっとも、このお膳が出てくるまでは、水蕎麦がついてくることは知らなかった。単に、同行者が既にもりそばをオーダーしてしまっているので重複するのはやめておきたかったのと、お店の看板メニューがこの天恵そばだったというのに過ぎない。

もうね、蕎麦品評家だとか評論家になるわけじゃないんだから、神妙な顔してもりそばばかりを食べるのもどうかと最近思ってきたのですよ、ワタシ。いい加減もりそばについて、蕎麦喰い人種で書くことないし。そんなわけでちょっと背伸びした5月の昼。

まずは水そばをいただく。

麺は凄く固く、太い。水を少なめにして生地をこねたと思われる。水を増やして柔らかくしたほうが楽だと思うが、この固麺もご主人のこだわりなのだろう。水そばと良くあう。

ただし、蕎麦の香りはあまりしない。季節柄ということもあるのだろうが、これだけ固いと蕎麦超特急でそのままストーンと口から喉へと滑り落ちていく。あまり香りを放出する余裕を与えていないような気がするが、どうだろう。味についても、噛んだ際の堅さが強く印象に残り、味まで意識が及びづらい。ちょっとクセが強い麺だ。

天恵そばは具だくさん

天恵そばは具だくさん。見ているだけで誰しもがニコニコすることだろう。

冷そばの上に温泉卵、海苔、大根おろし(とわさび)、海老天ぷら、かいわれ大根、そば焼き味噌、胡麻、葱、鴨の燻製、揚げたそば米。ええと、全部で10品か。よくぞ盛ったり。これ、下ごしらえしてスタンバイしておくだけでも結構手間だぞ。しかも、揚げ物も入ってるし。

食べてみたが、目で楽しめて、舌で楽しめてうれしいひとときだ。固めの蕎麦が、この料理には良く合う。柔らかい麺だったら、具のインパクトに負けてしまうだろうが、どっこいここの麺は十分に自己主張をし、どっさりの具に負けない光をにぶく光らせ続けているのだった。ここの蕎麦、もりで食べるよりもこうやってアレンジされた料理の方が美味いんじゃないか。

ボリュームたっぷりなので、一人で独占しないで連れとシェアするもよし。幸い、えび天や鴨肉は二きれずつあるので、カップル同士仲良くつつき合うがよろしかろう。蕎麦好きでも、「蕎麦は何だか物足りない」という人でも満足できる一皿じゃないかな。

そば湯に胡椒をかけてみる

最後、締めで蕎麦湯を頂く。

あ、そうだ、せっかくだから・・・

たぐり寄せたのは、GABAN。

蕎麦湯に軽く振りかけてみた。

さてそのお味は・・・。いや、ダメだ、合わなかった。全然混じり合わないです、これ。