2009年12月10日
【店舗数:249】【そば食:439】
広島県広島市中区大手町
板そばの食べ放題
広島の中心地である紙屋町には地下街がある。アストラムラインという新交通システムを建設するのに併せて作ったものだが、広島城に近いこともあって、地面を掘れば遺構出まくり。工事が中断するやらなんやら、相当な難産だった。
そんな地下街の名前は「シャレオ」。名前の由来の詳細は知らないが、どう考えても「オシャレ」をひっくり返したとしか思えない。なんとも強引というか、きっついネーミングだ。この名前に対して違和感が解消されるまではまだあと半世紀くらいはかかるかもしれん。
このシャレオだが、行政の財務を傾けるほどの鳴り物入りでこしらえたのに、なかなか厳しい状況。広島待望の初地下街だったわけだが、地下街に馴染みのない広島人は地下に潜ろうとしなかったのだった。紙屋町交差点は横断歩道を廃止し、シャレオに入らないと横断できないようにしたのだが、その結果みんな紙屋町交差点を避けて大回りするありさま。頑張れ、シャレオ。
おかでん自身も、わざわざ階段で地下におりるほどシャレオに用事はないのだが、唯一、「ジュピター」という輸入食材店が秀逸なのでそこ「だけ」はよく利用している。東南アジアの調味料や各国のお酒、お茶類が小数精鋭でビシっと売られていて、バイヤーのセンスの良さを感じさせるお店だ。
で・・・そのジュピターの前にあるのが、今日紹介する「羽前そば道場 極」だ。このお店の存在、つい先日まで知らなかった。シャレオの一番端にある店だから。こういう地下街にある蕎麦店ねえ・・・。と、発見した後も、しばらくは遠くから様子見。ジュピターで、ベルギービールを物色しながらチラ見。
でも、気になったら入るに限る。えい、とりあえず入っちゃえ。
出雲蕎麦の店が多い広島の蕎麦業界において、山形の蕎麦を標榜する店というのは珍しいと思う。
余談だが、この「シャレオ」の近くのビル地下に店を構えていた、「ひろしま翁」は先般閉店したそうだ。ご主人はもともと広島の人ではなかったそうなので、地元に戻ったのかもしれない。せっかく地下の店なんだし、すぐ近くにシャレオがあるんだから地下道でつなげちゃえばいいのに、という話もあったが、連絡通路を掘るとトンデモないカネがかかるらしく、やらなかったらしい。今となっては正しい選択だ。
結構広い店内。蕎麦屋にしては相当なハコだ。「サイゼリヤ」が入居してもおかしくないようなサイズ。ただし、その席は空いている。ゆっくりお蕎麦を食べたいです、という方には穴場だ。昼酒やったって、店に迷惑をかけない・・・と思う。多分。
お品書きは、「メニュー」と呼んだ方が良さそうなでき。料理が一品一品、丁寧に写真入りで紹介されている。注文の際には指名料が別途かかります。いやうそです。
定番のメニューが並ぶのだが、「肉そば」があるあたりはいかにも東京の蕎麦文化とは違う。
ああ広島だな、と思うのは、「そばの大盛り」の記述。
大盛り(約1.4倍) 110縁
大盛りのダブル(約1.7倍) 220縁
大盛りのトリプル(約2倍) 330縁
ダブル、などという表現は蕎麦業界では普通ありえんが、広島においては全然珍しくはない。それは、お好み焼きの「そば」をダブルにするという注文法が当たり前のように存在するからだ。「おばちゃん、僕肉玉そばダブル!」などと使う。ここで、「肉玉そばで、そばの大盛りをお願いします」なんて言ったら店員さんに「は?」という顔をされるだろう。
それにしても、1.4倍→1.7倍→2倍、とやけに中途半端かつ慎重な量の増やし方だ。2倍、3倍・・・と増やしていかないんだな。あんまり「ダブル」「トリプル」という名前の意味がない気がする。
見慣れない表記は別のところにもある。「トッピング」という欄がメニュー内にあるのだった。これもまた、お好み焼き文化の影響を受けた気配あり。ちなみにトッピングは、とろろ、めかぶ、きのこ、天ぷら・・・など。
もっとも、このお店の本店は岐阜らしいので、どこまでがオタフクソース色に染まったのかまでは不明。
山形といえば板そば。
羽前そば道場を名乗るならば、当然板そばがメインメニューだ。これで最近流行の汁無し担々麺などがメインだったらびっくりだが、さすがにそこは外さない。板そば、780縁。
なんだ、単に木の箱に入っているだけじゃん、とも言えるが、山形の蕎麦は太くて、固くて、香りが高い。今日はそれを期待したい。
とはいっても、単にそれだけが目当てでこのお店の暖簾をくぐったわけではない。惹かれた最大の理由が、「板そばの食べ放題」という文字だった。なんじゃこりゃあ。
PM1:00-5:00
板そばの食べ放題 1,500縁
◆つゆ・薬味のおかわり自由
◆ご注文の方のみご利用くださいませ
これはアレですか、岩手のわんこそばのように、食べ終わったらオバチャンが「はいもっと」「それどんどん」とか言いながら、板そばをバサーと器に盛ったり盛らなかったり?
