蕎麦と旬菜 ZEN

2009年06月23日
【店舗数:240】【そば食:422】
長野県北佐久郡軽井沢町

健菜膳

Zen外観

湯治のために万座温泉に行く事にしたため、その道中で立ち寄れる蕎麦店を探してみた。軽井沢あたりでよさげな店があれば、と思っていたのだが、幸いちょうどルート沿いに気になるお店を2軒発見することができた。まずはそのうちの一軒、「蕎麦と旬菜 Zen」というお店を目指す。

軽井沢といえば、既におかでんは「きこり」という満足度が高いお店を開拓済みであり、単に美味い蕎麦を食べたければそこに行けば済む。しかし、軽井沢には蕎麦店がいっぱいある。まだ見ぬ強豪が森の奥に潜んでいるかもしれない。気が済むまで新店舗開拓は続けていきたい。

この「蕎麦と旬菜 Zen」というお店は、同じ軽井沢にある蕎麦会席の有名店「東間」の姉妹店にあたる。「東間」は完全予約制、15歳以下入店禁止というのが特徴で、グルメマスコミなんぞでよく取り上げられる店。若干そちらの店の敷居が高くなっているので、もちっと楽に入れる店を用意しました、ということだろうか。

場所は、上信越道で軽井沢を目指す人ならほぼ100%通るであろう、県道43号線沿い。碓井軽井沢ICからゴルフ場の合間を縫って、アウトレットモールに向かう途中だ。「旅のついで」に立ち寄るには最適。軽井沢って、迂闊に脇道や裏道に入るとなかなか面倒な事になるから、「道沿い」というのはありがたい。

とはいっても、正確に言うと県道から僅かに脇に入ったところにお店はある。道路沿いに店の外観は見えないので、案内看板に注意だ。セブンイレブンを通過したあたりから緊張して左側を見ていれば、見つかる。ホテル藤屋まで行ったら、行き過ぎ。

看板に従って脇道にはいると、そこには黒地に白字の「Zen」の文字。ローマ字の蕎麦店って初めての体験だ。それにしてもさすが軽井沢、看板の奥に見える建物がおおよそ蕎麦店っぽくない。別荘のようだ。

Zenの暖簾

・・・と思ったら、お店の位置が違った。駐車場脇に白い暖簾がかかるお店があった。なんだ、さすがにあの別荘風は蕎麦店っぽくないと思ったんだ。と思ったら、あれえ、こっちはこっちで、三角屋根の建物。さっきの建物以上に蕎麦店っぽくない。さすが軽井沢、と言ってしまってよいのだろうか。

「Zen」という名前からして、渋い和風建築を想像していたのだが、全然違った。

ガーデンパーティーができる庭

入口脇には庭があり、そこにはガーデンパーティーの予約承ります、的な感じで椅子や机、パラソルが配置されていた。地面は芝なので快適そうだ。でもこれ、芝刈りをしなくちゃいけないし、手入れが大変だろうな。

なんでも、犬を連れてくることができる蕎麦店、としてこのお店は知られているらしく、お犬様同伴の場合はこちらの席で食べるんだそうだ。ドッグランの中に蕎麦店がある・・・というわけではないか。さすがに犬の放し飼いはまずいだろう。

こういう庭で蕎麦が食べられるお店っていうのは、標高が高い軽井沢ならではだと思う。東京なんかでこれをやっても、夏は暑いし周囲のノイズがうっとおしいし、全然癒されない。なかなか面白い蕎麦店だな、ここは。

Zen店内

面白いのは店内も同じ。あの三角屋根の店内に入ると、そこは何だか喫茶店のような雰囲気だった。最近この手の蕎麦店が増えたとはいえ、中にはいると一瞬の違和感を覚える。ネガティブな意味での「違和感」ではなく、何だか場違いのところにきちゃった感じ、という意味での違和感だ。お姉様奥様あたりが気心知れた仲間とアンニュイな午後を過ごすwithハーブティー、なんてお店の感じ。そういうお店はおかでんの日常生活において全く縁が無いので、身構えてしまうのだった。まさか蕎麦店で身構えてしまうとは。

ただ、完全に洋風なしつらえになっているわけではなく、古い箪笥が置いてあったり、清酒の一升瓶や抹茶茶碗がインテリアとしておいてある。ジャパニーズモダン、といった風情。こういうのが蕎麦業界ではプチブームなのかねえ。

席がゆったり目に配置されているのはとてもうれしい。古くからの店はわりあい客席同士をくっつけて狭苦しくしているところが多いが、こんなに広々していると気持ちが晴れやかになる。白い壁、明るい木の色と相まってなんだか落ち着く。

ファミレス的な卓上

店員さんが最初に持ってきたのは、グラスに入った水と、籐のカトラリー入れだった。

グラスオブウォーター。お茶じゃなくて、水なんだな。お子様と勘違いされたのだろうか。まさか。蕎麦店といえば、お茶というのが定番だが、このお店は敢えて水を供している。

