石臼挽き蕎麦香房 山の実(02)

2009年06月26日
【店舗数:—】【そば食:425】
長野県下高井郡山ノ内町

山の実

大きな急須

志賀高原界隈で三泊四日の湯治をしていたのだが、二泊目夜からアワレみ隊メンバーであるしぶちょお(以下同伴者と称す)が合流した。彼と近況報告を語らいながら、その日であった驚異の蕎麦店「山の実」がいかに素晴らしかったか、というのを力説しているうちに夜が更けていった。

三日目は切明温泉で河原を掘って温泉に浸かり、最終日めいめい退却する際にもう一度このお店に立ち寄る事にした。

名店なので、何度訪問してもいいくらいだ。とはいえ、さすがに二日前に訪問したばかりのお店に再度訪れるのは正直憚られる。他にも、行ってみるべきお店は長野のあちこちにあるからだ。同伴者にお店だけ紹介しておいて、「まあ、後日行ってみてください、きっと満足するから」と突き放しておいても良かった。

しかし、敢えて再訪を選んだのは、「これだけすげぇ店を人に紹介する快感」があったからだ。事後報告で「先日教えてもらった店に行ってみたけどさぁ、良かったよ、あれ」とメールを貰ってもそれほどうれしくない。目の前で驚き、感動するところを見たいというのが人情ってぇもんだ。

また、それだけではない。「本当にこのお店はすげぇのか?」というのが正直自分自身、分かっていなかったというのもある。がらんとしたスキー場を彷徨って探し当てたお店、しかも前評判はほとんどしらない状態で訪問、というシチュエーションで既に相当バイアスがかかっており、実際の美味さの150%増しくらいで評価してしまっている可能性がある。「こんな店にたどり着いた俺様」スパイスが50%分ってこと。

だからこそ、他人の意見を聴きたかった。幸い、同伴者はおかでん同様蕎麦店食べ歩きの経験が豊富なので、客観的な評価という点で期待ができた。

とはいえ、このお店の醍醐味(だいごみ)はやはり立地条件にあるのは間違いない。おかでん、同伴者共に自分の車で移動していたので、同伴者はおかでん車の後についていくことになる。それだけだと、「気がついたら店に着いた」で終わってしまい大層もったいない。よって、事前に「いかに夏のスキー場が閑散としているか」「そんな中にぽつんとお店が営業している驚き」という事を入念に刷り込みをしておいた。そういうエキスがあると無いとでは、盛り上がりが違う。

・・・あれ?この蕎麦店を公平に判断するために第三者の意見を取り入れようと思っていたのに、その第三者にいろいろ事前情報を仕込んでしまった。ブラインドテスト失敗。

月曜日の昼下がりということもあって、店内は客がいない。平日だもんな、そりゃそうだわ。「またお邪魔しましたー」と、お店の方にごあいさつ。確かに前回、「近日中にまたお伺いします」とは言ったが、まさか中一日で登場、しかももう一人(しかも男性)を連れてくるとは思わなかっただろう。なんだなんだ?何か似たような奴が増殖したぞ?と。

どうでもよいが、同伴者(しぶちょお)とおかでんが一緒に写っている写真を人に見せたら、「兄弟?」と聞かれる。そんなに似てないんだがなあ。なぜだ。

二回目の来店ということもあって、今回は一ひねりした注文にしようと思う。しかし、蕎麦は当然食べて、あの絶品そばがきは捨てられないし、ピザも諦めきれない。そうなると、それらがセットで食べられる「山の実」しか選択のしようがないのだった。くっそう、もう少しそれぞれ量をたくさん食べたいんだが。

奥さんに聞いてみると、単品のそばがきになると「山の実」コースのものよりも一回り大きくなるそうだ。むう、蕎麦+一回り大きいそばがき+4倍大きいピザ、を食べるのは到底無理だ。大人しく「山の実」を選ぶしかない。

無理を承知で、山の実コースの「須賀川そばピッツァ」を別のピッツァに変更できないか?と聞いてみた。5種類あるピッツァだが、そのいずれもが1,200円均一なので何とかなりそうな気がしたからだ。

ちょっと無理があったようだが、対応できるという結論を頂戴した。ありがとうございます、ではお言葉に最大限甘えて、高原野菜のピッツァに変更してください。ここの野菜、美味いからなあ。ピザに載せて食べてみたかったんだ。

奥さんによると、「ピザに具が載りきらないかもしれないから・・・」という理由で若干躊躇した様子。コースのピッツァは1/4サイズなので、物によっては溢れてしまうということらしい。でもそんな溢れんばかりの野菜って何だ。スイカでも丸ごと乗せるのだろうか。