いや、さすがにそれはないだろうけど、蕎麦の食べ放題とはちょっと意表を突かれた。広島のど真ん中で蕎麦食べまくりか。それはいい。食べてみるべさ。
板そばの食べ放題を店員さんにお願いする。
「では住所と氏名をこちらの用紙に」とか、「食べ終わった後に写真を撮らせてください。食べた枚数を書いて店に貼ります」なんていう恥辱プレイは特になし。淡々とオーダーは通った。
待っている間、お茶請けとして出してくれた揚げそばを頂く。ぽりぽり。ああ美味いなあ。久しぶりに食べた。なぜこれがコンビニなどでスナック菓子として売られないのか、不思議でならぬ。ベビースターが子供の頃好きだったオトナの皆様にはこれは受けると思うんだが。
板わさ・・・じゃなかった、板そば到着。
お盆と、そこに敷いてあるトレイマット、箸袋がなんだか蕎麦店らしからぬ。どうやらシャレオ共通フォーマットらしい。蕎麦屋としては「いや、店のイメージってもんがあって・・・」と言いたいところだろうが、そうもいかないのがテナントの定め。
板そば、予想通りわっさーと太麺。すね毛でも生えてそうな男らしさだ。いいぞいいぞ。量も、いわゆる一人前よりは多めで食べ応えありそうだ。えーと、「板そば」は780縁のメニューなので、1回おかわりすれば早速元は取れてしまうのだな。ただ、1枚あたりの量はそこそこあるので、普通ならば1回おかわりでお食事終了、だろう。さて、おかでんは何枚食べようか。
塗り箸なので若干蕎麦を掴みにくいのが難点だが、これもご時世なんだろう。やれやっかいな、と思いつつ蕎麦を手繰りまくる。固いかとおもったが、それほど固くはない。ただ、腰がある。ガッチガチの蕎麦を「腰があるね」と勘違いして褒めてしまうことはよくあるが、これは「固くないけど腰がある」。おいしいと思う。田舎っぽさを感じさせる蕎麦の香りと味は十分。ワイルドこそが山形そば哉、と思っていたが、ここの蕎麦は若干マイルド感が混じっている。これはこれで、枚数を重ねる上では良いと思う。
つゆは覚えていない。
蕎麦を食べ終わり、おかわりをお願いする。太い麺だし、ゆで上がりに時間がかかるかと思ったが、比較的早く蕎麦が届くのがうれしい。「蕎麦待ち」の間におなかいっぱいになるのは大変残念なので、ちょうど良かった。それにしても、短時間でよくこれだけの麺がゆで上がるもんだ。
結局、5枚食べたところでやめにした。思いつきで入った店なので、「板そば食べまくり」のテンションではなかったし、あんまり頼みすぎて店員さんの視線が険しくなったら怖かったから。5枚目までは店員さんはニコヤカに応対してくれたが、これが10枚目なんぞになったらどうなるんだろう。あくまでもこのお店はランチビュッフェの店ではないからな。
がっつりした蕎麦だったけど、最後までおいしく頂けたのが良かった。ゆで加減にしろ、蕎麦そのものにしろ、良いバランスで構成されていると思った。ただし、一枚だけ食べるんだったら、おかでんとしてはもっと無精髭が生えているような奴が食べたいところだが。
食後、メニューをあらためてめくってみる。
このお店、蕎麦店という皮を被った居酒屋の様相を呈していた。ありゃ、手広くやってますなあ。
わさび漬とか冷や奴で油断させておいて、「フライドポテト」とか「骨付きあら挽きウインナー」などがひょっこり姿を現す。「カレー味のそばの実コロッケ」と、奇をてらいつつ蕎麦の本道に戻ったかと思ったら、「焼鳥の盛りあわせ」とちゃぶ台返しをする。
やっぱり、蕎麦文化自体がまだまだ浅い広島、しかも地価の高い超一等地繁華街、されど店の前はあまり人が通らない場所。そうなれば、客単価を上げるためにはなりふり構ってられないんだろう。しまいにはスパゲティとかサンドイッチとかやりだすんじゃあるまいか?