それからカトラリー入れ。ファミレスを思い出してしまった。中にフォークやナイフが入っているということはさすがになく、単に割り箸が入っているだけだ。しかもその割り箸、カトラリー入れからはみ出ている。何がしたいんだ、このお店。

水といいカトラリー入れといい、敢えて旧来の蕎麦店の定番ムーブメントを避けているような気がする。

お品書き1
お品書き2


お品書きを広げてみる。というかこれ、もう「お品書き」ではなくて完全に「メニュー」だな。縦に非常に長いメニューというのは和風の料理店ではまずあり得ない形態。イタリア料理店などのワインリストみたいだ。そして、紙はラミネート加工されていてテカテカ、料理は写真を多く取り入れて紹介されている。蕎麦店では見たことがないお品書き形態だ。
写真入りで料理を紹介している蕎麦店って、実はあまりないと思う。偶然か必然か、蕎麦店のお品書きはひたすらの文字の羅列であり、それが一体どんな料理なのかを示す写真は無いのが通例だ。写真入りになるとファミレスか居酒屋っぽくなってしまい、粋ではないと思っているのかもしれない。現に、このZenのメニューは非常にファミレスチックだ。しかしこのお店は、敢えてそういった旧来のルールをひっくり返そうとしているように思える。良く見ると一品料理の欄に「a la carte」(アラカルテ)なんて書いてあるし。

こういう努力はあまりおかでんにとっては興味はない。蕎麦が旨ければ店が汚くてもいいぞ、というスタンスだからだ。しかし、変に民芸調なインテリアにして悦に入っている店だとか、美味い蕎麦だ黙って食え的にご主人がふんぞり返っている店もあるやに聞くこの小難しい蕎麦業界、こういう新しい取り組みは新しい流れとして興味深い。

肝心のラインナップだが、このお店は冷たい蕎麦しか常備していない。蕎麦は冷たいのに限る、というスタンスだろうか。それとも、これは夏用メニューなのだろうか。冬は凍てつく寒さの場所故、どうするんだろうと心配になる。

蕎麦以外の一品料理が結構豊富。元来の蕎麦店のつまみ類というのは、蕎麦に使う食材を転用したものだが、このお店は全く蕎麦とは無縁の料理を用意している。薩摩揚げとか、ごぼうのから揚げとか、にんにくの味噌漬けとか。おそばの傍らにどうぞ、という類のものではないので、明らかに一献やりながらの酒肴だ。しかし困ったことにここ、車じゃないとなかなか来られない場所なのよねん。どうするんだろう。魅力的な酒肴を扱っているのは大変に結構なのだが、実際に食する機会に恵まれそうにない。お店の周辺では、レンタサイクルに乗った観光客がキコキコ走り回ってはいるのだが、お酒飲んで自転車運転しても「飲酒運転」で捕まるからなあ。「いろいろ葱の春巻き(600円)」なんてのは蕎麦店の範疇を超えた、とても気になるメニューなのだが。

通常メニューとは別に、「ランチ特別メニュー」という紙もあった。「ランチ」であり「メニュー」。もう、完全に開き直っている。ここは蕎麦店か?

それを見ると、プチコース料理となっている「健菜膳(1,800円)」と「美味肉膳(2,500円)」の二種類が用意されていた。お昼の料理にしては、桁が一つ多い。ブルジョアの町・軽井沢め、やるな。それにしても「美味肉膳」って、もう肉食いたいんだか蕎麦喰いたいんだか、どっちだよ状態。なんでも、「牛刺しのにんにく味噌漬け」もしくは「黒豚の黒酢煮込み」から肉料理を選択するそうだ。きっつい味の料理だなあ。蕎麦食べる前にこんなの食べたら、蕎麦の味が分からなくなるんじゃないのか?大丈夫か?

何だかこのお店、おかでんにとってはだんだん胡散臭く感じられてきたが、一応足を踏み込んではみたくなった。虎穴に入らずんば虎児を得ず。・・・って、虎の子供って何だよ。まあいいや、結構お高いが「健菜膳(1,800円)」を選択。

メニューの下には「各種トッピングもご用意しております。(なめこおろし・とろろ・おろし納豆 各300円)」と書かれていた。トッピング・・・。うーん、ますます蕎麦店らしからぬ単語だ。

季節の旬菜(三種盛合わせ)

最初に卓上に届けられたのは、「季節野菜の浅漬け」と「季節の旬菜(三種盛合わせ)」だった。季節とか旬、という言葉には滅法弱いので、このネーミングだけでありがたい気持ちになる。