しみじみと旨い顔

運ばれてきた野菜を食べる同伴者。

この表情が全てを物語っている。余計な解釈はいるまい。

そばがき

お次。おかでん大絶賛のそばがき。

同伴者には事前に写真を見せていたが、それでも実物を目の当たりにすると相当びっくりしたらしい。「おおお」と言いながら、しげしげと眺めていた。

まるで味覚検査

一口、また一口と、まるで味覚検査でもするかのように慎重に食べる同伴者。

一口食べたところで「ううむ」と唸っていたが、数口食べたら今度は「凄いなこれは」と呆れたような声を出した。

「蕎麦米雑炊を食べているみたいだ」

と彼は形容する。そばがき食べて蕎麦米雑炊、とは何ともむちゃな喩えだが、それを聞いておかでん自身も非常に納得した。確かに、蕎麦米雑炊だ。粒が非常に粗いため、濃度の高い蕎麦米雑炊をすすっているかのような感覚になる。もちろん、雑炊ではないので出汁の味などするわけもなく全然別物なのだが、蕎麦を噛みしめる感が同じ、ということ。

そばがきだけでは飽きたらず、箸に残ったそばがきの臭いまで嗅ぎ始める同伴者。それだけ香り立つ逸品だということだ。この臭いの芳香剤があったらぜひ家に欲しい。

蕎麦

蕎麦は相変わらず美味い美味い。

言うこと無いですわ、もう。

蕎麦湯

蕎麦湯を奪い合うように頂く。ポット(湯桶と呼ぶには無理がある)いっぱいに入った蕎麦湯があっという間に無くなった。

今気がついたが、蕎麦猪口が二日前の時のものと違う。食器類は完全に統一されているわけではないようだ。

高原野菜のピッツァ

ピザ到着。

同伴者は初回ということで、ノーマルの須賀川そばピッツァを。おかでんはお願いして高原野菜のピッツァを。

なるほどブツが到着してみると、注文を受けるかどうか一瞬逡巡した理由がわかる。てっきり茄子やプチトマトなんかが乗っていると思ったのだが、レタスやパプリカが生の状態でふんわりピザ生地を覆っているのだった。確かにこれは、生地のサイズが小さくなると盛りつけが難しい。

これもまた美味いんだな、美味さの秘訣は生地だ。蕎麦粉生地、凄く美味いではないか。なぜこれがもっと普及しないのか不思議なくらい、美味い。でも、恐らく良い蕎麦粉を使っているからこその美味さであって、管理が悪い蕎麦粉だったら「小麦粉ほど使い勝手がよくないし、値段が高いし、メリット無し」なんだと思う。誰でも真似できるというわけではないわけか。

ただ、ピザの美味さでいったらやはり須賀川そばピッツァの方が1ランク上。あのチーズと味噌の相性、そして上に振りかけられた蕎麦の実の香ばしさは何だ。あれだけ別格という感じ。

このお店、ピッツァのお持ち帰りをすることができる。今日この後の予定は帰京するだけなので、ぜひともお持ち帰りしたいところだが・・・やめておいた。多分、持って帰っている間に蒸れてしまい、生地がヘロヘロになる予感がしたからだ。このピッツァの美味さは、香ばしさに依るところがとても大きい。できたてでないと魅力が随分と減るような気がしたので、お持ち帰りは断念。

店主に話を聞いてみたら、生粉打ちに近い蕎麦粉で生地を作る故に、ふっくらとした、いわゆる「ハンドトス」の生地は作れないのだという。故に、クリスピータイプの薄い生地になってしまうのだが、それが結果的に香ばしさと食感の良さを産んで、大成功になっているから素敵だ。もし、技術的にふっくら生地が作れたとしても、多分食感はボソボソになってしまいおいしくないと思う。

蕎麦粉

帰り、同伴者が蕎麦粉を買って帰るという。

ん?蕎麦粉?と思ったら、レジ脇に「地粉100% 500g 1,000円」というPOPがあった。自家製粉した蕎麦粉を小売りしているのだった。

「おお、ということはあのピザを自宅でも作ることができる、ということか!」

ちょっと感動。ピザの上に乗っている具はそれほど奇抜なものではないので、ある程度類似したものは作る事ができそうだ。

店主はわざわざこのオーダーに対して、2種類の真空パックを新たにこしらえて持ってきてくれた。聞くと、片方は普通に挽いたもの、もう片方は粗めに挽いたものだという。それぞれの蕎麦粉の特性を聞きながら、同伴者はどっちを買うかご主人と相談しつつ吟味していた。ご主人は親切だし、蕎麦好きなんだなあと思わせる一こまだった。

で、同伴者は一袋買ったのだが、もう一袋は当然残った。あれを自分でも買おうかなあ・・・と相当悩んだが、止めた。今台所が散らかっていて、とてもじゃないが粉物をこね回す余裕がない。いろいろな野菜の切りかすや魚の小骨が混じりそうで怖い。またあらためて購入を検討したい。

そうなんだよなぁ、蕎麦粉って、買ったら「蕎麦打ち」か「そばがき」、せいぜい「ぜんざい」を作るくらいしか発想が無かったが、蕎麦ピザという手があったとは。いろいろアレンジのしがいがあるし、これは面白い。他にも、蕎麦粉を使った料理ってまだまだ可能性がありそうだ。もちろん、蕎麦の香りもへったくれもないぐちゃぐちゃ料理じゃ意味がないのだが、いろいろ面白そうだ。

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