強烈なのは、「飲み食べ放題プラン」というのがあること。すげー。
オーダーバイキングみたいなもので、飲み物数種類と、食べ物各種を注文して届けてもらう。2時間で、お値段3,000縁!安い!ありえん!
言っておくが、「地方都市だから物価が安いんでしょ?」という疑問は却下。いくらデフレ時代の地方都市でも、こんな安い店はあまりないぞ。しかも繰り返すが、これ以上ないくらい広島の中心地で、だ。こんな物価がまかり通ってしまうと、広島の周辺の居酒屋は2,000円くらいで飲み食べ放題やらんといかんではないか。価格破壊は一軒の蕎麦屋から始まる。それは思いも付かなかったぜ。
午後2時からできる、と書いてある。おっと、ということは実は蕎麦食べ放題にしないで、飲み食べ放題にして昼間っからべろんべろんになる、という手もあったわけか。それは残念な事をした。
・・・いや、そんな危険な事はよせ。昼間に飲み放題はやばい。マジやばい。
もっとも、食べ物は種類が多いけど、値段があまりかからないもの中心だ。しらすおろしとか、温泉玉子とか。温泉玉子10個食べられたって、店としては大して負担にはならない。3,000円で儲かるとは思えないが、損は出ない程度なのだろう。しかし、それでは商売にならんのだが。頑張れ。
飲み放題食べ放題で決まりでしょう!と思ったら、いやいや、お店は手変え品変えであれこれメニューを用意しとりました。「晩酌セット」だって。えーと、これは串カツ、かな。あと、煮込みとサラダ。これにお酒がついて1,500円。魅力的ではあるが、さっきの「飲み食べ放題3,000円」を見てしまったら、若干高く見えてしまうから怖い。この店、最終兵器をあっさり投入しすぎたのではないか?
笑ってしまうのが、「+500円で蕎麦をつけられる」と書かれていること。もう、蕎麦が完全に脇役。ええと、このお店ってお蕎麦屋さんでしたよね?何がなんだか、もう。
お店の絶好調っぷりはまだまだ止まらない。
完全に洋食屋と化したメニューが・・・。
ステーキ定食 1,180縁
鶏の唐揚げ定食 1,000縁
一体このお店はどこを目指しているのか。大衆食堂か?
外観だけ見ると、「蕎麦屋でございまする」と凜、としているのに、このギャップ。せっかくだから、もっとフランクな店構えにしたほうが客の入りが良くなりそうな気がする。写真を見る限り、結構美味そうだし。これを、蕎麦に埋没させてしまうのは惜しい。
とはいえ、このメニューでは実際に蕎麦が埋没しちゃっているんだが。値段がちと高いな、と思ったら、実はこの定食、両方とも板そばが付くのだった。写真を良く見ると、確かに後ろの方に小さく写っている。ここでも蕎麦屋のプライドがどこか放浪中。
板そば、メインディッシュ、サラダ、ご飯というのがこの定食の構成。これならば、非常に安いと言える。ただし、ご飯があって、板そばがあって、肉食べるって一体どういうシチュエーションだよ。小学校の時、「三角食べ」を習ったが、多分この定食で三角食べをするのは無理。許して。
最後、蕎麦湯を飲んでお店を後にした。
いやー、広島の地下にこんなお店があったとはなあ・・・。使い方によってはいろいろ面白そうだ。こういうお店は面白い。ストイックに蕎麦だけ出す店もいいが、こういう店も、いい。
さて、食べ過ぎたのでそこら辺を散歩して帰ろう。
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