でもよく考えると、厳寒の軽井沢において、冬になったらどうするんだろう?大根と白菜しかありません、なんて事になりそうな気が。大根の天ぷらは嫌だ。ああ、その時はメニューから「旬」と「季節」を外せばいいのか。開き直ってスイートコーンの天ぷらでも添えてみるか。

浅漬けは、キャベツだった。なるほど、高原キャベツの一大産地が軽井沢の北、嬬恋だからな。ありきたりな野菜だが、大変に納得の一皿。シャクシャクしておいしい。塩加減もちょうど良かった。

季節の旬菜は、たけのこ、ふろふき大根、いんげんの胡麻あえ。たけのこは6月末では時季外れではないか?と思うが、まだこの地では採れるのかもしれない。もしくは、一年を四半期で区切って、「4月~6月の野菜」という扱いにしているのかもしれない。

いずれもおかでんの口に大変合った。どれもわざと固めにゆでてあり、「あれっ、ちょっと固いか?」というギリギリ手前のところに仕上げてある。そのため、野菜を噛みしめることになるので、旨みをより感じる事ができて、良かった。最近、冷凍食品だったりお総菜だったり、なよなよした野菜ばっかり食べているのでこういうのはご馳走だ。ただ、ご年配の人からすると「入れ歯外れたらどうすんじゃボケ」とクレームがくるかもしれない。まだ自分の歯が健全な事にしみじみと感謝。みよこのインゲンのキシキシした食感を。後もう少し固いと、繊維っぽくなってとてもまずい料理になっていたところだ。そうならないところは素晴らしい。

聞くと、これらの野菜は自家農園で栽培されたものだという。なるほど、それじゃ嫌が上でも「旬の野菜」になるな。さすがにたけのこだけは自分の畑からにょっきり生えてきたものではないと思うが。

この三種盛り、器も面白い。蕎麦をそのまま箱盛りにしてもよい白木の木箱に、すっぽりとタパス的な料理3つが少量入るお皿。特注品だろうか?なかなか好きです、こういう和洋折衷なセンス。

旬の天ぷら三種盛り

こちらは「旬の天ぷら三種盛り」。「自家製さつま揚げ」といずれか一品を選ぶようになっていたのだが、当然天ぷらを選んだ。失礼ながら、さつま揚げではドキドキしない。やはりここは天ぷら、しかも「旬の!」と言われているヤツの方がおかでん的にはグレードが高いと思う。非常に安直だが。

出てきたのは、蓮根、いんげん、なす、しめじ。あれ、4種類ある。サービスかしら。ただ、しめじだったかどうかは記憶が定かではない。舞茸だったかもしれない。

塩でお召し上がりください、ということだったので、つゆは無し。

こちらの野菜も、先ほど同様「どこまで固めにしたらお客からクレームが来るか、限界まで挑戦」的な歯ごたえ。おかでんは好きなのでぜひこの路線を貫いて欲しいが、やっぱり賛否両論あるだろうな。みよ、このなすのしゃっきりした感じを。熱と油でへろんへろんしたなすが巷に跋扈している昨今、このピンとしたなすは良いと思う。

おそば
おそばアップ

これも器が面白い。かごの取っ手が一方にしかついていない。本来ならば、取っ手は二箇所にあってこそ安定するが、そうしないのは見た目重視の結果だろう。おかげで、天ぷらが奇麗に映える。よく考えてあるな。まあ、それをいったら残る一つの取っ手もいらんのではないか、ということになるが、いやまあ、それはそれ。シャツに飾りボタンや使わないポケットが付いているのと一緒。


おそば。単品で頼むと850円するので、結構なお値段だ。東信だからといって、量がすこぶる多いということもない。東京風な量だ。

野菜がそうであったように、こちらの蕎麦もきりっと、ぴしっと引き締まった食感だった。

せっかくあれこれ凝った演出をしているのだから、せめてそばつゆは徳利から自分で注がせて欲しかった。あと、薬味入れまで配慮がいかなかったのか、平凡すぎる丸い小皿だったのがやや残念。せっかくだから全てのおいて突き抜けて欲しいところだ。あ、いや、これは批判ではなく、エールという意味で言っている。

盛りそば850円からなどと、全体的にお値段は高いお店だ。コストパフォーマンス、という言葉を使ってしまうとどうしても評価が厳しくなってしまうだろう。やはり、いくら回りは緑豊かでもここは軽井沢。軽井沢物価の呪縛からは逃げられないのだろう。夏場の週末に客が集中するという季節特性もあるだろうし、一年を通じて食っていけるようにするには、ある程度の価格帯になるのはやむを得ない。

だからこそ、旬の野菜を取り扱うなどの取り組みはとても良いと思う。というより、いっそのこと「そばと旬菜」の店ではなく、「そばも食べられる旬菜の店」の方が良いんじゃなかろうか。いかに付加価値を高めて食べ物を売るか、が思案のしどころだろう。

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